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23 ギルドの民度

「ごめんくださーい……」


 村のギルド支部に入ると、そこにはアラフォーっぽいおじさんが待ち受けていた。


「いらっしゃい。可愛いお嬢さんが地獄の入り口に何の用だい?」


 何だか怪しい語り口調だった。

 体型は細く、王都で出会った支部長さんとは対極の印象。


「……なんてね。ウソウソ、アンタたちのことはちゃんと王都から伝わってるよ。『新人を寄越すから使えるようにしてくれ』とね」


 えー?

 王都の支部長さん、私のことそんな風に説明してるの?

『期待の超新星がやってくるぞ!』ぐらい言わないの?


「ワシはギルド支部長サザンナだ。ここでのキミのボスということになる。ここで冒険者をやる限りワシの指示には従ってもらうよ」

「よろしくお願いします」


 私は躊躇わずにペコリ頭を下げた。

 ギルド支部長さん……。王都の支部長さんと紛らわしくなるからサザンナさんと呼ぶことにしよう。


 王都の方の支部長さんは……。

 ……ダメだ名前が思い出せない。一応自己紹介してもらったはずなのに!?


「そして、そっちのキミは……?」


 サザンナさんの視線が向く先には、黒い肌色のセレナちゃんがいた。

 魔族で私の監視役。

 たしかに扱いづらそうな相手だけれど。


「お気になさらないでください。私はこの人の行くところに無条件で同行するだけの存在です」

「そうかい? でもダンジョンにまで入るとなると……!?」

「私も魔王軍に所属する精鋭の一人。自分の身を守るぐらい余裕でできますのでご心配なく」

「しかし……!?」

「今、旧人間国は魔王軍の占領下にあることもお忘れなく、占領府は冒険者ギルドに以前と変わらぬ裁量を許していますが。あくまで魔王軍から許された裁量だということです。私たちのね」


 セレナちゃん。

 あまり高圧的な言い方をすると……!?


「わかったわかった……! たしかに魔族の軍人さんを一般人扱いするのは野暮だったね。じゃあキミはキミで自分自身を守れるものとしてギルドは責任を持たないよ? いいね?」

「望むところです」


 望んじゃった。


「じゃあ当の新人さんにレクチャーをしていこう。元勇者のお嬢さん。キミはダンジョンに潜るために当ギルドへお越しになった。確認するがそうだね?」

「イエス」


 あとモモコです名前で呼んで。

 そして私は今でも勇者のつもりです一応。


「冒険者の仕事の最たるものは、ダンジョンに潜ってモンスター駆除、加えて有用な素材を持ち帰ってくること。キミが今からやろうとしていることだ」

「はい」

「ダンジョンに入る前にまず色々な誓約書にサインしてもらう。『ダンジョン内で死んだり怪我しても自己責任』とか『ダンジョン内で得た素材を私的流用しません』とかだね」


 面倒だなあ。

 この当たり前の世界とかわらない。『規約に同意して先に進みますか?』的な。


「それが済んだらいよいよ突入だ! 我が村、我がギルド支部が誇る星なしダンジョン『モレンターレ三号洞窟』へ!」

「誇るって言っても星なしダンジョンですよね?」

「そこは言わないでくれよぉ……!!」


 セレナちゃんの的確なツッコミにサザンナさんが脱力した。


「……『モレンターレ三号洞窟』ってどういう意味なんです?」


 ところで程度の疑問だけれど。


「特に深い意味はないよ? この村を含めた一帯をモレンターレ地方と言って、そこにある三番目の洞窟ダンジョンだから『モレンターレ三号洞窟』だよ」

「まんまですねえ」

「もっと洒落た名前がよかったかい? でもそういうのは四つ星か五つ星程度にならないとねえ。星なしダンジョンのネーミングなんて大抵そんなもんだよ」


 なるほど。

 カッコよさを求めるにももっと上へ行かなきゃってことね!


 ならば今これから踏み出してやるわ! 頂点へと続く第一歩を!


「じゃあ、これからダンジョンの入り口へ連れてくけど、もうちょっと待ってね」

「まだなにかあるんです!?」

「肝心のヤツらが……、あー来た来た」


 サザンナさんへ呼応するように、ギルド支部の玄関が開いて誰ぞやかが中へ入ってきた。

 二人いた。

 どちらも大人の男の人で、服装やら雰囲気やらで堅気でないことがすぐさまわかった。


「……うぃっぷ、よう支部長いい朝だな?」

「もう昼だよアコプトくん。また酒場から直接来たのかい?」


 二人組の一人がサザンナさんに話しかけ、そのやりとりで瞬間的にわかった。

 ダメ人間だ……!!


「えーっと、こっちはウチの支部に所属している冒険者のアコプトくんとコージーくん。キミの先輩に当たるから敬意を払ってね?」


 とても敬意を払えそうにない立ち居振る舞いなんですが……!?

 それでも先輩であることには変わりない。私は心を空虚にしてこうべを垂れた。


「今日から、ここの支部で冒険者やりますモモコと言います。よろしくお願いします」

『礼儀正しい!?』「礼儀正しい!?」


 ちょっと聖剣さん? セレナちゃん?

 何をそんなに意外そうな声出してるの?


 そんな私を一目見て先輩冒険者さんより一言。


「おお? 出勤したと思ったが、まだここ酒場か? 新人ウェイトレスがピチピチしてやがる」

「アコプトくん!! 彼女たちはウェイトレスじゃないよ! 言ったでしょう今日あたり王都から新人の冒険者が来るって! くれぐれもお触りなんかしないでよ!?」


 苦労が多そうだなあサザンナさん……!?

 それでやっと酔っ払い冒険者は、やっと状況を理解したようで……。


「まさかこんなお嬢様たちが冒険者やろうってのかよ? 素人は怖いね、ダンジョンをお花畑と勘違いしてんじゃないかい?」


 そう言って酔っ払い冒険者は無遠慮に私へ歩み寄り、初対面の他人としては差し障りのありすぎる距離まで接近。

 ほぼ密着と言わんばかりの距離感で、私の前髪を触った。


「悪いこと言わねえから嬢ちゃん。金が要るんなら酒場の方に行きな。アンタ程度の別嬪なら初日からでもそれなりに稼げるだろうぜ。尻でも触らせてくれたら格別にな」

「アコプトさんやめましょうよ。完全なセクハラですよお……!」


 酔っ払いと一緒に入ってきた二人組のもう一方が諫めるが、酔っ払いは効く耳持たない。

 ちなみにもう一人の方はシラフみたい。


「コージーは度胸がねえなあ。そんなんだから酒汲み女の一人も口説き落とせねんだよ。よし、オレが今ここで見本見せてやろう。女なんかこう強引に迫ればな……」


 と言って酔っ払いは私に向かって手を伸ばす。

 もしや胸を触ろうとしている? さすがにこれは避けた方がいいかな? と思っていたら……。


「うわッ、あっぢゃあッ!?」


 酔っ払い冒険者が驚き慌てながら飛びのいた。

 私もビックリ。

 だって男と私の間を、小さいながらも火の玉が駆け抜けていったんだもの。


 男の方が迫ってきていたから、互いの距離なんて隙間みたいなものだったんだけど!?

 私もビックリしたけど、なんとか踏みとどまって不動のていを装えたわ!!


「人族は、やはり下卑た種族のようですね」

「なんだと!?」


 セレナちゃんが言い放つ。

 ピンと立てた人差し指をこちらに向け、しかも指先からは一筋の煙が昇っていた。


 まさか今の小火弾は、あの指から!?

 魔族が使う魔術魔法だわ!


「そんなことだから人族は魔族に敗れたんです。勝敗の差は品性の差。負けてなおそれがわからないなんて人族は本当に愚かですね」

「なんだテメエ!? ……おッ、魔族か……!?」


 肌の黒さでセレナちゃんの種族はすぐさまわかる。

 相手が戦争の覇者、魔族だとわかって酔っ払いはわかりやすくたじろいだ。


「魔王様は、敗者となったアナタたちの生存をお認めなさりました。あくまで認められての生存であることを常に忘れてはなりません。アナタたちは正視に堪えない下劣な生物であるなら。私たちは勝者としていつでも決定を覆せるのだということを忘れないで」

「クソッ!」


 さすがに現状での魔族と人族の力関係は理解しているらしく、悪態をつきながらも酔っ払いは引き下がった。


「オラ、こんなところでグズグズしてんじゃねえ! ダンジョンに潜るんだろ! やる気がねえヤツは置いてくぞ!!」


 ズンズン進んで行ってしまう。


「あの……、セレナちゃん? ありがとうね、助けてくれたんだよね?」

「下劣で野蛮な男が嫌いなだけです」


 セレナちゃんは素っ気なく言うと同じように進んでいく。


「ダンジョンには当然私も同行します。中でも不覚を取って私に助けられるなんって醜態を晒さなければいいですね!」


 ツンデレっぽく言うけれど、私がピンチになったら助けてくれるって宣言してくれるセレナちゃん。

 可愛い……!?


 そして最後に、二人組のもう一人の方が……。


「あの支部長、冒険者が増えるってことは僕らの取り分が減るってことじゃないですか? 僕、今の報酬でもけっこうギリギリなんですが……!?」

「しばらくは新人指導ボーナスが出るから心配いらないよ。そこから先はわからないけど」


 何だかセコい確認を取っていた。

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