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16 新たな使命

「ヒャッハー! ぶつかってひしゃげろおおおッ!!」


 ゲランニュー。

 巨体とは思えない猛スピードで突進してくる。

 生来の質量と硬度。

 神から貰ったスピードが合わさり、ヤツは恐怖の弾丸特急と化した。


 あのスピードで疾駆するヤツに触れただけでも、どうなるかわからない。

 骨がバキバキに折れて、体が原型も残さず砕け散ってしまうかもしれない。


 ならばその前に……。


 鏖聖剣ズィーベングリューンの剣気で薙ぎ払ってしまえばいい。


 ズオッと。


 迸る深緑の衝撃波。


「あぎょおおおおおおおッ!? はえええええええええええええッ!?」


 深緑剣気に飲み込まれたゲランニューは、吹き飛ばされながら全身焼けただれて黒焦げになった。


「あれ? 斬気で真っ二つになると思ったけど、焼けるの?」

『オレが剣気の質を変えておいた。ゲス野郎だが殺すと、後々お前の立場が危うくなるかもしれんだろう?』


 あら聖剣さん、そんな気遣いできるのね?


 いくら皮膚が硬質化しても、あのドラゴンの鱗より硬くなれるとも思えない。

 ならば聖剣の攻撃でダメージを与えられない道理がない。


 そしてたとえ高速で移動できるとしても、真っ直ぐこちらに向かってくるなら軌道を予測するのは容易。

 そういうタイミングを計る技も、ベラスアレス様の下でしっかり訓練したから。

 鏖聖剣から発せられる剣気の範囲を広めにしておけば、間違いなく外さない。


 スキル『女神の大鎌+2』を使うまでもなく。

 それでゲランニューは一撃死。

 ついでにその後ろにいた元勇者盗賊団も一掃しましたとさ。


「ごへ……ッ!? ぐへえええ……ッ!?」


 それでも息絶え絶えで命が残っているゲランニューだった。


              *    *    *


「本当に申し訳ありませんでした!!」


 倒した盗賊たちを縛り上げてのち、私は村人の皆さんに平謝りした。


 勇者はスキル持ちで、普通に拘束しても何らかの手段で脱出する可能性があるので、私がある程度ダメージを与えた上から、さらに村人さんたちでタコ殴りにして動ける余力を奪っておく。


 酷くはあるが、彼らに授けられた力の大きさと、力に伴う責任を無視して罪を犯したことを考えたら仕方のないことだった。


「勇者の一人として、同類の働いた悪事に心からお詫びさせていただきます!! しゃーせんっしたぁーッ!!」

「あ、あの……!」


 村長さんを代表として村人さんたちは一概に戸惑い模様。


 その横でクマさんが、「あれ? オレの出番なかった?」という表情で顔を上げたけど、すぐに寝直した。

 多分彼も、盗賊の襲撃をカンか何かで予測していて、それを待ち受けるために留まっていたんだろう。

 私のおかげで空振りしちゃったんだけど。


「まさか……、お嬢さんが勇者だったとは……!」

「警戒される気持ちはわかります」


 あんな悪例が近くにいたんですからね。

 その責任を取るためにも、私の手で勇者くずれたちを退治したのですが。


 これで皆さんの心証が少しでも良くなってくれたら……。


「あの……、こういうことは、余所でもよく起きているんでしょうか?」


 つまり、人間国がなくなって手綱を放された勇者たちが狂暴化し、一般市民を襲う盗賊に成り下がったと……。


「残念ながら、国としてのまとまりを失った人間国では其処彼処で、そういうことが起きておりますじゃ……!」


 私が勇者であることが判明したせいか、村長さんが丁寧語に?


「勇者くずれだけではありませぬ。かつて人間国で権威を奮っていた教団も、その座を追われて潜伏しておりまする」


 教団……。

 私が異世界召喚された時も、神官のような人たちをこの目で見た。


「ヤツらは、魔族様たちから逃げ回っておるだけです。それなのに国土回復運動と称して村を襲っては、食料やら何やら奪っていくのです。アイツらこそ人間国の害ですじゃ……!!」


 私が人間国から離れている間に、そんなことになっていたなんて……!?


 人間国は、それを統率する政権がなくなって想像以上に混乱しているんだね……!


「他にも、やることができたみたい」

『ん?』


 私が魔王を倒し、人間国を人族の手に取り戻すには、一筋縄ではいかない。


 まず私の力では、魔王どころかその配下の四天王すら倒せない。


 だからより強い力を得るために、この世界のどこかにいるという聖者キダンを探し出して、協力を得る。

 そのためには世界中を回って聖者キダンに関する情報を集めなきゃいけない。


「そのついででもできること……!」


 人間国のあちこちに潜伏する勇者くずれ、教団の残党の悪行を止めて、悪い人たちを片付ける!

 魔族から人間国を取り戻す前に、ゴミを全部処理しておかないと!


「私が退治した勇者くずれたちは……?」

「はい、既に通報をしておりますので、近辺の大都市から官吏が送られてくるはずですじゃ……!」


 官吏?


「官吏って……!?」

「もちろん、魔族様方の占領軍から組織されたものですじゃ。あちらさんも人手不足ですべてをカバーしきれませんが、逃亡犯を見たり掴まえたりしたら報せるように言われております」


 マズい。

 魔族の兵士がここに来るってことは。


 私だって勇者で、元は人間国に所属していた。

 鉢合わせしたら騒ぎになる……!


「あのッ! 私、今すぐ失礼します! ごはんやお風呂ありがとうございました!」

「ええッ!? あの、お礼もまだ……!?」


 魔族がここに到着する前に立ち去らないと。


 見るとクマさんも、ここから危険がなくなったことを察知してか『さっ、行くか』とばかりに腰を上げていた。


「クマさん乗せて!」


 その背に跨り騎乗モード。


 私はクマさんと共に村から駆け出していくのだった。


 人間国を占領している魔族たちは、そこまで人々に酷いことはしていないみたい。

 むしろ問題ないなのは潜伏してゲリラ化した人族軍の残党。


 ヤツらを倒して檻にぶち込むことも私の勇者としての役目よ!


 行けクマさん!


 私を乗せて、悪が栄えんとする場所へ!

 その悪を打ち砕くために!!

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