閑話休題 9 思いきった決断
ガレージ
初心
斬新な発想
ここはガレージ
シルフィードに乗り込みモニター類の点検をしています。オルニウムをELディスプレイのフィルムに混ぜ込むと画質が変化するので、調節をしないと目が疲れてしまうというアドバイスをいただきました
そのアドバイスをしてくれる人は勿論ですが、蒼騎さんです
その蒼騎さん、今はモニターをじっと見つめて設計の思案中…かれこれ3時間は資料を比べて書き直しを繰り返している
リンドブルムを今の姿にする時に、この表情を見てる。その時画面から上を向き
「ぐはぁ~…疲れた…」
内心苦笑してしまいます。
蒼騎さんの集中力が物凄いのは知っていますが…集中する時間の度合いが違い、とてつもなく長時間集中力が途切れない
反動に途切れると脱力感がスゴいようでシートの上でグニャグニャになっている、普段から気を抜かない蒼騎さんは私の前だけでは気を許していてくれる証拠でとても嬉しい
「完成しそうですか?」
「う~ん…何か足りない気がするけど、それが分からない」
いつもの思い切りの良い蒼騎さんが足踏みしている。これも意外と珍しい
蒼騎さん曰く『俺の戦績が良いのは思い切りが良いからってだけで、メチャクチャ強い!って訳じゃないよ』が口癖だったりする
それでも私は知っている事があります
コツを掴むのが絶妙に巧いという事を…思い切りの良さが限界を理解させて、ギリギリ限界寸前まで能力を使う事が出来ているんだと思う…たまに限界越えでマニギアードが動かなくなるのは御愛嬌
私のシルフィードはとても高性能で扱いきれていない。蒼騎さんのように限界を前提として使用の幅が広く作られている
「今までの改造を組み込んでいるんですか?」
「今までの改良型…って言うより完全に新機構かな~」
正直驚いてしまう
シルフィード、アルム・ティグリス、ネムス・ガーランドと『実験的』とは言っていたけど色々と高機能で強力な機体を設計している。
『新機構』言うだけなら簡単でも、いざ作ろうとして行き詰まってしまっている状態。
「少し出力が落ちても良いから『常時開放型』にしたいんだけど…」
装甲が変化したリミッターが解放された状態、高機動と引き換えにナノマシンで強化されている人体でも大きな影響が出るようで…
「反動が大きすぎるんだよな~…」
シルフィードに乗りこなせてはいないけれども、制御出来ないと思った事は一度もない。乗り手に合わせてギアが設定されているけど、リンドブルムのアストルムシステムは博士が作った新システムで恐らく使うとしても3年生使用を前提とした作りのはず…
運良く高ポイントを獲得し、偶然にも乗り心地を優先しカスタマイズでシートを改造したら未知の興味を惹く選択肢が出て来る。
マニギアードに触れて半年も経っていない私達には…特に蒼騎さんは試さずにはいられない…
「はぁ~…よし!初心に返ろう」
蒼騎さんが画面を操作するとリンドブルムが沈んでいく
「どこかで練習するんですか?」
私がそう言うと蒼騎さんはニヤリとして一緒にリフトを見続けた
私は呆気にとられた
蒼騎さんの『初心に返る』とは最初のギアに戻すという意味だった。スペアとして整備を続けていた事に驚き、性能も以前の少しだけ良くなっていた。
「リンドブルムのあまりパーツを寄せ集めて再利用した『クロノス』だ」
真っ白な機体
性能的には今の1年生とほぼ同じで実習戦闘にもエントリーが出来る。リンドブルムを扱うのは1年生では技術が足りなく慣れてないのでオーバースペックもいい所だと思う
「じゃぁ試運転してくる!」
ささっと搭乗して運ばれていった
こういう時の蒼騎さんはとても子供っぽい。思慮深い反面、突拍子もない事を思い付き即行動する場合もある。
そんな事を思っている時に着信があり画面が光った
神谷博士だった、蒼騎さんに用があるのだろう
ちなみに着信には本人がいない場合はパートナーが出なくてはいけない。理由は伝達能力の向上…及び情報の共有だ
極秘事項を除いて
着信に応答する
「やぁ~玖条君、彼はいるかな?」
「来栖蒼騎は先程、代替機体の試運転に出発してしまいました」
報告では同僚の名前だけで告げる
『さん』や『し』等をつけると数字や余計な情報が入るのを防ぐ為だ
神谷博士はとても気さくに話しかけてくれてはいるけれども、私達の特別上官であり顧問である
「そうか…蒼騎君みたいに、ちょっと砕けた喋りをしてもいいんだよ?」
正直無茶な要求に聞こえる
「上官に対してのマナーと教えられておりますので…」
「まぁいいか、ところでシルフィードは順調かい?」
畏れ多い…えっ?シルフィード?
「いたって問題はありませんが…何か問題が見つかりましたか?」
蒼騎さんの設計を参考にしているため、リンドブルムのように『飛行ユニット禁止』のような制約も安全面の問題で少なからずある
「いや~彼の設計はユニークでね、設計整備班が賑わっているんだよ。固定概念にとらわれない自由な発想でマニギアードをカスタマイズする新入生がいるってね。中でもシルフィードは格が違うと言える。」
私は話を聞いただけでゾクッとし、蒼騎さんの口癖を思い出す。
『自分で限界値まで動けるか?が分からなきゃ、使いこなすなんて不可能だよ』
普通は理性のリミッターが掛かっているけど蒼騎さんの場合は野性がリミッターだ
そして可動の限界を越えて負けていた。ギアは守護だけでなく破壊も兼ねている兵器だ。厳しくなればなるほど限界を超えやすいと言える。
「空君と陸君の機体を2で割ってシルバーウィッチを蒼騎君が自分なりに解釈してシルフィードに落とし込んだと言える!汎用性の高さは2年生のギアすら超えて3年生の域にある!」
博士は好奇心が押さえられないようで色々と教えていただけてシルフィードの凄さを改めて知る。
クスッと笑ってしまう。
「そんなに凄いギアになっていたんですね…教えていただき、ありがとうございました。」
「で…だ。今何か作ってたりするのかな?パートナーだったら傍で見ているし助言を求められたりするのかな?」
連絡の理由を理解した。興味を押さえきれなく気になって、つい連絡したと言うことなのだ。
私は先程の話を博士にして満足されたようで上機嫌で通信を切った
「私もがんばらなくちゃ…」
リンドブルムに並ぶ事を新たに目標を決めた。
読んでいただきありがとうございました
よろしくお願いいたします。