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悪役令嬢

回想回です。

 まあ突然転生となれば色々気持ちの問題もあるわけで。


 よく3歳迄はお腹の中の記憶が〜だの、産まれる前の事を覚えてる〜だの耳にするが、俺は逆だった。3歳になったら毎日少しずつ前世の事を思い出すようになった。人の記憶なんて完璧ではないので、薄らぼんやりした約22歳迄の記憶が半年程かけて俺に馴染んでいった。多分これ以上は、きっかけが無いと明確には思い出せない範囲なのだろう。

 まあ、それはいいとしよう。


 因みに余談ではあるが、当時1番辛かったのは、意識と身体の不一致だった。

 一応、記憶上は成人男性まで成長していたのだから短くて小さな手足は中々に不自由だった。体力も無いし、たまに身体が思考に追いつかず苛立ちを抑える事が出来なかったり。それらが物凄く面倒でイライラしていた。22歳の身体ならこんなの楽勝なのに! と何度思ったことか。

 因みに両親は、3歳迄は普通のちょっとできるお子さんだったのに、急に可愛げの無くなったであろう俺に対して「子どもの成長って早いね!」で受け入れてくれた。懐が広すぎる。

 そんな両親には、俺自身救われたしこっちでの家族として大切に思う事もできた。それはとても良かったと思っている。




 さて、本筋に入ろう。

 俺がメアリーゼと出会ったのは5歳の頃の事だった。

 婚約者できるよだのなんだのの話になり、うっわめんどくさと思ったのを覚えている。精神的には大人なのに子供相手に婚約者として接さなければならないなんて、面倒くさい以外の何物でもないだろう。

 お相手は? 侯爵家のメアリーゼ・アルベーヌ嬢? ……なんか聞いたことあるなぁ。……そう感じながら初めてメアリーゼに会った時に思った。

 あ、この子前世で妹のゲームに出てきた悪役令嬢の子じゃん、と。


 当時のメアリーゼは、今と比べて我儘お嬢様だった。でもよくよく見ていると、彼女は我儘こそ言えど、それで人を傷つけることはしなかった。そして、我儘は寂しさからくるものに見えて……そしてその感じが、なんとなく前世の妹と被った。

 妹も寂しい時に我儘を言う奴だった。末っ子の性分か知らないが変な所で要領が良く、それ故に外では下手な問題は起きない代わりに面倒や寂しさを感じやすい、一周まわって不器用な子だった。俺や両親、妹をよく知る友人達は我儘が時折飛び出ても『あー、寂しいから頼ってくれてるな』と感じていたと思う。妹自身、それを分かってくれるひとにだけそうしていたのだろう。

 しかし、このメアリーゼは恐らく妹以上に不器用だ。この子はきっと周囲から誤解される。そして誤解されている事に気付かない……けれど悪意には恐らく敏感な子。不器用なのに要領まで悪いタイプの子だ。


「メアリーゼ、お父さんが忙しくて寂しい?」

「そ、そんなことありまんわ! わたくし、もう5さいですのよ!」

「5歳なんてまだ甘えていい歳だよ。お家に帰ったら、少しずつでいいから甘えてごらん」

「でも……ごめいわくではないかしら」


 俺は初めてお会いした時の、アルベーヌ侯爵を思い浮かべた。……あれは親馬鹿の目だ。大丈夫だ問題無い。


「絶対大丈夫だ、俺が保証しよう」


 そして、後日。それを実行したら大成功だとメアリーゼが喜びながら報告してくれた。その時のメアリーゼの笑顔といったらもう可愛すぎて(長いので省略)。そして、アルベーヌ侯爵もメアリーゼとの交流が増えたのは俺発案だと知る事となり、なんとなく感じとった『娘を奪っていくんだろうなマジないわ畜生この小僧め』的な視線は緩和された。メアリーゼも、この件から一気に俺を慕ってくれるようになり、暫くの間「リュー兄様」と同い年なのに呼ばれたりもした。

 ……数年後に妹のように見られなくなり、それを辞めさせるべく思考を巡らせる羽目になるのだが、今はその話は置いておこう。


 あとは、メアリーゼには一つ違いの弟が居るのだが跡取りとしてメアリーゼよりも厳しい教育がなされており、そのせいかあまり交流が無いと相談を受けたりもした。恐らく、だからこそメアリーゼはあんなにも寂しさを感じていたのだろう。

 そこで、話をする為にもお勉強頑張ろうぜと進言した。お勉強、という言葉に少し眉を顰めたメアリーゼだったが……。


「頼れるお姉さんになりたくはないか、メアリーゼ」

「わたくしがルイの、たよれるおねえさん」


 ルイとは、メアリーゼの弟のルイゼルの事である。

 メアリーゼは、よーし、頑張りますわ! と笑った。どうやら、頼れるお姉さんの響きが大層お気に召したらしい。

 そこからメアリーゼは勉強もマナーも頑張り、弟との関係修復もなされた。そして寂しさからくる我儘もなりを潜めていった。

 メアリーゼの家族仲が良い方に向かってからも、メアリーゼと俺はよく会った。メアリーゼのくるくる変わる表情は、見ているととても楽しく、そして癒された。

 メアリーゼは俺を頼ってくれた。俺と居るのが楽しいと言ってくれた。そんなメアリーゼと居るのは、この世界が俺を受け入れてくれているみたいで、とても居心地がよかった。



 そんな日々を送っていても、前世の記憶は時折俺を酷く苦しめた。前世の世界は愛しい。けれど、愛しいからこそ辛かった。

 俺は異世界に生まれ変わった。死んだらあの世で会えるとかそんなんじゃない。二度と、死んでも、永久に……あの親しき友人達や大切な家族に会えないのだ。

 俺が居なくなった世界はどうなっていったのだろう。そもそも俺はいつ死んだのだろう。分からない、けれどそれが皆が悲しむような結末でなかったらいいとは思う。

 笑い上戸でいつも楽しそうな母、厳しそうに見えて子ども想いで優しい父、寂しがりな妹……。


「リュー兄様?」


 その時、メアリーゼの声が聞こえた。…ああそうか遊びに来ていたんだった。ごめんメアリーゼ、それでも今は浸らせてくれ。



「考え事ですか?」

「ああ。だからごめん、少しそっとしてほしい。思い起こして想い続けないときっと忘れてしまう事なんだ」

「そうなのですか」


 そこで、会話が終わってメアリーゼは俺をそっとしておくと思った。


「でしたら、リュー兄様! 私にもその忘れたく無い思いをお教え下さい!」

「ごめん何言ってんの?」


 そっとしておくと思いきや、突然そんな事を口にしたメアリーゼに少し混乱した。

 確かこの時迄は、メアリーゼは俺の中で妹のようなものだった。寂しがりで不器用で、そして素直だった。俺の言葉を正しいと信じて疑わない子という認識。

 そうやって普段の認識とは違うメアリーゼに困惑していると、メアリーゼはあたたかい手で俺の手を握った。


「リュー兄様が忘れたく無いのなら、私も一緒に覚えていて差し上げますわ!」


 ぱきん、と頭の中で何かが割れた音がした。

 この子は違うのだ。ゲームのメアリーゼではない。……ただ、俺の意見を鵜呑みにする単純なだけの子供でもない。ましてや妹でもない。

 素直で、きちんと自分で考えて言葉を口に出来る強い一人の少女。



「…メアリーゼ」

「まあ、リュー兄様急に涙が」


 メアリーゼは、柔らかいハンカチを俺の目元にあてた。

 俺は、少しずつ前世の事を口にした。


 俺の前世の話を聞いたメアリーゼは、「でしたら、リュー兄様は人生の先輩ですのね!」なんて笑った。

 その辺は素直に聞き入れて疑わない辺りが、俺のよく知るこの世界のメアリーゼだ。

 その姿を見て、思わず俺も笑ってしまった。


 俺はメアリーゼが、リュオンも陸斗も否定しないでくれた事がとても嬉しかった。

 メアリーゼのお蔭で、俺は攻略対象のリュオンではなく……俺自身のリュオンになれたと思えた。



 優しく可愛いメアリーゼ。君が悪役な世界なんて、君が不幸になる世界なんて間違っていると思わないか。

 だから君を幸せにする事が、俺がこの世界に転生した意味なのだと……今はそう思えるんだ。





 あれから年月が経ちメアリーゼはゲームとはまったく違う性格となり、ゲーム開始の年を迎えた。

 愛するメアリーゼと俺の仲も、まあ良好と言えるだろう。

 俺が、メアリーゼ厨、メアリーゼ保護者その他諸々で呼ばれている現状もまあ良しとしよう。

 ……というわけで。


「メアリーゼ、2年程距離を置こう」

「長いですわリュー様!」


 ゲーム期間中メアリーゼと接触しない作戦決行である。

 メアリーゼは、まさに絶望! という表情をしていた。俺に会えないのがそんなに辛いのかと思うと顔にやけそうになる。……いや、2年間を考えると俺も絶望だけど。

 ここで最終兵器、前世の話を既に信じているメアリーゼに、ゲームの話をしてやるとしよう。


「……というわけでメアリーゼ、俺は君を不幸にしたくないんだ」

「リュー様……そのお気持ちとても嬉しいです。私もリュー様に幸せになって欲しいですわ」


 よっしゃ。これで素直なメアリーゼは聞いてくれる、筈。


「ですが、私がリュー様に幸せになって欲しい気持ちの方がどどんとおっきいですわ!」

「うん?」

「なので、私…あくやくれーじょー? します!」


 まってくれ。


「メアリーゼ、落ち着いてくれ何故そうなる」

「リュー様がヒロイン様? と相思相愛になればリュー様に幸せな未来が約束される! その為にアクヤクレイジョウが必要ならば私尽力致しますわ、止めたって聞きません!」


 メアリーゼ、君のひたむきで優しくてまっすぐな所大好きだけど今はそれを発揮しないで欲しかった。

 あと、今失恋した気分で俺とっても不幸。



「えいえい、おー! ですわ!」



 因みにこれが、もうお忘れの方も居ると思うがこの話の序盤の俺の溜息の原因である。

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