04.12 白骨の道 中編
「シノブ様達、何を話しているんでしょうね~」
ミレーユは見張りに立つシノブとシメオンに興味津々のようだ。
女性陣は、シノブ達から少し離れたところに座っている。鎧は付けたままだが、兜を取り被っていた鎧下も降ろして顔や頭の汗を拭ったり、アミィが配った魔法のお茶を飲んだりして寛いでいた。
「あの無愛想なシメオン殿が、あんなに話し込むなんて珍しいですよね~」
草むらに座り込み、赤い髪をほどきながらミレーユは呟く。
彼女は、珍しく長話をするシメオンが気になるのか、彼らの様子を眺めていた。
「やはり、シャルロット様の話題でしょうか」
アリエルは琥珀色の瞳を煌めかせ、シャルロットに悪戯っぽく笑いかける。
「シノブ殿は、噂話などしないと言っていた!」
シャルロットは、纏めていたプラチナブロンドを降ろしてタオルで拭っていたが、アリエルの言葉にそっぽを向く。
「アミィさん、シノブ様達が何を話しているか、聞こえませんか?」
狐の獣人で耳が良いアミィに、ミレーユは問いかける。
「えっ……き、聞こえませんよ!」
ピンと狐耳を立ててシノブ達のほうを見ていたアミィは、慌てたように手を振りながら答える。
「怪しいなぁ~、教えてくれたって良いじゃないですか!」
そう言うとミレーユはアミィにじゃれついた。アミィを抱え込むと、彼女のオレンジがかった明るい茶色の髪を撫でまくる。
「ん~、こんなに可愛いのに強いなんて、反則ですよ! ちっちゃくって細くって髪も綺麗で! お姉さんにも美容の秘訣を教えなさい!」
「や、やめてください、ミレーユさん!」
後ろから抱きかかえたミレーユは、更にアミィの首筋をくすぐった。するとアミィは笑いながら身を捩る。
もっともアミィならミレーユを振りほどくのも容易だろうし、表情が示すように本気で逃れるつもりはなさそうだ。
「あっ、可愛いネックレス!」
ミレーユが見つめているのは、アミィの首元だ。首をくすぐられたアミィが勢いよく顔を背けると、その拍子に襟元から可愛らしいネックレスが飛び出してきたのだ。
綺麗な紋様が刻まれたプラチナの鎖に、小さな宝石が散りばめられたペンダント。愛らしくも繊細で高級感のある首飾りだ。
「これは、デュフレーヌの品では!?」
微笑みながらアミィとミレーユの様子を見ていたアリエルだが、ネックレスを見て驚きの声を上げた。ちなみにデュフレーヌとは領都セリュジエールにある高級宝飾店である。
アミィは、従者ということもあり華美な装飾は避けていた。シノブが贈ったネックレスも普段は大切そうに胸元に仕舞っている。
表に出すのはシノブと二人のときくらいで、アリエルも今まで気がつかなかったらしい。
「領都の宝飾店か……中々良い品を扱っているらしいが……」
シャルロットも青い目を見開き、興味深げにアミィのネックレスを見る。
「アミィさん! シノブ様のプレゼントですか!」
「……はい」
後ろから覗きこむミレーユに、アミィは小さな声で答える。
「そ、そうか。シノブ殿に贈られたものか……」
「あ、あの! 従者としての働きをお褒めいただいたものですから! ご褒美のようなものです!」
驚いた様子のシャルロットに、しきりに経緯を説明するアミィ。
「シノブ様も中々甲斐性がおありなのですね。シャルロット様、先々が楽しみでは?」
アリエルは、再びシャルロットに優しい微笑を向けた。
「しかしだな……私にはシノブ殿にプレゼントを貰う理由など……」
「理由なんてどうでもいいんですよ! シノブ様とお話でもしていれば、いくらでも出てきます! ……シノブ様は聞きたいことがあれば聞くって言いましたが、待っているだけじゃダメですよ!」
「あ、あのミレーユさん……重いです」
どうにも煮え切らない様子のシャルロットをじれったく思ったのか、ミレーユが声を張り上げる。
ミレーユはアミィの背中から乗り出すようにしている。一方のアミィは押しつぶされた形だから、少し苦しそうだ。
「話か……」
そう呟くと、シャルロットは僅かに視線を彷徨わせる。どうやら進言を素直に受け入れ、何を話すべきか思案し始めたらしい。
「言っておきますけど、武術や魔術の話ではないですからね」
「うっ! 駄目か!?」
どこか楽しげな様子でミレーユが付け加えると、シャルロットは素早く顔を向け直す。
武芸に邁進してきたシャルロットにとって、これらを封じられるのは厳しいのだろう。虚を衝かれたといった表情からすると、かなりの衝撃を受けたようである。
「何が駄目なのですか?」
おしゃべりに熱中する女性陣に、シメオンの声が降り注いだ。彼のみではなく、隣にはシノブもいる。
「シャルロット、いいかな?」
「ああ! 何でも聞いてくれ!」
シノブが声を掛けると、シャルロットは勢いよく振り向く。そして彼女は頬を紅潮させつつ、じっと見つめたまま続きを待つ。
「……いや、見張りの交代をお願いしたいんだが。今のところ何の動きもないし、特に確認しておくことはないけど」
躊躇いも顕わに、シノブは首を傾げる。するとシャルロット以外の女性陣は、おかしそうな笑い声を上げた。
シャルロットは俯き、耳の先まで赤くしている。そしてシメオンは興味深げな色を面に浮かべてはいるが、どこか優しさを感じる視線を自身の又従姉妹に向けていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「……しかし、竜はなんで活動期に入るのかな」
シノブは誰に言うともなく呟いた。
シャルロットとアリエルが見張りに立つ中、シノブをはじめ、他の面々は夕食の準備をしていた。
外は寒く不便ではあるが、魔法の家に入っていては後れを取る可能性もある。そこで夜が更けるまでは、なるべく外で待機することにしている。
アミィとミレーユが魔法の家の中で料理を準備している間、防寒具を着込んだシノブはイヴァール達と簡単な炉を設置していた。
セランネ村から持ってきた魔道具の炉はストーブ代わりにもなる。火が上から見えないので竜に発見される可能性も低いだろうというイヴァールの勧めで持ってきたものだ。
「わからん。長老達が伝える伝承にも活動期に入る理由はない」
シノブの呟きを聞きつけたイヴァールがぼそりと言った。
セランネ村まで着く間にイヴァールから聞いた話では、活動期は100年から200年に一度くらいというだけで、その理由が語られることはなかった。
ドワーフの長老の言い伝えによれば、リソルピレン山脈にいる竜は岩竜と呼ばれるもので山の岩や鉱石を食べているそうだ。岩石自体を栄養とするのではなく、そこに含まれる魔力を吸収しているらしい。魔獣を食べることもあるが、普段はほとんど魔力の吸収だけで足りるという。
イヴァール達が見た竜は全長20mくらいの成長しきった大物で、長老達は何百年も生きた成竜だという。
普段の竜は狩場の境界を悠然と飛行するだけだ。しかし、これは骨の道を造って魔獣達を狩場に閉じ込めるためで、全力の飛翔は馬の疾走より何倍も速いそうだ。そして全速力で急降下する竜に、魔獣は逃げる間もなく狩られるしかない。
竜は巨体の割に動きも素早く、空中でも容易に方向を変えるという。そのためイヴァールは、大型弩砲の効果を疑問視している。
「伝説などでも構いません。何か言い伝えはないのですか?」
シメオンはイヴァールに問いかける。参謀役となりつつある彼としては、少しでも戦いを有利に進める情報がないか気にかかるのだろう。
「ふむ……我らに伝わる英雄詩ならあるがな。だが、子供達も聞くおとぎ話のようなものだぞ」
イヴァールは、黒々とした髭を撫でながら言った。しかし表情は疑わしげで、彼自身はあまり信じていないようだ。
「案外、そういった話の中に真実が隠されているんじゃないかな。料理が出来るのを待っている間、暇だし聞かせてくれないか」
古代史好きのシノブとしては、伝承に隠された真実というのもあるのではないかと期待する。
「……よかろう。下手な歌だが笑うなよ?」
イヴァールはシノブの頼みに、しぶしぶといった様子で了承した。どうも英雄詩を謳い上げるのが恥ずかしかったらしい。
「『……あまたの支族よ山の子よ。我らが長の歌を聞け。
剛腕アッシの勲ぞ。巨竜を倒した勲ぞ。
巨竜が暴れる山の中、獣は畏れ逃げ惑う。山を下って襲い来る。牛馬を襲い吠え狂う。
戦士は狩るが倒れゆく。女は逃げて隠れ住む。山の怒りに村々は、滅びの時を待つばかり。
剛腕アッシは立ち上がる。戦士を連れて山を征く。
空飛ぶ竜に射かけるが、強弓弩折れ尽きる。
リソルピレンの山の中。巨竜の狩場の奥深く。剛腕アッシは友と征く。闇の使いと山を征く。
巨竜の棲家の奥深く、アッシの戦斧が竜を撃つ。
巨竜の怒りに山震え、アッシの戦斧に地は裂ける。
三日三晩の戦いに、アッシも竜も倒れ伏す。
剛腕アッシは竜に言う。我らが里に近づくな、お主は山に住むがよい。
アッシの言葉に竜は伏し、山の平穏戻りくる。里の平和は甦る』
……まあ、後はアッシを讃える言葉が延々と続くだけだから良いだろう?」
朗々と謳い上げたイヴァールは、恥ずかしそうに歌を途中で終わりにした。
「照れることないよ! 良い声じゃないか!」
イヴァールの低い声は、素朴な英雄詩に良く似合っていた。
シノブは思わず拍手をし、イヴァールを褒め称える。
「そうですよ。イヴァール殿も戦斧以外に特技があったのですね」
シメオンもその表情に微かに驚きを浮かべた。
「ふん! シメオン殿、それは褒め言葉か!?」
照れのせいか顔を赤く染めたイヴァールが、大声でシメオンに叫ぶ。
「いや、失礼しました。
なるほど、ヴォーリ連合国を興したアハマス族の英雄、剛腕アッシを歌った英雄詩ですか」
シメオンの言葉を聞きながら、シノブはベルレアン伯爵家の家令ジェルヴェから聞いた話を思い出していた。
剛腕アッシとは500年以上昔のアハマス族の族長で、それまで統一される事のなかった各支族を纏め、ヴォーリ連合国の初代大族長になった人物だという。
ジェルヴェからは、メリエンヌ王国の建国王エクトル一世とほぼ同時期の人物だと教わっていた。
「ところで『闇の使い』って……」
シノブがそう言いかけたとき、突然北のほうから、ズドンッという地鳴りのような音が響いた。
◆ ◆ ◆ ◆
「シメオン、アミィとミレーユを呼んできてくれ!」
シノブはシメオンに魔法の家の中の二人を呼んでくるように伝えると、北方に目をやった。
「イヴァール、竜の仕業か?」
「……他に何かあるか?」
シノブは魔術を使う準備をし、イヴァールはその戦斧を構える。戦斧からは既に鞘を外しており、戦う準備は万端だ。
「シャルロット、アリエル! 近くに集まってくれ! 魔力障壁を張る!」
シノブは、見張りをしていた二人に声を掛けて呼び寄せる。
竜のブレスを防ぐための魔力障壁だが、散開していると広範囲に張らなくてはならない。
シャルロットとアリエルは、シノブの緊迫した様子に、急いで駆け寄ってきた。
シノブは、自分達と魔法の家に加え、近くに繋いでいる軍馬達も障壁で守れるように、魔力を集めていった。
既に日は落ち、あたりは残光でうっすらと明るいが、昼間より見通しは悪くなっている。
北の空を見上げるが、まだ竜の姿は見えない。
「シノブ様! 竜ですか!?」
魔法の家から出てきたアミィがシノブに問う中、一緒に出てきたミレーユは家の前に置いていた弓矢を手に取った。
「ああ! 北から大きな魔力が来る! 速いぞ!」
シノブは、巨大な魔力が北から物凄い勢いで近づいてくるのを感じていた。
彼の軍馬リュミエールは、短時間であれば時速150kmにも達する早駆けが可能であった。これは非常に強力な身体強化能力を持つ軍馬の中でも特別な名馬と呼ぶべきリュミエールならではのスピードだが、巨竜の接近は更に何倍もの速さのようだ。
(2倍? いや、それ以上の速さか!?)
シノブが驚愕する中、北の空に小さな黒い点が見えた。
シャルロットとアリエルも、シノブの近くに来て槍を構えているが、遥か高空を飛ぶ竜に槍や弓などなんの役にも立たないように思われた。
「正面、来るぞ! 30秒もない! まず障壁で防御、状況次第で反撃! 攻撃に備えて!」
魔力障壁を張ったシノブが叫ぶ中、前方2kmほどの距離に巨竜は迫っていた。イヴァールから聞いた通りの巨体は、どうやら濃い灰色のようで、薄暗い空に溶け込んでシノブ達には見づらかった。
「あれが岩竜ですか!」
普段は冷静なシメオンも、驚きの声を上げる。
あっという間に接近してきた岩竜は、その巨大な翼をほとんど動かさないのに猛禽の何倍もの速度で飛行している。巨大な頭に、比較的小さな前足。後方には太い後ろ足と尻尾があるようだ。
シノブは、翼が生えて倍以上に大きくなったティラノサウルスのようだと思った。
「来ます!」
シノブに次いで魔力感知が得意なアミィが警告する。
その瞬間、巨竜がその口を大きく開けると、轟音と共にブレスを放った。
「くっ!」
魔力障壁に命中したブレスは大地を揺るがさんばかりの轟音を立てた。
アミィと同様に、竜の魔力が上昇していくのを感知していたシノブは、それに合わせて魔力障壁を強化していた。
ヴァルゲン砦で投石機や大型弩砲の攻撃を防いだ魔力障壁だが、念のためにそのときの何倍もの魔力を注いでいる。
しかしブレスを受けたとき、シノブは思わず苦鳴を上げていた。障壁が押し戻されるように感じたのだ。
シノブは、さらに魔力を注ぎつつ障壁を支えていく。
(これは、魔力の塊か? 物質化しかけているようだけど、物凄い魔力量だ!)
シノブが感じとったように、巨竜のブレスは魔力の塊だった。シノブが魔力で岩弾を発射するように、充分な量の魔力があれば、物体を弾き飛ばすこともできる。
しかも巨竜のブレスは、膨大な魔力量のせいか本来は無いはずの色がついていた。
頭だけで乗用車なみに巨大な岩竜。その頭部に相応しい大きな顎を思い切り開いて放ったブレスは、シノブ達の視界を覆い尽くすほどの黒い奔流であった。
「これが竜のブレス!?」
ミレーユが驚きの声を上げる中、巨竜はシノブ達の上空を飛び去っていくようだ。
「南側に抜けていく! 各自任意に攻撃!」
南側に莫大な魔力の塊が通り抜けるのを感じたシノブは、そう指示を出すと自身も魔力を溜めていく。
既に100mほども南に離れた巨竜に、ミレーユが矢を放ち、アリエルが岩弾、シャルロットも投槍を試みる。しかし、あっという間に離れていく巨竜は何の痛痒も感じていないようだ。
「レーザー!」
シノブは蓄積した魔力を光に変換し、レーザーを放った。
直径10cmほどに収束した光の束は、シノブが掲げた手から真っ直ぐ伸びているのだが、その収束率から周囲に見えることはない。シャルロット達には、強烈な魔力がシノブから放たれたことだけがわかる。
「躱した!?」
巨竜を見つめていたシノブが、驚愕したような声を上げた。
なんと、シノブがレーザーを撃つ直前に、巨竜は斜め横に滑るように回避したのだ。
「発射前の魔力を感知したんだと思います……。
竜は魔力で生きているから、感知能力も飛びぬけているんだと……」
シノブの叫びに、アミィも驚きを見せつつ呟く。
シノブ達が立ちつくす中、巨竜はあっという間に小さくなり闇の中に消えていった。
「イヴァール殿。竜は人を無闇に攻撃しないのでは?」
岩竜のいきなりの攻撃に疑問を抱いたらしいシメオンが、イヴァールに問いかける。
「……シノブよ! 北にはパヴァーリ達がいるのではないか?」
唖然とした様子で南の空を見つめるシノブ達に、イヴァールが大声を上げた。
「そうか! 北の轟音は、パヴァーリさん達を狙った攻撃かも!」
シノブは、竜を怒らせなければ人が襲われることはない、というエルッキの言葉を思い出した。
「ああ! おそらく奴らが怒らせたのだ!」
イヴァールは焦りの混じった叫び声を上げた。
このあたりには、セランネ村の戦士レンニが率いる一隊がいるはずである。シノブ達に先んじて出発した彼らと会うことはなかったが、セランネ村から竜の狩場を目指す以上、そんなに遠くではないはずだ。
そして、レンニには功を焦る若者が大勢ついていった。その中にはイヴァールの弟パヴァーリもいる。
「すまぬがシノブよ! 仲間達を助けに行くのを許してくれんか!」
「何を言ってるんだ! イヴァールの弟や仲間を助けるのは当然だろ! 急いで出発だ!」
シノブの掛け声に、一行は出発の準備を急いだ。
◆ ◆ ◆ ◆
「パヴァーリ! 無事だったか!」
白骨の道に沿って、10kmほど北方に進んだシノブ達。そこで彼らが見たのは、無残に壊された4機の大型弩砲と、怪我に呻く戦士達の姿だった。
「……兄貴! 俺は……俺は何もできなかった……」
頭に怪我を負ったのか、額から血を流しているパヴァーリ。兄の姿を見て、一瞬安心したような表情を浮かべるが、下を向いてしまう。
「生きていれば次がある。お前は生きているじゃないか」
イヴァールは、普段と違った優しげな声で語りかけると弟の肩に手をやった。
そんな彼らを横目に見つつ、シノブとアミィは怪我人に治癒魔術を施していく。シャルロット達も、怪我人の状態を調べ、重傷の者からシノブ達のほうへと連れて行った。
「でも、俺は竜の姿を見て、大型弩砲に運ぶ矢を捨てて逃げたんだ! 俺は卑怯者だ!」
竜に怯えて持ち場を離れた自分が許せないのか、パヴァーリはそのまま崩れ落ちてしまう。
「……お前が矢を運んでも大型弩砲は結局壊されただろう。俺達も竜の一撃を防いだが逃げられてしまった。
過ぎたことを悔やむ前に、自分のできることをするんだ!」
イヴァールは、弟にどう声をかけるか躊躇ったようだが、ありのままの事実を伝えることにしたようだ。厳しい声で弟を叱咤する。
「……自分のできること?」
「そうだ。怪我人を手当てし、死者を弔う。お前、本当に戦友を捨てて逃げ帰るつもりか!」
目に涙を溜めて見上げるパヴァーリを、厳しく叱りつけるイヴァール。だが弟を見下ろす彼の瞳には、優しい色が宿っていた。
「全てはそれからだ。さあ、お前の怪我は大したことはない! さっさと動け!」
「ああ! 兄貴!」
イヴァールの厳しくも温かい声に、パヴァーリは涙を拭うと再び立ち上がった。
お読みいただき、ありがとうございます。




