蜘蛛殺し
毎回サブタイトル決めるのに苦労しますね・・・
ややあって、テルは恐ろしくなってきた。
何だかよく分からないままに、人を殺してしまった。
がたがた、体が震え出す。
落ち着けるほどの精神力は自殺志願者たるテルには微塵もなく、急いで木から降りてさっきの男の様子を見た。
「や、やっぱり死んでいるよな・・・当たり前か」
血だまりに浮かぶ骸を確認して、彼はその場から逃走した。
なぜそうしたのかは、誰にも分からない。
ただ、この想定外の事態を前に、テルは気が動転してしまったと考えるのが自然であろう。
森の外へ外へ走ってゆくと、不意に足に何かが引っかかった。
線。
頑丈な線が、彼の足元に張ってあったのだ。
来る時にはもちろんこんなものはなかった。
つまり、これは今さっき仕掛けられたものだ。
「引っかかったな。『背赤後家蜘蛛のルシファー』のトラップは、君の方でわざと引っかかったのではないかと思えるほどに正確無比だ」
木の陰から、謎の男の声がする。
「(まずい、もう殺人がバレたのか!?)」
そう思った彼はすかさず剃刀を、声のした木に向かって投げつけた。
「さて、君は拾い物とはいえ伝説の剣を持つ者、こちらとしても手加減は出来なばぶっ」
剃刀は木を貫通し、その裏にいた『背赤後家蜘蛛のルシファー』の身体をも貫通し、地面に刺さってようやく動きを止めた。
「な、何が・・・?ぐぶっ」
肺を傷つけられた彼は、そのまま呼吸困難と失血で死んでしまった。
テルは焦燥感に駆られざるを得なかった。
殺しがバレたらまた殺す、まるで殺人鬼だ。
そうだ、早く逃げるなり死ぬなりしなくては、早く!
そう急ぐ心とは裏腹に、テルは声のした木の陰まで歩いて行ってそこを覗き込んで、剃刀を再び手に取った。
「どうせ、・・・どうせ、こんな生に意味はないんだ。ならば、これで・・・こいつで!」
死ぬまで殺してやろうか。
俺が死ぬまで、出来る限り、やれる範囲で最大まで、やってやろうか。
テルは夜叉のごとき恐ろしい思想に取り憑かれ、ふらりと立ち上がった。
「ふふふ、私は『弓聖のフーガ』!しょ」
何かいた気がしたが、テルに短冊切りでバラバラにされてしまった彼女のことなどどうでもよい。
そして金の剃刀を手にした狂人にとっても、どうでもよいことだ。
「やってやる・・・出来うる限りで、皆殺しだ!!」
『背赤後家蜘蛛のルシファー』『弓聖のフーガ』が死にました。