00 これまでのあらすじ
『異世界で土地を買って農場を作ろう』の番外編です。
異世界農場の主人公・キダンと同タイミングで召喚された少女モモコが、異世界でどのように逞しく生きているかを描いていく物語。
かねてからお問い合わせの多かった勇者モモコの現状について、本編内で描くには文量とか話のカラーとかが問題かと思え、このような形での発表に踏み切らせていただきました。
普段から異世界農場を読んでくださっている方々へのお礼も兼ねて、楽しく読んでいただけたら幸いです。
一応メイン『異世界で土地を買って農場を作ろう』はこちら↓
https://ncode.syosetu.com/n3406ek/
それではお楽しみください。
私、明坂桃子は異世界に召喚された。
それ以前は福岡市在住の普通の女子高生。
好きなイチゴはあまおう。
異世界と一言で聞いてピンとくる程度のオタク知識は所持していたものの、具体的に異世界でどうこうどうすれば幸せなライクが送れるかという知識までは持ち合わせていなかった。
クッ!
学校の図書室にたくさん置いてあったライトノベルをもっと精力的に読んでおけば……!
しかし悔やんだところで後の祭り。
大丈夫、ラノベは読まなかったけどレ○アースは見てたから!
再放送で!
あのアニメ知識を活用して、必ず異世界を平和にして元の世界に帰るのよ!
私を召喚した王様は、どうやら私たちに魔王を倒してほしいみたいだった。
何だかありがちだなあと思った。
異世界から召喚された者たちには、何やらスキルとかいう超能力が与えられるみたいで、そうして異世界から召喚された超能力者を……。
勇者。
……と呼ぶらしい。
勇者は私だけでなく、たくさんの人たちが同時に呼び出された。
スキルにはさまざまな種類があり、誰がどんなスキルを獲得するかは呼び出してみるまでわからない。
だから、とにかく数を召喚すれば、その中に当たりスキルがいる確率も高まるだろうという意図らしかった。
「十連ガチャみたいなものかなあ……」と思った。
ガチャられる側は堪ったものじゃなかったけれど。
幸いというか、私は相当な当たりスキルをもって召喚されたらしかった。
『女神の大鎌+2』という即死系スキルらしい。
即死系の何がすごいかはわからないけれど、召喚した王様たちが盛り上がるんだから、まあ凄いスキルなんだろう。
おかげで私は王様たちから大歓待を受けて、一等勇者に認定してもらえた。
ガチャで言うと☆五つの金レアと言ったところだろうか。
対照的にしょぼいスキルしか持たずに召喚された人たちは悲惨だった。
☆四つの銀キャラ、☆三つの銅キャラと扱いは悪くなっていき、一番酷いのだとスキルなしで召喚された最悪のハズレキャラさえいた。
☆なし。
もはやレア感など微塵もない。
無価値すぎて逆にレア、とまで言える域。
あんな微塵の価値もなしで召喚された人は、この世界でどんな扱いを受けるのだろう?
一度召喚されると簡単には元の世界に帰れない……、っていうか不可能っぽいし。
実際そんな『スキルなし』という無慈悲評価を受けたのは冴えないおじさんだったけど、その人は追い出されるように城から去って、以降一度も見たことがない。
他の銀銅キャラも似たり寄ったり。
王国の人たちによって異世界召喚者は、最低でも金レベルの能力の持ち主でないと保有する意味がないのだろう。
私は運よく金キャラで助かった。
レアで使えるからこそ、こちらの世界の人たちは私を大事にしてくれる。
なので私も、自分の価値を落とさないために前線で一生懸命戦った。
敵だという魔族が差し向けるモンスターを片っ端から斬りまくった。
おかげで私は人間軍の人たちから『勇者の中の勇者』と褒め称えられるまでになった。
元の世界に帰る目途はつかないけれど、私はこちらの世界で上手くやれている。
そんな実感を持っていたのに。
二つの大きな出来事が、私の実感を打ち砕いた。
* * *
まず一つ目の出来事は、ドラゴン襲来。
それまでも出会う人々から散々聞いてきた、この世界でもっとも恐るべき二つの災厄。
ノーライフキングとドラゴン。
その二つのうちの一方が実際目の前に現れて、私は心底ビビった、震えた。
『おれは偉大なる竜の王ガイザードラゴンの娘。グリンツェルドラゴンのヴィール。今は聖者キダンを主としている』
ドラゴンの語る言葉に、私はさらにビビった。
『もし我が主へ無礼を働けば、おれのブレスがお前たちのもっとも多く住む街に直撃すること約束する。我が主の名は、聖者キダン! その名を心に刻んで忘れるな! 聖者の敵は、このグリンツェルドラゴン、ヴィールの敵となることも!!』
ドラゴンが教えてくれたのは、私が召喚されたこの世界の大きさ。
私は神から貰ったスキルがたまたま当たりだった、それだけで世界最強になれたと奢りきっていた。
しかしこの世界はそんな簡単なものではなく、スキルで底上げされた程度の私なんかミジンコにしか見えないほどの強者がゴロゴロしていた。
その証拠があのドラゴンの言葉。
あのドラゴン自体、紛うことなき最強者であるというのに。そのドラゴンすら従えて主となっている者が存在するというではないか。
その存在を匂わせたのは、あのドラゴンが発した言葉自体。
聖者キダン。
間違いなく偉大だとわかる謎の存在。
その人は、この世界のどこにいて、どれくらいの位置に立っているのか。
この世界のことをどれだけ知っているのか。
その人に会えば、私はもっと大きな力を手に入れることができるかもしれないし、もっとたくさんのことを知って学べるかもしれない。
元の世界に帰れる方法だって。
戦場でドラゴンと遭遇してから、聖者キダンの存在は私の中のすべてを満たしていった。
だから戦線が膠着状態になって、王様が『聖者キダンを探せ』という命令を出した時、私はすぐさま捜索隊に志願した。
私自身で真っ先に聖者キダンを見つけて、色んな事を聞いて学びたい。
聖者キダンをいそうなところはどこへだって行く。
山にも登る。
山に。
聖者ってなんか凄く高い山の上にいそうじゃない?
そうして私が、人間国で最上級に高いと呼ばれる霊峰群を次々踏破していた矢先だった。
二つ目の衝撃的出来事が起こったのは。
* * *
「王都が……、攻め落とされた……!?」
麓のキャンプに、兵士さんたちが慌てふためきながらやって来たので何事かと思ったのだが。
報告を受けて私も、困惑で動揺した。
「なんで!? 王様や大臣さん言ってたじゃない! 人間国には『神聖障壁』ってのがあるから、魔族たちからこっちには攻めてこられないって!?」
「その通りながら、魔王軍は何らかの手で『神聖障壁』を破壊し、進軍してきた模様で……!」
「何らかの手って、何よ!?」
混乱しながらも、少しずつ絶望が実感できているのがわかった。
私は勇者だけど、国からのバックアップがなければ何もできない。
聖者キダンを捜索する物資も常時王国から補給してもらっているのに。
着替えの服も、食料も、国から賄ってもらわないとどうにもならない。
それに人族が魔族に支配されてしまったら、私はどうなるの?
私は勇者。
魔王軍にとって憎い敵。
捕まれば、処刑?
いやその前に、今までの戦いの恨みを晴らすため、殺す前にたっぷり苦しめたり?
自費出版しているページの少ない本みたいに!?
だって私、華麗な女の子だし!!
「どういたしましょう勇者様……!?」
兵士たちだって帰るべき本拠地を失い、相当に心細い。
支援を断たれて、私たちが魔族に捕まってしまうのも時間の問題。
それまでの短い間に、最悪の結末を回避するための有効な手段は……!
「聖者キダンを見つけ出す……!」
方針は変わらない。
聖者キダンを見つけ出して、人間国を救ってもらえるように、もしくは人間国を救えるだけの力を私にくださるようにと……!
「しかし、聖者様の在所がどこにあるかまだ手掛かりすらつかめていないというのに……」
「そこは賭けよ」
兵士さんたちの不安そうな態度を宥めるように私は言った。
「これから登る予定だった山にこそ聖者はいる。そう信じて私は登る」
「あの山の頂上に、聖者様はおられるのでしょうか?」
「きっといる。そうでなかったら人族は滅亡するしかない」
私が、聖者キダンを探して次に登る予定だった山は、人間国最高峰、誰も踏破したことのないという峻険。
オリュンポス山。
そこに聖者キダンが必ずいると信じて。
私はこの山を登る……!
* * *
以降、私こと勇者モモコの動向はふっつりと途絶えることとなる。
短期集中連載で、一日一話更新の予定です。