ウィッチ・ライダー
ここで、本編からほんの少しだけ逸れてみようと思います。
とあるファンタジックな村の一角、安っぽい宿屋の一室から、ぞろぞろと帝国軍兵士が罪人を引いて出てくる。
その様子を、『向日葵のタツォルス』は笑いもせずにただじっと見ていた。
彼女はよくその姿を鷹に例えられる、凛々しい魔法使いである。
タツォルスは宿屋の外に控えていた馬車に罪人が搭乗したのを確認してから、こそこそと路地裏の空き家に入ってゆく。
そこには、事前に儀式に使う怪しげなアイテムと魔法陣が予め用意されていた。
「早速始めないと。・・・『クロル・ネムシ・クツーグァ、神の馬車を引くための、八本足の馬よ来たれ』」
この世ならざるモノを呼ぶ声、これは「召喚術」。
たちまち魔法陣からは紫色の煙が吹き出し、異形の影がそこに現れる。
「急いで。引き離されたら厄介だから」
「呼び出したな、術者よ!!その召喚獣、『僧侶のコータウニー』が貰い受ける!!」
突如として空き家の屋根をぶち抜いて現れた神官風の男が、彼女めがけて鋭く反った段平を突き立てようと落下してくる。
「いいや、あげないよ。『ツ・ブフゥ』」
彼には、理解し得ないことであったに違いない。
途端、コータウニーの身体は紅蓮の炎に包まれたのである。
「な、なああぁあぁあ!?」
彼女は魔法使いであるから当然、この現象は魔法によるものだ。
そして『ツ・ブフゥ』は炎の詠唱魔法。
特別な魔法陣を必要としない、攻撃するのに適した魔法である。
「あ、あづいいいいい!!」
炎に焼かれ、床にのたうちまわる彼を一瞥して、タツォルスは魔法陣の上の影に、命令を下した。
「この変な男を楽にしてあげて」
その命を受けた「八本足の馬」は、たちまちコータウニーを踏み潰し、粉砕してしまった。
「まったく、大きなタイムロスだよ・・・さ、気を取り直して、追うよ」
タツォルスの一声で、怪物は空き家を飛び出し、天へと駆け上っていった。
『僧侶のコータウニー』が粉砕されました。