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うちの

「おーっほっほ! ヒロインさん、今日こそはあなたを虐めますわ!」

「そろそろ名前で呼んで下さいよぉ」

「そうはいきませんわ! 名前で呼んだらー……」

「あ、メアリーゼ様パンツ丸見え」

「きゃあっ!」


 メアリーゼはスカートを抑えながら慌ててしゃがみ込み、バランスを崩し落下した。

 すると、すぐさま“ヒロイン”と呼ばれた少女が浮遊魔法をかけ、メアリーゼを助ける。


「メアリーゼ様、どうして木になんて登ったんです」

「だってだって、ヒロインさん私より身長が高いんですもの! 見上げても迫力ないでしょう!?」

「木から私を見下ろすメアリーゼ様も可愛かったですねぇ」

「聞いてますの!?」



 どうしてこうなった。

 柱の影から、校庭裏の様子を見て一人ため息をつく。


 ここは、とある魔法学校。

 そう、そんなものが存在する何ともファンタジーな世界なのだ。

 俺はリュオン・エルデリア、そして前世の名前は夢宮(ゆめみや)陸斗(りくと)……お察しのように転生者だ。

 そしてここは前世で妹がやっていた乙女ゲームの世界である。

 男が乙女ゲームに転生して一体何の得があるというのだろう。しかも、攻略対象というなんとも面倒なポジションを割り振られてしまったのだからたちが悪い。


 因みに、そこでアホしてるメアリーゼという少女は俺の幼馴染兼婚約者で、ゲームでは悪役令嬢をしていた。しかし、前世妹持ちだった俺はついつい幼い頃メアリーゼの世話をやきまくってしまい……、ゲームでカリスマ悪役令嬢だったメアリーゼはこの世界ではポンコツ悪役(笑)令嬢と化している。

 「うふふ、私のリュオン様に色目を使うなんて。可愛がってあげますわ」とか本来は言う筈のメアリーゼは、愛すべきアホとしてヒロインのみならず皆に可愛がられている。

 ……魔法実技以外の成績はいいんだけどな、メアリーゼ。メアリーゼは出来るアホなのだ。

 とまあ、それはさておき。


 あまりに皆がメアリーゼを可愛がるものだから、おいこらメアリーゼの可愛さに最初に気付いたのは俺だぞと主張せんばかりに学園内でもメアリーゼの世話を焼いていたので「リュオン様はメアリーゼ様にべたべたしすぎです!」と周りに責められた。

 自分達もメアリーゼを可愛がりたいのに! という主張に「リュー様、私から離れちゃうのですか……?」とメアリーゼが目を潤ませたものだから「チッ」と周りは盛大に舌打ちしつつ可愛いメアリーゼの為に俺が他より一緒に居る事を許す、という事になった。

 なんだこれ、俺婚約者だしメアリーゼの側に居るのは当然なのに。あと、ゲーム通りなら流石攻略対象様と言わんばかりのモテ方だった筈……いや、普通にかなりモテるけどメアリーゼと関わる連中は総じてこんな感じというか、うーん。



 うん、その辺はメアリーゼが幸せなら別にいいんだけど。


 大体のこういった内容の悩みの結論は基本的にこれで終了する。メアリーゼが楽しそうにして、幸せでいるのが一番だ。メアリーゼがいればモテるモテないはどうでも……いや、男だし全く気にしなくはないんだけどさ?

 この辺りは、俺が最初にもらした溜息とは特に関係は無い。……嘘じゃないぞ、だからまぁ後で理由は語るとして、今はこの2人だ。



「あまりメアリーゼをからかってくれるな、キャンベル嬢」

「あ、リュー様っ!」


 2人の居る方に歩みを進め、声をかけるとメアリーゼがぱたぱたと走り寄ってきた。怪我はないか? と口にしながら頭を撫でると、はい! と元気な返事を返された。


「だが、先程メアリーゼを助けてくれたようだな。礼を言うよ」

「それは当然です! メアリーゼ様の玉のお肌に傷でも付いたら……いやでも痛くて涙目になるメアリーゼ様もなかなかそそるものが……」


 うん、変態かな?

 残念な事に、このメアリーゼ厨の変態がゲームのヒロイン……ソフィール・キャンベルだ。プラチナブロンドの髪をした一応可愛らしい美少女でスタイルもなかなか良い。但し中身はこれだ。

 因みにメアリーゼは、きゅっと釣り上がり気味の瞳をしており、黒い髪にリボンをつけている。身長は小さめで「漂う小物臭……身長的に」と前世で妹が口にしていた。因みにこのリボン、ゲームでは付けておらず本来はこの髪をくるくるに巻いていた筈だった。このメアリーゼは、昔に俺があげたリボンを未だに付けているのだ。しかも「黒髪ストレートって可愛いよな」と俺が洩らした言葉で巻くのを辞めて背中くらいの長さのストレートヘアーにしてるものだから、……メアリーゼ最高に可愛い。

 ソフィールの可愛さは流石ヒロインで数値にすれば53万だが、自分の容姿に合ったものを身に付けている上立ち振る舞いまで可愛らしいメアリーゼの可愛さは数値では表し切れない程の魅力がある。

 きゅっとした目も、この外見を活用すれば、まるでちょっと背伸びをした微笑ましくも可愛らしい少女のような印象を与える。うん、何度も言うようにメアリーゼ可愛い。……とかなんとか考えていたら大方顔が緩んでしまっていたのだろう、ソフィールにゴミを見る目で見られた。……ヒロインにゴミを見る視線を向けられる攻略対象とは?

 因みにメアリーゼはこっちのあれそれには全く気付いた様子は無く、俺たちのやりとりを聞いてわたわたしている。


「ええとヒロインさん、私を助ける必要はございませんわ! ヒロインさんは私を憎むべきなのです!」

「憎む理由がありませんよ?」

「毎日色々やっていますわ!」

「メアリーゼ様のそういったものは大体失敗していますし……」

「今だって“およびだし”とやらをしましたわ!」

「お呼び出しに頂いたくまさんの封筒可愛かったですわ! 家宝にします」

「メアリーゼ、諦めろ。君に誰かを虐めるという行為は無理だ」


 メアリーゼが、先日ソフィールのシャープペンの芯を折って「ふふん、やってやりましたわ!」と笑みを浮かべた後に「あ、でもこのままじゃ先生に怒られてしまいますわ……。新しいシャープペンの芯を入れておきましょう」というお前のさっきの行動なんのためにやったの? と問いかけたくなるような出来事を頭に浮かべながら諭した。メアリーゼアホ可愛い。


「ですけどリュー様……」

「ああ……眉をハの字にして下唇噛んでるメアリーゼ様マジ天使……下唇になりたい……」


 この変態は置いといて。


「メアリーゼ、本題だがリコリス先生がお前を呼んでいたぞ」

「まあ、リコリス先生が? すぐに向かわなければ」

「急ぎではないようだから走って転けるなよ」

「リュー様ったら、私そんなにそそっかしくありませんわ」

「むくれるメアリーゼ様可愛い、ほっぺつつきたい」

ヒロイン(へんたい)は置いといて、急ぎではないとはいえそろそろ向かった方がいいぞメアリーゼ」

「はっ、そうですわね!」


 メアリーゼは慌ただしくぱたぱたと走って行った。……だから走るなって言ったのに。転けないといいが……。


「優しいですね、リュオン様」

「ん?ああ。まぁ幼馴染で婚約者だし」

「婚約者……」


 隣にいるソフィールが急に大人しくなったものだから、少し目を見開いてしまった。

 何これ、もしかしてイベント?


「メアリーゼ様を妹の代わりにしていたらどうしようかと思いましたわ」

「何を言っている、確かに昔はメアリーゼを妹のように思っていたが……今はきちんと婚約者として想っているよ」

「そうでしたか。それにしても、メアリーゼ様にお会いした時は驚きました。まさかあんなにも私が常日頃から愛でたいと思っている容姿をしているとは。……あの姿には貴方が一役買っているのでしょう?」

「まぁ、そうだな」

「やはり好みは兄妹似るんですかねー」

「あぁ……あ?」


 ちょっと待て。こいつ何言ってんだ。兄妹?

 それに、なんで妹の代わりなんてワードがでてくるのか。


「何じっとこっちみてるんですか。今世では血の繋がりが無いからって、精神的近親相姦なんて私はごめんですよ」

「まてまてまて」

「ていうか、リボンって。ハハッ、似合ってるけどさ……もしかしてロリ系が趣味なの? お兄ちゃん」


 この人を小馬鹿にしたような何様妹様っぷり……覚えがある。前世の妹、陽伊奈(ひいな)だった。


「ひ、いな……?」

「陸斗お兄ちゃん気付くのおっそ」


 俺は思わず、鼻で笑ったソフィール……陽伊奈を抱き締めた。なかなか腹の立つ妹ではあったが、前世ではたった一人の兄妹であったし一応それなりに可愛がっていた。そんな妹と記憶上ではおよそ17年ぶりの再会である。嬉しくないわけがない。


「うわ、なにしてんの、きも」

「口が汚い」

「陽伊奈がお兄ちゃんに、お兄様突然抱擁するなんておやめにやってくださいませ! とか言ったらどうよ」

「こわい」

「なら文句言わない。……先程、メアリーゼを助けてくれたようだな、礼を言うよ」

「やめて! 俺の台詞の真似しないで!」


 突然先程のリュオンとして発した言葉を声真似しながら口にする陽伊奈に、俺は思わず顔を覆った。陽伊奈はそんな俺を見てケラケラ笑っている。

 この世界では俺のあの態度は普通だ。分かってる、分かっているが! これを前世現代日本人庶民代表な妹にやられると、なんとも黒歴史台詞を掘り返されたような心境になる。

 陽伊奈が俺に、俺が陽伊奈に畏まった言葉を吐くとダメージがやばいのは分かったから勘弁してほしい。

 はぁ、と深く溜息を吐くと陽伊奈は満足そうにしていた。


「しかもメアリーゼたんを君と呼ぶし」

「それ以外になんて言うんだよ」

「お、おまえ?」

「夫婦かよ」


 もしくは口の悪い奴か。陽伊奈もよくは考えてなかったのだろう、とにかくメアリーゼにそれは無い。却下だ。


「あっ! そうそう、お兄ちゃん何歳までの記憶ある?前世の」

「あー、多分22くらいかな」

「あ、そうなんだ。私は20」

「やっぱそのくらいに死んだんかなー」

「いや、多分違うと思う。お兄ちゃんと私って2歳差だったでしょ? 確かその年齢の時にこの世界が舞台のゲーム『マジカルアカデミー★』をやったのよ。だから私達には多分、ゲームに関わる歳までの記憶だけ残されているんじゃない?」

「随分意図的だな」

「そうだよねー、でもまあ助かっちゃった。流石に天寿全うした記憶とかあったら今世やってらんないもん」

「確かに……。じーさんまでいった記憶あったら、メアリーゼの事なんかもう孫とかみたいなポジションにしか見れなくなりそう」

「っても、精神年齢はお互いアラフォーに差し掛かってるけどね。まー、大人やったのと単に子供やり直したんじゃ密度が違うしその辺はノーカンでいいよね!……というかお兄ちゃんほんとメアリーゼたんばっかね」

「え、そうか?」

「そうだよー。メアリーゼたんの事よっぽど好きなんだねぇ」


 陽伊奈がにやにやとした目で俺を見た。


「まあ、そうだな。メアリーゼがいるから今世を楽しく過ごせてるといっても過言じゃないよ。……あとは今、陽伊奈に再会できて余計に楽しく過ごせそうになったけど」

「きも」


 陽伊奈のきも(照れ隠し)を聞きながら、あーやっぱり俺の妹だなと感じる。そして、ふとメアリーゼに会った頃を思い返した。

一度は書いてみたかった悪役令嬢ものです。5話くらいでサクッとふわっと終わる予定です。

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