エピローグ
「勇者さま、さっきのとってもカッコよかったよ」
木の杖を持ち髪の長い魔法使いのようなローブを着た女の子が少年に言った。
少年は彼女の横を歩いている。勇者と呼ばれた少年の格好はというと、手には数々のモンスターを亡骸にしてきた勝利の剣にどんな攻撃や魔法をも防ぐ盾、磨かれ綺麗に輝く鎧やヘルム・・・とは全く言えない普通のシャツに短パン姿である。
顔や衣服は泥だらけの帰り道。夕方泥だらけになるまで遊び家に帰って行く子供たちと違う所は、少年の手には戦利品なのか何物かの小さいツノや宝石、短刀を持っていた。どうやらごっこ遊びではないようだ。
「そう?でもまぁ何とか2人生きて帰ってこれてよかったよ!」
少年は少女にそう言うと大きく息をはき顔に安堵の色が浮かぶ。
~あんなにつぶらな瞳のモンスター、何ゴンクエストじゃ冒険の始めにでてくるスライムみたいなモンじゃねぇのかよ~
少年はこれから先を考えため息をついた。
しかし横の魔法使いの少女というと彼を信頼してるのかニコニコと鼻歌交じりだ。
その姿を見ているとまだ見ぬ先のことを考えても仕方ないかという思いと、少女の無垢さかわいらしさに思わず顔がほころんだ。
雑木林を抜けて薬草なども拾いつつ町についたころには、日も暮れ始め2人は宿に泊まって休もうかとなった。
途中に道具屋により戦利品を換金し、得たお金を手に宿屋に向かった。
ほどなく1階に明かりのついた宿屋が見える。2人がこの村に来てから滞在している宿屋で、1階はお酒も飲める食堂も営んでいた。
2人が扉を開けて中に入ると、
「よー ボウズたち今日もちゃんと生きて帰ってこれたかー。ここ座れ。お祝いだー 1ぱいおごるぞー 飲めー勇者!」
「まだオレたちはお酒のめねーよ」
よく心配して?からかって声をかけてくれる食堂の常連たちと言葉を交わした。
「お帰りー、ちゃんと無事に帰ってこられたわねー。お腹減っただろー?そこ座りな」
両手に料理を持ってキッチンからでてきた元気でふくよかなここの女将さんだ。
ただいまーと挨拶し2人はさっきの常連たちの横のテーブルに腰をおろした。
「はいお待たせー、冒険者スペシャルだー」
2人がそれぞれ大好きなハンバーグやオムライスを大盛りにしてくれる。ちゃんと野菜もとるようにとてんこ盛りサラダ付きだ。2人の顔がよろこぶ。
「女将さーん、俺からのサービスでお子様ランチよろしく旗つけたげてー」
「そうだねっ、忘れてたわ」
「うるせええぇぇっ」
女将さんや常連たちにおもちゃにされながらワイワイ食事を楽しむ。女将さんは食事も宿代に含まれてるからとご飯をたんとたべさせてくれるが、飯なしの他の宿屋と料金は変わらない。とてもよくしてもらっている。駆け出しの2人には大助かりだ。食堂がいつも賑わっているのは料理がおいしいだけではなく女将さんに会いたくてみんなが集まっているのかもしれない。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、お開きになり女将さんに御馳走様と2人は部屋に向かい一緒に騒いでいた常連たちもそれぞれ帰路についた。階段で、
「何回オレたちにお酒のまそうとすんだよー」
「おいしかったしとってもたのしかったね勇者さま」
などと言いながら部屋につき明日の身支度を整え、眠る準備を始めた。
少女が入浴している間、少年は少女のハダカをちらっと想像して口をゆるめるが首をぶんぶんぶんっと横に振り正気をとりもどす。
そして窓際にいき、空いっぱいのキレイな星空をながめながら
~この世界にきてなんとか今まで生き抜いてきたけれど、これからどうなってしまうんだろう。死んでしまったら夢から覚めたように普通に暮らしていた家に戻るのか。それとも...~