09 旧魔都での遭遇
アイアム勇者。
モモコでっす。
はるばる来たぜ魔都。
ここに魔王がいるのね!?
『そうだ。魔族の支配者。勇者にとって最大の敵。魔族の中心地にこそヤツがいなくてどうする?』
そうよね!
聖剣の導きでここまで来た私。
魔王さえ倒せば、人間国が滅ぼされ、人族が魔族の支配を受けるこの状況から一発逆転できる!?
『魔族最強の魔王ならば、オレと同じ聖剣を所持している可能性も高い。オレにとっても意義のある戦いとなろう』
と私の持っている聖剣もモチベーション高いわ!
この勢いなら、一気に敵地攻略して魔王のところにたどり着けるかも!
「でも……!」
私は改めて、魔都とやらを眺めてみた。
「なんかここ、寂れてない?」
私の想像の中の魔都。
やっぱりRPGのラストダンジョンみたいに壮大な御城で、外観も内装も豪華。
モンスターもウジャウジャしている。
そんなイメージだった。
しかし私が現に目の前にしている魔都は……。
何と言うか、魔王どころか人っ子一人住んでいなさそうだった。
人が住んでいた形跡はある。
家はあるし、舗装された道はあるし。
ただしそれら建造物は、人が去ってから長いこと経過していて、所々痛んでいて、モノによっては半壊していることすらあった。
これぞまさに廃墟。
人どころかモンスターの気配さえ見当たらない。
「こんなところに魔王さん本当に住んでいるの? もし住んでいるとしたら、相当変わった住居のご趣味だと……!?」
『お、オレのデータに間違いはない! ここが魔都で間違いないはずだだだ……!!』
聖剣の声が、自信のなさで揺らいでいる。
「まあ、多少探索はしてみるけれど……!」
何も発見できない可能性が高い。
そしたらどうしましょうかね、このウソを教えやがった聖剣?
『オレはウソ言ってないぞ! 仲間を信じられないのか相棒!?』
急に情に訴えてくるな。
一応信じているから一応探索するんでしょう?
ただし勇者の信頼は高くつくわよ?
* * *
で。
早速、魔都(?)に入ってブラブラ歩いてみると……。
「何者だ!?」
いきなり誰かに遭遇した。
いかにも量産品っぽい鎧に身を包んだ、いかにもザコっぽい兵士。
「……魔族?」
鎧の隙間から垣間見える肌の黒さは、たしかに魔族の特徴。
魔族の兵士がいるってことは。
「やっぱりここが魔都!?」
『ホラ見ろ! やっぱりオレの言った通りだろ! オレの言うことは何でも正しい!!』
聖剣の声が喜びと安心に満ち溢れているんだけど……。
でも、目の前に集中するわ!
「アナタは魔王軍ね!? 魔王はどこにいるの!? 答えなさい!」
「ヒッ!? そういうお前は何者だ!?」
ザコ兵士らしい及び腰の対応に、私は律儀に答えてあげた。
「私は勇者モモコ! 人族を魔族の支配から解き放つため、魔王を倒しに来たわ! 魔王の居場所を教えなさい!!」
「勇者あああああッ!?」
人族軍の最終兵器、勇者の威名は魔族にも知れ渡っているらしい。
腰も抜かさんばかりに恐れおののき、慌ただしく後退する。
「きっ、緊急事態ぃーーーーッ!! 勇者、勇者が出たぞぉーーーーーッ!?」
その悲鳴に反応して、四方八方から同じような鎧お仕着せの兵士たちがワラワラ出てきた。
完全に取り囲まれた状態。
『おい勇者……、これは作戦として正しいのか?』
何が?
『せっかく人知れず魔都まで来れたっていうのに、ここまで来て盛大に発見されるのはどう考えても……! 魔王にたどり着くまで隠密行動が理想じゃないのか?』
そうは言ったって、肝心の魔王の居場所がわからないんじゃどうしようもないじゃない。
ここは、存在を知られてでもテキトーな相手を見つけて、バイオレンス映画みたいに尋問で吐かせるのよ!
魔王がどこにいるか!
『そういう方針かよ……。でもなあ、そういう手順なしでも魔王の居場所がわかるとしたら?』
「え?」
『オレたち聖剣は、同類の居場所を察知することができる。ある程度近づくと匂いでな』
「ええー?」
『この魔都に、たしかに一振り聖剣の匂いがする。さっきも言った通り、武器として最高クラスにある聖剣の所有者は、最強の魔族、魔王である可能性が高い』
聖剣の匂いをたどっていった先に、魔王もいるってこと?
早く言いなさいよ!
『提案する前にお前が騒ぎを起こしちまったんだろ? どうする、縛り上げて吐かせる従来の方針続行でもいいが?』
選択は常に楽な方!
呼び集めてしまった魔族兵士は無視して、聖剣!
同類の匂いとやらをたどりなさい!
そちらへ向けて猛ダッシュよ!
「承知! とりあえず真っ直ぐだ!!」
聖剣の指示に沿って、私は跳躍。
魔族兵士たちの頭上を飛び越え、その奥へと向かう。
「うわー! 飛び越された!?」
「パンツ見えた!?」
「逃がすな! 追え追えーッ!?」
追跡してくる兵士たちにはかまわない。
私の目的はあくまで魔王だけよ!!
「クソーッ! 速い! 追いつけん!?」
「丸いお尻が遠のいていく!?」
「おい待て! あの方向は……!?」
「四天王様のおられる本陣では!?」
兵士たちを振り切って、私が駆け抜けてきた先は……!
* * *
「ん?」
そこには、二人の魔族が待ち受けていた。
服装、佇まいからして通常の兵士でないことは一目でわかった。
強いヤツだ。
もしくは偉いヤツ。
……聖剣、ここから先はどう行けばいいの?
『ここまでだ。ここで聖剣の匂いは止っている』
って言うことは……。
目の前にいる偉い人っぽいコイツらのどちらかが魔王?
「貴様が勇者か!?」
偉い人二人のうちの一人。
若くて舎弟っぽい方が声を荒げる。
「人族の走狗、異界の怪物たる勇者が何故ここに!? 教団残党の差し金か!?」
よくわからないけれど、友好的な雰囲気じゃない。
「私は勇者モモコ!」
改めて口上を述べる。
「人間国の平和を取り戻すため、人族の自由を取り戻すため、魔王を倒しに私は来た! 魔王はどこにいるの!?」
「魔王様だと!?」
「ここが魔都、魔族の中心地だってことはわかっているのよ! そして私の聖剣、鏖聖剣ズィーベングリューンが、他の聖剣の匂いをたどってここまで来た……!」
つまり私の目の前に、聖剣の所持者がいるということ。
それこそ魔王!
「あー、あー、お嬢さん」
二人組のうちの一人。ぬぼっとしたオッサンぽい魔族が私に呼びかける。
「遠路はるばる、よく訪ねて来てくれたね。ウェルカム魔都、と言いたいところだが、残念ながらここは魔都じゃないよ」
「へ?」
「『旧魔都』と言ってね。五百年ほど前はたしかに魔国の中心、魔王様のお膝元ではあったが、とっくの昔に遷都されて放棄された都市なんだ」
え、ええー?
「何十代も前の狂った魔王が暴れ回って、都市機能は完全に失われている。キミが求める今代の魔王様は、新しい魔都におられるよ。ここにはいない」
『誰が狂った魔王じゃあ! ワシは魔王なら当然なる悲願、すべての支配者となるために最善の手段をおおおおおおッ!?』
なんか傍らで頭蓋骨が喚き散らしてるううう?
すっるてーと……。
私がここへ突入したのは、完全な無駄足?




