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14 村へ

『聖者キダンというのは、そんなに凄いヤツなのか?』

「そうよ! ドラゴンを従えているのよ! これが凄くないわけないじゃない!!」


 いまや旅の相棒として心強い鏖聖剣ズィーベングリューンにも、これからの目的を理解してもらうために聖者キダンの説明をする。


『そんなヤツがいるなんて、天界じゃまったく聞かなかったけどなー。追加インプット情報にもないし。……だが、魔都の位置情報すら更新されてなかったのを考えると……!?』


 なんかウチの聖剣が疑心暗鬼になっておられる。


 とにかく私は、打倒ベルフェガミリア、その先にある打倒魔王を達成するために、聖者キダンを見つけ出す段階を差し挟む!


『……で、その聖者キダンとやらは何処にいるんだ?』


 聖剣からの指摘に、私の燃え上がる心は一気に鎮火した。


「…………わからない」

『えー?』


 そもそもオリュンポス山に登ったことだって、そこに聖者キダンがいるんじゃないかと望みを懸けてのことだった。


 そして見事当てはハズレ。


 代わりにベラスアレス様から魔族に対抗できるだけの力を授けてくださったから聖者キダンのことがすっかり頭から抜け落ちてたんだけど。


 でも結局ベラスアレス様の下で培った強さだけじゃ魔族には……、っていうかベルフェガミリアには通じなかったし……。


 またあの当てどもない聖者探しが始まるの!?


『まあ、雲を掴むような話は一旦中断して、もっと足元を見た話をしないか?』


 足元を見た話?

 何スかそれ聖剣さん?


『ベルフェガミリアに大敗して、とにかくオレたちは路線転換を強いられた。仕切り直しのためにも、街とか村とか、人の集まるところに一度立ち寄ってみてはどうだろう?』

「ええー、でも……?」


 人族が魔族に支配された今、かつて人間国に所属していた私たち勇者は、お尋ね者。

 迂闊に人のたくさんいるところへ飛び込むのは危険と言ったのはアナタじゃない聖剣?


『それでも、一朝一夕に魔族支配を崩せないとわかったいま、情報収集は必要だ。魔族が、植民地化した人間国にどのような支配を敷いているか調査の必要もあるし、聖者とやらの情報も入ってくるかもしれない』


 ううむ。


『それに、お前もそろそろ木の皮剥いだり木の実拾って食べる生活も限界だろ? ちゃんとしたものを食って、ちゃんとした寝床で寝ないと……! ホラ、キミ一応女の子だし……』


 食べ物や寝床はともかく、たしかにそろそろ水浴びぐらいはしたい。

 あと服も代えたい。

 洗ってない麻の下着がゴワゴワする。


「わかったわ、人々の様子を見るためにも、一度街か村へ行ってみましょう」


 もちろん旧人間国の領土側のね。


 魔都を目指していた私たちの現在位置は、まあきっと大雑把に魔国側だろう。


 さすがに異世界人の私が魔族の街に現れたら目立ちすぎる。


「ガル」


 黙って私たちが話し終るのを待っていたようなクマさん。

 まるで私たちの話を理解していたかのように、私へ背を差し出した。


 え? どういうこと?

 背中に乗れってこと?

 私を乗せて走ってくれる?


「ガル」


 いや、自分で歩かなくて済むのは助かりますけれど……!

 何故そこまで御親切に?

 まだレッサードラゴン戦で加勢した恩返しが続いておりますんですか?

 ここまで続くとむしろこっちが心苦しいというか……!

 とんでもなく律儀なクマに恩を売ってしまった……!


「でも助かるので遠慮なく……!」


 促されるままクマさんの背に跨る。

 うわ。

 フワッフワした毛並みが内股に触れて気持ちいい……!

 振り落とされないように体全体でしがみついて……、胸やお腹に触れる毛並みも心地いい。


 そしてクマさん走り出す。

 明日へ向かって。

 いや知らないけれど。


              *    *    *


 クマさんにしがみつくまで移動したら、村に着いた。

 もちろん人族の村。


 クマさん本当にこちらの意図を汲むなあ。


 村内にモンスターが突入してきたら控え目に言っても大パニックになると思うが、予想に反して村人さんたちは自分からクマさんの周りに集まってきた。


「おお~! クマ様じゃ~!」

「クマ様がお戻りになられた~!!」

「ありがたや、ありがたや~!!」


 むしろクマさん崇拝されている?


 集まってきた村人の中には、見知った顔もあった。

 森の中で出会った女の子ではないか。


「お姉ちゃん!」


 向こうもこっちの顔を覚えてくれていたらしく、笑顔で駆け寄ってくれた。


「よかった! お姉ちゃん生きてたんだね! 死んだと思ったけど生きてたんだね!」


 割とシビアな発想をサラッとする娘さんだった。


「ここ、アナタの住んでる村だったのね」

「そうだよ! クマさんが私を運んでくれたあと、すぐ駆け出して森に入っていったから、きっとお姉ちゃんを助けに行ったんだなと思ってたけどやっぱりそうだったんだね! さすがクマさんだね!!」


 賞賛がほぼクマさんに集中している。


 何この村人から寄せられるクマさんへの全幅の信頼?

 勇者である私よりも信頼の厚い!?


『やっぱお前、嫉妬深いな……!?』


 村人さんたちから見て、私はクマさんに救出された森の遭難者ということで理解が一致していた。


『クマさんなら人助けするくらいするだろう』という確固たる先入観が、説明を不要とするぐらいにクマさんの理解に繋がっていた。

 だからなんだこの全幅の信頼は!?


 とにかく私は、要救助者ということでクマさんの背から引きずり降ろされ、村の女さんの方々に担がれて搬送。


 あれよという間に服を全部脱がされ、川の水で洗われて、新しい服を着せてもらったあと、体を暖めよと温かいスープを頂く。


 私はまだベルフェガミリア戦でのダメージと疲労が抜け切れていなかったため、体が思うように動かず、なされるがまま。


 ああ、だから私を担ぎ上げてったのは女性限定だったのねと理解したが、洗体中やたら私のおっぱいを揉みまくってた村娘の一人さんは、果たして故意だったのか偶然だったのか?


「アンタも、クマ様に救われましたのう」


 スープに体の芯からあったまってきたところに、いかにも村長然としたおじいさんがやって来た。


「こんなによくしていただいて、本当にありがとうございます……!」

「こんなご時世じゃ。助け合って生きていかねばのう。どんな事情があって行き倒れておったかは知らんが、クマ様に拾ってもらってアンタは幸運じゃ。最近はモンスターだけじゃなく、もっとタチの悪いもんもアチコチで出よるでのう」


 ?

 もしや森に出てきたレッサードラゴンのことだろうか?

 ならばもう退治したので安心ですよ、と伝えて上げねば。


「何よりも、感謝すべきはクマ様だのう。アンタもクマ様に命を救われたようなものじゃ。あとで改めて礼を言っておくといいぞ」


 はい、それは重々承知ですが……。

 この人たちの想像しているレスキューと実際は違うかもだけど……。


「あの……、あのクマさんは、この村では有名ないんですか?」

「この村どころか、人間国中の噂になっておる救世主様じゃよ」


 救世主!?

 クマが!?


「国滅ぼされ、乱れる世に不逞の輩がウジのように沸いておる。国の管理がなくなったのをいいことに野へ下り、山奥や森林の中に隠れ、強盗などを行う犯罪者じゃ」


 人間国が滅ぼされて、そんなことに。

 さっき言ってた『森の中にいるタチの悪いもの』って、そういう山賊の類ってこと!?


「クマ様は、そういった強盗どもから村を守ってくれますじゃ。ウチのような僻村を回り回って、襲ってくる賊どもを叩き潰してくれる。あのクマ様は真実ワシら弱き者の味方なのですじゃ」

「へ、へえー」

「アンタも、そういった賊どもにかどわかされたのを、クマ様に助け出してもらったんではないのかえ?」

「え?」

「そうでないとアンタのような別嬪さんが森の奥から出てくる道理がないからのう。……いや、立ち入って聞くことではなかったのう。さぞや辛い思いもしたことじゃろうし……!」


 村長さんは、勝手に慮って勝手に口を噤んでしまった。


 私としても勇者という経歴を大っぴらにするのは問題あると思うので、勝手に誤解させておこう。


「いやー、本当に凄いクマさんなんですねえー。モンスターなのに」


 なので、あえて当たり障りのないクマさんの話題を掘り下げることに。


「ほんに、モンスターなどとは思えん気高さですじゃ。誰が言いだしたかわからんが、あのクマ様やはりただのモンスターなどではなく、特別な存在なのだとか」

「特別な存在?」

「なんでも地の果てに住む聖者様が、我ら弱き者を救うために遣わされた聖獣。あのクマ様を指して『聖者の使い』などと呼ぶ者のいるそうな……!」

「聖者ッ!?」


 ってもしや聖者キダン!?


 あのクマさんと聖者キダンに繋がりがあるってこと!?

 人の集まるところにいれば聖者の情報が入ってくるかもとは思ったけど、まさかこんな形で!?


 じゃああのクマさんに聞けば聖者キダンの居場所がわかる。

 でもクマさんからどうやって聞きだせばいいの!?

 まず会話可能!?

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