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『陛下!どうなさるおつもりですか!』


『どうもこうも、要求は飲まねばなるまい。我が国を守るためにはな』


『しかし、第一王女様はすでに嫁がれておりますし、第二王女様、第三王女様には酷なお話です。それとも、別な娘をそのように仕立て上げますか?』


『いや……もう1人いるだろう。我が血を引く忌々しい子どもが』


『……っ!ですが、あのお方はどこにいらっしゃるのか、そもそも生きていらっしゃるのかさえ分からないではないですか!』


『探せ。死んでいれば似たモノを用意せよ』


『では……』


『第四王女を隣国へ贄として嫁がせよ』







ジンの元へ来てから1ヶ月、エリシアは森での生活にも慣れてきた。

何か手伝えることがあれば手伝いたいと訴えたエリシアにジンは薬草の手入れの仕方を教え、それ以来エリシアはジンについてまわって彼が育てている薬草の管理について学んでいる。

そしてその合間に魔法の扱い方も学び、エリシアの魔法は随分と上達した。


今日はベアトリスから注文を受けていた薬草を届けに行く日だ。ベアトリスは定期的にジンに薬草を注文し、それを届けるのはエリシアの役目になっていた。


「ジン様、いってきます」


「ああ」


家を出て、森を真っ直ぐに歩いて行く。森を出るまでゆっくり歩いても5分もかからない。


だがエリシアが初めてこの森に足を踏み入れた時はだいぶ時間がかかった。

疑問に思ってジンに尋ねてみたら、それは侵入者が中心部まで辿りつけないようにするための魔法のせいだったらしい。

エリシアが最終的にはきちんと辿り着けたのは、森の動物たちの案内があったからだと聞いた時は、エリシアは動物たちに感謝してもしきれなかった。もし案内がなければエリシアは延々と森を歩き続けていつか力尽きていただろう。


森を抜けてから、少し街中を歩く。

以前、エリシアは自分の髪と目を見た街の人がどんな反応をするか怯えていたが、実際は拍子抜けするほど何も言われなかった。

そのことについてもジンに尋ねると、"色彩"を気にするのは頭の古い貴族たちだけで、街の人たちは自分に害がないなら大して気にしないらしい。

エリシアはそれだけで街が大好きになった。



「ベアトリスさん、こんにちは」


辿り着いた店の扉をあけ、声をかける。


「あら~エリシアちゃん。いらっしゃい~」


「頼まれていた薬草を持ってきました」


「まぁ~。いつもありがとうね~。あ、そうだわ~、昨日新しい紅茶ができたの~。飲んでみない~?」


「いただきます」


ベアトリスはにこにこしながら「ちょっと待っててね~」と言うと、エリシアから受け取った薬草を持って裏の部屋へ入っていった。

エリシアはカウンターの前にある椅子に座って待っていると、程なくしてベアトリスが淹れた紅茶を持って戻ってきた。甘い香りが僅かに漂ってくる。


「はい、飲んでみて~?」


ベアトリスが勧めてくるまま、エリシアは紅茶に口をつけた。

紅茶はさっぱりとした風味をしているがどこか独特な味をしていて、喉を通るときに爽やかな甘みを残していった。


「どう~?」


「なんか……不思議な感じです。爽やかなのに最後に甘くて。とても美味しいです」


「まぁ~!よかったわぁ~!じゃあこれあげるから、ジンと一緒にでも飲んでちょうだい~」


ベアトリスはそう言っていたずらっ子のように微笑むと、この紅茶も同じものが入っているであろう小さな入れ物をエリシアに渡した。

ジンと一緒に、というのは多分わざと言っているのだろう。ジンは複雑に香りのついた飲み物は好まないのを知っていて、あえて飲ませたがっているのだ。

エリシアもベアトリスのそのいたずら心に微笑んだ。そして、紅茶を飲み終えてからお礼を言って店を出た。


店を出てから、来た道を辿るように歩いて森へ向かう。

エリシアはこの1ヶ月でだいぶ魔法は上達したとはいえ、転移の魔法を使うことはまだ許されていなかった。転移の魔法はなかなか難しく、少しでも魔法が乱れると全然違う場所へ飛ばされてしまうらしい。エリシアではまだ扱いきれないという判断だろう。

それと、エリシアの健康のためにも歩かせた方がいいというのもあるのかもしれない。エリシアは王宮にいたころはほとんど部屋から出たことがなかったため、あまり体力がないのだ。それをつけさせるのも目的だろう。


しばらく歩いていると、ふいに3人の男がエリシアの前に現れた。

エリシアは何となく嫌な予感がして一歩後退った。


「お前がエリシアか?」


その内の1人がエリシアに尋ねてきたが、エリシアが黙ったまま答えないでいると、ちっと舌打ちをして後ろにいる男たちを振り返った。


「合ってるか?」


「黒髪赤目なんて早々いるわけない。こいつだろう」


「まぁ違ったらまた探せばいいか」


男たちは不穏な会話を終えると、1番前にいた男がエリシアに手を伸ばしてきた。







ジンは嫌な胸騒ぎがしてふと顔をあげた。

カフスにかけた魔法のおかげで、ジンはエリシアに迫った危機を感じ取ることができる。

薬草をまとめていた手を一旦止め、意識を集中させた。


そのまま静かに耳を済ませていると、『ジン様!』と呼ぶエリシアの声が聞こえてきて──ジンはすぐさま転移の魔法を発動させた。



はたしてジン様は間に合うのか!




ここまで読んでいただきありがとうございました。

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