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19 王都再来

 勧められるままに魔族占領府へとやってきた私。


 人間国を攻め滅ぼした魔王軍は、代わって人族を治めるための拠点を置いた。


 それが占領府。


 ここを中心にして魔族たちは兵士や役人を派遣し、人族の街や村を統治しているらしい。

 人間国の偉い人たちがすべきことすべてに成り代わったということだけど。それで却って人間国の状況がよくなったというので複雑な気分……。


「しかも占領府って……!?」


 元王城。


 元々は人間国の王様が住んでいた王城が、接収されて魔族占領軍の本拠地にされてしまうとは……。


「こんな形でお城に戻ってくることになるなんて……!?」

『ん? 小娘はこの城に因縁でもあるのか?』


 聖剣さんに尋ねられる。


 そりゃそうよ。

 王城は、私が異世界から召喚された場所。こちらの世界で最初に訪れた場所とも言える。

 思い出深い場所となるのも仕方がない。


 そんな旅立ちの地が、今では敵軍の拠点だなんて……。


『感慨に耽るのはあとだ。今はなんとかして、ここで身分証明を貰うことを考えるんだ』


 聖剣さんの言う通りよね!


 ここのことを教えてくれた、とある街のギルド支部の受付さんの言うことには……。


    *    *    *


『今、魔王軍占領府では勇者の帰順を促している』


 ……らしい。


『勇者は巨大な戦力だからなあ。旧人間国の王族は戦力強化のためバンバン異なる世界から勇者を召喚したんだろう? そしてそんな連中は人間国が崩壊して寄る辺を失った』


 仰る通りすぎて私からは一言一句挟む余地がなかった。


『そういう勇者崩れは今、人魔両国に散らばって行方が知れない。このままじゃいけないってんで占領府の魔族様方が一計を案じたんだ』


 魔族を『様』づけッ!?


『魔族に対して叛意を持たない勇者、服従の意を見せた勇者は懐柔し、魔王軍の指揮下に置く。魔王様の通達でそう決まったんだそうだ』


 魔王にまで『様』づけッ!?


『勇者は、魔王軍に恭順したければ出頭し裁可を仰ぐ。そこで過去の経歴やらを調べられて問題なければOKだって』


 OKって何が!?


『以後、その勇者の身分は魔王軍が保証してくれる。身分証も出してくれるから、それ使ってギルドに登録できるもできるよ。ウチも魔王軍のお墨付きがあれば安心して許可できるしね』


    *    *    *


 なんということ。

 勇者が宿敵であるはずの魔王軍に身元の明らかなることを保証してもらわないといけないなんて。


 これもすべて時代が悪いんだわッ……!


『しかし小娘よ、もっと差し迫った問題としてお前は早急に冒険者にならねばならないぞ』


 聖剣さんが言う。


『そろそろ路銀が尽きるしな』


 うッ。

 そうだわ。


 人間国が滅び、後援がまったくなくなった私には資金面でも崖っぷち。

 以前までは定期的に勝手に増えていくものがお金だったのに。今では自分で稼ぐ努力をしないといけない。


「それなのに……! 今じゃ身分が保証されないとアルバイトすらできない……!」

『お前に酒場の給仕とかも務まるとは思えんがな』


 煩いなあ聖剣!?

 たしかに前の世界でもアルバイト経験なんて皆無だったけど……!!


「たしかに私が生計を稼げるとしたら冒険者以外に期待できない……! モンスターをバタバタ倒せば報酬でウッハウハ!」

『それも世の中舐め腐った発言のように聞こえるが……!?』


 でもそのためにはまず! 魔族占領府で身分証明のお墨付きを頂かないといけないのよ!

 身分証さえもらえれば、それでギルド登録ができる。


 ダンジョンでレベル上げができて、お金がもらえる!


「経験値稼ぎとゴールド稼ぎは表裏一体の不可分!」

『しかし忘れるな。魔族たちに取り入るとしても、心まで屈するわけじゃないぞ』


 わかっているわよ!

 そこは舐めないでほしいわね聖剣さん! この勇者モモコを!


「占領府に身分を証明してもらうには、形だけでも魔族に恭順の意を示さなきゃいけない。しかし恭順するのは表向きだけよ!」


 私はまだ諦めたわけがない。


 勇者の務めっぽく、魔王を倒すことを。


「そのためにも私は屈服しない! 心から魔族に従うわけじゃないのよ!!」

『その意気だ! それでこそオレを振るう資格がある!』

「体では屈しても、心の底では舌を出しているわ! そしていつか魔族の支配を覆すのよ! 臥薪嘗胆ってヤツよ!!」


 そうして私が、いつかやってくる逆転勝利の日を予感して高笑いしていると……。


「あ、あのー……!?」


 唐突に声をかけられてビビる。


「えッ!? な、何です!?」

「魔族占領府に何か御用ですか?」


 問いかけてくるのは、黒い肌を持った魔族の兵士さん。


 そうだ!?

 ここは既に占領府の門前だった! かつては人間国、王城の正門前。


「きゃーーーッ!?」


 しまった!?

 私と聖剣さんの不穏な会話を聞かれた。


 いや、この門番さんの表情は『この女一人でブツブツ言っててヤベェ』という戦慄の表情で、変質者と見られても不審者の認識はまだ受けていない。

 よってセーフ!


「あああ、あのあのあの私は! 私は勇者でして……!?」


 みずから勇者を名乗る気恥しさ。

 しかしこう言わないと話が進まない。


「ああ、帰順審査を受けに来たんですね? ならこちらへ……!」


 と案内される。


「まあ勇者なら多少変でも仕方ないよな」


 という独り言が漏れ聞こえた。

 どういうこと?


「あちらの窓口で要件をお話しください。専門の者が対応してくれますから」

「あ、ありがとうございます……!?」


 対応丁寧だなあ魔族の兵士。

 ここが人間国の王城だった頃は、人族の衛兵はタメ口だったような記憶が……。


「次の方どうぞー」


 とか思っている間に私の順番が来た!?

 回転速い!? お役所がお役所仕事してないってこと!?


 受付する役人さんも当然肌の色の濃い魔族で、これまた対応が丁寧だった。


「こんにちは美しいお嬢さん。今日はどんな御用ですかな?」


 あまりにも対応が丁寧過ぎて、とても占領した側の態度とは思えない。

 これが私と敵対する相手なの!?


「あああの! あのあのあのあの!?」

「緊張なさらないで。実は用件は門番から伝え聞いています。勇者の帰順審査ですね? ではまずお名前を窺わせてください」

「あ、明坂桃子でっしゅ!」


 噛んだ。


「アケサカ・モモコ……。……はいありました。名簿の中にありました」

「名簿ッ!?」


 そんなものが存在するのですか!?


「旧人間国は、他の仕事はとことんテキトーだったくせに勇者の管理だけはしっかりしていましたからね。それだけ重要な戦力だったということでしょうが……」


 それを占領時に押収したってわけ?

 受付の役人魔族さんは何やら書類を流し読んで……。


「それでは勇者モモコ様。まず確認させていただきます」

「はいッ!?」

「もう魔国に反抗する意思はありませんか?」


 これは、心理テスト?

 いまだ魔族さんたちに敵意を持っている勇者を野放しにできないのは当然だよね!?

 だったら本心はどう思っていても……!


「ありません!」


 と答えるのが正解!


「では、人間国崩壊から今日までの間、強盗、殺人その他の犯罪を働いたことはありませんね?」

「もちろん! ありません!」


 一時魔国へ入って四天王ベルフェガミリアと戦ったのは犯罪行為じゃないよね?

 思い返せばすごくヤバい気もするけれどだまっときゃバレない!


「わかりました。では別室にご案内いたしますので、そこで魔王軍の旧人間国占領部隊の司令官マルバストス総督と面接していただきます」

「司令官? 総督?」


 だ、誰と会うんですって?


「そうですね……、より簡単に説明しますとマルバストス提督は……。旧人間国に進駐する魔族の中で一番偉い人です」

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