43 夏の前の出来事
楽しさと嬉しさ
デコボコな連携
油断と勝利
模擬剣を構え突進してくるナイト
「ソウキと戦うのは、これが初めてだ!嬉しいね!」
嬉しそうな声が聞こえたと同時にグンッとブースターを使って瞬間的にスピードアップしてブレたのだった
「俺は嬉しくないけど…なっ!」
剣と刀が打ち合い、楽しいが楽じゃない連撃が始まった
その頃、もう一方では
「おっ?やってるね~」
神谷博士が演習場の観戦モニター室にやって来た。博士はここで休憩をとっていることが多く、暗室に近く快適なので腕を組んで眠っている事もある
そこに生徒やそれにメチャクチャびっくりするのは言うまでもない
皆が一斉に立ち上がり敬礼をする
「「「「「ザッ!」」」」」
「ボクしかいないからね、気を張らなくて良いよ~」
神谷博士がヒラヒラと手を振りながら休むように言ってくる
皆は席に戻るけど若干の緊張を感じる
蒼騎さんの普段の態度から忘れてる?けれど特別教官で皆から尊敬されて、ある意味畏怖の対象でもある。
「2対1かな?いや…それにしては連携がとれていないね~?」
神谷博士が鋭く見抜いた
「その通りであります。この決闘の原因である自分が勝って納めると来栖が言って飛び入り参戦しました。」
私こと"玖条このは"が説明した。
「玖条君か、シルフィードはどうだい?リンドブルムと同じくらい注目しているんだ…と言うよりは君達の全部気になっているんだけどね」
苦笑しつつ神谷博士が本音を漏らした。
「恐悦至極にございます。私共の多くが来栖の設計を元にギアを強くしているが故に自分の強さに些か不甲斐なさを恥じております。」
「いやいや、玖条君は真面目だね~。良いじゃない?良い事はドンドン取り入れていこうよ!理解しようとする事が大事だよ、それに貰ったのは設計図だけだろう?アレにはボクもインスピレーションを色々と貰えてね…楽しくてしかたがないんだ♪」
本当に楽しそうで今にも踊り出しそうだ。マニギアードの工夫は常にされてきたが凝り固まったアイデアも多く退屈していたらしい
設計図を反映するのは設計部隊であり、実現できるような仕組みまで添えられている場合に作れないとなると機技士の沽券に関わるし気持ち的にも奮い立つ志もあるのでしょう。
ジッ~とモニターを凝視しクロノスとシュバルエルセイバーの剣劇を見守っている
クロノス…つまり蒼騎さんは刀を使って刀術と籠手を扱って紙一重で避けていくが当たれば不利になる
一方のシュバルエルセイバーことミカエルさんは剣と盾を使った戦法
堅実に守る分、一手遅れてしまう
二機とも一長一短の戦術を使っている
「何故あんな危ない戦法を取るの?」
「蒼騎君にしては珍しいよねぇ…」
雪と千花は"クロノス"と言う事を忘れているわけではないけれど、不思議に感じてはいるようだ
「ウンウン♪」
神谷博士は理解しているようだ
「それはね、リンドブルムじゃないと言う事もあるけれど機体を作り直しているから色々とクロノスのデータを活かす為にギリギリの戦闘をしているんですよ」
私が説明すると違う二人組が興奮していた
「リンドブルムがまた強くなるのか!?っつ~うかギリギリとか余裕だな?」
「本人も粗削りなところが多いからな~とか言ってたし、手直しはしてたけどまさか『新型』を作ってたとはな~」
空と陸の掛け合いは勝負も含めた楽しげな物になっていた。
ギリギリは、わざとではなく勘違いで本気だと思われていなかった。
その時、『新型』の一言が後方で観戦していた神谷博士の表情を変化させた事に気付いた者はいなかった。
「本来ならまだ早いが…潮時か」
そして呟かれた一言は空間に消え、剣撃の続くディスプレイに視線が戻っていた。
そしてディスプレイに映る3機のギアが入り乱れ戦闘を行っていた。
クロノスは2機を上手く捌いていたが、次第に連携が取れてきていた。
「僕等が単体で挑んでもソウキに勝てない、協力しよう!」
「気は乗らないが、その通りだ。師匠を倒すためにつまらないプライドなど捨てよう!」
形振り構わないスタイルに変化した…様に見せた連携
急造のチームプレイによるギア1機を囮にし追撃する。
守りに優れたシュバルエルセイバーが率先して囮をかってでるとシュバルツァーケルベロスが得意の接近戦を仕掛けるのだが…
「クッ…二頭をヤられて出力が出ない!」
えぇ、勿論ですが地獄の《ベ》番犬特有の三頭のうちエネルギーラインの二頭を斬ってフルパワーは出せないようにしておいたが…
「思ってたより、やっぱ強ぇわクロノスじゃキツイ」
『クロノスの性能は1年平均で設計されています。それでも平均では次席に上がる性能を誇っております。』
ノワールが言っている事は正しい
しかも入学して3ヶ月程でここまで進むのは異例の出来事で噂になっているらしい
「でも学年平均がレベル高いからな~『恐らくリンドブルムの影響かと』」
ノワールめ…被せて来るなんて益々人間みたいになってきたな…
お父さんは嬉し…『来ます』
余裕ぶっこいて冗談を思ってたら危なかった…いや
「とった!」
シュバルツァーケルベロスの潰した右の頭に刀を抑え込まれていた。
エネルギーを送れなくなっただけでこういう使い方は想定していなかった
「マジか」
そこで刀を離すか一瞬の躊躇をシュバルエルセイバーが見逃さなかった。
「絶対に勝つ!これで止めだ!」
盾を水平に構えると連射と威力を持ち合わせたガトリングガンの銃口が見えた。
回転と同時に飛び来る銃弾の雨。
「クソっ!」
刀を捨て避けきれたハズだったが直後に著しく機動性が落ちてしまった。
「足やられたか…」
シュバルツァーケルベロス側に飛ばず追撃を恐れ、結果として片足をやられてしまった。
2機のギアが近付いてくる
「フッフッフ…」
「ウォォォォオ!」
拡声器から駄々漏れで喜んでいるっぽい
「「勝った!」」
共闘したことによって絆が生まれた二人はギア同士で向かい合って喜んでいた
「詰めが甘い」
腕に仕込んでいた模擬専用の仕込みナイフ(ペンキたっぷり)を飛ばして搭乗席に直撃させた。
「「…」」
この一手により決闘が終了して、勝ちを確信していた二人の絶望っぷりが映し出された
「最後に油断してくれて助かった…イェ~イ俺の勝ち~」
モニター室には神谷博士の大笑いが響いていた
「アッハッハッハッハ…嘘だろ?!あそこで諦めないで、ましてや勝つなんて流石だね!」
実際の戦場でも隙を見せたら死ぬといい聞かせられている。油断した方が悪い
「勝った御褒美としてコレをあげるよ!」
神谷博士が端末を操作してあるデータが俺に送られてきたのだった。
8月、夏の配属前の出来事である
「全くあの人は…蒼騎君に甘いんだから」
人知れず、もう一人が銀色の髪を指に絡ませ楽しそうに観戦していたのだった
読んでいただきましてありがとうございます。
遅いですが楽しんでいただけたら幸いです。
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