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女神に誘われ異世界へ  作者: 新垣すぎ太(sugi)
第11章 受難の竜達
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11.20 南の公爵 後編

「綺麗な海だね!」


 シノブは、目の前に広がる紺碧の大海原に目を輝かせていた。オベール公爵の館で一泊した彼らは、港湾都市であるブリュニョンの港へと訪れたのだ。


 まだ二月下旬ではあるが、都市ブリュニョンは王都メリエに比べると随分暖かいらしい。王領の最南端、メリエンヌ王国全体でも南端に近い位置だけあって、港と町を隔てる道の脇にはヤシやソテツに似た木まで植わっている。

 シノブ達が暮らすフライユ伯爵領の領都シェロノワや、シャルロット達が生まれ育ったベルレアン伯爵領の領都セリュジエールは、この時期は降雪も多い。しかし、ここはそんなことは無いようだ。


「ええ、とても綺麗ですね」


 今日のシャルロットは軍服姿である。これから海軍を訪問するため、今日の彼女はベルレアン伯爵領にいたときのように、青と白を基調にした正装を(まと)っていたのだ。

 ちなみにシャルロットは、美しいプラチナブロンドを綺麗に結い上げている。軍務に就くわけではないが軍人としての訪問だから、それに相応しい髪型にしたようである。


「冬なのに空も海も真っ青だなぁ……それに、潮の香りが……」


 シノブは子供のように顔を綻ばせながら、あたりを見回した。

 彼も東方守護将軍としての正装を着用しており、胸には『大将軍章』や『大戦功章』といった勲章が輝く(まぶ)しいばかりの装いである。しかし表情は(いか)めしいどころか、隣にいるミュリエルのように純粋な喜びに満ちたものであった。


「本で見るのとは大違いです! それに帆船って、こんなに大きかったのですね……」


 ミュリエルはというと、港に並ぶ軍船に驚いているようだ。

 内陸で生まれ育ったから、まずは自身の目で直接見た海の風景に。そして帆船にも惹かれたらしく、彼女は緑の瞳を輝かせて停泊している艦船の船体やマストなどを興味深げに見つめていた。


「そうですわね……あら、あちらの船はマストが三本もありますわ!」


 セレスティーヌも王宮から出ることが少なかったから、負けず劣らず感動を顕わに華やぐ。あちこちを眺めていた彼女だが、最後に奥に停泊している純白の優雅な船に目を止めたようだ。

 なお、今日の二人は珍しくスカート姿ではない。この後軍艦を見学するということもあり、彼女達はゆったりとした足首まであるキュロットパンツのようなものを穿()いている。


「ああ……大きな船だね」


 シノブの前に並んでいる艦艇は、大きいものでも全長30mから40mほどである。しかも港に直接接舷している船は殆どなく、沖の方に泊まって小さく見える。そのため地球のタンカーなどを知っているシノブは、さほど大きな船とは感じなかった。

 そんなこともあり船よりも海自体に目を奪われていたが、初めて見る光景に感動している少女に言うことでもなかろう。そう思ったシノブは、素直にミュリエル達に賛意を示していた。


「シノブ様、皆さんがお待ちですよ」


 いつまでも海や港を眺めているシノブ達に、アミィが少し苦笑しながら声をかけた。

 彼女は、長い間アムテリアの眷属として仕えていたし、地上の監視任務に就いていたこともある。おそらく、その間に海を見たこともあるのだろう。そのためか、彼女はシノブ達よりは落ち着いた様子であった。


「すみません、お待たせしました」


 シノブは、背後で待っていたオベール公爵クロヴィスや嫡男オディロン、そして王太子テオドールの下へと戻っていった。

 南方海軍の元帥であるオベール公爵やその跡取りオディロンは、海など見慣れているし、テオドールも王太子として何度も海軍を視察しているという。そのため、彼らは初めて都市ブリュニョンを訪れるシノブ達の様子を温かく見守っていたようだ。


「いや、我らが守る海を気に入って貰えたのなら、嬉しいことだ。さあ、南方海軍の旗艦メレーヌ号に案内しよう」


 オベール公爵は(いか)めしい顔に微かに笑みを浮かべながら、接岸していた二(そう)のボートを指し示した。公爵が示すボートには、それぞれ10人の漕ぎ手が乗って待機している。なおボートの手前には、艦長らしき立派な装いの軍人もいる。


「それではシノブ殿。メレーヌ号に乗せてもらおう。今日は天気も良いし、波も少ない。きっと楽しい航海になるよ」


 笑顔のテオドールが言うとおり、目の前の海はうねりも無く穏やかな様子だが、その割に風はそれなりにある。どうやら、シノブ達は天候に恵まれたらしい。

 シノブは、これなら船に初めて乗るシャルロット達も、大丈夫ではないかと思いながら、公爵達に続いてボートに乗り込んでいった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 南方海軍の旗艦メレーヌ号は、セレスティーヌが目に止めた一際大きな純白の船であった。他は大きいもので40mに届くかというところだが、南方海軍の軍艦で最大のメレーヌ号は、全長45mもある。

 しかも、他の船のマストが二本であるのに対し、メレーヌ号だけは三本のマストがある。なお、三本のマストは、一番前が横に広がった帆、つまり横帆である。そして、後ろの二つはヨットのように縦に三角形に近い帆がついた縦帆であった。そのため、横帆一つに縦帆一つの他の船に比べると、かなり立派に見える。

 ちなみに乗員はおよそ60名で、半数程度が戦闘員、残りが操船を担当するという。


「抜錨!」


「抜錨開始!」


 旗艦メレーヌ号の甲板に、艦長でありブリュニョンの艦隊司令官でもあるドナシアン・ド・ルベスコンの大音声(だいおんじょう)が響き渡ると、航海士がすかさず復唱をする。


「第一、第二、第三マスト展帆! 第二、第三マスト展帆後、右舷開き!」


 メレーヌ号は東に船首を向けて停泊していた。そして現在西風が吹いており、真後ろから風を受けるため出航には好都合である。

 そのため、抜錨によって行き足が付き始めたメレーヌ号は滑るように海を進み始める。


──アミィ、地球とは船の用語も違うのかな? ほら、先頭のマストってフォアマストとか言うんじゃなかった?──


 甲板で操船の様子を見ていたシノブは、アミィに心の声で尋ねていた。

 シノブはドナシアンが命じたことを全て理解したわけでは無い。だが、三本のマストのうち、縦帆の二つのマストは帆を広げた後、右舷、つまり右から風を受けるように帆の向きを変えていた。

 したがって、向きを変えなかった先頭のものが第一マストなのだろうと思ったのだ。


──確かにそうですね……シノブ様のスマホから得た情報だとそうなっています。アムテリア様が、そこまで厳密に伝えなかったのでしょうか?──


 シノブの思念を受けたアミィは、少し首を傾げていた。10歳くらいの外見の少女が頭上の狐耳をピクピク動かしながら見上げる様子は、とても微笑ましくはあるが、本人は気がついていないようである。


──まあ、いいさ。別に全てが地球と同じってわけでもないんだろうし──


 シノブは、アミィの頭を優しく撫でて微笑むと、再び操船の様子へと目を向けた。


「面舵!」


「おも~か~じ!」


 ドナシアンの命を受けた操舵手は、独特な口調で復唱し、舵を切っていく。すると、メレーヌ号は右舷の方、つまり南側へと向きを変えていく。


「第一マスト、右舷開き! ……舵、戻せ! 当て舵!」


 ほぼ南に向きを変えた頃、ドナシアンは先頭の帆を右舷からの風、つまり西風を受けるように調整し、更に操舵手に命じていった。


「もど~せ! 取舵に当て!」


 操舵手は、やはり一種独特な口調で答えると舵輪を操作し元の位置より少し逆側に切る。すると、メレーヌ号は旋回を緩めていき、やがて直進へと戻った。


「舵、戻せ! 出航作業終了、以後通常航海に入る! ……航海長、後は任せた」


「はっ! 操艦指揮、引き継ぎます!」


 無事に出航を終えたドナシアンは、脇に控えていた士官に声をかけた。どうやら、これで出航は完了したらしい。


 シノブは、ドナシアンの見事な操艦と、それに応える乗組員の力量に感嘆し、思わず拍手をしていた。彼らの操艦に見惚れたのはシノブだけではないらしく、シャルロット達も温かい拍手を惜しみなく贈っている。

 そんな観客達の称賛に、乗組員は僅かに顔を緩めながらも、航海長の指揮するままに、甲板で忙しなく働いていた。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 南に向かっての航海を始めた旗艦メレーヌ号の甲板で、シノブ達は艦長のドナシアンから、メレーヌ号や海軍についての説明を受けていた。

 ドナシアンによれば、メレーヌ号は15年ほど前に、ここ都市ブリュニョンの船渠(ドック)で建造された最新式の船であり、同型艦のエリーズ号が西方海軍の旗艦として配属されているという。ちなみに、メレーヌやエリーズとは先王エクトル六世の妃の名だ。


「シャルロットのお婆様の名前とは奇遇だね。旗艦には王族の名前をつけるの?」


 甲板の上で説明を受けていたシノブは、隣にいるシャルロットへと尋ねてみた。彼が言うように、メレーヌはカトリーヌの母、つまりシャルロットの祖母であった。


「はい。先王陛下の命で建造された船ですので」


 シャルロットは、(ささや)くシノブに同じような小さな声で答えた。

 現国王アルフォンス七世は即位から10年少々であり、建造当時は先王エクトル六世の治世である。そのため、彼の二人の妃エリーズとメレーヌの名が付けられたようだ。


「そうか……」


 シャルロットの説明を聞いたシノブは、改めてメレーヌ号の甲板を見回した。

 メレーヌ号は、海面から甲板までの高さは人の背の倍近くはあるし、マストの天辺までは30mを超えていそうな大型艦である。地球の巨船のように全長100mや200mというわけではないが、それでも乗船してみると、かなりの迫力である。

 なお、白く美しい外観は、木材の船体に塗った厚い塗料によるものであった。ドナシアンによれば、木材の船体を保護するための特殊な塗料であり、装飾よりは実用的な意味が強いらしい。

 しかし、その理由はともかく、紺碧に輝く海を進む純白のメレーヌ号からは、他の船を従える海の女王というべき威厳が感じられる。


如何(いかが)ですか、メレーヌ号は?」


 ドナシアンは、シノブの興味深げな様子に気がついたようだ。

 海軍の軍人らしく、潮焼けした顔と規律正しそうな雰囲気の彼だが、その視線は柔らかい。どうやら『竜の友』であり東方守護将軍でもあるシノブに深い敬意を(いだ)いているようである。

 彼は子爵であるため、親子ほども年齢が違うシノブに恭しい口調で語りかけてくる。


「素晴らしい船だね。乗組員も熟練した方達ばかりのようだし」


 船には詳しくはないシノブだが、それでもメレーヌ号が周囲の軍艦とは違う事には気がついていた。

 一本マストや二本マストの小型船は、オールと併用するためか甲板が低く帆の構造も単純なものが多い。しかし、メレーヌ号は三本のマストの一本が横帆、他のマストが縦帆となっており、風上に向かってかなり切り上がっていけるような構造をしている。

 その分操船も複雑だろうに、乗員達は艦長の指揮に機敏に対応し、あっという間に船を旋回させると港の外へと進んでいったのだ。


「ありがとうございます。閣下のお褒めの言葉、きっと部下達も喜ぶでしょう」


「ところで、この船には大型弩砲(バリスタ)を積んでいるが、これで攻撃するような敵や魔獣がいるかな?」


 シノブは甲板に設置された大型弩砲(バリスタ)について、ドナシアンに訊いてみた。

 砦などに設置された物に比べればかなり小型ではあるが、それでも二人か三人で操作するような大型兵器でなければ対処できないような相手がいるのか気になったのだ。


「幸い、平和な時代が長く続いていますから、南方海軍では使うことは殆どありません。昔は海賊などもいたようですが、ガルゴン王国やカンビーニ王国と協力して掃討しましたので」


 ドナシアンによれば、メリエンヌ王国とこれらの二国は長年友好関係にあり、互いに補給のために寄港する仲だという。もっとも、軍船の接岸は許さず、沖に停泊させるという。


「南方海軍では、というと?」


「ええ。西方海軍では、アルマン王国海軍との諍いがありまして……」


 アルマン王国は、西方海上の覇権を握ろうとしている。島国であるためか、大陸にある国々の内政には興味が無いらしいが、海上権益については譲らないのだ。

 彼らは、ドワーフ達の国であるヴォーリ連合国から買い付けた武器や金属製品を、海上経由で輸出することで大きな利益を得ている。そのため、海路を独占することに極めて熱心であった。

 なお、ヴォーリ連合国との交易を陸路で行っているメリエンヌ王国はあまり影響を受けていない。だが、海上交易に頼るところが大きい上にアルマン王国にも近いガルゴン王国などは、かなり煮え湯を飲まされているようである。


「我が国としても、自国の沿岸に勝手に接近されるのは見過ごせません。そのため、アルマン王国とは小競り合い程度ですが頻繁に衝突しているのです」


「なるほど……ところで、魔獣はどうなのかな? 南方にある島や陸地に交易に行けば、魔獣とも遭遇するのでは?」


 シノブは、海竜探しの手がかりになるかもと思い、海の魔獣について質問をしてみた。

 岩竜や炎竜は、子育てのために魔力が多く魔獣の棲む場所に狩場を設ける。海竜も同じような性質を持っているとすれば、魔獣のいる海域こそが彼らの棲家(すみか)である可能性は高い。


「海竜ですね。シュドメル海やエメール海には、魔獣は殆どいないのです。どちらも湾状の内海ですから。

確かに、南方には幾つかの島がありますし、さらに向こうには大きな陸地があるとも聞いています。ですが、我が国の商船がそちらまで赴くことはありません。ガルゴン王国やカンビーニ王国の商人はともかく、我が国は近海の貿易が中心ですから」


 ドナシアンが言うように、内陸部が多いメリエンヌ王国では、海上貿易はあまり発達していなかった。

 これは、西部のルシオン海と、ガルゴン王国とカンビーニ王国の間のシュドメル海、東のエメール海と三つに分断された海を持つためである。そのため商人達も、海上からガルゴン王国やカンビーニ王国を回り込むより、陸路で交易するほうを選択したようである。


 なお、メリエンヌ王国を含むエウレア地方は、地球でいう欧州に似た地理条件である。どうやら、この惑星を整えるときに、アムテリアが地球を参考にしたためらしい。とはいえ、地球の地理と完全に一致しているわけではなく、シノブが見た地図でも類似点が感じられるという程度であった。

 そのため、地球でいうアフリカに相当する大陸は、エウレア地方からかなり南にあるようである。少なくとも、ガルゴン王国やカンビーニ王国のすぐ南が別大陸ということは無いようだ。


「しかし、ガルゴン王国とカンビーニ王国の商人達は、魔獣の多い海域を避けながら南方にも行くようです。もっとも、帰って来ない船も多いようですが」


 南方には国家と呼べるほどのものはなく、部族単位で集まる小さな集落がある程度らしい。しかし、珍しい動物や植物があるため、それらを入手すれば極めて高く売れる。そのため、冒険航海というべき危険な船旅でも、生還できれば一躍大金持ちである。

 ちなみに、海の魔獣には、巨大魚に大海蛇や大亀、家ほどもあるタコやイカなどもいるらしいが、ドナシアン自身は見たことが無いという。


「それでは、両国にも訪問しないといけませんね!」


 セレスティーヌは、更に南方を訪れることが出来ると思ったらしく、嬉しげであった。彼女は、目をキラキラさせてシノブを見つめている。

 しかも彼女だけではなく、静かに話を聞いていたミュリエル達もどこか楽しげな様子である。


「それが良いと思います。商業港には、他国の商人や船乗りもいますから問い合わせておきます」


 都市ブリュニョンの港は、軍港と商業港が完全に分かれている。シノブ達が出航した軍港の東側には、商業や漁業のための港があるのだ。

 シノブ達も、後でそちらの顔役などを呼んで話を聞くつもりであったが、ドナシアン達は今後の情報収集も受け持ってくれるようだ。


「ありがとう。ともかく、今はメレーヌ号での航海を満喫しようか」


 幸い、船酔いにかかる者はいないようである。そのため、シノブは折角の海を楽しもうと考えた。


「はい! シノブさま!」


「シノブ様、こっちに来てくださいな!」


 シノブの言葉を聞いて、ミュリエルが明るく微笑み、セレスティーヌが船縁(ふなべり)へと誘った。彼女達に引かれてシノブも海上へと視線を向ける。


「あっ、沢山魚が泳いでいるね! 大きいぞ! シャルロットやアミィもお()でよ!」


 水面は非常に澄んでいて、良く見える。そして、海中には、サバのような魚が群れになって泳いでいた。ただし、日本近海にいるものよりかなり大きく、体長は1m近くありそうだ。


「はい……本当に大きな魚ですね」


「シノブ様、獲ってみますか?」


 シャルロットはシノブの隣に並んで感嘆しているだけであったが、アミィは食材として確保できないかと考えたようだ。


「立派なオオサバだな」


「シノブ殿、昨日の晩餐でも出しましたが、この時期のものは美味(おい)しいですよ。銛で突きますか?」


 オベール公爵と嫡子のオディロンも、隣から海面を覗いている。オディロンが言うように、シノブ達は昨日の夕食として何品もの魚料理を味わっていた。どうやら、その中の一つの揚げ物がこれであったようだ。


「公爵閣下、伯爵閣下、どうぞ!」


 しかも、オディロンの言葉を聞いて、乗員達が縄のついた銛を幾つも持ってきた。釣りではないのかと驚いたシノブだが、身体強化があるため、大きな魚ならこの方が良いのかもしれないと思い直す。


「シノブ、投槍の要領で投げてみては? 私も無理のない範囲でやってみましょう」


 シャルロットは、早速銛を手に取っている。子供を身籠ったため彼女は身体強化を使えないが、幼いころから学んだベルレアン流槍術があれば、強化など不要なのだろう。

 シャルロットの祖父、先代ベルレアン伯爵アンリは通常の槍術でも隔絶した達人だが、投槍で敵の将軍を討ち取った逸話の持ち主だ。そのため、彼女は投槍の修練にも力を入れたようである。


「はっ!」


「おお、流石は『戦乙女』殿!」


 シャルロットが気合と共に投擲(とうてき)した銛は、見事に一匹のオオサバを貫いた。そしてオベール公爵がシャルロットの異名を口にして褒めそやす中、乗員達が縄を引いて獲物を回収していく。


「よ~し、やってみるか!」


 シノブも乗員が持つ銛を素早く手に取った。シャルロットが一匹仕留めたため、他のオオサバは逃げ始めており、漁をするなら早いほうが良いと思ったのだ。

 そして彼は、渡された銛の狙いを定めると、間髪を容れずに海中に投じた。幸い魚影は濃く、後続のオオサバに、シノブが投げた銛は突き刺さっていた。


「シノブ様、凄いですわ!」


「シャルロットお姉さま、大きなお魚ですね!」


 セレスティーヌはシノブに拍手と歓声を贈り、ミュリエルは乗員達が回収したオオサバを見て驚嘆している。彼女達も、突然の漁を楽しんでいるようだ。


「私もやってみましょう」


 なんと、シノブに続いて王太子テオドールも銛を手にしている。しかも、彼だけではなくアミィやアリエル、ミレーユ達まで続いていた。

 優雅な航海から一転して荒々しい漁へと変じていたが、武勇が尊ばれる時代だけあって、それに驚く者はいないようだ。接待役のはずの公爵父子まで、楽しげに漁に加わっている。

 たまにはこういうのも良いかもしれない。そう思ったシノブは、手に持った銛を勢いよく海中へと投じていった。


 お読みいただき、ありがとうございます。

 次回は、2015年6月12日17時の更新となります。


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