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21 ギルドへ

 一体何が起こったのかしら?

 いきなり手の平返したように友好的になったわよ?


『ワシの言うことが聞けない? なら死ぬしかないな!』ってなるんじゃないの?


「お前に鏖聖剣ズィーベングリューンを持たせていても危険はない。そう判断したからにはベルフェガミリアの要請を受けてやった方が得ということだ。ヤツに貸しを作れるからな」

「四天王だから?」

「それもあるが、ヤツは近々魔軍司令への就任が決まっている。これからの魔王軍内でヤツの存在は益々大きくなるだろう」

「魔軍司令って?」

「その名の通り魔軍……、魔族の軍事司令官職ということだ。これまでは魔国の長たる魔王様が自動的に魔王軍の頂点に君臨していたのだが。ほれ、人間国が滅びたからな。戦争が終わって軍務に力を入れなくてもよくなった」


 そこで魔王さんは戦争よりも政治の方に力を入れて?

 魔王軍の一番偉い立場から離れることにした。

 そうなれば魔王さんの代わりに魔王軍を取りまとめる人が必要で。


「それに選ばれたのがベルフェガミリア。ヤツのために新たに創設された役職が魔軍司令というわけだ」

「ふえええ……!?」

「無論魔軍司令といえど魔王様の命令に従う義務があるし、任免権は魔王様が持っている。それでも事実上魔王様に次ぐ魔国第二の実力者と言って過言ではない存在になったな」


 そんな……!?

 そんな偉い立場にベルフェガミリアがついたなんて……!?


「アイツ四天王で一番弱いんじゃなかったの?」

「えッ、なんで!?」


 私の言葉にマルバストス総督さんがビックリ。


「アイツが弱いわけがなかろう? そりゃ日頃からゴロゴロしていて実力を見極める機会なんてめったにないが、お前はヤツと直接戦ったのではないか!?」

「戦ったけど……!?」


 そしてめっちゃ強くてボコボコにやられたけれど。


「でも最初に出てくる四天王は一番弱いって決まってるじゃない! それがパターンでしょう!?」

「わけわからん!?」


 異世界人にファンタジーのお約束は通用しなかった。


 よく話を聞くとベルフェガミリアは今いる四天王の中で最強。しかもダントツで強いらしい。

 だまされたッ!! って感じが痛烈に走ったわ。


 たしかにベルフェガミリアがクソ強いのは直接戦った私なら実感できていたし。でもパターン通りにヤツが四天王最弱なら他の三人はどんだけ強いのよ!? って思ったのよ!?

 なのにアイツが最強だったなんて!?

 私の絶望は何だったのよーッ!?


 その時コンコンとノック音。


「失礼いたします。お茶とケーキをお持ちしました」

「おおおおおおッ!? ケーキ! 本物ーッ!! 食べるうううううッ!?」

「ホント何なのコイツ……!?」


    *    *    *


 マルバストス総督のところで食べたケーキはマジでケーキだった。

 超美味しかった……!?


 異世界に移り住んでから一年ちょっと、こっちの世界にはケーキなんてないって諦めかけていたから感動がひとしおだったわ……!


「ケーキ食べられて幸せ……! ほっぺた落ちた……!」


 私がケーキを激流の勢いでかき込むのを見てマルバストス総督も……。


『本当に乙女は甘いものが好きだなあ』


 ……と苦笑されていたわ!

 乙女にあるまじきはしたない行為でゴメンあそばせだわ!!


『はいはい、それよりやっと身分を保証してもらえたんだ。冒険者ギルドへ行こうぜ』


 はいはい聖剣さんたら。

 私が受け渡しを拒否してからこっち、ずっと照れてるのよ。


「心配しなくても、ずっとアナタを離さないからねー?」

『そういうことじゃねえ! 折れた聖剣ごときに負ける不甲斐ない所持者を、一刻も早く鍛え直したいだけだよ!!』


 そういうことにしておいて……。

 聖剣さんの言う通り、やっと身分証をゲットできたんだから早速ギルドで冒険者として登録しましょう。


「ギルドは、この街にもあるのよねー? っていうかギルド本部?」


 だって魔王軍占領府があるこの街は、元々人間国の王城がある王都だった。

 街の規模も居並ぶお店の大きさと数も、国内最大規模。


 その中に交じるギルド支部も最高クラスであることは間違いない。

 で……。


    *    *    *


「オレが冒険者ギルド王都支部長ウォッティルトだ」


 いかにも『あらくれ者の総元締め』みたいな、大きくて筋肉な男の人が来たああ……!

 ……でも。


「ここが冒険者ギルドなんですか?」

「そうだが? なんだ?」

「小さいっていうか……!?」


 そう、花の旧王都のギルド支部は、その割に意外と小さかった。

 私が最初に訪ねた、とある街の支部の方が大きめ……!?


「そもそも王都に冒険者は必要ねえからな。本来ギルド支部はダンジョンのある所に建てるもんだしよ」

「そういうものなんですか?」

「ダンジョンの管理が冒険者ギルドの第一業務だからな。ここ王都支部の仕事は、ギルドと王宮との橋渡し。今じゃ魔族どもに商売相手が変わっちゃいるが」


 なるほど……。

 だから支部が小さくても問題ないと? 王都にダンジョンないしね?

 先入観通りにはならないものね。勉強になるわ。


「アンタのことも占領府から報せが届いてる。魔族さんたちが全面的に身分を請け負う勇者なんざ、一年前だったら笑い話だが。こっちも身分のたしかな登録者は大歓迎だ」

「冒険者の仕事がしたいの。できるだけ難しいダンジョンに入って、強いモンスターと戦いたい。自分を強くしたいの」

「意気込みがいいな。だがウチに所属するヤツらは誰であろうとここから始めてもらうことになってる」


 筋肉モリモリの支部長さんが投げ渡す何かを、反射的にキャッチ。


「これは……、メダル?」

「冒険者の等級メダルだ。アンタの冒険者としての身分を証明するもんだからなくすんじゃねえぞ」

「等級?」

「そのメダルは最下級のF級のメダルだ。汚くてみすぼらしいだろう? そこから一歩ずつ登っていって、いつかS級になれるよう頑張ってくれ」

『なんだとふざけるな!!』


 激高したのは聖剣さんだった。

 力の限り大声で支部長さんに抗議するけど、当然聖剣さんの声は私以外に聞こえない。


『コイツが誰かわかってるのか!? 勇者だぞ! しかも戦神ベラスアレスによって直々に鍛えられ、この鏖聖剣ズィーベングリューンを振るう最強勇者だ! そんな猛者に雑巾がけから始めさせようというのか! お前の目は節穴か!?』


 待って!? 落ち着いて!?

 私のために起こってくれるのは嬉しいけれど、ここにはここのルールがあるんだよう!?


「どうした? 文句あるか?」


 支部長さんは、私のことを試すかのような視線で見詰めてくる。

 少し戸惑ったけれど。


「いいえ、不満はありません」


 と返した。


「私の戦場での実績と、冒険者としての功績は別でしょうし、私の実力を知ってもらうにしても機会がありません。これから冒険者の仕事をこなすことで示していこうと思います」


 私が真に、どの階級に相応しいのかを。


「……いいじゃないか、アンタとも短い付き合いだと思っていたが、そうはならないようだな」


 ?

 どういうこと?


「勇者崩れというのはアンタの他にもたくさんいてな。これまでもたびたび占領府から紹介を受けた。どいつもこいつも共通するのは、とにかく自信たっぷりってところだ」


 支部長さんは苦笑交じりに言う。


「魔族との戦争でそれなりのキャリアもあり、神から与えられたスキルとかいうのもあるから、ダンジョンなんて簡単に攻略できると思っていやがる。……その自信が、ダンジョンに潜むどんな罠やモンスターよりも恐ろしい」

「あの、それって、どんな意味……!?」

「アンタが、これまでの大半の連中と同じなのか違うのか、たしかめるためにもここへ行ってもらう」


『モレンターレ三号洞窟』。


「なんてことのない有り触れた星なしダンジョンだ。F級冒険者が入れる唯一の等級だな」

「冒険者の等級で入れるダンジョンが違うの?」

「ああ。ダンジョンに付く星の数は危険度も表している。実力不足の駆け出しがバタバタ死んでいくのを避けるためにもダンジョンは、等級による厳重な立ち入り制限がなされている」


 最下級のF級冒険者は、それこそ星のついてない最下等ダンジョンにしか入れない。

 めぼしいお宝はないけれどその分安全な星なしダンジョン。


 そこで経験を積んでE級に上がれれば、ダンジョンも一段階上の一つ星ダンジョンに入れる。

 以降はD級冒険者で二つ星ダンジョン、C級で三つ星。B級で四つ星。そしてA級冒険者で五つ星ダンジョンという具合。


「ここ王都支部には管理してるダンジョンはないからな。近場で一番手ごろな星なしダンジョンをご紹介というわけさ。……どうだ? 行く行かないはアンタの判断次第だが?」


 また試すような視線。

 私は熟考する……必要もなく・


「行きます」


 即答した。


「私は強くなりたい。そのために段階を踏まなければいけないのなら最速でその段階を駆け上ります」


 すっ飛ばしはしない。

 でも全速で行く。


 私の決意に満足してくれたのか、ギルド事部長さんはニヤリと笑った。

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