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国王陛下の道の先  作者: 一子
序章 この世界のかたち
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一般的な魔法師とは



「では、私の話でもしましょうか。」


 先生が子供のような笑顔を浮かべて話し出す。笑顔だが、ここに教師として座っているということは、挫折の話ということか。こういう話だ。俺が聞きたいのは。生きた体験談が知りたいんだ。



「私の実家はしがないパン屋です。貧乏ではありませんが、金があるわけでもない。私は中等学校から奨学金をもらっています。魔法が好きで、魔法師になるのが夢でした。15の時、火属性だとわかり泣きました。魔法師になれるに違いないと。高等学校は迷わず魔法科に進みました。」



 俺は、部屋の中が暖かくなったのを感じた。先生のごつごつした指先に、拳大の火が灯されたようだ。



「まず魔法は自分の体の周りにある、魔力の元である魔素を認識することから始まります。私の場合、高等学校で魔法を学びはじめてから半年くらいで、なんとなく魔素を感じることができました。」


 半年。俺は言葉を失った。認識できるまでに、そんなにかかるのか。長すぎる。



「次に、その魔素を凝縮して、体の一点に集めます。通常手ですね。ここまで更に二年かかりました。」


 二年。



「それから、手先の魔素を何かの形にします。私は攻撃系だと考えていたので、矢をイメージしました。この状態になると魔力と呼び、人の目で見えるようになります。これに三年。」


 三年。



「最後に私の意思を与え、体から放つ練習を三年。」


 またも三年。俺は優しげな微笑みを顔に張り付けていたが、さすがにここは違う表情がいいだろうな。少し眉を寄せて困惑してみせた。先生が、はははと照れたように笑う。



「因みに授業の内容は色々ありました。一番驚いたのが筋力トレーニングです。筋肉をつけることで、体の表面積を増やすと維持できる魔力も増えると言われています。微々たるものです。でも生徒達は必死でした。因みに確信はない、経験則というやつですね。ですが当たっているとは思います。体が細く小さい女性より、背が高く筋肉質な男性の方が平均的に魔力が多いですから。」


 筋肉。これは面白そうだ。俺は、つい唇の端を上げてしまった。高等学校の魔法科は俺が想像していたよりも愉快だ。


「あとは、計算ですかね。当てたい的の大きさや距離に対して、自分の作るべき矢の大きさ、投げる強さ方向、こういったことを計算して実践します。感覚で魔法を使いこなす者もいますが、こういうことを知っていると、いざという時に焦らずにすみます。これが水属性の癒やしの魔法師ならば、医学を学びます。体の構造などの座学と縫う練習などですね。縫う際に内蔵などを傷つけてはよけいひどいことになりますから。だから水属性の魔法師は魔力、頭の良さ、器用さ、度胸などなど要求されるので成功者は希です。」


 俺はいつでも感覚的に魔法を使う。頭で考えたことなど一度もない。だが感覚でできない者にとって、頭で考え身につけることも有効なのだろう。だが俺と比べて、他の魔法師達の労力が凄まじいな。これでは確かに成功するものは少ないだろう。



 先生が口を閉じ、手に集中しはじめた。すると指の先に灯された火が、形を変え矢となる。そして先生の手首が勢いよく振られると、炎の矢は鋭く飛んでいき本棚に突き刺さった。


「はああぁ。申し訳ありません。殿下。窓から外に出して消滅させようと思ったのに。」


 先生は大きな溜め息をついて苦笑すると、本棚に刺さった炎の矢に近づき、ノートで叩いて火を消した。


 矢が刺さった本棚と窓とはかなりの距離がある。今の矢ならば武器としては有効だが、的に当たらなければ意味がない。これでは魔法師の資格は得られないだろう。残念な男だ。


「私は魔力量はそこそこあるんですが、コントロールが皆無で、戦争に行ったら仲間を傷つけるだろうと言われて魔法師は諦めました。高等学校を卒業してからも、魔法庁で四年間、訓練生として粘りましたが、結局は研究員になるしか道はありませんでした。」


 魔法を極めるのになぜ10年もかかるのか。書物で理由を読んでも全く意味がわからなかった。だが、こういうことなんだな。


「私の魔力は危険なので、一応使用は禁じられています。」


 残念そうに呟いて、先生はまた指先に火を灯した。けれど魔素は矢にならず、指から離れた時点でもわもわと煙のようになり消えていった。魔法師の意思を与えられなかった魔素は、魔力にならず、消えていく。触れても何も起こらない。



「八年以上、私は魔法を学びました。私の場合、系統も合っていてこの体たらくです。属性検査では、その人の属性しかわかりません。例えば水属性なら、癒やし系、補助系、攻撃系があり、魔力を集めるまでは同じだけれど、その後の作る形や使い方、飛ばすのか縫うのかなど、は全く違うので、自分とは違う系統の鍛錬を続けても、全くの無駄になってしまうこともあります。」


 先生が魔法師を諦めたのは、まだ数年前ということか。まだ当然未練はあるだろうが、他人に危害を与える危険性があるなら諦めるしかないだろう。



「ほぼ攻撃系の魔法のみの火属性魔法師ならば平均5から7年で戦場に出れるまでになります。勉強量の多い水の癒やし系魔法師は10年以上かかるようです。しかも、魔力はあっても度胸がなくて断念するという場合もあります。」


 人を切って縫う度胸か。確かに医師を志したわけでもないのに突然人体を切って縫えと言われても耐えられない者もいるだろう。



「そしてそんなに頑張っても、魔力量は年とともに低下します。体力と一緒です。女性は20歳前後が、男性は30歳前後が最盛期で、大体の魔法師が10年後くらいに引退します。もちろん個人差は多々あります。」


 笑うしかないな。魔法とはこうも厄介なものか。



「そして魔法の才能は、生まれつきです。後からできることは、ほぼありません。」


 いっそ魔法など忘れて騎士を育てた方がいいのかもしれない。


「先人達が、水属性の子を水場の近くで育てたりと色々試みてみましたが、水がない状況で育った水属性の子達と平均して能力に差がでることはありませんでした。なので、おそらく生まれ持った才能だけが魔力量などを決定するといわれています。ただ体の表面積を増やすことで、維持できる魔力が増える可能性はあります。まあ微々たるものでしょうが。」


 魔法は面白いが、条件が厳しくて正直広げようという気がおきない。こんなものに時間を費やすより、もっと芽が出そうな騎士や、農業などに金を使った方が国のためになりそうだ。



「先生、魔法師よりも騎士を増やした方がいいのではないでしょうか。」


 俺の困惑気味な発言に、先生は大声で笑い出した。


「あはは。殿下、その通りかもしれませんね。」


 先生は笑いながら首を縦に振って一度肯定した。けれどすぐに今度は首を左右に振った。


「でもね、なぜか魔法は人の心を捉えて離さないんですよ。いつの間にか皆魔法に囚われてる。殿下もきっと、いつかわかりますよ。」



 俺は可愛らしい王太子のように、小首を傾げて少し微笑んだ。馬鹿かこいつは。俺はすでに王家という底なし沼に囚われている。それに比べたら魔法なんてちっぽけで、どうでもいいことだ。




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