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25 深緑のポロロッカ

 そしてほんの少し時間が経って……。

 私たちの目前には、天に召されたカエルの魂の脱げからたちが積み上がっていた。

 山積み。


「アナタたちの亡骸は余すことなく有効活用するから、迷わず成仏してね……!」


 カエルさんたちへ手を合わせた。

 その横であんぐりと大口開ける先輩冒険者。


「一体、どれだけの数を倒したんだ……!?」


 さあ?

 三十匹以上はいると思われるけれど?


「オレたちの一日の稼ぎの数倍を……!? この短い間に……!?」


 もう酔っ払いではないけれど酔っ払い冒険者は、今度は驚愕に悪酔いしているようだった。

 私のことを散々侮ってバカにしてくれたから実力を見せつけてやるのは爽快ね。


「でも私だけの手柄じゃないわ、セレナちゃんも頑張ってくれたし」

「余計な手出しをしました」


 謙遜なのか、それでも態度が素っ気ないセレナちゃん。


「そんなことないよー。セレナちゃんの魔法に助けられたよー」

「相手が爬虫類型でしたから、冷温魔法を試してみたくなっただけです。やはり思った通り覿面に効きましたね」


 あの冷たい風をビュービュー吹かす魔法ね。

 やっぱりカエルさんとかヘビさんは寒くなると冬眠しちゃうもんね。


「おかげで動きが鈍って狙いやすかったわ!」

「アナタの力量ならサポートがなくても楽々殲滅できました。差し出がましいことをしただけです」

「いやいや。でもこの量、地上まで運ぶのは大変そうだねー」

「なので今、人手と荷車を呼びに地上へ向かっていますよ。お供冒険者の一人が」


 なら後処理も楽ちんかなー?


「ちょっと待て!? 誰がお供だ!?」

「まだいたんですか、お供の片割れ。アナタもキリキリ働いて地上へ使い走りしたらどうです?」

「オレはお供でも小間使いでも使い走りでもねえ! お前らの先輩だ!」


 指導員気分で同行してきた酔っ払いももはや形無し。

 私の挙げた成果に先輩風も吹き散らされていた。


「は……ッ、この程度でいい気になること自体駆け出しの証明だ……! ベルゼブフォごとき本当の本物のザコモンスターだぜ? それを何百匹狩ろうが強さの証明にはならねえよ……!」

「え?」


 何とも思わせぶりな言い方?


「ちょうどいいことに、この『モレンターレ三号洞窟』には、他の星なしダンジョンにはいない厄介なモンスターがいてよ……。威張るんなら、ソイツを倒してからにしな!」

「厄介なモンスター?」

「ヘドロイドって言ってな。そこのベルゼブフォとはまったく違う。生き物かどうかも怪しい泥のバケモンさ。泥自体が意思を持って動く」


 泥のモンスター?

 動物ですらないの?


「泥の塊だから、当然斬っても突いても効果がねえ。でも生き物を探知してジワジワ近づき、泥の中に飲み込んで溺れ死にさせるのさ。倒すのには相当苦労するが、泥だから何の素材にも活かせねえ。骨折り損のくたびれ儲けって言葉がこれほどしっくりくるモンスターもいねえ」


 へえ。

 そんなモンスターがいるなら是非とも戦ってみたいわね!

 いいトレーニングになりそう!!


「いい気になった小娘がヘドロイドに遭遇した時が見ものだぜ! 泥塗れになって泣きながら助けを呼んでも、しばらく笑って見物してやらあ!」


 うーん、なら早速ドロドロさんに会いにさらに奥へ進みたいわ!


「ダメですよ。これ以上モンスターを狩っても素材を持ち帰れません。今日はこれまでにしておきましょう」

「うーん、やっぱり?」

「それに、さらに進むと言ってももうこの先はありませんよ。このダンジョンは大体隅々まで行き尽くしました」

「えッ!? そうなのッ!?」


 まだ第一階層しか来てないのに!?


「星なしダンジョンなんてどこもそんなものです。大体第一階層で終わりですよ。第二第三と進みたかったら、やはり星三つぐらいのダンジョンを攻略しないと」

「そっかー」


 一階までしかないなんて星なしダンジョン、マジショボい。


 じゃあ仕方ない。セレナちゃんの助言を受け入れて、今日はここまでにしとくか。

 そして素材回収用の人たちを待っていると……。


「おーい! おーーーーーいッ!?」


 何だか遠くから声が。

 これは地上に戻っていったお供冒険者の人?


「たしかコージーさんとか?」

「おーい! 助けてえええーーーーッ!?」


 助けて?


「ヘドロイドが! ヘドロイドが出たあああーーー!!」


 こちらへ向かって全力疾走で駆け戻ってくる。

 その後ろからは、波打つ黒色の津波みたいなものが迫ってくる。


「何あれ!?」

「あれがヘドロイドだよ! ……でも待て? デカすぎくないか!?」


 一緒に確認する酔っ払い冒険者が驚愕の声を上げた。


「あの後ろから追ってきてるのがさっき言ってたヘドロイド?」

「そうだが……ッ!? いやあの大きさ、泥の量……! いつもの数倍はあるぞ!?」


 そうなの?


 私は初遭遇なので比較不可能だけど、たしかに狭い洞窟の通路を埋め尽くさんばかりの泥の量で、あれに飲み込まれたら泥に沈んで二度と浮かび上がれなそう。


「洞窟の狭い通路を完全に満杯にしてますから、逃げ場がないですねえ」

「落ち着いて分析してる場合かああーーーッ!? 逃げろ! とにかく逃げろ!! 飲まれる前にいいいいーーーーッ!?」


 大のおっさんが泣きながら逃げまどっているわけですが。


 私は落ち着いて聖剣さんを振りかざし……。


『まだ撃たんのか?』

「今撃ったら、こっちに走ってきてる冒険者さんを巻き添えにしちゃうでしょう。あの人が私たちの後方に入った瞬間よ」


 剣気を撃ち放つなら。


 しかしコージーさんは今にも泥の津波に追いつかれそうで、彼が安全圏に入ってから私自身が泥に飲み込まれるまでの猶予は一瞬程度しかない。


 その刹那を狙って。


 逃走冒険者さんが私と擦れ違い、通り抜けて言った瞬間……。


「行けッ!」

『おおおおおおーーーーーーッ!!』


 聖剣さんの放つ緑色の閃光が、通路中に満ちる泥と正面衝突。激流の勢いの泥を押し戻し、逆流させ、四散させると同時に蒸発させた。


「うぎゃあああああーーーーーッ!?」

「ぎゃはあああああーーーーーッ!?」

「…………ッ!?」


 狭い洞窟通路が緑の閃光に包まれたあと……。

 ……あとに残るのは静寂だけだった。


「……え? あ? 無事?」

「吹き飛ばしちまいやがった……!? あの量のヘドロイドを……!?


 もはやこれまでと身を丸めていた大の男たちがヨロヨロ起き上がる。


「凄まじいですね、聖剣の力まさかこれほどとは……!?」

「洞窟を壊さないように調整するの難しかったよー」


 ヘタに全力出したら洞窟ぶっ壊して押し潰されかねないし、威力小さくても泥を押し返しきれずに飲み込まれる。


 どっちにしても生き埋めになるリスクだった……!?


『それこそ小娘の技量の成果だな。誰が振るっても同じ結果にはならなかったろう』

「お? 褒めてくれるの?」

『大半はオレの手柄だがな』


 やっぱり聖剣さんは自分ナンバーワンだ。


「規格外のヘドロイドが出てくるし……!? それを吹き飛ばす娘っ子……!? 一体どうなってやがるんだ今日は……!?」

「そんなに凄かったのあの泥?」

「凄いどころじゃねえ!? いつもはあの十分の一もねえよ!」


 それが今日いきなり十倍以上の量に?

 たしかにどうなってるの?


「人間国が滅びた影響が、ここにも出ているのかもしれませんね」


 セレナちゃんはいつも冷静だ。


「人間国の権力者たちは、我ら魔王軍に対抗するため天神たちから与えられた法術魔法を駆使したと聞きます。その魔法は高い威力を誇る代わりに自然マナを原動とし、地上から容赦なくマナを吸い取っていたと……」


 そのせいで土地が枯れていたってあちこちで聞くもんね。

 人間国が滅びて、法術魔法で吸い取られなくなった分、地面のマナが活性化している?


「その影響がダンジョンの、モンスターにも出てるなんて……!?」

「自然マナ枯渇の改善はおおむねいいことですが、こんな副作用があるとは。占領府に要報告ですね」


 私とセレナちゃんとで分析しているところ、まだ足をガタガタ震わせて生まれたての小鹿みたいになっている人たちがいた。

 ここのダンジョン常駐の冒険者たち。


「ところで先輩? 何かいうことあるんじゃないですかー?」


 ここぞとばかり煽る私。


「そうですね。命を救われれば礼の一つも言う。人族だろうと魔族だろうと変わらない常識だと認識しますが」


 セレナちゃんまで一緒になって、今まで散々バカにしてきた先輩冒険者を弄り倒す。

 偉そうなことを言いながら、肝心の場面で逃げ惑って何もできなかったのは動かしがたい事実。

 さすがに事実を捻じ曲げるほどの厚顔さは持っていないらしく、代わりに顔を真っ赤にしながら……。


「うるせえ! ちょっと活躍したぐらいで得意げになりやがって! これだから女は嫌なんだ!!」

「……あッ! 待ってくださいアコプトさん~!?」


 最終的にはジェンダーを攻撃して苦し紛れの撤退をしていった。

 本当に仕方ないなあ男は……。

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