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26 人魔女子会

 そうして私の冒険者生活第一日目が終わった。


 ダンジョンから出て、初日の成功を祝う晩餐。


「かんぱーい!」

「……ぱい」


 酒場にて杯を酌み交わす。

 私の年だと本当はお酒ダメなのはわかってる。

 でもこの世界では逆にお酒以外のもの飲んだら下すの。だから仕方なくお酒を飲むの。

 そういう世の中なの。


「いやー、美味しいわねーこのベルゼブフォのモモ肉の揚げ物! とれたて新鮮が一番ってことかしらね」


 ころもとか一切つけてないけど。

 本当にただ単純に油で揚げただけだけど。


「これってまさに、今日私たちがダンジョンで狩ってきたカエルさんの肉なんでしょう!? カエルといえば田んぼのニワトリを書いて田鶏(デンチー)! 鶏肉に似た味で美味しいっていうけどホントよね!」

『何でお前そんな余計なことに博識なんだ……!?』


 しかも正確にカエルじゃなくてカエル型モンスターだから、より大きくて食いでがあり、かつ筋肉も発達して食い応えがある!


「しかも獲ったその場で即食う! これこそまさに美味の極致!」

「これ、私たちが今日獲ったものじゃないですよ」

「え? マジで?」


 テーブルの向かいに座るセレナちゃんが言う。


「いくらなんでもさっき納品したばかりの素材が解体されて食材として売り出されて下拵えされて料理されて出てくるわけないじゃないですか。それにお肉ってのは一晩二晩おいた方が味が出るんです。このベルゼブフォの肉も数日前に獲ってきたものでしょう」

「あー知ってる! アミノ酸よね、うまみーよね!?」

「何です?」

「あッ、ひょっとしてセレナちゃんはうまあじ派!?」

「?」


 やだなあ、会話が続かない。

 無理に場を盛り上げようとする私の空回り感のみが克明となっていく。


 もっと……、向かい合うセレナちゃんと楽しくお喋りしながらごはん食べたい。

 でないとせっかくのベルゼブフォのモモ揚げが砂を噛んだような味しかしない!


「……別に無理しなくてもいいですよ」

「えー?」


 私の葛藤を見透かすようにセレナちゃんは言った。


「どうせ私は監視役です。監視対象から煙たがれるのは当然です。でも私はアナタから離れません。それが任務ですから」

「私なんかのこと監視してどうするのよ?」

「では『たとえば』のていで質問しますが、魔王軍を攻撃する予定はありますか?」

「………………………」

「口ごもりましたね? アタナが反乱する可能性が1%でもある限り、私はアナタから張り付いて離れません。かならず造反の瞬間を抑えて未然に防いでみせます」


 元々人族と魔族は敵同士。

 私は人間国のために魔王軍と戦ってきたし、セレナちゃんにも魔王軍の軍人としての誇りがあるだろう。


 仲よくなんてできないのかなあ?


「でもさ、ほら。せめて一緒にいる間は楽しくいたいじゃない?」

「楽しいかどうかはさておき、少なくとも今の状況に私はやりがいを感じています。何しろ場合によっては手柄に繋がりますから」

「手柄?」

「戦争がなくなったここ最近、戦功を採ることが実に難しい。敵とかいませんし、明確に何かやって『でかした』という事柄がないんですよね」


 セレナちゃんは、モモ揚げをチマチマほじくって食べつつ言う。


「そんな中で、今回の任務は望外です。アナタが反乱を起こして鎮圧すれば、そのまま明確な私の手柄になるのですから。……そうだ、私のためにもいっそ反乱してくれませんか鎮圧しますから」

「嫌よ!?」


 言うに事欠いてとんでもないことお願いしてきた!?


「いくらなんでも仲よくなるために命を差し出すのは嫌よ!?」

「仲よくなりたかったんですか? 敵の私と?」

「……」


 そう言われると……、何だか照れが……!?


「そういうセレナちゃんは、どうして手柄に拘るの? そりゃ軍人さんなら当然なのかもしれないけれど。セレナちゃんはとりわけ貪欲に見えるよ?」

「そう見えますか? ……家の事情からでしょう。ウチの一族は一際巧妙を欲していますので、実家からのせっつきが酷いんです」

「セレナちゃんの家族ってどんな人たち!?」

「なんでそこに食いつくんですか……!?」


 そりゃあ、家族の話題こそ話の弾む鉄板!

 自慢でも愚痴でも何でもいい。とにかく話してプリーズ。


「……私の家は、いわゆる貴族の家系なんですが。位の低い下級貴族。普通の貴族程裕福でもなければ、平民のように自由でもない。ちょうど双方の悪いところを兼ね備えたような最悪の地位なんですよ」


 ……話弾めとは思ったけれど。

 愚痴の方が来てしまったか……!?


「だから一族郎党今の中途半端な位置から抜け出したくて、とにかく出世栄達を望んでるんですよ。出世のためには手柄が必要。ということで魔王軍に入った私や姉に頑張れコールの嵐です」

「え? セレナちゃんってお姉さんがいるの?」


 しかもそのお姉さんまで魔王軍に?


「家族の期待に応えてけっこう出世した姉ですけどね。四天王補佐まで登りつけたところで政変に巻き込まれて行方がわからなくなりました。……生きているのやら死んでいるのやら」

「それ大変じゃない!?」

「姉妹仲がよかったわけでもないので大丈夫です。でもまあ姉がいなくなったせいで家族の期待が一身にこっち来るようになりまして。それだけが大変かなと」


 何が大丈夫なのかわからないけれど。


 セレナちゃん……。


「……わかったわ。そういうことなら……」


 私はセレナちゃんに高らかに宣言した。


「私が代わりにセレナちゃんのお姉ちゃんになってあげる!」

「何言ってるんですか?」


 セレナちゃんからの冷静で的確なツッコミ。


「何がわかったのか全然わかりません。むしろ何もかもわかりません」

「お姉さんがいない寂しさを、私が埋めてあげるわ! 私のことをお姉ちゃんだと思って慕うがいい!」

「わからないことをわからないまま進めないでください」


    *    *    *


 そうして食事を済ませた私たちは、ギルド側が用意してくれた宿へと戻った。


「ごはんが済んだら次にすること!!」

「就寝前のトレーニングですか?」

「違う! お風呂よ!」


 乙女たるもの、不潔な時が一瞬たりともあっちゃダメ。

 常にクリーンを保ち、艶めく卵肌でなくては。


「……とは言っても、こっちの世界じゃああまりにも高難易度な要求なんだけどねー」


 まずお風呂に入るということ自体インポッシブル。

 用水設備も整ってなくて、雨が降らないだけで水不足が発生するこっちの世界では、水は大変貴重なもの。

 それを風呂桶一杯に使うのもNGだし、シャワーなんてもっての外。


 いやもしかしたら一部の上流階級ならやってるのかもしんないのだけど。


 とにかく人間国から放り出され、いまや一介の冒険者となった私には。

 宿屋から有料サービスでもらった桶一杯の水にふきんを濡らし、それで体を拭くしかないのです。


「それでもやるのとやらないのとでは全然違う!」


 ドア窓の戸締りをしっかり確認してから、着ているものをポイポイ脱いで全裸に。


「また思い切りのいい脱ぎっぷりですね……」


 同室のセレナちゃんが呆れたように言った。


「セレナちゃんも、体拭こうよ! 清潔綺麗は女の子の使命だよ!」

「いや私は……、やめろ! 断りもなく脱がすな!?」


 時代劇のお殿様の気分でセレナちゃんから服を剥ぎ取るのだった。


「よいではないか! よいではないか!」


 何だかオヤジ臭い私。


『……おい小娘』


 なあに聖剣さん?


『仮にもオレが見ている前で気軽にマッパになるな。しかも付き添いの娘まで剥いで。恥じらいを知れ』


 聖剣さんは、剣のくせに照れ屋さんだった。

 仕方ないので聖剣さんをベッドの上において、そのままシーツを被せる。


 これで何も見えないから大丈夫でしょう。


「わー、セレナちゃんの裸、綺麗!」

「なんで言い方がいちいちいやらしいんです……!?」


 裸になったセレナちゃんは、魔族特有の黒い肌が惜しげなく剥き出しになっている。


「……どうせ汚い色の肌だとか思ってるんでしょう? 人族はそうやって魔族のことを卑下するそうですから」

「そんなことないよー! ナオミ・ハリスみたいで超カッコいいよー!」

「誰?」


 ともかく服は脱いだので、あとは拭くのみ。

 常に携帯している麻のふきんは、これまで私が異世界を渡り歩いた中で一番肌触りのいいものだが、あくまでこっちの世界の中で。


 水の吸い込みも悪いし、肌触りもちょっと……。


「タオルの有り難さが身に染みる……」


 せめて、水じゃなくてお湯なら快適さも違うんだろうけど。


「お湯にしましょうか?」

「え?」


 セレナちゃんの提案に私、呆ける。


「私だって体を拭くなら快適な方がいいですから、この程度の桶の水なら炎の精霊に働きかけて……」


 そういってセレナちゃん。全裸のまま桶に指を突っ込み何かしら念じてると……。

 湯気が立ち上ってきた。


「お湯になってるーッ!?」

「魔術魔法の初歩です。魔王軍人なら誰でもできます」


 じゃあ、これからセレナちゃんが一緒にいる限り水でなくお湯で体を拭けるってこと!?


「ありがとうセレナちゃん! 大好きーッ!?」

「ぎゃああああッ!? 抱きつかないでください!? お互い裸だってことを忘れないで!! 肌が! 肌が直接接するううッ!!」

「お礼に私が吹いてあげるよ! どこ拭く? 背中? 脇の下? お尻!?」

「自分で拭きますからけっこうです! ホントに拭くな!? 微妙な部分を他人に触れられるのわああああッ!?」


 セレナちゃんと過ごすのが楽しくなってきた。

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