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10 最初=最弱?

「この役立たず聖剣! 何が魔都までの道順はバッチリよ!? 思いっきり間違ってるじゃないのよ!?」

『仕方ねえだろう!? オレは千年以上天界で死蔵されてたんだからよ! その間に遷都されてたなんて知らねーよ! 天界神のヤツら、そうならそうと土地情報更新してくれればよかったろうによ!?』

「古形式のカーナビかアンタは!?」


 醜く言い争う私と聖剣。


「……何を一人で喚き散らしているんでしょう? あの娘は?」

「めんどくさそうな子だねえ」


 はッ!

 いけない。

 鏖聖剣の声は私にしか聞けないので、肉声で言い争っていたら私、一人で喚き散らしている可哀相な美少女だと外目にしか見えない。


 ここはいったん落ち着こう。


「……こ、ここが魔都でないということはわかったわ。じゃあ、そんな場所にいるアナタたちは何者なの?」

「名乗るの? 面倒くさいなあ?」


 パッとしない方の魔族、いかにも気だるそうに後頭部を掻く。


「でもま、キミの方は既に名乗ってくれたし。モモコちゃんだっけ? こちらも言わなきゃ礼儀を欠くか」


 そう言って魔族は立ち上がり、姿勢を正して意義を正す。


「僕の名はベルフェガミリア。魔王ゼダン様より四天王の位を賜りし者の一人。魔王軍四天王『堕』のベルフェガミリア」

「四天王……!?」


 これが?

 RPGでよくある悪のラスボス腹心チーム?


「……とはいっても、僕はパッとしない怠け者でね。僕より活躍している四天王は他にたくさんいるし、言うほど偉くない人なんだよ僕ぁ」


 たしかに。

 四天王と言えば、最初に出てくるのは一番弱い人と相場が決まっている。


 苦労して倒したのに、まだいる他の三人から『ヤツは四天王最弱……』『人間ごときにやられるとは魔族の恥さらしよ……』って言われちゃうポジションなのよ!


 私にとって遭遇した四天王、最初の一人。


 必要以上にビビらないよう凄み返さないと。


『あのー……』


 何、聖剣?


『お約束で言うんなら、ああいう飄々としたタイプこそ実際戦うととんでもなく……』


 あっ、ちょっと待って!?

 向こうなんか喋り出す!


「さて勇者モモコちゃん。キミは魔王様を討とうとしているのかな?」

「ッ! だからそう言っているでしょう! 私は魔王を倒して勇者の使命を果たす!」

「なんで?」

「えッ?」


 なんでって……?

 そんな改まって聞かれても……?


「キミたち勇者のことは伝え聞いているよ。人族が、我ら魔族に対抗するため、こことはまったく違う世界から召喚する英雄戦士。勇者には、天の神から一人一つずつスキルが与えられていて、圧倒的な戦力を発揮する」

「…………」


 よくご存じで。

 勉強してるわね。


「しかし理不尽なシステムだと思うがね。異世界人にだって、それぞれ故郷の世界での生活があるんだろう? それを無視し、有無も言わさずこちらの世界に連れてこられて、縁もゆかりもない人間国のために戦えと強いられる。自分の意志で元の世界に帰ることもできない」


 …………。


「それに怒りはないのかい? 勝手だとは思わないのかい? 僕だったら絶対嫌だね。戦えと言われても意地でも戦わないよ」

「ベルフェガミリア様はいつもそうでしょう?」


 隣の魔族が細かいツッコミを入れている。

 立ち位置的に、彼は四天王の手下とかなんだろうな。


「なのにキミは、人間国が崩壊してなお打倒魔王を志すという。その動機は何なのかな? キミと戦わずに済ませるためにも聞いておきたい」

「戦わずに、済ませる……!?」

「そうさ、人魔の戦争は既に終結した。戦争が終わったというのに、戦闘を続けるのは意味のないことだと思わないか? 意味のないことをするのは、本当に面倒くさい」


 やりにくい、このオッサン。

 威圧感があればまだやりやすいのに、飄々と掴みどころがなくて、まるで霞みたい。


 迂闊に進むと飲み込まれそうな……。


 いや、飲み込まれたらダメよ。

 自分をしっかり持って!


「私は、勇者の務めを果たすために戦う」

「勇者の務め?」

「弱い人を守り、自由を取り戻すこと! 国は関係ないわ! 私は私の思った勇者の道を歩む!!」

「自分で決めた自分の道か……! それが我々の道をぶつかり合うことになるんなら、面倒くさいなあ」


 空気の密度が変わった。

 戦いになるか?

 と思った瞬間、私と四天王との間に割って入る者がいた。


「ベルフェガミリア様、ここは私にお任せください!」

「オルバくん?」


 あの四天王の手下っぽい人!?


「四天王ベルフェガミリア様直属の副官オルバ! 上官に歯向かう野良犬を替わって成敗するのが私の役目!」

「おいおい、張り切りすぎると面倒くさいことになるよ」

「人間国は既にない! 残党の勇者がいくら足掻いたところで大勢は覆らない! そのことを教えてくれる」


 剣を抜き、上段に構え、突進してくる手下の人。

 でも、そんな単純で雑な攻撃は、ベラスアレス様の下で鍛えられた私には通じない。


 パキン、と金属の折られる音。


「なッ!?」

「武器も、私と戦うには性能不足のようね」


 私の使う鏖聖剣ズィーベングリューンの前では、普通の鉱物で打ったのだろう数打ちの剣では耐えることはできなかった。


 剣を折り、返す刀で逆袈裟に切り上げれば、相手に深手を負わせることもできるだろう。

 でも……。


 ピタリ。


 剣を止めた。


『? 何故止める?』


 聖剣の疑問ももっともだった。


「実は私……、人間軍に交じって戦っていた時も、敵はほとんどオークやゴブリンばっかりで……!」


 人はまだ斬ったことがないというか……。

 斬るのに躊躇を覚えるというか……。


「そこまで」


 空気の密度が、また変わった。

 今度は、全身に怖気が走るようなねっとりした密度だった。


「「……ッ!?」」


 私だけでなく、手下の人まで表情を変えて振り向く。


 そこに強者がいた。

 言われなくても肌でわかる強者がいた。


「剣を止めてくれてありがとう。優しい子だねキミは」


 四天王ベルフェガミリアが、人好きする笑顔を見せた。


「彼女持ちのオルバくんをこんなところで死なせたら、とても面倒くさいことになるから助かったよ。彼を助けるためにキミを殺したら、それもまた面倒だしね」

「何を……?」


 今の、サラリと何気なく口にした言葉。


 この男……。

 いつでも簡単に私を殺せると思っている?


「オルバくん、下がりなさい」

「しかし……」

「聖剣を使う彼女には敵わないよ。……鏖聖剣ズィーベングリューンか。七聖剣のうち、数百年に渡って行方知れずだったはずの二振りが、こうも立て続けに世に出てくるとは……!」


 怠け者ベルフェガミリアから噴き出す、ねっとりした闘気。

 可視化された気の色は、朝焼けのごとき黄金色。


「モモコちゃんと言ったっけ? キミの言う勇者の道というのは、僕にはまるっきり理解不能だ。それが魔族人族の種の隔たりによるものか、異世界の価値観なのか、それすらわからない」

『この匂い……!?』


 私の聖剣が騒いでいる!?


『まさか、ヤツか。ヤツが所持者なのか!?』

「理解するのも面倒なので、まずは戦ってみようじゃないか。時に、その方が面倒くさくない時もある」


 ベルフェガミリアの右手にある、一振りの剣。


『ついに出会えたな! 我が同類、七聖剣の一振り、堕聖剣フィアゲルプ!!』


 でもその剣は……。

 根元からポッキリと折れていた。

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