世界一
ソフィール(陽伊奈)視点の回想回です。
世の中クソである。
私こと、ソフィール・キャンベル(4歳)はそう悟っていた。
その歳で何言ってんだ、と思われるかもしれないが私には所謂前世の記憶のようなものがあり、精神年齢は既に20代も半ばだ。
それでも世間的にはかなりの若輩者かもしれないが、このぷにぷにした小さな身体に母になっていてもおかしくないような年齢分の知識が詰め込まれているのだ。嫌になる。
さらに、私は前世人見知りだった。コミュ障ではないが、初めて会ってから慣れるまで内面ではものすごい時間がかかっていた。
その私が、前世の知り合いが1人も居ない世界に放り出されたのだ。辛いってもんじゃない。前世かえりたい。家に帰りたい。
別に、こちらの世界の家族の事が嫌いなわけじゃない。3歳になって前世を思い出すまでは、普通に家族として接していたし、急に大人びた私は気味悪いだろうに変わらず優しく接してくれた。とても、良い人達だとは思う。
けれど、前世で20歳まで生きた記憶のある今、20歳まで共にいた家族とまだ4年しか一緒にいない家族を同等にとらえるなんて私には出来なかった。……嫌な娘だ。
頭ではこの人達が両親だと理解しているのに、感覚では良くしてくれる親戚の人みたいに感じてしまっている。
「ソフィー、もうすぐ5歳ね」
「はい、お母様」
とはいえ、この人達に恨みは無いし。一応感謝はしているし。
だから私は、前世で外にいる時にしていたように、聞き分けの良い優しい子供をするよう心がけていた。
「そうしたら、色々な方にも会うようになるわ」
「粗相の無いように気をつけますわ」
「それは大切だけど……、お友達が出来るといいわね」
「お友達ですか」
「ええ、信頼できる……心を許せるお友達が」
そう言って、母は優しく笑った。
母は、私がどう思っていても、この世界では私の母なのだ。きっと、多分気付いているのだろう。この厚い外面を貼り付けて硬い殻に篭っている私に。
前世も換算すれば、私と母の年齢は大して変わらない筈なのに、どうして母はここまで素敵な女性になれるのだろう。……そしてその違いが、より私に溝を感じさせてしまうのだ。
心を許せる友人だけでなく、もしも貴方たちを家族として想えるようになったらどれだけ素敵でしょうね。
*
「……はぁ」
あれから、母の言葉通り沢山の人達と会ってお話する機会が増えた。
大した粗相をする事も無く、恐らく大体の方に『普通にちゃんとした子だった』という印象を与えられている、と思う。でも疲れる、もうやだ、貴族の集まりなんて大嫌い。
私は前世で一応友達が少ない方では無かったけれど、全員が全員礼儀正しく教育されたお嬢様お坊ちゃんという状況でどうやって心から仲良くなれるの?
前世みたいに、家が近いからって集まってかくれんぼしてお友達! みたいなノリじゃ無理なのよ。学校で席が隣になって、毎日顔を合わすみたいな状況でも無いの。本当の趣味なんて合わないし……、私は元々子供じゃないもの、心を許せる友人なんて此処で出来るわけないじゃない!
そんな事を考えてると、涙が出そうになった。
感情が昂って涙が簡単に出てくるなんて、子供の身体のなんと不便な事か。泣くと疲れるし、子供ってすぐ体力無くなって熱だすし体調崩しやすいし……本当自分に苛々する。
こんな自分に苛立ちながらも、このまま我慢しきれる気もしなくて、母にそれとなくお手洗いに行くことを伝えた。
今日は、同年代の子供のいる貴族で集まってお茶会しましょウフフという状況だった。しかも場所提供はうちで、私も一生懸命おもてなし出来るように頑張っていたので余計に疲れてしまった結果だろう。
お手洗いに行って、心を落ち着かせて何事も無かったように戻ろう。……そう思ってた。
「え?」
お手洗いの場所の手前、ここまでくれば使用人の人に顔を見られる事も無いわねと思い気が緩んで、涙が既に頬を伝った時。
目の前に現れたのは、たしか今日来ていた子供の中に居た、黒髪の少年だった。
「……あ、の?」
少年は、私の涙を浮かべた顔に目を見開いた。戸惑いながら、とりあえず声をかけてはみたといった雰囲気で、『あの』の続きは自分でもよく考えていなかったらしい。
「お、お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんわ」
「ええと、どうしたの? 何かあった?」
「なんとなく、急に良く無いことを思い出しただけです。お気遣い感謝致します」
タチサレ……タチサレ……。と、何とも無いからさっさとどっかに行ってくれオーラを出しているのだが、少年は一向にそこから動く気配は無い。
そっちが動かないならこっちが、と思い「私お手洗いに来たので〜」と口にしながら、お手洗いのドアに移動した、の……だけど。
「お手洗いじゃなくて、泣きに来たんでしょう?」
「……離して下さいませ」
少年が、私の手を掴んでいた。
「そっちが話しなよ、話せば楽になる事もあるよ」
「言葉遊びをする気分ではありませんの、……手を離して下さい」
「声を荒げてはいけないよ、使用人の人達が来てしまう。……1人で泣こうとしたのは、ご家族に心配をかけたく無かったから?」
そんな、素敵な理由じゃない。
「……血が繋がっていたら、家族なのでしょうか」
「……」
突拍子もない事を口にしたのに、少年は優しい笑顔を浮かべたまま私の言葉の続きを待っていた。
「お父様の事もお母様の事も好きです、優しくてとても温かくて。けれど、その優しさに触れる度思い知らされるのです、私とは違うと。その優しさは……」
その優しさは、ソフィール・キャンベルのもの。陽伊奈のじゃない。今私はソフィールだけど、陽伊奈も確かに私なの。
ただのソフィールになったら、陽伊奈だった頃の私が、私の大切な人達が消えてしまいそうで怖い。
私の両親は、お父さんとお母さんで。…そうして、此方のお父様とお母様は親戚のように想うしかない。……こんな最低な娘なの。
もっと甘えてもいい、我儘を言ってもいいとお母様達に言われた事があったけれど…私の我儘や甘える行為は醜いの。言葉も態度も悪いの。だから、きっと嫌われてしまう。
気が付くと、私は涙が頬を伝うどころかぼろぼろぐしゃぐしゃに泣いていた。
それでも、少年は怯む事無くハンカチを差し出して真っ直ぐ私の目を見た。
「うん、それでもきっと君は君のままでいいんだよ」
「……え、だってそれじゃあ……」
「君のまま、少しずつ歩み寄ってみればいいんだ」
「……難しいです」
私のままで、陽伊奈を経たソフィールのままで。此方の家族と向き合うなんてできるのかな。
「僕は君の事をあまり知らないから、上手く言えないんだけど……なんとなく、君が僕に似ていた気がしたんだ」
「似てる?」
「うん、君がキャンベル夫人に向ける姿を見てなんとなく僕と姉の事が頭に浮かんだ。……僕一応跡取りって立場でさ、だから1つ上の姉よりずっと教育に時間をかけられてた。姉と過ごす時間は少なかったし、姉は悠々暮らしてて勉強も好きそうでは無かったし。ああ、アンタはそれでもよくていいねって内心見下してたんだ。……酷い奴だよね。そうやって僕は姉という存在なだけの他人として姉を見てた。その関係を変えようなんて、これっぽっちも思って無かった」
少年は、そこまで言った後に「あっ、こんな酷い奴と似てるって言ってごめんね! ……でも、最後まで聞いて欲しいな」と、少し不安そうに口にした。
私は考えるまえに「聞きたい」なんて言葉を口に出していた。“です”さえ取れた私の素の言葉に、少年は笑顔を浮かべた後、ありがとう言った。
「それでさ、僕はそこから何かが変わるとは思わなかった。……でも、姉は変わった。勉学を疎かにしなくなりマナーも完璧になった。姉の努力は凄くてさ、僕が勉強してたとこまで追い付いたんだ。そして、一緒に勉強しましょうなんて言うんだよ」
「す、すごいお姉さんですね」
「だよね。でも僕はもう混乱しちゃってさ、だって他人のように思っていたし。……ある日聞いたんだよ、どうしてそんなに変わったのかって。直球で」
「お姉さんはなんと答えたのですか?」
「私がルイの姉だと胸を張って言えるように。ルイが私を、自分の姉だと言って恥ずかしくないように。……そう言ったんだ」
なんて素敵なお姉さんだろう。でも、素敵すぎて……。
「僕は、そんな考えを出来ない。だから、今度はあまりに自分が惨めで、情けなくて……こんなの、姉の弟じゃないと思った。以前に増して自分とは遠い人に感じてしまった」
きっと私もその立場なら、そう思ってしまう。いや、今私はそう思っている。……あの優しい此方の両親に。
「それで、ふと思った。僕が産まれた時に姉はもう居たけれど、姉は僕が産まれた時にどう思ったんだろうって。1つ違いだし、姉は幼すぎて何も考えていなかったかもしれないけれど……知らない奴がポッと出てきて家族として扱われてどう感じたんだろうって」
「あ……」
私はふと、前世の兄を思い出した。2つ年上の私のお兄ちゃん。突然妹が……私が現れた時、お兄ちゃんはどう感じたのだろう。今迄3人家族だったのに急に4人になって、今迄と違う状況になって、どうやって受け入れたのだろう。
「だから、そんな風に思えばいい」
「どういう……」
「これまでの自分と、これからの自分を分けて考えてしまうんだ。まるで兄弟がその時出来たように、これまでの自分もひっくるめて家族になる必要は無い。これからの自分が家族になっていけばいいんだ」
今迄の陽伊奈を経たソフィールは変えずに、これからの私が……。まるで、兄弟を迎えるように。
「……変われるでしょうか、今迄を変えないで変われるでしょうか」
「君がそうありたいと思っているなら、きっと変わっていけると僕は思う」
僕がそうだったように、と言った少年はもう……お姉さんと家族になれたのかな。
「……貴方は、貴方はお姉さんをどう思ってる?」
「姉? そうだね、姉さんは…僕の自慢の姉だよ」
笑顔でそう言い切った少年。
きっとそれが答えなのだろう。
それから、私は涙を拭って母達の居る部屋に戻った。赤くなった目は誤魔化せないぐらいだったから、転んで涙ぐんでいた私を少年が助けてくれたとちょっと嘘をついた。
母が私の見え透いた嘘に騙された事にしてくれたのは、きっと何かを今の私から感じとったからなのだろう。
ごめんね。こんなに優しい母を私は本当は大好きだと思っていたの。思いたくないと拒んでも、きっとそんな想いはずっと積もっていたの。
陽伊奈と、昨日までの私はあげられない。でも今日から少しずつ……私は家族になってみたい。
その後のお茶会は何事も無く過ぎていった。私は少年の去り際に名前を聞いた。
本当は、お茶会でさらっと紹介されていたのだろうけど、人数多くてちょっとよく覚えていないの。
そんな私の失礼な質問にも、少年は優しく答えてくれた。
「ルイゼル・アルベーヌだよ」
……うん?
この時気付いた事実に私は叫んでしまいそうなくらいだったけれど、考えをとりあえず保留にした。後から考えてみても、この時の私の精神力はすごいと思う。
「私は、ソフィール・キャンベルです」
ルイゼル少年は恐らく私の名前を覚えているとは思うけれど、名乗らせていただく。
これからも、今日を覚えていて貰えるように。いつか胸を張って、成果を報告できるように。
そうして少年と別れてから、私は少し母と談笑した後自室に帰り、そこでようやくルイゼル少年の名前を聞いた時に思った事を口にした。
「……ルイゼルって、悪役令嬢メアリーゼの弟の?」
そしてよくよく考えてみれば、ソフィール・キャンベルという名前にも聞き覚えがあった。……前世で私がプレイしていた乙女ゲームの、ヒロインの名前。
確かデフォルト名はソフィールだったし、キャンベルという部分は変更出来ない仕様だった。
あとさらに考えてみたら、私が前世の記憶のある20歳という年齢はあの乙女ゲームをプレイした歳じゃないか。
そこまで思考して、ある事に気付く。
ルイゼルは攻略対象だった。姉を嫌っていて、家族と溝を感じている。家族でさえこうもままならないのだからと、他人との関わりを拒むのだ。
キャラ、違くない?
あと話を聞く感じ、メアリーゼもゲームと違う。……という事は、彼らの近くに居るんじゃないかしら、私以外の転生者。
メアリーゼが転生者で、悪役回避の為の変化という可能性もあるけど。
「きっと、学園に行けば全部分かる」
それまでに、私も頑張って変わっていこう。今の中途半端な私じゃあ、会っても何も上手くいかない気がする。
だから、待ってて。私だけのソフィールとして、その場に立っていてみせるから。
そう思ったところで、お夕食の準備が出来ましたという呼びかけがかかった。
私は、決意を新たにし両親がいるであろう食堂へと向かった。
*
やがて月日は流れ、私はゲームの舞台の学園に入学した。
家族との関係もあれから良いものになっている。……ルイゼル少年に、早く報告してお礼を言いたいな。
と、思っていたけど。
「ぜんっぜん捕まらない……ッ!」
ルイゼルはゲームとは全く違う性格になった為、上手くルイゼルが1人の所にでくわせない。
居る場所がいつも人の中心なんだもの、あの中に突っ込んでいく度胸なんてさすがに無いわ!
あと他の攻略対象こっちこないで、セクハラですよそれ。学園警備隊に通報しとくわね!
そうやって他攻略対象を躱しつつタイミングを伺う私が、最早ルイゼルのストーカーに見えなくもなくなっていた時、ルイゼルと身長の小さい少女が2人きりで話していた。
も、もしかして恋人……!? とショックを抱きながら2人を眺める。お母様にはルイゼル様に婚約者が出来たりしてませんか? と頻繁に聞いては、大丈夫よ〜という返事を頂いていたけれど。……温かい笑顔と共に。
そうよね、ルイゼルかっこいいし。学園に入れば、恋人の1人や2人……7人や8人……。
なんて、思考を暴走させていた所で少女の顔がちらりと見えた。
「メアリーゼ……」
ルイゼルのお姉さんのメアリーゼだ。
なんだぁ、とホッとすると同時にメアリーゼの見た目で思った事がある。
まずゲームと全然違う。髪の毛は巻いてない綺麗なストレートヘアー。そして、髪にはリボンのアクセントがつけられている。
化粧もゲーム程きつくなく、上品に整えられていて。その姿はゲームよりずっとずっと可愛い、可愛いんだけど……。
「さ、さいきょうのメアリーゼたん……」
これは、前世で兄と深夜テンションで考えた「ぼくのかんがえた、さいきょうのメアリーゼたん」の姿だ。
メアリーゼたん、もしかしてお兄ちゃん!? と思いメアリーゼたんを観察し始めたけれど、どうも違うらしい。あれが兄だったら正直気持ち悪い。おえってなる。
そして、メアリーゼたん観察をしているとかなりの割合で一緒に視界に入る存在があった。……攻略対象のリュオンである。
リュオンは見た所、メアリーゼたんにデッレデレである。
リュオンは、メアリーゼの婚約者で確か5歳から一緒にいる。 メアリーゼにもルイゼルにも幼い時分に十分影響を与えられる存在だ。しかも、リュオンとは全くゲームのイベントが起きてない。
「……リュオンだわ」
リュオンがきっと、お兄ちゃんだわ。
それは最早確信だった。素直に「やっほー、陽伊奈だよー超久しぶりー」とか言うのもなんか癪で、お兄ちゃんにどうにか気付いてもらえないかと考えて、お兄ちゃんの前で前世の私っぽい言葉を使う事にした。ネットスラングも取り入れて、この世界に無い言葉も使ってみた。
が、気が付かない。
半ばヤケで、家の中でのオタクな私らしい言葉を口にする事にした。幸いメアリーゼたんが可愛いのは事実なので、口にする言葉に事欠かない。むしろ楽しくなってきた。……これこそ私!
そしたら、変態……とボソリと口にしやがった。あんにゃろう。
もっとあからさまに、と思い「さいきょうのメアリーゼ様」と言ってみると「確かにメアリーゼの可愛さは最強だが……」と惚気られた。うざい。
ちくせう、やはり変な所鈍い兄に察して貰うのは無理なのだろうか。
前世で買い物を一緒にした時、兄のクラスメイトという人に出くわした時クラスメイトさんは酷く動揺した。 これは、と思い「はじめまして、お兄ちゃんがいつもお世話になってます」と挨拶すると分かりやすくホッとした表情を浮かべたので、分かりやす過ぎだろうと思い兄をちらりと見ると「陽伊奈お前声変わり過ぎー!」とゲラゲラ笑っていた。残念な兄である。
その兄に陽伊奈だと気付いてもらうなんて期待した私が馬鹿だった。
それでも、陽伊奈まで辿りつかなくとも転生者だとは気付くと思っていた。だが全く気付く気配は無く、うんうんメアリーゼは可愛いから仕方ないな! である。
うん、こりゃ無理だ。
もし次2人きりになる機会があったらもう正体を明かしてしまおう。
そして、その機会は訪れた。
案の定全く気付いていなかった上、兄の恋愛事情は相変わらず残念であった。
あれだけ側にいて、あれだけ周囲にモロばれだというのに当のメアリーゼたんは兄を男性として見ていなかった。
*
「そして私は、そんな兄を見てこれからも兄は自分の残念さを晒していくのだろうと少し同情した」
「待って陽伊奈! 途中から俺に対する愚痴になってる! 俺のライフはもうゼロなんだけど!」
私の昔話を話していると、兄が悲痛な声を上げた。……まあ、わざとなんで。
「当然でしょ、折角私が頑張ったのに気付かなかったんだから」
「それは本当ごめん……」
口を尖らせて拗ねると、兄が頭を撫でてきた。今度は髪をぐしゃぐしゃにしないようにちゃんと考えて撫でているので、それに文句は言わないであげよう。
「それにしてもルイかぁ」
「そーよ」
「ルイはいい奴だしなぁ……。陽伊奈は見る目あるな」
お兄ちゃんは、ルイゼルを幼い頃から知っているので割とすんなり納得してくれた。
「でも、お前も大変だったんだな。ごめんな、その時側にいられなくて」
「あ、それは別に。むしろ今位で丁度いい」
「お、お前なぁ……」
だって考えてもみてよお兄ちゃん。そんな頃に会ったら、きっと私……今世を認めなかった。認めずに、お兄ちゃんに依存した。…そんなの嫌だ。
それに、幼い時分にそんなにお兄ちゃんと一緒に居てそれを見た親が婚約とかにしたら? と考えたら鳥肌が立つ。お兄ちゃんは私のお兄ちゃんで、今世でも家族だと思ってるから血の繋がりとか関係無く本気で絶対無理。
それに、お兄ちゃんはルイゼルを通して幼い私を助けてくれた。お兄ちゃんが意図してではなくても、それはきっと最善の形だった。
私はルイゼルに救われた。きっとお兄ちゃんにとっては、メアリーゼたんがわたしにとってのルイゼルだったんじゃないかなと思う。だから、私はお兄ちゃんの恋を応援したい。
「なぁ、陽伊奈」
「なに?」
「今世の家族を……好きか?」
そんなお兄ちゃんの問いに、私は自信満々に答えた。
「うん、お父さんとお母さんとお兄ちゃんと同じくらいにね!」
捻くれた天邪鬼な私だけど、それだけは素直に答えてあげる。
すると、お兄ちゃんは嬉しそうに笑って「俺も同じだ」と答えた。
……あのね、お兄ちゃん。
ルイゼルとの恋の手助けで、お兄ちゃんが私に気付かなかった事はチャラにしてあげる。
そして、ルイゼルとの恋が叶った暁には、お兄ちゃんにありがとうを言いたいと思っているの。
こんな私は貴重なんだからね。
……だから、まぁ、楽しみにしててね。