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18 本格異世界生活

約一年ぶりの再会になりますが『異世界で土地を買って農場を作ろう』の裏で活躍するもう一人の異世界召喚者。モモコちゃんの奮闘をお楽しみにください。

番外編です。

 私、明坂桃子。

 十六歳。


 ……あれ? もう十七歳になった?

 とにかく異世界に召喚された勇者として、今日もお勤めを果たすわよ!


 とはいえ私を召喚した人間国は既に滅ぼされて、魔族のものになってしまった。

 今や人間の街や村はすべて魔族の占領下で、派遣された兵士がうろついている。


「くッ……! 勇者の私が不甲斐ないばかりに……!?」

『違うと思うが?』


 とにかく人間の世界を取り戻したくても魔族の力は強大で、すぐさまにはどうにもこうにもならない。


「もっと私自身が強くならなきゃ……!? 修業して身につけた力だけじゃ足りない……!!」

『そうだな、オレもお前ももっと経験を積んで、誰よりも強くならねば。あの黄金聖剣を持つ魔族ベルフェガミリアよりも……!』


 さっきから相槌打って話しているのは聖剣のズィーベングリューンさん。

 剣だけど、物凄い強い聖剣だから自分の意志を持ってるし、お話もできるんだって。


 ただ、この人(剣?)の出す声は所持者である私にしか聞こえないから、あまり長々話していると独り言を延々ブツブツしている人と周囲から見られてしまうので注意しなきゃ。


「そうね……! そのためにもたくさん戦わなきゃ! 経験値上げよ! レベル上げよ!」

『どこかで都合よく殺し合いができる場所があればいいんだがな。殺しても官憲から追われない合法的な状況があればなおいい』


 私と聖剣さんの物騒な話し合い。


 でも、そんな都合のいい状況が都合よくあるの? と頭を悩ませていると……!?


「……ん? どうしたのクマさん?」


 同行のクマさんが、私に鼻先をなすりつけてきた。


 私と聖剣さん、そしてクマさん。

 以上が現パーティの総メンバー。異色であることは否定しようがない。


 特にクマさんは、厳密にはクマ型のモンスターで、辺鄙な村を回って悪者をやっつける優しい心の持ち主。

 クマゆえに言葉は通じないけれど……。


「どうしたの? 私の股の下鼻先を突っこんで? 潜ろうとしてるの?」

「乗れってことじゃないか?」


 そうか。

 股の下を潜ろうとしているのは、私に上に跨れってことなのね!?


『しかし、お前動じないな? 股間に鼻先突っこまれながら……!?』

「前の世界にいた時、近所で飼ってる犬からよくやられたし」

『犬はよくやるよな』


 そして息通じ合った私はクマさんに跨って……。


「ハイヨー! 行けー!!」


 クマさんは私を乗せて走り出した。

 でもどこに行こうとしているの?


    *    *    *


 そしてしばらくクマさんに乗って走り続けて……。

 私は街に辿り着いた。

 正確には街の中にある、とある建物の前へ。


「……冒険者ギルド支部?」


 掲げてある看板にはそう書いてあった。


「ここが、私たちの求める条件を満たす場所なの? ……あッ、クマさん……ッ!?」


 クマさんは止める間もなく、ペコッと挨拶らしきものをすると颯爽と走り去っていった。


「クマさん! クマさーーーーんッ!?」


 一体何なの?


『アイツはアイツで人助けに忙しいからな。魔族占領軍の統治が行き渡らない辺境を回って、潜んでいる凶賊をなぎ倒しに行くんだろう』


 クマさん……!

 いい人……、いや、いいクマ……!?


「ここまでありがとうねー!! また会おうねー!!」


 元気に手を振る。


「負けてられないわ! 私たちも私たちで、この世界のためになることをするのよ!!」

『クマが連れてきたってことは、この建物にヒントがあるということなんだろうが。ここはなんなんだ?』


 冒険者ギルド支部。


 と書かれていても私には何のことやら?

 一体ここは何をする建物なのかしら?


「あの……、あの、申し訳ありませんちょっといいですか?」


 この街はけっこう栄えているようで、普通に往来している通行人から一人捉まえて聞く。


「お尋ねしたいんですが、この冒険者ギルド? というのは何をするところなんですか?」

「そりゃアンタ、冒険者をまとめるギルドだよ」


 よくわからない。

『サムターン回しって何ですか?』と聞いて『サムターンを回すことだよ』という答えが返ってきたぐらいの要領のえなさ。


 よっぽどポカンとした顔つきになっていたんだろう私。

 通行人Aさんは苦笑気味に説明を追加する。


「つまりだな。冒険者ってのは腕自慢のあらくれ者どものことさ。モンスター相手にも引けを取らねえからダンジョンに潜ってモンスター駆除したり、素材を持ち帰ったりして世の中の役に立ってるというわけよ」

「はあ……」

「でもまあアイツら基本的に風来坊だから好き勝手にやらせてたら斑っ気がありすぎる、っていうんでギルドがまとめ役になっている。冒険者に仕事を斡旋したり、ダンジョンの入り口を管理するのは冒険者ギルドの仕事だ」


 なるほど!

 聞いた聖剣さん!?


『冒険者という職業は、オレたちの求めているものにピッタリ一致するようだ! 組織に認められて毎日のようにモンスターと戦える。夢のようではないか!!』


 ガンガン経験値入ってレベルが上がりそうよね!


 冒険者になってモンスターと戦えば、いずれはベルフェガミリアを倒せるほどに強くなる!?


「お嬢さん、アンタも冒険者志望かい? そんな立派な剣を持ち歩いてるならそうだろうが。最近はそういう手合いが増えたね。人間国がなくなって軍人やら傭兵やらが一気に無職になったからか……!?」


 通行人Aさんがブツブツ呟いているが、私はそれどころじゃない。

 一刻も早くギルドに登録して冒険者になるわよ!


「ありがとう通行人さん! まったねー!」


 私は突撃気味に冒険者ギルドの入り口に飛び込み……。

 その先にある受付に張りつくと……。


    *    *    *


「……登録できない?」


 思いもしない展開に、私は呆然とした。

 登録したいのに、できないとおっしゃる。


「人間国が滅んで、冒険者の登録要項が厳格化したからねー」


 と受付のオジサンが言う。


 なんで!?

 国が滅びたなら普通色んなルールが空文化しちゃうものじゃないの!?

 逆に厳格化されたの!?


「人間国は、その辺すごーく緩かったんだよ。そもそも統治者がテキトーだったからね。でも人間国が滅んで、代わりに魔国が支配するようになってからホントしっかりするようになってね。魔族マジ真面目だわ」


 そんな、世の中よくなったね的な……。


「実際ギルド側もね。経歴定かならぬ怪しい人材を冒険者にするのはどうかなって意見が前々からあったんだよ。そういうのが犯罪に走ったらギルドの落ち度になっちゃうし。魔王軍の後ろ盾で採用基準の厳格化を進められたのは本当に助かったよー」


 ここでも魔王軍に占領されて状況が改善されている!?

 ダメなのよ、それじゃ!

 まるで魔族に支配されてよかったみたいになってるじゃない!


「だから冒険者としてギルド登録するためには、最低でも出身町村で身分証明の書類を出してもらわないと。そういうの貰えない無宿人や逃亡犯は、もう冒険者になれないご時世になっちゃったのさ」


 くうッ、なんということなの!?


 そんな身分証なんて異世界からやってきた私に出してもらえるわけないじゃない。

 人間国が滅ぼされる前は、私の身分は人間国が保証してくれて、何処に行っても『勇者です』で歓迎してもらえたのに!!


 零落れた自分を改めて実感してしまった。


「……お嬢さん、もしかしてだけど……」


 受付のオジサンが、私のことをまじまじ見詰めながら言う。


「勇者ってヤツかい? 王族が別の世界から呼んだっていう?」

「へうッ!?」


 図星を突かれて変な声出ちゃった。


「にゃにゃにゃ!? にゃにを言ってございますですぅ!? 私はそんな勇者だなんてことはけっして……!?」

「シラを切らなくていいよ。場合によっては元勇者でも、冒険者として登録できるシステムがあるから」

「え?」


 虚を突かれた私に、受付オジサンはなおも告げる。


「占領府へ行きな。魔王軍の人間国占領府によ」

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