第07話:やっぱり穴掘りから
三体の人形が見守る中、いきなりダンジョンを掘り始めるシェリル。
そこで発生する轟音は、ソラの結界に閉じ込められて外には漏れない。
ガシッガシッガシッガシッガシッガシッガシッガシッガシッガシッ。
ズッズッズッズッズッズッズッズッズッズッ。
ズザッザッザッザッーッ!
――やっぱり御主人様は凄いわね。
シェリルの驚異的なパワーを改めて見せつけられて、ソラは素直に感嘆する。
それと同時に圧倒的な力に対して根源的な恐怖も感じる。
「あれ見たら、勇者だって逃げ出しちゃうよね」とソラが同僚に話しかける。
「ボク、ちょっと怖い」と顔色を蒼くしているクロ。
「ワタシも背筋が寒いですわ」そして血の気を失っているシロ。
どうやら同僚二体も同じ思いだったようだ。
とはいえ、その力が自分たちに向かうことはありえない。
気を取り直して、主の作業に意識を向ける人形たち。
そこに「はい、土塊どっか持っていってぇ!」と声がかかる。
シェリルの指示を受けて、打ち合わせ通りにソラとクロが担当作業を始める。
「クロ、先に圧縮しちゃって。土がポロポロこぼれるから」と仕切るソラ。
「はーい、圧縮……、じゃあソラ、どっかにやって」クロが返す。
「はいはい、転送っと」今度はソラの仕事。
「ワタシは応援してますわ、頑張れ―、頑張れ―」シロが後ろで手を振っている。
「シロ、うるさいわよ」ソラが半目になってシロに言う。
そこでは目を疑うような光景が繰り広げられている。
ガシッガシッガシッガシッガシッガシッガシッガシッガシッガシッ。
宙を飛ぶ十本の剣先スコップが、柄が見えなくなるまで土壁に突き刺さる。
ズッズッズッズッズッズッズッズッズッズッ。
見えないスコップが土壁の中で横にずれていく。
ズザッザッザッザッーッ!
スコップに押さえられた巨大な土の塊が、シェリルの前まで引き摺り出される。
高さだけでも彼女の身長の数倍。その全てが土。どれ程の重さがあるだろう。
その土塊をクロが圧縮。ソラが適当な場所に送る。シロは応援。
シェリルはその場から動かずにズンズンと掘り進める。
頑強であるはずの山肌を、まるでスプーンでプリンを掬うように。
――御主人様だと、ただの剣先スコップをあそこまで強化できるんだねぇ。
それを見て、ソラは思いついたことを同僚に訊いてみる。
「あのスコップを御主人様の追加装備にしたらどうかしらね」
「ドラゴンなんか一瞬でミンチになっちゃうよ」土を圧縮しながらクロ。
「そんな場面あまり見たくありませんわ」手を振って応援中のシロ。
「凶悪さが良い感じよね。魔族の少女の周りを縦横無尽に飛び交うスコップ十本」
ソラはシェリルの姿を改めて見て思う、――カッコいいじゃん。
「ボクの趣味じゃない」とクロがソラの言葉を否定する。
「ワタシはもっと優雅なイメージの武器が良いと思いますわ」シロも反対意見だ。
「それってどんなのよ」土の塊を転送しながらソラがシロに問う。
「天使の羽が舞い踊る中、見えない刃でシパッシパッと切り裂くような……」
「天使の羽って……、それってシロの背中に生えているからでしょ」
「そうですわ。いいじゃないですか。ソラの感覚は変わっていますわ」
そこに「ほら、よそ見しちゃだめだよ!」とシェリルから注意が入る。
「はいはい、御主人様」「はい、マスター」「わかったよ、御主人」
三体の人形はそれぞれの言い方で返事をする。
ここはヤトカイと呼ばれる町の近く。小高い丘の麓にある垂直に近い斜面。
そこにダンジョンの入口を作ると決めた魔族の少女シェリル。
道具は彼女が操る鋼糸に繋がれた剣先スコップが十本。
出来上がるのは高さ5m程のかまぼこ型の穴。
もう、これは作業ではなく大規模工事と呼ぶべきなのだが……。
ひとりと三体の気の抜けた会話のせいで、緊張感がまるでなかった。
そんな気楽な雰囲気の中。
最初は山肌に空いた大きな窪みだった。
その奥行きが深くなっていき、いつしか通路と呼べるほど掘り進められていく。
と同時に外の光が届かなくなったので、シロが光魔法で通路内を明るく照らす。
右に左に曲がりながら徐々に形作られるダンジョン通路。
そして途中に休憩を入れながら作業が続けられ、もう午後を少し過ぎた時間。
シェリルが三体の人形に向かって大きな声で宣言する。
「よーし! この先を最初の部屋にするよ。ここからは広げていくからね」
その声を聞いたシロが、後ろを振り返りながら感想を言う。
「マスターも考えていますわね。ここまでの通路、グネグネと曲げてますわ」
「それは考えてじゃなくて本能じゃないの? 御主人様はあんまり考えないわよ」
「ソラは結構酷いことを言う」とソラの毒舌に口をはさむクロ。
「どちらにせよダンジョンらしい通路ですわ。良い感じ」とシロが話をまとめる。
ダンジョンを掘り始めておよそ半日。
シェリルによって、早くも最初の通路となる部分の掘削が終了した。
思いのほか三体の人形による評価は悪くない。
――ダンジョン術なんかなくてもダンジョンは作れるんだ……。
そんな風にソラは考えていたが、それはシェリルだからこその話である。
第七話お読みいただき、ありがとうございました。
※11月4日 後書き欄を修正