36 決意
ぺたぺた
このはの気持ち
自惚れ
ぺたぺたと顔全体を触られている夢で目が覚めた
実際は夢じゃなかった
このはの顔が目の前にあり、固まってしまった。ぺたぺたと熱を計るような、心配してくれてるような感じの触れかた
目が覚めた事に気付いていない…
「このは…おはよう…何してるの?」
声に驚きビクッ!と震えた
「おっおはようございます!熱があったら大変だなと思って…彼女の特権を使い…」
咄嗟に言い訳してるけどコレはアレだな、ただ顔に触りたかったってヤツだな。心で苦笑しつつも
「心配してくれて、ありがとう」
もじもじ気まずそうに逃げて行った
このはのレアな姿が見れてちょっと楽しかった
今日は最終日で午後から帰る
朝食バイキング…今日で最後か…
しみじみと食っていると
「朝食があるって良いよな…」
「僕ら…自炊だもんね…」
もっとしみじみと食ってる奴ら…空と陸が横にいた
このはの朝食が食べれてる幸せな俺の火種は閉まっておこう、このはに俺の朝食を作る!と向きの違う決意と共に…
最後は旅館の雰囲気と温泉を楽しんだ
貸し切り露天風呂、洞窟じゃないジャングル風と言う変な風呂だったけど
まぁ楽しめたので良かった
旅館と基地は地下で直通だし迷うこともない
昼はバイキング…本当に最後のバイキング
カレーとビーフシチューを噛み締める。腹いっぱい食えないと言うのが、また辛い
ギアで帰るので食い過ぎると単純に吐く、別に大丈夫な人は問題ないけど…
シートで吐いた時の掃除の事を考えるとガツガツ食うヤツはいなかった
俺は肉だけはガツガツ食ってたけど
基地に戻ると神坂さん達が見送りをしてくれた
「迷惑かけて、申し訳なかった」
「そんな!学生ごときが、でしゃばりすみませんでした」
気に病んでくれてたみたいだけど、俺もやり過ぎていたし…御互い様で決着がついた
「是非とも、この基地に配属されてくれよ~」
最後は勧誘まで忘れてなかった
帰りは同じ道なので早かった
強襲の演習もなく、全速力で帰らせてもらった
俺だけ
刀を持っていると若干動きが違うけど誰も追い付いて来られなかった…と思ったら
このはだけ、どうにかついて来れたようだった
それはもう…必死に着いてきたと言えるだろう
このはの顔つきが、あの戦闘以来変わった気がする
このははギアがガレージに運搬され次第カスタマイズを始めていた
多分、『貴女はダメです。オルニウム化が足りていない』と言う言葉と共に出撃できなかったのが原因だと思う
このはと俺が逆だったとして、言われても同じようにしただろう
「蒼騎さん…アドバイスをください」
意志の宿る心からの言葉だった
強くしてください、貴方の隣にいたい…そう聞こえた気がした
「もっと強くなろう」
二人で頷いた
それから1週間は付きっきりだった
このはが自分のイメージするシルフィードに近付ける為にデザインやスタイル、動きを再現できるように描いていった
実習戦闘も再開された
このはのギアは動きが、どんどん変わっていった。流れるように移動していく、舞うように斬り倒されていく敵
実習戦闘は自身の技術を高める場でもあり、自分がカスタマイズするべき場所を浮き上がらせる
自分の体を作るようにギアを作り上げていく。このはが変わるように、シルフィードが変わっていった
アストルムシステムを組み込んでいるけど封印されている、大部分が換装されている
スピード特化になっていた
今回の実習戦闘は希望制が導入された
希望した者は優先的に実習戦闘に選ばれた、希望しなくても勝手に選ばれるけど…実習戦闘の回数は減る
このはが希望制を申し込んだのを聞いて納得した。『強くなる』を実践している
数をこなす、は圧倒的な対処法を勉強できる。一度経験した物は改善策を上げられる
「蒼騎さん!勝てました!」
「すごかったよ、もう勝てるヤツはいないんじゃないかな?」
このはが喜んでいた、実際は強すぎると言える。失礼な言い方をすると格下と戦っても技術は上がりにくい
破れかぶれの戦法を学ぶ場合はちょうどいいけど…自爆とか相討ちとか
俺も実習戦闘の希望を出した
次の日に決まったのでワクワクしてた
「なんで俺の時だけ機士団が入ってるんだよ!3人掛かりとか卑怯だろ!」
マジ叫びをした。ふざけてる
じゃぁいきますか!と思ったら3方向からギアが走ってきた
「こんにちは、今回も《・・・》よろしくね」
秘書っぽい人の声がした
ふざけんな!なんでバージョンアップしてんだよ!
奮闘したよ…負けたけどな!
なんとか1機だけは倒したけど、2機目は相討ち出来なかった…
ふっ、俺もまだまだだぜ
まぁ冗談はここまでとして、そこまで自惚れていないさ。俺はそんなに強くないし
まず射撃は苦手だし動いていないヤツに当てるのが精一杯、近いのだったらなんとかなるけど
倒れたリンドブルムを覗き込むギア
「機士団に入る気になった?」
「遠征に行った時に『機士団の方ですね』って言われたけど…勝手に入れられてるんじゃ?」
無線機から聞こえる声は笑っていた
「いいえ、本人から了承を得ない限りそう言う事は許されないわ。自主性がないじゃない?」
自主性、大事なことらしい
ある意味諦めた
「面倒じゃない役職なら機士団に入っても良いです」
「ありがとう、団長に伝えておくわね」
ルンルンとギアが帰っていった
きっと、いつも団長に無茶な事を言われて疲れてるんだろうな…と同情した
ポイントは1000P貰えてた
終わって作戦室に戻ると
「お疲れ…」
「災難だったね…」
もうね…あれ見てげっそりしている皆
「はっはっは、あれリンチ過ぎるわ…」
くっそぉ…1機に3機が本気出すとかイジメだよね、すっごい哀れんだ目で俺は見られてる
マジで疲れた顔してるんだろうと力なく笑った、避けるのに必死で辛かった
でも…いい経験が出来たと思っていたのも確かだった
頭に来てアレに立ち向かって行った俺がバカだった。今ではそう思える
「思いっきり逃げれば良かった…」
ある意味、頭から水をぶっかけられた気分だった。多分アノ戦闘で自惚れていたんだと思う
雑魚に偶然勝ったから大丈夫だろう
俺の怠慢だ…次は死ぬ
機士団と戦ってそう思った
読んでいただきありがとうございました