選ばれし者
平日はなかなか忙しいです。
一体何が起こったというのか。
光に切られた?
マルティナは一瞬動揺したが、それでもすぐに剃刀を捨て、腰に下げたナイフを抜いた。
額を切られたらしく、血が目に入ってとてもしみた。
「た、隊長!?大丈夫ですか!?」
「そんなわけがあるか!!いいから離れていろ!!」
なおも剃刀の光は照らし出された石を、草を、次々切り裂いてゆく。
その中に、明るく縁取られた人影が一人、現れる。
テルだ。
テルはからくも、爆竹で命を落とすことはなかったのだ。
「ぅ・・・お、俺は・・・まだ」
しかし命があっただけのこと、いわば偶然助かったに過ぎない。
彼は胸から腹にかけて、大量に出血していた。
「ぐ・・・うぉあ・・・」
すでにテルの身体に血液はほぼ残っておらず、そのまま失血で倒れてしまった。
と同時に、剃刀の光も溶けて消えた・・・。
「選ばれたのか・・・あいつ、『勇者の剣』に選ばれたのか!?」
誰一人、テルに近づくことはできなかった。
そんな中、沈黙を破りマルティナは号令を飛ばした。
「あいつを連れて行って治療しろ!まだ生きていよう!・・・選ばれたというのなら、是非もない」
その号令でようやく動き始めた兵士たちを尻目に、マルティナは剃刀を拾い上げ、テルの方を見た。
さて、決着がつく少し前。
「ふふふ・・・ディバイドめ、『勇者の剣』を盗むなどと、舐めた真似をしおって!!あの剣は、この『絶対的勇者のアグリヴヌス』のもの!!待っていろ、捕らえた暁には我が七道四十九派全ての魔法を脳天にぶち込んでやる!!」
虹色に煌めく鎧を着た男は、そう憤りながら松明で夜を照らす。
すると、後方から何者かの声がする。
「んん?こんな夜分になにも」
途端、彼は彼の首なし死体を見た。
アグリヴヌスは暴走したテルとすれ違いざまに、首をはねられてしまったのだ。
「あ・・・??」
彼の首から上は宙を舞い、岩の上に着地した。
「ば、バカな・・・!!こ、この絶対的勇者が、こんな惨めな最期を遂げるなどと・・・」
そう言ったきり、彼は言葉を発することはなかった。
『絶対的勇者のアグリヴヌス』が死にました。