プロローグ
「ねえ、知ってる?」
「何が?」
昼間の賑やかな喧噪は今は散り散りになってまた別の世界を作ってる。
「うちの高校の軽音楽部の『伝統』」
夕方五時の教室には三人と一人。
「伝統?」
「放課後は決まってティータイムしてる、みたいな?」
遠くに見えるオレンジがゆらゆら、私たちは紅く染まる。
「そうじゃなくて、うちの高校の軽音楽部って毎年卒業式にライブやるらしいんだけどそれが結構不思議らしくてさ。」
「不思議ってどういうこと?」
「神出鬼没なんだって。」
軽音楽と卒業式、青春が薫る。
「卒業ゲリラライブをするのが軽音楽部の伝統らしいんだけど、そういうのは前もって学校側に申請しないといけないんだって。で、数十年前の卒業生が申請したけど通らなかったらしいの。だけどどうしても最後のライブをしたかった先輩たちは‥」
「ゲリラライブ!」
「そう!やったらしいの!それが伝統となって今も引き継がれてるんだって。だから卒業式の日は軽音楽部がどこでライブするのか教師たちは躍起になって探す。でも毎年違う場所でゲリラライブは成功するんだって。」
いつの時代だって学校、教師と生徒たちはわかりあえない部分も存在する。そんな頑固頭で若者の逸りを邪魔する大人に食らわすリズミカルな顔面パンチの噂は三人をはしゃぎたてた。
そんな彼女らを横目で見ていた一人は、可笑しな伝統が育ったものだ、と静かに笑って教室を出て行った。