マジシャンズ・ストーム
前回の続きです。
『向日葵のタツォルス』が召喚したその生物の名は、『スレイプニル』といった。
かつてどこぞの神の王が乗っていた軍馬だそうだが、定かではない。
しかしこの恐るべき怪物を、タツォルスはやすやすと操っていた。
「この速度なら、もう追いつくかな。・・・ここから先に森があるから、一旦降下して」
彼女が話しかけるようにして直接命令すると、スレイプニルはその言葉を理解しているかのように従い、地面に向かって降下し始めた。
が、彼は突然空中で急ブレーキをかけて停止し、高速で以て後ろへなおった。
「ど、どうしたのスレイプニル!?」
何事かとタツォルスは身構えた。
老人が浮かんでいた。
小さな竜巻に乗って、ホバリングしているのだ。
「んっふっふっ、カワイイお嬢ちゃん。・・・そんなに急いで、何処へ?」
彼の手には、腐りかけの木で作られた杖が。
この老人、魔法使いだ。
「風を吹かすことで有名な、『神風のバルノザ』だ。お嬢ちゃんの目的は分かっておる、故にワシはここで待ち構えていたのだ!」
バルノザの足元の竜巻はそこで大きく膨れ上がり、まるでサイクロンのようなとんでもない規模になって暴れ始めた。
「ぐっ・・・!」
「『ノフトメノノ』!荒ぶる神の息を食らえい!!」
スレイプニルとタツォルスは、縦横無尽に動き回る竜巻になすすべもなく飲まれて消えていった・・・
「んっふっふっ、チョロいの。まあ、さすがに大人気なかったか」
彼は眼下に広がる風の渦を眺めていた。
すると、何やらその中で動き回っているものがある。
「ん?なんだ?」
風に巻き上げられた木か何かだろうか。
そうバルノザは思っていた。
スレイプニルが風を切り裂き、渦に乗ってここまで駆け上がってきたのだということに、気づくまでは。
「ーーー頂上だ!もうちょっと、もうちょっと頑張れ、スレイプニル!」
バルノザは、一瞬呆然となった。
神風が、これほど容易く破られるだと。
その一瞬の間に、バルノザは怪物に轢き飛ばされた。
「がっ!!」
さらに間もなく、投げ出されたバルノザの体から炎が吹き出し、瞬く間に彼を包み込む。
タツォルスの魔法が、追い打ちをかけたのである。
哀れ『神風のバルノザ』は、何が何だかよくわからないうちに死んでしまったのだった。
「よく頑張ったね、スレイプニル」
彼女のその声に反応して、スレイプニルは一声雄々しく嘶いた。
『神風のバルノザ』が死にました。