連行
熱中症には気をつけてくださいね。
「う、うぅ・・・ここは・・・?」
ウェンズデー・テルが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
しかし、そこは自宅の寝室のような落ち着いていられる空間ではなかった。
十人ほどの兵士たちに、囲まれていた。
さらによく見渡すと、枕元にある丸椅子に座った女剣士に目が入った。
「気がついたか、ウェンズデー・テル。私はマルティナ。お前のことは、調べさせてもらったよ」
女剣士はそう言って、手に持っていたものをテルの眼前に示した。
「コレと一緒に随分と暴れたようだな。・・・あの森から、四人の遺体が見つかった」
テルはソレと彼女の言葉で、昨日のことを思い出した。
この金色の剃刀で、殺すだけ殺し尽くしてやろうと心に決めて、そこらにいた人間を殺した。
そしてその野望にも似た思惑は、この女剣士の登場により、あっさりと破られることになる。
「普通ならこのまま公開処刑にしてやってもいいのだが、お前にいくつか聞きたいことがある」
テルは少々驚いた。
問答無用でしょっぴかれることを、覚悟していたためである。
「ウェンズデー・テル。お前、どうやってあんな力を引き出したのだ・・・?」
そう言うや否や、マルティナは横になっているテルの胴に向けて、剃刀を振り下ろした。
「っ!?」
彼は戦慄した。
コレで切られたら、それこそ真っ二つになってしまう。
だが、剃刀は毛布に切れ目を入れた程度で、もちろん彼が切り裂かれることはまったくなかった。
「私が同じようにコレを使っても、昨日のお前がやっていたようにはならなかった。・・・お前はコレの真の力を引き出すことが出来る人間なのだろう。ということで」
マルティナはテルに手鎖を掛けて、荒めに立たせた。
「ひとまず我々と一緒に来い。まずは帝国に行き、帝の裁定を受けろ」
「・・・どうして」
「決まっている。お前は『勇者の剣』に選ばれた可能性があるからだ」
ずきずき痛む包帯まみれの腕を兵士に掴まれ、テルは顔を歪めた。
「・・・何だか知らないが、俺は怪我人だぞ。しかもマルティナ、あんたのせいでこの様なんだからな」
「ああそうだな、その通り。ちなみに私もお前のせいでこの様さ」
額や腕や足など、鎧の隙間から見える治療の形跡を前に、テルは黙り込むより他になかった。
今回は誰も死にませんでした。
やったぜ。