04.19 イヴァールの旅
シノブ達は、全長20mもある巨竜ガンドに乗って竜の棲家に向かっていた。
岩竜ガンドは、その体にドワーフの職人達が作ってくれた装具を付けている。シノブ達は、装具にしがみつきながら高空を飛行していた。
職人達が作った装具は、ガンドの首周りと腰周りを太い革で固定し、その背中に乗ることが出来る。大型の乗用車ほどもある背中は、横二列、縦三列に着座できるようになっていた。
急ごしらえのため、それぞれの席には命綱を固定するための金具としがみつくための太い革の取っ手が付いているだけで、風を防ぐようなものは何もない。
「この魔法装備は暖かいな!」
シノブのすぐ後ろにいるシャルロットが、風に負けないように大きな声を張り上げる。
彼女は、シノブの白い服と緋色のマントを身に着けていた。アムテリアが授けてくれた魔法装備は、替えも含めて何着もある。防寒対策にシノブの装備を借り、軍服の上から着込んでいた。
「暖かいのは魔法装備だからですか~! それともシノブ様の服だからですか~!」
シャルロットの後ろのミレーユが大声で尋ねる。彼女とその隣のアリエルも、シノブの装備を軍服の上から着込んでいた。
「どちらもだな!」
シャルロットがミレーユに叫び返す。
「……シャルロット様も照れなくなりましたね。これではシメオン殿もからかい甲斐がなくてつまらないでしょうね……」
アリエルが小さな声で呟くが、激しい風音の中、誰にも聞こえなかったようだ。
ちなみに今回シメオンは同行していない。ガンドの装具が六人乗りのせいもあるが、どうも寒いのが苦手らしい。
本人は「会話できない相手に会っても面白くありません」と言っていたが、その後ミレーユがシノブとアミィに教えてくれた。
「シノブ! 後どのくらいだ!」
イヴァールが隣のシノブに問いかける。
彼は魔法の防寒具は着ていないが、元々寒さに強いドワーフであるため問題がないらしい。その手に持つ酒袋からウィスキーを飲んでいるせいもあり、地上と同じ装備で平気な顔をしていた。
「30分くらいかな!? アミィ!」
シノブはアミィに問いかける。
セランネ村から竜の棲家まで、130kmくらいである。ガンドが全力で飛べば20分もかからないらしいが、それではシノブ達が寒くて堪らないし、風圧も凄いだろう。
シノブは、ガンドに1時間くらいかけて飛ぶように伝えていた。
「そうですね! だいたい半分くらいまで来ました!」
シャルロットの隣のアミィがシノブに答える。
アミィは、眷属としてアムテリアに仕えていたときに得た地理情報と、スマホのマップ機能を組み合わせた位置把握能力を持っている。そのため、彼女は現在位置の把握が容易にできるのだ。
「ならばゆっくり飲めるな! もう一袋行くか!」
ここ数日で空を飛びながら酒を飲むという楽しみを知ったイヴァール。
上機嫌の彼は、持っていた酒袋の中身を飲み干し、腰に下げていた酒袋をその手に取った。
◆ ◆ ◆ ◆
──『光の使い』よ。別れを告げに来てくださり、ありがとうございます──
──シノブさん、アミィさん。お久しぶりです──
竜の棲家である洞窟に入ると、成竜ヨルムと幼竜オルムルが出迎えてくれた。
ガンドと同じく体長20mの巨体のヨルムと、まだ1mくらいのオルムル。体型も鋭く恐ろしげなヨルムに比べるとオルムルは丸っこく赤ん坊を想起させるもので好対照だ。
──『光の使い』が国に戻れば、我らともそう簡単に会うことはできない。折角友誼を結んだのに残念ではあるがな──
家族の念話に続き、ガンドもシノブとアミィに伝えてくる。
彼らの念話から受ける印象は、それぞれの性格を表すかのように違っている。
ガンドとヨルムの念話は成竜としての威厳を保ったものである。それに対し、生まれて二ヶ月少々のオルムルからは飾ることのない素直な気持ちを感じる。
──仕方ないよ。でも、狩場の端まで行けば念話が届くんだろ?──
シノブは、ガンドの寂しさを含んだ念話に答えた。
ガンドと飛び回るうちに色々試した結果、ガンドとヨルムの念話は竜の棲家からセランネ村まで届くとわかった。
また、その範囲であればシノブやアミィから呼びかけても伝わる。
アミィの位置把握能力によれば、狩場の端のほうなら領都セリュジエールまで130kmくらいらしい。街道を飛び回る間に、シノブはガンドにそのことを伝えていた。
──シノブさん。私はお話できません──
濃い灰色の親達とは違い、まだ白っぽい肌の幼竜オルムルがシノブに悲しそうに語りかける。
オルムルのつぶらな瞳は、じっとシノブを見上げていた。
──そうだね。早く大きくなるしかないかな?──
微笑ましさを感じたシノブは、悟られないように注意しながら心の声を返す。
幼竜は、まだ魔力を上手く扱えない。また、膨大な魔力量の親達とは違い、念話を遠くまで届けることができないようだ。
今日こうやって会いに来たのも、オルムルに直接別れを告げるためであった。
──狩場から旅立つ数ヶ月前になれば、お前も遠くまで念話が届くようになる。それまでの辛抱だな──
ガンドがオルムルに慰めるような思念を伝えた。
岩竜は1年ほどで子育てを終え、本来の棲家である北の島に旅立つらしい。
元々、念話は竜達が飛行中に意思を伝えるために編み出したものだ。飛行能力と共に、北に旅立つ前には充分に発達するという。
──はい、父さま。シノブさん、北に行く前には、もう一度お会いしたいです。
遠くまで飛べるようになったら尋ねに行って良いですか?──
オルムルは首を傾げながらシノブに問いかける。
──いいよ。領都に飛んできたら大騒ぎだろうけど、少し北に大きな森があるからね。
そこなら俺達も日帰りできるし、ちょうど良いと思うよ──
シノブはこの世界に出現したときにいたピエの森を思い出しながら言った。
リソルピレン山脈に隣接するあの森の中なら、人々を騒がすことなく会うことができるだろう。そう思ったシノブは、森での再会を約束した。
──わかりました。早く飛べるように頑張ります──
オルムルは再びシノブを真っ直ぐ見上げると、嬉しそうな思念を返した。
──オルムルさん、待ってますから早く大きくなってくださいね──
アミィもオルムルの頭を撫で、心の声で語りかけた。
──半年もあれば、狩場から出ることもできよう。我が付き添う必要があるがな。
そのときは『光の使い』よりも大きいだろうな。重さも『鉄腕』達の馬よりも重いだろう──
アミィの思念を受け、ガンドが答える。
幼竜は生後半年で体長3mにもなる。そして、体重は1tを超えるらしい。
その頃には、幼竜は旅立ちに備えて狩場の中で飛行練習をする。しかし主に夜間、それも高空を飛ぶため、今までドワーフ達も気が付かなかったようである。
北に旅立つ際も、目立たぬように夜中に一気に人の住む領域を飛び越えるという。
──オルムル、そのときを待っているよ──
シノブもオルムルの頭に手をやり、優しく心の声で語りかけた。
──『光の使い』よ。『鉄腕』に伝えてほしい。
此度の事では迷惑をかけた。我らは山の民と意思を交わすことができぬが、そなたらに危害を加えるつもりはない。これからも良き隣人でありたいと思っている──
岩竜ガンドはシノブに思念で伝えた後に、その首を下げる。どうやら頭を下げているつもりらしい。隣のヨルムも同じ仕草をしている。
シノブは彼の言葉をイヴァールに伝えた。
「気にするなと伝えてくれ。俺達も知らぬうちに竜達の迷惑となっていることもあるだろう。それより、その『鉄腕』という名に恥じぬ戦士になると、ガンドとヨルムに言ってくれ」
シノブが伝えるガンドの言葉に、イヴァールは厳粛な表情で答えた。そして頭を下げるガンドとヨルムに向かって、彼は右腕を掲げてみせる。
『鉄腕』とはヨルムがイヴァールに贈った二つ名だ。
ヨルムは、よほど彼の戦斧での攻撃が堪えたらしい。魔力を封じられたとはいえ、竜の骨まで戦斧を届かせる彼に敬意を表し『鉄腕』の名を贈ったのだ。
「竜と戦えたのは、シノブの魔術があってのこと。『鉄腕』の名はまだ俺には相応しいとは思えぬが、いつか堂々と名乗れるように精進する」
最初イヴァールは、ヨルムから贈られた二つ名を固辞していた。だが彼らの再三の言葉に、遂に説得を諦め受け入れたらしい。
「わかった。そう伝えるよ」
厳粛な顔で誓う友の言葉を、シノブは岩竜達に伝えた。するとガンドとヨルムは翼を広げて首も擡げ、洞窟に響き渡るような咆哮を放った。
シノブ達がオルムルと友誼を誓ったときにも見せたが、これは祝福を表す竜の仕草だという。そのことを聞いていたイヴァールは、背負っていた戦斧を抜き放つと目の前に掲げてみせた。
◆ ◆ ◆ ◆
「『竜の友』よ。名残惜しいが遂に別れの時が来た。
お主から受けた恩義は決して忘れぬ。儂らは『竜の友』の偉業を永遠に語り継ぐであろう」
セランネ村を出立しメリエンヌ王国に帰るシノブに、大族長エルッキが語りかける。
彼の後ろには、シノブ達を見送りに来た村のドワーフ達が集まっていた。その中には、イヴァールの弟パヴァーリや妹アウネをはじめとした彼の家族達もいる。
「私のことは良いですから、これからも竜達と共存していけるように語り継いでください」
シノブは、あらたまった様子のエルッキに己の願いを伝えた。
竜達が狩場に来る理由は、ドワーフ達には伝えていない。ガンド達が、子育てのためであることは秘密にしてほしいと願ったからだ。
だからドワーフ達は、これからも竜の活動期ということだけを語り継いでいく。
シノブにはそれが良いかどうかはわからないが、ガンドとヨルム自身が選択したことだ。次に竜が子育てに来るのは100年以上も先だと思われるが、シノブはそのときトラブルにならないことを祈っていた。
「シャルロット殿。お主の言った通り、儂と息子は一族や国のために尽くし、責任を取る事にした。
確かに儂らが役を降りたところで、一族のためにはならん。後を託すに足る者が出てくるまで頑張りとおすつもりだ」
イヴァールの祖父である長老タハヴォも、シャルロットに別れを告げる。
彼はヴィルホの扇動を止められなかったことを悔いていたが、竜退治の前にシャルロットに言われた通り、今後の働きでその失策を挽回することに決めたようだ。
「若輩者の意見を聞き入れていただき恐縮です。それではご壮健で」
シャルロットは、タハヴォに短く挨拶すると握手を交わした。
「ところでイヴァール。見送りに来るだけなのにずいぶん重装備だね。ヒポも連れているけど、途中まで送ってくれるのかい?」
シノブは、いつも通り鱗状鎧を身に着け戦斧と戦棍を背負っているイヴァールを見た。彼は、愛馬であるドワーフ馬のヒポも連れている。
「俺はお主と共に行くぞ」
イヴァールはいつも通りの低い声でぼそりと答えた。
「えっ! 村はどうするんだ? 戦士長だろ?」
イヴァールの言葉にシノブは驚いた。
「『竜の友』よ。息子はお主の従者として使ってくれ。
パヴァーリのように馬の世話でも荷物運びでもなんでもさせて構わない」
イヴァールの冗談かと思ったシノブだが、父親のエルッキも真顔でシノブに頼み込む。
「ですが……」
真剣な様子の二人に冗談ではないとわかったが、シノブは困惑していた。
「お主のような大魔術師に差し出せるようなものは儂らには無いからな。
お主達の魔法の家や装備のようなものは儂らには作り出せんし、金で済ますことでもなかろう。
息子は『鉄腕』の名を授かったが、それに相応しい成果は上げておらん。『竜の友』の従者として働くことで少しはその名に近づけるだろう」
エルッキは、一族はおろかドワーフ全体に影響する問題を解決したシノブに対して戦士を一人差し出すなど当然のことだ、と続ける。
「イヴァール、それで良いのか?」
シノブは、イヴァールの意思を確認する。
「良いも何も、俺から頼み込んだことよ。既に引継ぎも済ませた。次の戦士長はタネリだ」
イヴァールがここ数日忙しそうにしていたのは、このためだったらしい。
後のことも全て片付けてきたという彼に、シノブも本気だと悟った。
「俺こそ力不足だがな。しかし、レンニと共に大勢の戦士が失われた。奴の後始末をするのが俺の償いだろう。なるべく早く次の戦士長を育てるつもりだ」
見送りに来ていたタネリは、イヴァールに続けてそう言った。
レンニを含め15名の熟練の戦士が失われたセランネ村である。きっと次の戦士長は楽な仕事ではないのだろう。だが、彼はそれを己の使命と定めたようだ。
「……そうか。イヴァール、これからもよろしく頼むよ」
イヴァールとタネリの言葉に、シノブも受け入れを決意した。
シノブは、この素朴で頑固なドワーフと別れ難く思っていた。そんな彼にとって、この申し出はとても嬉しいものだった。シノブは、彼らが望んで決めたことであれば、ありがたく受け止めようと思った。
「おお! まずは、アミィのようにお主の従者に相応しくなるぞ!
アミィ、よろしく頼むぞ!」
イヴァールはシノブと握手すると、アミィに笑いかけた。
「はい、イヴァールさん! 一緒に頑張りましょう!」
アミィも、そんなイヴァールを嬉しそうに見ている。
彼女はシノブと会ったとき、自分のことを『シノブ様の第一の従者』と言っていた。こちらの世界に馴染んだシノブに、第二、第三の従者が出来ることを望んでいたのかもしれない。
彼女の感情が表れる狐耳と尻尾は、元気良く立っている。イヴァールの参加を心から歓迎しているのだろう。
「アミィ殿。イヴァール殿が従者に加わったのなら、先輩として厳しく指導したほうが良いのでは? それに後輩に敬称を付けなくても良いでしょう」
シメオンがいつも通りの無表情で、アミィに言う。
シノブは、そんな彼を微笑ましく思いながら見ていた。旅をする間に、シメオンの皮肉は彼独特のユーモアだと理解したのだ。
「アミィ殿。お主が『竜の友』の第一の従者なら、息子は第二の従者だ。シメオン殿の言う通り厳しく扱いてやってくれ」
エルッキは真顔で言い添える。どうやら彼は、シメオンの言葉を本気にしたらしい。
「そうよ! 兄さんなんか遠慮しないでこき使ってやって!」
アウネも冗談っぽくアミィに言う。その隣ではパヴァーリも頷いていた。
「そ、そんな! イヴァールさんはイヴァールさんのままで良いです!」
アミィは彼らの言葉に慌てて両手を振って否定する。
タネリを手玉に取り竜との戦いにも赴くアミィが慌てふためく様子に、シノブ達や見送りのドワーフ達は大きな笑い声を上げた。
◆ ◆ ◆ ◆
シノブ達は、それぞれの愛馬に騎乗し、セランネ村を離れていった。
ボドワン達メリエンヌ王国から来た隊商も、二日ほど前にドワーフの戦士に護衛されながら旅立っている。だが、足の遅い隊商だ。いずれシノブ達が追いつき、追い越すだろう。
「しかし『竜の友』に『鉄腕』か。ボドワンさん達は王国に戻ったら今回のことを話すだろうし、あちこちに広まってしまうのかな……」
シノブは軍馬リュミエールの上で呟いた。
元々、竜退治に来たのだ。シノブは、竜と戦った事が広まるのは仕方ないと思っていたが、大仰な二つ名まで加わったことに気恥ずかしさを感じていた。
「当然そうなると思います。ベルレアン伯爵領だけでなく、王国全体に広まるでしょう」
シノブの呟きに、アリエルは笑みと共に応じる。
彼女からすれば非常に名誉な称号であり誇って当然のものだが、それを恥ずかしがるシノブに微笑ましさを感じているようだ。
「竜を従えるなんて伝説並みの出来事ですからね~。あっという間に広がりますよ~」
「従えたわけじゃないけどね。しかし、こうなると『光の使い』のほうは隠しておいて正解だったな……」
暢気そうなミレーユに、シノブは真顔を崩さず言葉を返す。
ここヴォーリ連合国やこれから戻るメリエンヌ王国には、それぞれ建国王を助けた聖人がいる。神の使いと言われている彼らと同一視されると王家などから注目されるのでは、とシノブは心配していた。
シャルロットを支えていくと誓った彼は、聖人認定されて彼女から引き離されるのを恐れていたのだ。
「できれば『鉄腕』も言いたくなかったのだがな。ミレーユ殿がパヴァーリに言ってしまう前に、俺も口止めしておくべきだった」
イヴァールは不機嫌そうな顔だ。
竜の棲家からパヴァーリ達の待機場所に戻ったとき、ミレーユがパヴァーリに『鉄腕』の二つ名を伝えてしまったのだ。
「イヴァールが『竜の友』という呼び名を作ってくれたから助かったよ」
シノブは、イヴァールにしみじみと感謝した。
竜の棲家から待機場所に戻る間、からかい半分で『光の使い』と呼ぶ仲間達にシノブは困惑していた。そこで、イヴァールが『竜の友』という名を贈ったのだ。
シノブにとっては大仰な『光の使い』より『竜の友』のほうがまだ受け入れやすかった。
だから、待機場所で『鉄腕』の名を聞いたパヴァーリが、竜を封じたシノブには二つ名はないのかと聞いたとき、イヴァールは『竜の友』と答えたのだ。
「『光の使い』では『闇の使い』を思い浮かべてしまいますからね。
ですが、その偉業から結局は『闇の使い』を連想してしまうとは思いますが」
シメオンはどちらも大差ないと言いたげだ。
彼は、シノブをシャルロットの婿に相応しいと考えている。そのためシノブが名を上げること自体は歓迎しているらしい。
「う~ん。今回は街道まで竜を連れて行く必要があったからね。竜と仲良くできる事を示さないといけなかったし」
「不幸中の幸いは、竜の念話については秘密に保たれたことだな」
己の決断を振り返るシノブの言葉に、シャルロットが慰めの言葉をかける。
ボドワン達には、シノブの力に屈した竜が彼の騎獣となることを受け入れたと説明している。彼らは、乗馬が乗り手に従うようなものだと思ったらしい。
「『剛腕アッシ』の英雄詩は正しかったわけですね。竜と話したのは『剛腕』ではなく『闇の使い』でしたが。
しかし念話の件を伏せても、良く考えれば伝説の英雄と同等のことを成し遂げたとわかります。そこだけ隠してもどれだけ効果があるか疑問ですが……まあ、何もしないよりは良いでしょう」
シメオンは、アッシの英雄詩の一節に、彼が竜と話したとあったのを思い出したらしい。
シノブが実績を上げることを望んでいる彼も、あまりに大事になるのは都合が悪いようだ。王家や他の伯爵家の介入を懸念しているのかもしれない。
「シノブ様には私とイヴァールさんがついています! たとえどんな困難が降りかかっても、きっと大丈夫です!」
シメオンの言葉を打ち消すかのように、アミィが元気の良い声を上げた。
「そうだ。それに私はシノブを支えると誓ったのだ。たとえ王国中を揺るがす騒ぎになっても私もついている。だからそんなに気にしなくても良い」
シャルロットも、アミィに続いてシノブを励ます。
「そうか……ありがとう。聖人扱いされるのは困るけど、仮にそうなっても皆がいるからね。
俺が一人で悩む必要はなかったね。これからもよろしく頼むよ」
一人で抱えることはなかったと気がついたシノブは、明るく皆に語りかけた。そして、そんな彼をシャルロット達は温かく見守っていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回から第5章になります。




