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きままに読み流し短編集

声を封された勇者の話

作者: 菊華 伴

 勇者召還で呼ばれた人間は、口を布で覆った少年だった。

 名前は【イチ】と文字で示した。

 少年曰く、話すことが出来ない、との事だった。


「風邪引いて声が出ない?」

 神官の言葉に、イチ少年は頷いた。何度もげほげほと苦しそうに咳をする少年に、神官はすぐさま治療しようと胸元と喉に手を当て、治癒の呪文を唱える。すると、直ぐに少年の咳は収まったが、少年は話すことが全く出来なかった。

『何故、声が出ないんだ?』

 イチ少年は困惑した顔で紙に書き示す。神官はイチ少年に口を開かせ、喉の奥を見る。と、そこにあったのは、謎の文様だった。

「理由は全く解らないが、君の喉に強力な呪いがかけられている。……私程度の神官じゃとけないね」

『じゃあ、どうしろと?』

 イチ少年が愕然とした顔で(筆記で)問う。神官はこめかみを揉みながら考え、もっと上の神官に助けてもらう事にしたが、それでも駄目だった。

「一番法力が強い司祭様が、隣の国にいらっしゃるからその人を頼ってみますか……」

 召還した神官はイチ少年の保護者として、とりあえず呪いを解くために隣の国へ一緒に行く事になった。


 会話が不便という事で、イチは呪いが解けるまでテレパシーの魔法をつけてもらった。これでのんびり会話しつつ2人は馬車に揺られていた。

『ところで、神官様』

「ハモリでいいですよ、イチ様」

 神官・ハモリの言葉にイチは首を振る。

『おれはまだ子どもだし、イチでいい。……っとそれより、俺、家に帰れますか?』

「帰宅できるよう、魔方陣に力を貯めていますよ」

 ハモリの言葉に、イチは安堵したような表情になる。彼は麦の収穫までには帰りたい、と言っていた。両親や幼い兄弟達も心配だし、麦のことも心配なのだとか。イチは元々農家なのだそうな。

 彼は畑で育てられている麦を見つめ、ため息を吐く。ハモリは早く家に返してあげたい、と祈るのだった。


 隣の国に行くのになぜかやたら時間が掛かる。

 魔物に襲われ、御者にボイコットされた挙句襲撃され、道に迷い、気がついたら馬車で一週間のところが一ヶ月かかってしまった。でも、どうにかたどり着く事が出来た。

 隣の国の司祭様は、何故か2人を自分から出迎えてくれた。何故だろうと思っていると、司祭様本人から思いもよらぬ言葉が出たからだ。

「その方の声には破魔の力があるようで、魔王はそれを恐れて封じた模様です」

「え?!」

『んなアホな』

 とんでもない理由にハモリもイチもびっくりしてしまう。例の御者も操られていたらしい。ともかく、その呪いを解いてもらうと、イチは心から礼を述べた。「ありがとうございます」と。


 その刹那、聞いた女性陣が腰砕けになった。

 それだけイケボだった。

 そして一番びびってたのは本人だった。


「この声で失神とかなかったし、普通の声だと思ったんだけど……」

「どうやらこの世界では貴方の声に何か宿って、心から『良いことば』を言うと効果を発揮するみたいですね」

 とまどうイチの傍らで、冷静に観察するハモリ。因みに司祭様は男性だったのにたらりと鼻血をたらして腰砕けになっていた。

(い、いい! イケボ少年来たー!! これってどっかで聞いた事のある声だけどく~る~!)

 ……中身は声萌えする乙女じゃなんだろうか、この人。

「勇者イチよ! その声で魔王を清めてくるのです!!」

 司祭様は流れる鼻血もそのままに、イチに使命を下すのだった。様になっているのは司祭様もとりあえずイケメンだからだと思いたい。

『……この声で魔王に話しかければいいのかな?』

「そうでしょうねぇ。私もお供しましょう」

 イチは声を出していちいち倒れられても困るから、とテレパシーを使って問いかけ、ハモリがやれやれと言った様子で頷いた。

『ってハモリのおっさん戦えたっけ?』

「若い頃は冒険者を少々しておりましたからな。剣も少々」


 数週間後、魔王が勇者の『声』で鼻血を吹きながら「はぁ~ん」とメロメロとなり浄化され、その後1年半かかって浄化が終わる頃には色んな女性達がイチの声のとりことなっていた。だが、本人はというと……。

(早く帰りたい……)

 頭の中は故郷と麦の事で一杯なのだった。


(終)


よんでいただきありがとうございます。

たまにはオーソドックスに巷ではやっているっぽいネタも。

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