04.01 出発のプレリュード
そろそろ涼しさが増してきた領都セリュジエールの早朝。シノブ達はベルレアン伯爵の館の裏庭で、模擬戦をしていた。
「腕を上げましたね」
「ありがとう、シノブ殿。だが、全く敵わないな。今も、ミレーユと二人だから何とか勝負になったが……」
シノブが構えを解いて剣を下すと、シャルロットは礼で応じた。しかし彼女は、ほろ苦い笑みも浮かべていた。
シャルロットは額に流れる汗を、アリエルから手渡されたタオルで拭っている。
綺麗に結い上げたプラチナブロンド。そこから零れた幾筋かが額に張り付き、訓練の激しさを示すかのようだ。青と白を基調にした軍服にも、汗が滴り落ちている。
「技の切れが良くなりましたし、スピードも随分上がってきましたね。一ヶ月も経たないのに凄く上達されたと思います」
側に控えていたアミィもシノブと同様に賞賛した。彼女が言うとおり、シャルロットは決闘の時と比べて格段の進歩を見せている。
このところシャルロット達は、毎朝の魔力操作の訓練と模擬戦を日課としていた。その成果が早くも現れたようで、素晴らしい成長ぶりである。
「褒めてくれるのは嬉しいが、まだまだシノブ殿との差は大きいな。シノブ殿は汗すらかいていないではないか」
シャルロットは、シノブを見ながら溜息をつく。
「……これは魔法の服なので、動いてもあまり汗をかかないんですよ」
シノブは自身の服の胸元辺りを摘みつつ、微かな笑みと共に応じる。
シャルロット達の軍服にどこか似た白い服。肩に金色の飾緒がついてはいるがすっきりとした機能的な服である。
実は、シャルロットとの決闘の後、魔法のカバンに数着入っていたのだ。
(アムテリア様の差し入れなんだろうけど……決闘で軍服を借りたから、それらしい服も用意してくれたのかな。なんだか古い映画で見た軍人みたいだね)
アムテリアの過剰ともいえる配慮ではあるが、その心遣いには素直に感謝するシノブ。
「シノブ殿達は本当に色んな魔法装備を持っているのだな。
だが装備の性能だけでもあるまい。この前の決闘のように魔法装備なしでも汗をかかないのではないか?」
シャルロットは煌めく青い瞳でシノブを見つめながら問いかける。
「今のシャルロット殿なら、以前ほど簡単にはいかないでしょう」
シノブは、彼女を励ますように微笑みかける。
「……ありがとう。
しかし、それもシノブ殿やアミィ殿から魔力操作の特訓をしてもらったからだ。私だけでなく、アリエルやミレーユも随分強くなったと思うぞ」
シャルロットは、シノブが励まそうとしているのがわかったのだろう。僅かに残念そうではあるが、相手の言葉を受け入れた。そして彼女はアリエルとミレーユを振り返ると、二人の上達を褒め称える。
「はい、私の岩弾や水弾の威力も上がりましたし、以前より早く撃てるようになりました。それに、魔力が節約できるようになったのは大きいですね」
シャルロットの言葉を受け、アリエルがシノブとアミィに一礼する。すると明るい栗色の髪が揺れて朝日に煌めき、彼女の爽やかな笑顔を引き立てる。
「私も効率的に身体強化を使えるようになりましたね~。魔力があまり多くないので、とても助かってますよ~」
今まで模擬戦をしていたため、ミレーユはバテ気味である。彼女はアリエルからタオルを受け取ると、乱れた呼吸のまま、その赤い髪に被っていた。
ミレーユは、シャルロットほどではないが強力な身体強化を使える。攻撃魔術が苦手な彼女にとって身体強化は切り札だが、魔力量の少なさゆえ使いどころが限られていたらしい。
「それもこれも、あの訓練方法を教えてもらったおかげだな。本当に感謝している」
シャルロットは、きりっとした表情を僅かに緩ませていた。彼女は、自分達の技量に確かな向上を感じたようだ。
実は、シノブ達から魔力操作を習おうと言い出したのはシャルロットだ。
彼女はミュリエルが教わった魔力操作の訓練方法が、非常に優れていると感じたらしい。そこで、シノブとアミィに自分達の指導もしてくれないかと頼んだのだ。
そして、魔法の家を薔薇の庭園に出してから数日後、シノブとアミィは森の中で実施した魔力操作の訓練方法を彼女達に教えてみた。
今回はアミィの変身は無しであったため軍隊調の指導こそなかったが、騎士であるシャルロット達が生徒なためか、やはりどこかしら軍人っぽさが漂う訓練風景となっていた。
「あの訓練は、領軍でも正式採用することとなったぞ。我々が一月足らずで向上したのもあって、既に独自に取り組んでいるものも多いようだ」
シャルロットは。シノブ達に領軍の様子を説明する。
決闘をしたのが八月の終わりごろ。そこから一ヶ月もしないうちに新たな訓練方法を取り入れるベルレアン伯爵領軍は、柔軟な組織なのかもしれない。
「決闘でシノブ様の戦いを見た人も多かったですからね~。
ジオノ大隊長なんか、早速、東門守護隊で兵士達に訓練しているそうですよ。『これで守護隊を叩き直すんだ!』って頑張っているみたいです。守護隊長に就任したばかりだっていうのに手早いですよね~」
ミレーユは呆れたような声を上げている。
マクシムの捕縛後、彼が務めていた東門守護隊長には伯爵家の家臣ジオノが就任していた。
東門守護隊にはマクシムの実家、ブロイーヌ子爵家から来たものが多かった。
シャルロット暗殺事件に関与していた者もいたし、マクシムの権勢を笠に着て威張り散らす者も多かったらしく、事件後に多くの幹部が入れ替わったのだ。
叩き上げの武官であるジオノは、守護隊長となって立て直しに奮闘しているらしい。
「マクシムの一件で、多くの隊長が入れ替わって大変でしょうね」
アリエルも彼の苦労を思ったのか、琥珀色の瞳を陰らせていた。
マクシムは九月に入って早々、王都からブロイーヌ子爵が帰還するとすぐさま処刑された。彼は中央区の北の外れにある大審院で死刑を言い渡され、その裏にある刑場で短い一生を終えたのだ。
事件の解決に関わったシノブやアミィも大審院に傍聴しに行った。後ろ手に縛られ発言も許されずに刑吏に囲まれたマクシムは、随分やつれた様子であったがシノブ達を恨みがましく睨んでいた。
伯爵達には王都での捜査権がないため、王都にいるという黒幕の存在は立証できないままである。王都に行ったきりの先代伯爵が内密に調査を続けているが、あまり成果はないようだ。
そのため公式には、マクシムの単独犯でミュリエルの夫となって伯爵位を簒奪する計画だったと発表されている。
「ブロイーヌ子爵が隠居したから、ルプティの代官も家臣の方がなったんでしたね」
シノブは、大審院で見たブロイーヌ子爵を思いつつ、シャルロットに問いかけた。
武人らしく毅然とした態度で判決を聞いていたブロイーヌ子爵であったが、判決が言い渡された時、一瞬悲しげな表情を見せたのが、シノブには忘れられなかった。
そのブロイーヌ子爵も爵位を返上し隠居。子爵位は宙に浮いたままとなった。
「タルデューが代官となった。母上の侍女ラシェルの父だな」
都市ルプティは、領都に続く三大都市の一つだ。
その代官を誰にするかは、かなり揉めたらしいが、経験豊富で堅実な手腕を持つ彼が選ばれたそうだ。
「……シノブ様、朝食後はミュリエル様と魔術の訓練ですか?」
重い話題を振り切るかのように、アリエルが穏やかな微笑みと共にシノブに問いかけた。
「今日は天気も良いことだし、魔法の家まで来ていただく予定だったかと。カトリーヌ様もそちらで診察ですね」
シノブは、アリエルの気遣いに感謝しながら答える。
「ほう。私もミュリエルや母上の様子は見てみたいが、軍務があるからな。
……だが、母上も順調なようで良かった。父上も母上も凄く心配されていたが、これなら大丈夫だな」
母の妊娠がわかった直後は何かと心配していたシャルロットも、最近は順調な経過に安心しているようだ。だんだん涼しくなってきたせいもあるのか、ベルレアン伯爵の第一夫人カトリーヌの体調は比較的安定している。
「慎重すぎるのも問題ですからね。
魔法の家で、ミュリエル様やミシェルちゃんの可愛い練習を見るのを楽しまれているようですよ。つわりも始まったようですが、練習や薔薇園を見たりするのが良い気晴らしになっていると思います」
アミィはにっこり笑いながら、シャルロットにカトリーヌの様子を説明する。
「……そうか。ではシノブ殿、アミィ殿、よろしく頼む」
シャルロットもシノブ達に軽く笑いかけると、朝食を取りに館へと戻っていった。
◆ ◆ ◆ ◆
朝食後。
秋薔薇が美しく咲き誇る庭園で、アミィはミュリエルやミシェルと魔力操作の訓練をしていた。
天気が良いので庭で訓練をする子供達と、それを見守るシノブを含む大人達。
庭に備え付けの椅子に腰かけたカトリーヌやブリジットの前で、アミィを含め三人が魔力操作をしながら元気よく踊っている。
ミュリエルやミシェルもだいぶ慣れてきたので、魔力操作と共に行う歌や踊りも少し複雑なものになっていた。とはいっても、シャルロット達が行う激しい訓練に比べたらまだまだ可愛いものである。
子供達もだいぶ慣れてきたので、最近はステップを踏んだり手を取り合って踊ったりとフォークダンス風の踊りも加えていた。こちらの民族舞踊を参考にしてアミィが考えたものらしい。
ちなみに今、三人が踊っているのは、とある橋の上で輪になって踊る情景を歌ったものである。
ベルレアン伯爵領の南にある都市アデラールの近くには大きな橋があるらしいので、アミィは「アデラールの橋で~」と歌詞を変えてミュリエル達に教えていた。
明るい茶色の髪をした狐の獣人であるアミィとミシェル。六歳のミシェルは、アミィが小さいときはこんな風だったかも、と思うくらい良く似ている。
二人とも侍女服に似た簡素なドレスであり、見習い侍女の姉とその真似する妹のように見えた。
そして、その二人と手をつなぐ銀髪に近いアッシュブロンドのミュリエル。
体を動かすためだろう、彼女もアミィやミシェルと同じようなシンプルなドレスだ。
ミュリエルは常にアミィを慕いミシェルを気遣っている。そのため人族の彼女も含め、仲の良い三人姉妹のようだ。
「可愛らしいですね。見ていると気持ちが落ち着きます」
カトリーヌは、ミュリエルの母のブリジットやシノブを見ながら微笑んだ。
仲良さげな三人が練習する光景は、いつもシノブ達を優しい気持ちにさせてくれる。つわりが始まったカトリーヌも、子供達の愛らしいダンスを見ていると辛さを忘れられるという。
毎日の事なので診察も簡単に済むのだが、彼女はいつも子供達の練習が終わるまで見守っていた。
「何年かすれば、もう一人加わっていると思いますよ。男の子でもミシェルちゃんくらいなら、ああいった踊りも可愛いんじゃないですか?」
シノブは、冗談っぽくカトリーヌに笑いかける。
最近シノブは男女の魔力がほぼ完全に判別できるようになっていた。彼の鋭敏な魔力感知は、まだ小さい胎児が男の子であることを見抜いていた。
もっとも、そのことはアミィ以外には話していない。男子誕生に期待をかける伯爵達を過剰に刺激するのではと心配しているのだ。
こうやって、ときおり仄めかす程度で明言は避けている。
「ええ。私に続いてブリジットさんにも御子ができたら、その子と一緒に練習させるのも良いでしょうね」
カトリーヌはその光景を想像したのか、さらに笑みを増した。
「カトリーヌ様……私のことなど……」
第二夫人ゆえ控えめなブリジットは、カトリーヌの言葉に恐縮したようだ。
薄茶色の髪を微かに揺らすと、遠慮がちにカトリーヌを見る。
「伯爵家の御子が多いのは、喜ばしいことですよ。
シノブ様から教えてもらった通り魔術を控えて暮らしていれば、貴女にもきっと二人目ができますよ」
ブリジットを励ますように優しく語りかけるカトリーヌ。
彼女の妊娠に気がついた後、シノブは伯爵や夫人達に魔力と出産率の関係について簡単に説明していた。
魔力の多い貴族や魔術師は若い期間が長い割に子供が少ない。あくまで想像にすぎないがとシノブは前置きしたが、夫人達はシノブの推測を信じたようで、不用意に魔術を使わないようにしている。
「カトリーヌ様……」
緑色の瞳を潤ませて見つめるブリジットに、静かに頷くカトリーヌ。緩やかな動きに合わせて煌めくプラチナブロンドは、彼女の気持ちを表すかのように優しい光を放っていた。
確かにカトリーヌの言うように、ブリジットにも二人目の子供ができる可能性は高い。妻達を大切にしているのだろう、ベルレアン伯爵は彼女達にそれぞれ専属の治癒術士を付けていた。だから、少々の体調不良でも体力回復の魔術をかけてもらっていたようである。
彼女達は、武人であるシャルロットのように身体強化を使うこともない。それに、この地では風邪などの治療は薬草中心であった。だから、全身を活性化するような魔術を控えていれば生活に困ることもない。
一方、仲の良い夫人達の姿に微笑みながらも、話題が話題だけに口を挟みにくいシノブ。そんな彼を助けるかのように、可愛らしい声が響いてきた。
「シノブお兄さま! どうですか、だいぶ上手になったと思いますけど?」
「シノブさま~! 私も上手になりましたか!?」
口々に問いかけながら駆け寄ってくるミュリエルとミシェル。
「ああ、だいぶ上手くなったね。
魔力操作が上手くなったせいか、なんだか走るのも速くなったみたいだね」
走り寄る二人に、シノブは優しく声を掛けた。
「やっぱりシノブお兄さまもそう思いますか?」
「はい! 体が軽くなったみたいです!」
シノブの言葉に、二人はニコニコと微笑みながら答えていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「明日は午後からピエの森にお出かけになる予定でしたか?」
魔法の家で、家令のジェルヴェがシノブに問いかける。
薔薇園に魔法の家を出して以来、そこに住むようになったシノブ達。ジェルヴェも歴史や文化についての授業は、魔法の家で行うようになっていた。
もっとも、ある程度の説明は済んでしまったので、最近は雑談が中心となっている。
「ああ、ミュリエル達の魔術訓練が終わったら出て、次の日の早朝に帰ってくるつもりだけど」
あれから、シノブ達は何度か森へ魔狼を狩りに行っていた。
狩場はシノブ達が出現したピエの森。
その近くの村まで身体強化が使える軍馬で急げば一時間くらい。普通に走っても二時間あれば着く。魔術訓練を終えてからでも、昼過ぎには到着する予定だ。
それから半日かけて狩りを行い、森で一泊。魔法の家を持っていくので、森で泊まるのも快適である。
翌朝はシャルロット達との早朝訓練には間に合わないだろうが、朝食までには帰ってこられるだろう。
「お嬢様も一緒にお出かけになるので?」
シャルロットも一度だけ一緒に狩りに行ったことがある。アリエルやミレーユを共に、訓練の成果を試したいと同行したのだ。
「いや。今回は俺達だけだよ」
「それは、お嬢様は残念がるでしょうね。この前はとても楽しそうでしたが……」
戻ってきたシャルロットの様子を思い出したのか、ジェルヴェは感慨深そうな顔をした。
「まあ、忙しいようだから。なんだか北との交易が滞っているらしいね」
シノブは、先日訓練の後シャルロットに聞いたことを思い出した。
「はい。ヴォーリ連合国からの鉱石や金属製品が滞っているようですね。
先月頃からですが今回はかなり長期間となっております。このまま冬になると大きな問題になります」
ジェルヴェの説明によれば、魔獣の大量発生などで滞ることもあるが、一月もしないうちにドワーフ達が討伐するので長期間交易に影響することは少ないらしい。
冬場になると標高が高いリソルピレン山脈を越えての交易は難しくなるので、一部を除いては春まで休止するそうだ。
もし、このまま冬に入ってしまえば、半年以上も交易が滞ることになってしまう。
メリエンヌ王国側は、金属製品や細工物が入ってこないので、商業は大きな打撃を受ける。
王国から農産物を輸入しているヴォーリ連合国は、食料不足でさらに大きな問題になるかもしれない。
「シャルロット殿から聞いたけど、領軍による護衛団を隊商に付けようかという意見も出ているようだね」
「はい。もっとも他国に軍を派遣するわけにはいかないので、まずは先方に使者を送って状況を問い合わせています。
しかし、どうも詳しい事情がわからないようです」
シノブの質問に、ジェルヴェは浮かない表情で答える。
通常、隊商がヴォーリ連合国に入ると、ドワーフの戦士達で構成された護衛隊に警護されながら進んでいく。
王国内は魔獣が多いリソルピレン山脈付近だと領軍の警護がつくこともあるが、基本的には自前の護衛のみだ。しかし山越え以降は魔獣が多く、ドワーフの護衛なしでは厳しいらしい。
王国からヴォーリ連合国に入る護衛はごく僅かに制限されている。そのためドワーフが交易路を危険だと判断した場合、王国側には為す術がない。
「場合によってはお嬢様がお館様の名代として使者に立つかもしれません。さすがに次期伯爵の訪問を無下に扱うわけにはいかないでしょうから」
ジェルヴェは、シノブにそう説明した。
「……なるほど。ともかく明日は出かけるので。アンナさんも明日はお休みで良いよ」
「はい、わかりました」
話の間、静かに控えていた侍女のアンナもシノブの言葉に会釈して答える。
薔薇園に魔法の家を建ててから、シノブ達の世話役であるアンナも中央区にある自宅から通ってくるようになった。しかし彼女は、相変わらず日中の大半をシノブ達の側に控えている。
シノブ達が特殊な出自だから、ベルレアン伯爵は多くの者に担当させるのを避けたらしい。そのため働き詰めとなったアンナだが、明日は自宅でゆっくりできるだろう。
「ところでジェルヴェさん。お米が入手できるって本当ですか?」
話が一段落したのを見たアミィが、ジェルヴェに質問する。
館に来た日の晩餐で、シノブは故郷には『コメ』から作ったお酒があると伯爵達に説明した。そのときは「そういう酒もあるのだね」という伯爵の言葉に、米はないのかとシノブは考えた。
だが、よくよく聞いてみると米から作った酒がないだけであって、米自体は存在していた。メリエンヌ王国では稲作をしていないが、その南のガルゴン王国やカンビーニ王国では、稲も栽培されているらしい。
普段メリエンヌ王国で流通することは少ないが、秋になると王都あたりではガルゴン王国やカンビーニ王国から輸入した米が普通に手に入るという。しかもベルレアン伯爵領でも、かなり高価になるが全く入荷しないわけではなく、領都の貿易商では僅かながら取り扱っている。
それを聞いたシノブは、入荷したら手に入れようと思っていたのだ。
「はい、もうじき入荷すると思われます。いくつかの品種があるようですので、それぞれ取り置くようにしました。貿易商には入荷次第声を掛けるように伝えていますので、近日お届けできるかと」
ジェルヴェの言葉を聞いて、シノブは思わず微笑む。
「お米が手に入れば、ご飯が食べられますね。あっ、お餅を作ったりするのも良いかもしれませんね!」
シノブが喜ぶ顔を見て、アミィも嬉しそうだ。薄紫の瞳を輝かせながら見上げている。
「まあ、どんなお米かわからないから、期待しすぎるのもマズイと思うけど。でも、待ち遠しいよね!」
シノブは、できればジャポニカ米に近い品種があればいいな、と思いながら、アミィに微笑みかけた。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回から第4章です。
今まで存在のみ語られてきたドワーフが出てきます……次回ですが(笑)




