22 奇妙な連れ合い
こうして私たちは、支部長さんが紹介してくれた星なしダンジョンへ向かうことになりました。
「お前が見込み通りのヤツなら、アイツの援けになるだろう」
「アイツ?」
「行けばわかる」
最後に意味深なやりとりを残して冒険者ギルドの王都支部長さんは私たちを送り出してくれた。
* * *
で。
そのまますんなりダンジョンまで行けたわけではない。
支部から一歩外へ出るなり私を待ちかまえている人がいた。
「随分待たせてくれましたね」
「誰!?」
本当に『誰!?』な人だった。
女の子だった。
スラッと細身なプロポーションで、キビキビ動きそう。
濃い肌色は魔族を表すものだった。
……って。
「魔族ッ!?」
「そうです。アナタの監視役を命じられました魔王軍の軍属、セレナと申します。以後お見知りおきを」
「監視役って!?」
どういうこと!?
私は晴れて身分の証明を得たんじゃないの!?
「お気楽ですねアナタは」
「なんか罵倒された!?」
「完全聖剣の持ち主をおいそれと野放しにできるわけがないでしょう。反乱意志の有無はもちろん、聖剣をしっかり管理しているかどうかもしっかり確認するために、私がアナタにつかせていただきます」
「はあ……!?」
見張り役ってことかあ……。
なんかいい気持ちはしないけれど、つい最近まで敵だった勇者に対する処置としては寛大な方なのかなあ?
「監視って、恭順してきた勇者全員につけてるの?」
「いいえ、アナタだけです」
「また!?」
「それだけ聖剣が重要であるということです。アナタも自覚してください」
窘められた……!?
重要なのは私じゃなくて聖剣さんなんだね?
『そうだぞ、オレは凄いんだ。お前もその持ち主として胸を張れ』
聖剣さん優しい……。
「……監視役なのはわかったけれど、いいの? 私たちこれから王都を出て、ダンジョンのある村へ行く予定なんだけど……?」
村? いや街だったかな?
「問題ありません。アナタが冒険者に登録されるという話を聞いた時点で予測できる展開です。どんな僻地だろうと、ダンジョンの奥底でも離れないつもりでいますので覚悟してください」
な、何だか挑戦的な口調だなあ……!?
ま、いいか。
要は旅の道連れができたってことで。
クマさんとも別れちゃったし、旅するのに聖剣さんと二人きりじゃ若干寂しいもんね。
「わかった。じゃあ改めて私は勇者モモコ。よろしくね」
スッと手を差し出す。
私としては気さくに握手を求めたつもりだったのだが……。
「…………」
「あれー?」
「私は監視役です。監視対象と馴れ合うつもりはないですので、そのつもりで」
セレナちゃんは冷たかった。
そんなわけで私&聖剣さんの道行きにセレナちゃんも加わって、少々賑やかになった私たちはダンジョンを目指す。
ギルドの支部長さんから紹介されたダンジョンは、王都からけっこう離れた村だか街だかの中にあるらしい。
驚いたことに、大抵ダンジョンは町村の中にあるんだって。
ダンジョンは冒険者ギルドが管理しているから、自然それに伴って人が集まり、集落ができるんだってさ。
むしろ確固たる収入源としてダンジョンのある町村の方が、ないところより栄えているぐらいで。
私たちがこれから向かうダンジョン街もそんなところなんだってさ。
移動中、セレナちゃんともたくさんお話したよ。
「そういえばさ、総督さんが出してくれたケーキとっても美味しかったねえ!? こっちの世界でもケーキ食べられるなんて思わなかった!!」
「? よくわかりませんが、総督から振る舞われたということは魔王様からの下賜品じゃないですか? 昨日魔都へ謁見に行ってきたばかりですし」
「……そんな簡単に行ったり来たりできるものなの?」
「ええ、転移魔法でひとっ飛びです」
そっか……。
魔族って便利だねえ……。
「魔王様の下へは様々な献上品が集まりますから、その中から総督へ回されたものじゃないんですかね? それなら舌が飛び出るほど美味しいというのもわかる気がします」
「え? その口振りからしてセレナちゃんケーキ知らない?」
「はい、だから魔王様ぐらいでなければ口にすることもできない珍味だと推測する次第です。それをお裾分けのお裾分けで食べられたなんて幸運ですね勇者さん」
「なんてこった!? この世界では魔王しかケーキを食べることができないなんて!? ケーキを独り占めするなんて許すまじ魔王!!」
「早速反乱の兆しを確認、と」
そんな風に女子トークしているうちに……。
着きました。ダンジョンのある街。
* * *
「うわー……! ……わぁ?」
到着して一眺めして思うに……。
なんかチグハグな感じのする村? 街だなあ? と思った。
いや、別に問題があるわけじゃないんだけれど。
なんというか集落の規模的には村というのがしっくりくるんだけど、建物のしっかりした感じとか、道の綺麗さはむしろ街という雰囲気。
規模と様相がフィットしてないというか……!?
「ダンジョンのある村の特徴ですね」
一緒に歩くセレナちゃんが、私の戸惑いを察したようだ。
「ダンジョンの生み出す利益のお陰で立派になるんですよ。それで村でもちょっとした街程度の豪華さにはなる。魔国内でのダンジョンがある村もこんな感じです」
「へええ……」
以前どっかで聞いたことがある。
モンスターはダンジョンの中で生まれ、数がいっぱいになると溢れ出して外に出てくるから危険。
でもそうしたモンスターの皮や肉は、食料になったり素材になったり人々の役に立つので結局ダンジョンは必要なんだと。
「そっか、魔国にだってダンジョンはあるんだよね。魔族にも冒険者はいるの?」
「いいえ、魔国におけるモンスター駆除、ダンジョン管理はもっぱら私たち魔王軍の役目です。人間国の冒険者自体、国の怠慢というか機能不全が生み出した奇貨的存在ですから、むしろ国がしっかり働いている我ら魔族のやり方の方が真っ当なんです」
セレナちゃんはほんのり自慢げだった。
彼女自身、魔王軍の一員だもんね。
「しかし民間がダンジョンを管理する方式として冒険者ギルドは魔国からも注目されています。いずれは魔国でも冒険者ギルドが取り入れられ、民間にダンジョン管理が委託されることになるかもしれません」
「みんえーか、ってヤツだね!?」
「戦争が終わって魔王軍も縮小される流れになるでしょうから……」
なんか最後は世知辛い話でまとまった。
……そっか。魔王軍も平和になって、それに対応して自分を変えようとしてるんだね。
なんか殊勝で意外……!?
「到着しましたよ。ここが、この村の冒険者ギルド支部です」
「うわあ……!?」
建物の外観を見ただけでわかる。
大きい。
王都の支部とは違って大きい。やっぱり肝心のダンジョンがあるところの方が、必要な分だけ大きいんだね。
機能的。
「早く入りましょう。無駄話ばかりしていたら日が暮れてしまいます」
なんかいまだにセレナちゃんの口調にトゲがあった。
村に着くまでのお喋りで、多少距離は近まった気がしたんだけども。
やっぱり監視役とは仲よくなれないのかなあ?
『別に仲よくする必要もなかろう。ヤツも魔族だ。いずれは戦う敵だ』
あら聖剣さん?
移動中ずっとだんまりだったのにどうしたの?
『お前があの娘とばかり喋ってるから口を挟めなかったんだろうが! 周囲に誰かいるとまともに話せなくなっちまう!』
「聖剣さんの声は私にしか聞こえないもんねえ」
傍目から見たら一人でブツブツ言ってる危ない人に見えちゃうから。
「そっか。聖剣さんは私がセレナちゃんとばっかりお喋りして寂しかったんだね? ごめんね、かまってあげられなくて」
『違うわ!! お前はオレを何扱いしてるんだ!?』
セレナちゃんといい聖剣さんといい、私の周りには愛いヤツが集まりよるわ。
さて、そんな可愛い仲間を引き連れて。
いよいよダンジョンに挑戦しますか。
そう思って私は、セレナちゃんから遅れること数秒にして、ギルド支部の玄関をくぐった。




