SUN-SET
日は沈みます。
森に降り立ったタツォルスとスレイプニルは、匂いを辿って馬車を探し始めた。
この森には小さな泉があり、森をくぐり抜ける者はそこで休憩することが多かった。
だからそこで馬車が休憩していたなら、絶好の機会、彼女が『勇者の剣』を手にすることが出来る、最後のチャンスなのである。
「もうすぐそこね・・・よし、速攻で決めよう」
彼女は魔導書を取り出し、備える。
泉の畔に、例の馬車がいた。
「(よし、ここだ!!)」
一旦スレイプニルから降り、神経を集中させる。
タツォルスが詠唱魔法中最大級の炎魔法『ブフナグィア』を発動させると、辺りの温度が上昇してしまうほどの強烈な高熱を帯びた炎の塊が彼女の掌の中に踊り始めた。
「(不意打ちでぶつける、勇者の剣は頑丈だから、この程度の炎では駄目にならないはず!!)」
彼女の掌の中の太陽が、馬車に向けて放たれる。
「浄化されよ、『ブフナグィア』・・・あ、れ?」
彼女は突如平衡感覚を失い、地面に倒れこんだ。
「な、え、何?何??」
タツォルスの目の前に、足がある。
自身の足首がある。
「は!?はいぃ!?」
タツォルスは両足首を失ったせいで、転倒してしまったのだ。
だが、一体なぜ?
誰かだとしても、いつの間に?
「私だ、術者よ」
彼女ははっとなった。
そして考えるよりも先に、命令を出した。
「スレイプニル、逃げて!!」
召喚獣たる彼は忠実にその命令を守り、天高く飛び去ってゆく。
「迂闊であったな、術者よ。・・・身体を粉砕されようとも、このコータウニーには未だ鋼の心がある」
彼は段平を地面に刺し、杖代わりにしてここまで走ってきた。
そしてバルノザと彼女が戦っている間に、自身はここに潜んでいたのである。
「しかし下僕を道連れにすまいとする王の器に、敵ながら敬意を表するぞ。・・・あっぱれだ」
タツォルスは・・・笑った。
気でも狂ったか。
それとも、やけになったのか。
「あー、やられた。こんなのって・・・ないよ」
転倒した拍子に真上へ放たれてしまった太陽は、そのまま直下の二人とその周囲を飲み込んで大爆発を引き起こした。
『僧侶のコータウニー』『向日葵のタツォルス』が死にました。