11.17 東方守護将軍の帰還
創世暦1001年2月20日早朝、シノブ達は神殿を経由して王都メリエへと転移した。彼らは大神官から伝えられた神殿の神像による転移を早速使ってみたのだ。
この神像を使った転移だが、実行する者の加護によって転移が可能な人数が大きく異なるらしい。
神殿にいる神官長などは、一度に十名程度しか転移を出来ないし、大神官でも三十名程度が限度のようだ。それに対し、アムテリアの強い加護を持つシノブや眷属であるアミィなどは、何百名でも運ぶことが可能だという。
ちなみに今回転移をしたのは、かなりの大人数である。まずはシノブとアミィ、そしてシャルロットとミュリエルの姉妹がいる。彼らは、家令のジェルヴェやアリエルにミレーユ、それに従者や侍女も伴っている。
そして、王太子テオドールとその妻ソレンヌなど、王都から来た者達も一緒だ。侯爵の嫡男などシノブの誕生パーティーに出席した者達も、これに便乗して一旦帰還することにしたのだ。
更に、アシャール公爵やその嫡男アルベリク、王女セレスティーヌ、フライユ伯爵領に滞在中の三伯爵などもいる。しかも、それぞれが侍女や従者を連れているため、総勢で百名近い。
「シノブ様、大神アムテリア様は、このような素晴らしいものをメリエンヌ王国にお授けになったのですか……」
「私達の国にも、お授け下さらないでしょうか……」
一行の中にはガルゴン王国の大使の息子ナタリオとカンビーニ王国の大使の娘アリーチェもいた。虎の獣人ナタリオと猫の獣人アリーチェは、よほど驚いたようで、それぞれ頭上の獣耳をピンと立て、尻尾を不規則に揺らしている。
何しろ徒歩や馬車での旅しか知らない彼らだ。それが、メリエンヌ王国だけ神の恩寵で一瞬にして移動できるとなれば、穏やかな心ではいられまい。そのためだろう、神の奇跡に接して純粋に喜ぶメリエンヌ王国の貴族達とは異なり、二人は複雑な表情をしている。
「ふっふっふ。これは邪神を崇める帝国と戦ったご褒美なのだと思うよ。君達の国が大神アムテリア様の御心に適う行動をとれば、良いことがある……かもしれないねぇ」
シノブが何と答えるべきかと思っていると、アシャール公爵ベランジェが横から口を挟んだ。ガルゴン王国とカンビーニ王国をベーリンゲン帝国との戦いに加えるべきか悩んだ彼だが、関与させると決めた以上は、積極的に勧誘することにしたらしい。
「は、はい! 我々も邪神と戦います!」
「私達も、参戦しますわ!」
公爵の言葉は見え透いたものであったが、ナタリオとアリーチェは喜びを露わにしていた。シノブが持つ魔法の家について聞いていた彼らは、自国にも同じような魔道具が欲しいと思っていたのだろう。
もっとも、アシャール公爵の言葉も根拠のないものではない。大神官は、神殿での転移について、シノブ達の帝国との戦いを支援するためにアムテリアが授けたと言っていた。したがって、ガルゴン王国やカンビーニ王国が帝国との戦いに協力すれば、メリエンヌ王国と同様に何かを授かる可能性はある。
「ナタリオ殿、アリーチェ殿。これは、そんなに使い勝手が良いものでもないよ」
シノブは、神像の前の聖壇から降りながら苦笑していた。
神官達では人数や回数に制限があるため、大人数を運ぶことはできない。運べる量についても同じである。したがって、神官達には大勢の商人や旅行者を運ぶことは不可能である。
そのため、アシャール公爵は、当面は神殿と国が認めた用途のみに限って使うつもりらしい。神殿や各地の領主への情報伝達、帝国との戦いに関わる要人の転移などが、彼の想定している使い方のようだ。
シノブは、そこまで詳しく説明しなかったが、決して無制限に利用できるものではないとナタリオやアリーチェに伝えていく。
「それは当然です! 神々がお与えくださった力は、俗事に使うべきではありません!」
「そうですわ。彼らの様子をご覧になってください」
ナタリオは真剣そのものの表情で力強く宣言し、アリーチェは聖壇の下にいる者達を指し示す。シノブが彼女の示す方向に顔を向けると、跪く神官や参拝者の姿が目に入った。
「シノブ、神々の奇跡ですから。気軽に利用できると思う者はいません」
シャルロットは、シノブに顔を寄せ囁いた。
今日の彼女は、ベルレアン伯爵継嗣としての立場を強調するためだろう、軍服を身に纏った凛々しい姿である。もちろん、彼女に付き従うアリエルやミレーユも同様だ。
「はい! 不届き者が神殿の聖壇に上がれば神罰を受けると、小さいときに教わりました!」
真顔のシャルロットの横では、ミュリエルも真剣な表情で頷いている。ちなみに、こちらは青を基調にしたドレス姿である。
──シノブ様。私達とは違い、普通の人は神具や奇跡に接することはありませんから──
シノブに続いて歩むアミィは、どこか苦笑しているような思念を伝えてくる。彼女の指摘に、シノブは自身が普段アムテリアから授かった道具を使うことに慣れすぎたようだと思い、頭を掻いた。
「シノブ様?」
「いや、両国の神殿も同じようになったら訪問しやすいと思ってね。海竜を探しに行くかもしれないし」
アリーチェの怪訝そうな様子に、シノブは強引に話を変えた。
実は、シノブ達は海竜探しに着手していた。竜達の力は強大なだけに、帝国が従えたら途轍もない脅威になる。そのため、ホリィに西方や南方の海を調べてもらうことにしたのだ。
海竜は、シノブはもちろん岩竜達も会ったことがない。そのため、現時点ではシノブ達が海竜に思念で呼びかけることは不可能である。思念での意思疎通は、相手の魔力波動を把握していないと出来ないからだ。
そこでホリィが海上を飛び回り、竜と思われる魔力波動を感じたら呼びかけることにしたのだ。
「父が聞いたら喜びますわ! 神殿のことはともかく、ぜひお出でください!」
「我が国にもお願いします!」
アリーチェとナタリオは、シノブの言葉に金色の瞳を輝かせている。やはり、メリエンヌ王国のみが竜と親しくしているのを残念に思っていたのだろう。
「お館様、馬車の準備が出来ました」
そんな話をしながら壇から降りたシノブ達に、ジェルヴェが恭しく一礼をした。先に壇から降りたジェルヴェや従者達は、馬車の手配をしていたのだ。
「ありがとう。では、王宮に行こうか。ナタリオ殿、アリーチェ殿、また後ほど」
大使の子供達は一旦それぞれの大使館へと帰るので、シノブは彼らに別れを告げた。そして、シノブ達はジェルヴェが指し示す方向へと歩き出した。
◆ ◆ ◆ ◆
大宮殿の光の間には、国王アルフォンス七世の前に大勢の貴顕が集っていた。
壇上にいる国王の両脇には、王太子テオドールや王女セレスティーヌなど王族が揃い、その下にも貴族達が整然と並んでいる。
壇に近い方から公爵家筆頭のアシャール公爵、そしてオベール公爵とシュラール公爵が、それぞれの家族を従えて起立し、その下座には六侯爵家と七伯爵家が続いている。彼らは早速神殿の転送を利用して集まったのだ。
彼らの殆どは当主を先頭にしているが、唯一の例外が伯爵家筆頭のベルレアンであった。ベルレアン伯爵コルネーユはメグレンブルク伯爵領に残ったままであり、その代理として先代伯爵アンリが前に立ち、その背後に継嗣であるシャルロットが控えている。
なお、伯爵家第二位であるフライユは、その隣である。先頭に当主のシノブ、その後ろにミュリエルとアミィが起立している。
突然集った上級貴族達に、下手に並ぶ王都付きの子爵や男爵には、怪訝そうな顔をする者もいた。しかし、そんな彼らも、アルフォンス七世がシノブ達の為したことを朗々と語っていくにつれ、疑問を忘れてしまったかのように瞳を輝かせていた。
炎竜達を助け出し、共に手を取り国境の砦を落とし、それどころか帝国からメグレンブルク伯爵領を奪った。これは、未曽有の快挙であり、王国の平和と繁栄を予感させるものであったからだ。
その上、神々から神殿での転移という奇跡を褒賞として授かった。最後にアルフォンス七世がそれを告げると、光の間に集う者達は、大宮殿全体に響くような歓呼の叫びを上げていた。
「東方守護将軍、フライユ伯爵シノブ・ド・アマノ、前へ!」
「はっ!」
演説を終えたアルフォンス七世は、シノブを壇の上へと呼び出した。すかさずシノブは国王の呼びかけに答え、静々と壇へと歩み出す。
光の間には、今日も暖かな日差しが差し込んでいた。謁見の間でもある大広間の両脇には大窓が設けられ、そこから天上からの贈り物のような輝きが降り注いでいる。その煌めきの中を、東方守護将軍の正装を身に着けたシノブが、ゆっくりと壇に向かっていく。
フライユ伯爵領軍の軍服は、黒と白を基調としたものだ。中でも士官や司令官の正装は、胸に豪華な金ボタンが並んだ燕尾服に似た外衣に細めのズボンと黒々とした長靴の美麗なものである。
最高司令官である領主の正装は、更に豪華だ。肩には金モールのような肩章や飾緒を付け、背には貴族の高官だと示す金の縁取りのついた純白のマントを纏う、輝かんばかりの装いである。
しかもシノブは東方守護将軍の証である軍杖を持ち、襷のようにかけた幅広の飾り布には太陽光を表すかのような円形の勲章、『王国名誉騎士団大将軍章』が輝いている。
そんな王族を別にすれば軍人の頂点ともいうべきシノブの礼装に、居並ぶ男性貴族達は溜息をつき憧れめいた視線を向けている。
「東方守護将軍、フライユ伯爵シノブ。そなたの尽力で王国領は広がり、帝国の危険を遠ざけることが出来た。今後は新たな地をメグレンブルク軍管区として国境防衛軍の管轄下に置く。そなた達の更なる活躍に期待している」
国王アルフォンス七世は壇上に上がったシノブを褒め称え、その胸に新たな勲章をつけた。『大将軍章』の上は国王のみが持つ『総帥章』であるから、今回の勲章は『王国名誉騎士団』ではなく、多大な戦果を挙げた軍人に送られる『王国戦功章』の最上位『大戦功章』である。
「誠心誠意尽力し、王国に安寧をもたらします」
白銀の地に王家を表す白い百合が刻まれた『大戦功章』を授かったシノブは、国王に誓いの言葉を述べると一礼した。そして、それを聞いた列席者は、万雷の拍手で祝福する。
「そのまま脇に。
……アシャール公爵ベランジェ・ド・ルクレール、継嗣アルベリク、前へ!」
「はっ!」
シノブに小声で脇に控えるよう指示したアルフォンス七世は、アシャール公爵と彼の嫡男アルベリクを壇上に招いた。二人はシノブの時と同様に答えると、ゆっくりと歩き始めた。
「シノブ殿、こちらへ」
シノブは王太子テオドールが示すまま彼の脇へと移動した。そして、正面へと向き直って公爵達の登壇を待つ。
「アシャール公爵ベランジェ、そなたの願いどおり、継嗣アルベリクへの爵位継承を認める。
そなたは東方守護副将軍となり、メグレンブルク軍管区で東方守護将軍を支えるように」
アルフォンス七世は、目の前に立つ弟へと、爵位授与の許可を宣言した。
メリエンヌ王国では、継嗣を定めるのも代替わりの時期の決定も、当主が決める。だが、王の権威を示すために、上級貴族の爵位授与は王自身が行うのだ。
「ありがたきお言葉!」
兄の言葉に微笑んだアシャール公爵は、優雅に一礼をすると場を息子のアルベリクへと譲る。
「アルベリク・ド・ルクレール。我、アルフォンス七世が、そなたにアシャール公爵位を授ける。『新たなる太守よ。大神アムテリア様の教えを守るべし。領民を守護し国の柱石となるべし』」
国王アルフォンス七世は、眼前に跪くアルベリクに公爵位の授与を宣言した。そして、アルベリクの細剣を受け取ったアルフォンス七世は、それを抜いて、剣の平で両肩を軽く叩くと、静かに返す。
「『神々の教えと主君の命を胸に、我は民を守る剣となり盾となる』……誠心誠意、王国の為に尽力いたします」
アルベリクの宣誓は、唐突な爵位継承に呆然としていた貴顕達の耳に良く響いたようだ。夢から覚めたような列席者は、一瞬の間をおいて広間を揺るがすような割れんばかりの拍手をしていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「シャルロットは本当に良い婿を得たな! 王国始まって以来のこの快挙、儂も鼻が高いというものよ!」
控室に下がった先代ベルレアン伯爵アンリ・ド・セリュジエは、上機嫌な様子でシノブを見た。彼は、シノブやシャルロットに感激に紅潮した顔を向けている。
「ありがとうございます」
シノブは義祖父である先代伯爵へと、礼儀正しく頭を下げた。
式典の後、シノブ達は国王との内々の会見を済ませ、それから祝宴として開かれた午餐会へと出席した。そのため、午餐会を終えた彼らはようやく一息ついていた。
「シャルロット、お前は大事な体なのだ。気をつけるのだぞ」
「お爺様、それは何度もお聞きしました……」
シャルロットは薄く頬を染めている。今日のアンリは、ことあるごとに孫娘を見やっては同じような言葉を掛けていたのだ。
「めでたい事故、何度言っても良いではないか! カトリーヌ殿も順調だし、ブリジット殿も子を授かった。そしてお前もな! これでベルレアンも安泰だ!」
今まで直系の子はシャルロットとミュリエルしかいなかったベルレアン伯爵家だが、アンリが言うように新たな一族が何人も加わろうとしている。そんな背景もあり、彼は始終笑みを絶やさなかった。
「アリエルやミレーユからも良い話を聞けた。今日は本当に嬉しい日だ!」
続いてアンリは二人の女騎士アリエルとミレーユへと視線を向けた。彼は、孫のシャルロットと合わせて三人を直弟子として鍛えてきた。そのためだろう、まるで孫を嫁に出す祖父のように目を細め、微かに涙を浮かべている。
「先代様……」
「お言葉、とても嬉しいです!」
実は、これもアンリは何度も口にしていたが、それでもアリエルとミレーユは心からの笑みと共にアンリへと頭を下げる。二人も、武術の師と弟子という立場を超えてアンリを慕っていたのだろう。
「ミュリエルも元気そうだな。それに、シノブを支えるよう、頑張っているようだ。今度の誕生日は、儂もシェロノワへと行こう。特別な日だからな」
アンリは、これまでとは違う感慨深げな様子でミュリエルの頭を撫でつつ語りかけた。ミュリエルはもうすぐ10歳になる。このあたりの国の子供は10歳前後から実務を学び始めるから、アンリもそれを想起したのだろう。
脇に控えている家令のジェルヴェや侍女のアンナなども同じ思いを抱いたようだ。ベルレアン出身の彼らは、感無量な様子で祖父と孫の温かな交流を見守っている。
「ありがとうございます! 今日はお爺さまとお会い出来て、とても嬉しかったです! それに色んな方とも!」
優しい視線に囲まれたミュリエルは、アンリに輝くような笑顔と共に答えていた。彼女は、国王との会見や、祝宴の間に行われた色々な談話を思い出しているようだ。
「ええ。慌ただしかったですが、全て無事に終わってよかったですね」
シャルロットが言うように、式典が終わった後のシノブ達は休む間もなかった。
国王アルフォンス七世との会見では、予定通り侯爵の嫡男達などを含む一団をメグレンブルクへと派遣することが決まっていた。王国は、新たに得た土地を確実に支配下へと置くべく、万全の態勢を取ったのだ。
なお、彼らの殆どは家族を王都に置いたまま、メグレンブルクに赴くらしい。神殿経由で各地と行き来できるようになったため、明日にも第一陣が現地入りする予定である。
また、会見の席で、シノブはオベール公爵家とシュラール公爵家が守る神具を得るための勅許状を授かっていた。
アシャール公爵の要請で用意された勅許状だが、神像による転移で当の両公爵も王都へと来ている。そのため、彼らも同席させた上で勅許状を授かるという当初の予想とは異なる運びとなっていたが、それは些事であろう。
そして、祝宴にはガルゴン王国やカンビーニ王国の大使達も出席していた。
祝宴の途中、彼らは用意された別室へと移動して国王やシノブ達と会談した。帝国との戦いへの参戦や、両国へのシノブの訪問などを相談したのだ。こちらも大筋はシノブ達の予想通りとなり、大使達は力を合わせて帝国の『排斥された神』に対抗することを約していた。
「うむ! 大神アムテリア様の御心に沿うべく諸国が団結する。真に佳き日であった。
……儂が加われぬのが、少々残念だがな」
機嫌よく立派な白髭を捻っていたアンリだが、途中で僅かに不満げな様子となった。彼は、メグレンブルク軍管区に行って国境防衛軍で働きたいらしい。
アンリは二十年前の帝国との戦いでも活躍した武人であり、まだその腕は衰えていない。『雷槍伯』の異名を持つ彼は、今でも王国の武人達の尊敬の的と仰がれる伝説的な武勲の持ち主なのだ。
「お爺様にはベルレアンをお守り頂かないと……」
そんな祖父の様子に、シャルロットは少々呆れ気味であった。現在、メグレンブルクにはベルレアン伯爵がいるし、継嗣であるシャルロットはフライユ伯爵領に住んでいる。アンリが留守にしたら、領内に伯爵家の者は誰もいなくなる。
「ベルレアンは平穏そのものだ! それに神官に頼めばすぐに戻れる!」
アンリは、ベルレアン伯爵領の領都セリュジエールから王都メリエまで神殿の転移で移動した。そのため、メグレンブルクと自領を行き来することも容易だと主張する。
「まあ、その辺りは義父上と相談して下さい。確かに移動は簡単になりましたし、通信筒もお渡ししましたので、連絡をしてみては?」
シノブは、アムテリアから追加で授かった通信筒の一つを、アンリに渡していた。ここ暫く、ベルレアン伯爵家の者達はシェロノワに逗留したままであり、一人セリュジエールに残ったアンリにも連絡用として渡したのだ。
したがって、ベルレアン伯爵と直接やり取りして解決してほしいとシノブが考えたのも無理はない。
「む……コルネーユは口が達者だからな。それに儂は手紙は苦手なのだ。シノブに口添えして貰えると嬉しいのだが……」
しかし、シノブの思惑に反して、アンリは顔を顰めていた。それを見たシノブは、彼とベルレアン伯爵コルネーユの会話を思い出して苦笑した。シノブから見ても、アンリよりベルレアン伯爵の方が口が回るのは事実であったからだ。
「わかりました。それでは、帰りに一旦メグレンブルクに寄ってみますか? どこまでお助け出来るか保証できませんが、ベルレアンからも人を出して貰えると嬉しいのは事実ですし」
シノブは、彼らを直接会わせた方が良さそうだと思い直した。ベルレアン伯爵が許可しなかった場合でも、その方がアンリも納得するだろうと思ったのだ。
「おお! 全くシャルロットは良い婿を得たものだな!」
だが、そんなシノブの思いにアンリは気がつかなかったようだ。破顔した彼は、シノブの手を握って喜んでいる。
「シノブ……」
「シノブ様……」
一方、シャルロットやアミィはシノブの考えに気がついたようである。僅かに微笑んだ彼女達は、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
そんな二人の姿を横目に見ながら、シノブは久しぶりにベルレアン伯爵家の者が集まるのも良いのでは、と考えていた。彼が初めて訪れた街セリュジエールと、そこで得た家族達。シノブは、その全員が集う姿を見たかったのだ。
シノブは、突然アンリを連れて行ったら、ベルレアン伯爵がどんな顔をするだろうと思いながら、楽しげな笑みを浮かべていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回は、2015年6月6日17時の更新となります。
なお「女神に誘われ異世界へ 番外編」にミレーユの過去話を追加しました。
番外編はシリーズ化しています。目次のリンクから辿っていただくようお願いします。