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13 原点回帰

 私、勇者モモコが目覚めた時、森の中にいた。

 魔都へ向かう途中で通過した森の中。


「私は……?」


 まどろみから覚醒していく過程で、意識を失う直前の記憶も少しずつ甦ってくる。


「そうだ……! 負けたんだ……!」


 魔王軍四天王の一人、ベルフェガミリア。


 アイツの圧倒的強さに、私はザコのようにあっけなく敗れ去ってしまったんだ!


「クソッ! ……クソッ!!」


 思い出すほどに悔しさがこみあげてきて、拳で地面を叩く。


 勇者は最強であるべきなのに。

 実際最強だと持っていたのに。

 何やってるのよ私は!?


『目覚めた途端元気だな。無駄な元気だが』

「聖剣!?」


 呼びかけられて、やっと気づけた。

 私が眠っていた森の中、その森を構成する木の幹の一つに、私のよく知る鏖聖剣ズィーベングリューンが立てかけてあった。


「よかった……! アナタも一緒だったのね!?」


 あのドサクサで戦場に置き去りになっていたら、どうしようかと……!


『聖剣を舐めるな。いざとなったら最後の力を振り絞って、マスターの体の表面に引っ付くことぐらいわけないぜ』

「それはそれで絵面を想像すると滑稽なんだけど?」


 というか私の体の表面ってどこに引っ付いた?

 まさかお尻とかじゃないでしょうね?


「でも私たち、どうやって逃げて……!」


 私自身に走ってここまで来た記憶はない。

 するとやはり、誰かがここまで運んできてくれたってことだろうか。


 ……いや。


 私はその答えを知っている。

 私がベルフェガミリアとの戦闘で気を失う寸前に見た、私を庇う雄々しき姿……。


「クマさん……」


 あのクマモンスターだ。

 魔都へ向かう途中に遭遇した、人を庇って助けるおかしなモンスター。


 でも何であの場所にクマモンスターが?

 しかも何故率先して私を助けたの!?


「……あ」


 私が思い悩んでいると、ぬっと現れた大きな影。

 今絶賛話題となっているクマモンスターさんだった。


『なんだ、戻ってきたのか。コイツを下ろした途端どっかへ走っていったから、てっきりもう去ったと思ってたのに』


 聖剣が、相手に聞こえてないだろうけど軽口めいたものを叩く。

 聖剣と意思疎通できるのは、マスターである私だけ。


「あの……、助けてくれてありがとう。でもどうして私を……」


 聞いて答えが返ってくるとは思えないけれど、問いかける私の機先を制してクマさんがぬっと前足を差し出した。


「へぇッ!?」


 いきなり何かと思ったが、その前足には何かグチャリとしたものが乗っていた。


「ひぃッ!? 何ッ!?」


 パッと見のグロさに私は一時のけ反ったが、よくよく見てみると、その飴色にテラテラ光るそれは……。


「蜂蜜……? 蜂の巣!?」


 まあ、なんてクマっぽい!

 クマの好む名物と言えば蜂蜜or鮭ですものね!


 それを私に向かって差し出しているということは、私に下さるということですの!?


「では遠慮なく……!」


 私は蜂の巣の破片ごと受け取ると、その表面に溢れ出る蜂蜜を舐めてみる。

 ペロリン。


「……………………甘い……ッ!!」


 蜂の巣から直接舐めとるだけあって雑味が半端ないけれど。

 こんな濃密な甘味、異世界に来てから初めて味わった……!


 感動で涙が止まらない……!


「クマさん……! 私に元気を出させるためにわざわざ取ってきてくれたの?」


 よく見たら、クマさんの背後から巣を壊されて激おこのミツバチさんたちが大挙して追ってきてるんだけど。

 わぁい逃げろー。

 と言っても私まだダメージで体が動かないからクマさんに乗ってー。


              *    *    *


 一しきり森を逃げ回ったあと、私は蜂の巣に残った蜂蜜を執拗に舐めながら、ここまでの状況を整理してみる。


 私たちの元々の目的は、魔王を倒すこと。

 そのために魔王がいるという魔都を目指した。

 しかし、聖剣の持っている魔都の位置情報は古くて、何百年も前に遷都した古い方の魔都に到着してしまった。

 そこで待っていたのは魔王軍四天王のベルフェガミリア。

 私は四天王にあっさり負けてしまった。

 あわや敗北して、捕まろうとしていたところに、このクマさんが参戦。

 クマさんは私を庇ってベルフェガミリアと戦い、機を見て私を抱え逃げ去った。


「……ってところ?」

『そうだな、このクマが駆けつけてこなかったら、本当にヤバいところだったぞ』


 聖剣の指摘通りだよね。

 可憐な美少女の私が捕虜になんかなったりしたら、エ○同人みたいに乱暴されてるところだよ!!


「でもどうしてクマさんが、私を助けに?」

『さあな、獣の考えることなど、それこそ理解不能だが……』


 話し合い中、何故かクマさんは聖剣のことをフンフン匂いまくりだった。

 何故?


『オレが思うに、このクマは過去にも聖剣と戦ったことがあるんじゃないか?』

「え?」

『それで負けるかこっぴどい目に遭ったんだろう。だから同種の聖剣を持っているお前に興味を引かれた。……ってのはどうだ?』


 と自分の推理を披露する聖剣。


 でも、聖剣なら敵のベルフェガミリアも持っていたし、私に一方的に肩入れする理由は……?


『ヤツの聖剣は折れた剣、死んだ聖剣だ。オレとはまったく違う。あんなのを通常の聖剣並みに扱えるベルフェガミリアってのが異常の中の異常なんだ』

「はあ……」

『それに、このクマはレッサードラゴンとの戦いで、お前に助けられたからな。いかにも恩義を感じそうな面構えしてるじゃないか』


 なのでクマさんは、聖剣への興味と、私への恩義から、あの時の女の子を村へ帰してから、私を追ってきたと?

 匂いなりをたどって。

 そしてベルフェガミリアとの戦闘に出くわして、形勢不利な私を抱えて逃げてくれたと?


「何にしろ、アナタのおかげでピンチから脱出できたわ。ありがとう」


 私はクマさんの鼻先を撫でた。

 見た目のわりに毛の質感がフワッフワで撫で心地が天国だった。


「でも……、私たちの完敗だったわ」

『そうだな』


 現状把握が終わったあと、私たちに降りかかるのは圧倒的な敗北の事実だった。


 魔王軍四天王の一人、『堕』のベルフェガミリア。


 私たちはアイツに惨敗した。


『記念すべきオレ様の初バトルが、折れて参戦権を失った聖剣に惨敗など、情けねえ……!!』


 聖剣も悔しさに刀身を震わせている。


 私だって、魔王を倒し人族を解放するつもりで挑んだ戦いに、魔王どころかその部下にすら及ばないなんて……!


「しかも四天王の一番手と言えば最弱であることがお決まり! あれで最弱なんて、どれだけ無理ゲーなのよ!?」

『えッ!? いやアイツ間違いなく地上最強……!?』

「四天王最弱であのレベルなんだから、魔王なんかはあの何倍と考えていいわ!! 今の私じゃ到底太刀打ちできない!!」


 四天王最弱!

 人間ごときに負けるなんて魔族の面汚し!


 それが最初に出てくる四天王の存在意義であり義務なのよ!

 でも今の私じゃ、そんな最弱ポジション野郎すら倒せない!!


「ベラスアレス様に申し訳が立たたないわ! 半年間も鍛えてくれて、聖剣まで与えてくださったというのに!」


 私の実力は、大目的である打倒魔王の、その手前(四天王最強)の手前(四天王二位)の手前(四天王普通)の手前(四天王最弱)にすら届いていなかった!!


『いやあ、アイツが普通に最強だと思うけどなあ……!』


 どうすればいいの!?

 強さが足りないなら、またベラスアレス様に修業をつけてもらう?


 でも、神々の『たくさん人間に与えちゃいけない』って言う決まりごとを詭弁でかわしつつ、ここまで援助してくれたベラスアレス様に、これ以上頼るわけには……!


 他に何か方法は……!?


「……そうだわ」


 他にもいた。

 他にもう一人、頼りにできそうな人が。


「……聖者キダン」


 ドラゴンを従え、人智を超える聖者ならば、私にベルフェガミリアを倒せるほどの力を授けてくれるかもしれない!


 そもそも私の旅の目的は、聖者キダンを探し出すことだったじゃない!

 途中ですっかり忘れちゃってたけれど!


「今再び原点に還り、私は聖者キダンを探し出す!」


 そして聖者キダンから新たな力を貰うなりして、四天王ベルフェガミリアを倒しその奥にいる魔王を倒す!


 それが私の異世界冒険譚よ!

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