02.11 マクシム
突然、部屋の隅から純白のローブ姿のシノブが現れた。そして彼は、フードの男をアミィと呼んだ。
対するマクシムや彼の配下らしき兵士達は、驚愕に固まっていた。
唐突なシノブの出現にも驚いただろう。それにマクシムは晩餐でアミィとも会っているが、フードの男は成人で、愛らしい狐の獣人の少女とは似ても似つかない。
そのためマクシム達は、シノブの言葉が何を意味しているか理解できないようだ。しかし彼らは、更なる衝撃と共に真実を知ることになる。
「シノブ様!」
まず、場違いとも思える可愛らしい少女の声が響く。するとフードの男が消え去り、代わりにアミィが出現した。
アミィもシノブと同じく戦闘用の装備で、茶色の革ジャケットに同色の革ズボンだ。そして彼女は手に愛用の小剣を握っている。
「す、姿が!?」
「子供に何ができる!」
アミィを囲む兵士達は、動揺を顕わにする者や冷静さを保とうとする者など様々であった。
相手は少女で、しかも自分達が包囲している。壁を背負う立ち位置は少女にとって有利かもしれないが、追い詰めた証でもある。何より、たかだか十歳程度にしか見えないのだ。
そのため十人ほどの兵士達は、まだ戦意を失ってはいなかった。
「上手くいきましたね!」
アミィは囲む者達など目に入らないような明るい顔で、向かって右側の隅にいるシノブに笑いかけた。喜びからだろう、彼女の狐耳はピンと立っており尻尾も大きく振られている。
「貴様ら! どういうことだ!」
マクシムがシノブとアミィを交互に睨みつけながら叫んだ。彼はフードの男を本物だと信じ込んでいたらしく、顔を大きく歪めている。
「幻影魔術はバレていなかったようだね。アンタが見ていたのは、アミィが造った幻だよ! さあ、覚悟しろ!」
シノブがマクシムに言い返すと、兵士達の虚勢が崩れていく。彼らはアミィを半円状に包囲しているが、その外に小剣を手にしたシノブがいるからだ。
狐耳の少女の姿には、確かな技による裏付けが感じられる。そして包囲の外に現れた若者も同様に手強そうだ。兵士達は、そのように感じたらしい。
もっとも装備の上では、兵士達の方が有利であった。
シノブとアミィは、本格的な防具を着けていない。それに対し、兵士達は金属板で要所要所を補強した革鎧で身を守り、右手に小剣、左手に小振りの丸盾である。
とはいえ兵士達の防御も絶対ではない。彼らの装備は全身鎧のように隙間なく覆っていないからだ。そのため右の一角、アミィとシノブに挟まれる形になった者達の動揺は激しかった。
「えいっ!」
揺らぐ右の兵士達に、アミィは一足飛びに距離を詰めた。
瞬きする間もなく迫ったアミィが振るう神速の剣は、あっという間に二人の兵士を斬り捨てた。鎧で守られていない喉元を少女が深く切り裂くと、兵士達は為す術もなく左右に倒れ伏す。
そしてアミィは跳躍の勢いのまま囲みをすり抜け、シノブの側に移動した。
「ジョゼフ! ジャン!」
マクシムは一瞬シノブ達への疑問を忘れたようだ。彼は血相を変え、崩れ落ちた二人へと顔を向ける。
とはいえマクシムが我を忘れるのも無理からぬことだ。何しろ自身の配下が血を噴き上げて倒れたのだから。おそらく二人の兵士は事切れたのだろう、身動きもしない。
「お前達……生かして帰さん! かかれ!」
マクシムはシノブに向き直ると、憎々しげに叫んだ。そして彼は、自身が帯びていた小剣を勢い良く抜き放つ。
──シノブ様、私が兵士達の相手をします。マクシムを逃がさないようにしてください──
アミィは前に立ち敵を牽制しながら、後ろの主に心の声で意図を伝える。
肉声とは違う密やかな言葉は、当然ながらマクシム達に届かない。そのためシノブ達を睨む彼らに変化はなかった。
──了解、アミィ!──
アミィの言葉を受け、シノブは闇魔術を使うために魔力を集中していく。
その間アミィは、更に二人も兵士を屠っていた。
アミィは小さく踏み込みつつ、襲い掛かる兵士の小剣を自身の剣で擦り上げる。そして彼女は、そのまま相手の額を切り裂いた。
するとアミィの手練の技か、魔法の小剣の威力か。額に深く食い込んだ小剣は、あっさりと顎へと抜けていく。
続いてアミィは流れるような動作で身を翻すと、隣の兵士の喉に紫電と見紛う突きを放った。相手は斬られた仲間が邪魔で手を出しかねていたから、頸椎まで貫くような一撃に為す術もなく沈むしかない。
もはや半円の包囲は、全く役に立っていない。
最初、兵士達はアミィを完全に取り囲んでいた。しかしシノブの出現で生じた隙に乗じ、彼女は包囲の外に出てしまった。そして右側四人が倒されたため、既に片端が完全に崩れている。
しかもアミィは崩れた側から更に兵士達を倒しつつ、シノブを守っている。これではマクシム達に勝ち目は無いだろう。
「おい、シノブ! お前も武人なら剣で勝負しろ!」
マクシムは劣勢だと感じたらしい。それに静かに集中するシノブの姿に魔術の行使だと察したのだろう、彼は怒声を張り上げた。
「悪党のくせに武人とか言うな! ……眠りの霧!」
シノブが叫ぶと、マクシムの前に人の大きさほどの黒い霧が現れる。街道でシャルロット達の馬を治療したときに使った、催眠の魔術の応用だ。
「な、なんだ!?」
マクシムは素早い動きで後ろに跳び退ろうとした。しかし漆黒の霧はマクシムを逃さず、あっという間に拡散して彼を飲み込んだ。
「うっ……」
一瞬、黒い霧の中から呻き声が聞こえた。しかし苦鳴は続かず、間を置かずにドサッという鈍い音が生じる。
その間にも黒い霧は爆発的に広がり、残りの兵士達も巻き込んでいく。そして部屋の半分ほども満たした黒い霧は、敗北の音を連鎖させる。
「ふうっ、上手くいったか。こっちは……流石アミィ」
魔術による霧の展開を終えたシノブは、アミィへと注意を向ける。すると彼女は、既に近場にいる兵士達を倒し終わっていた。
「アミィ、お疲れさま。それじゃ縛り上げるか」
シノブはアミィを労うと、眠りの霧を解除した。大きく広がっていた黒い霧が消え去ると、そこにはマクシムと数名の兵士達が倒れている。
「はい、シノブ様!」
アミィは背負っていた魔法のカバンから、数本のロープを取り出した。そして彼女はシノブと分担し、意に沿わぬ眠りに就いた者達を縛り上げていく。
◆ ◆ ◆ ◆
「シノブ殿、アミィ殿。本当にありがとう。
ベルレアン伯爵領はお二人によって救われた。領主として、親として、心から感謝している。この恩は決して忘れないよ。ありがとう」
ベルレアン伯爵コルネーユ・ド・セリュジエは、何度もシノブ達に礼を言った。そして彼はソファーから立ち上がると、シノブ達に向かって深々と頭を下げた。
「伯爵、顔を上げてください。私とアミィは、伯爵やシャルロット様を助けたかっただけです。私達を持て成してくれた礼とでも思ってくだされば……」
シノブは柔らかな声で、頭を垂れたままの伯爵に語りかける。
今はマクシム達と戦った翌朝だ。ただし戦いは深夜零時を回っていたから、厳密に表現するなら同日の早朝である。
伯爵の執務室には主の他にシノブ、アミィ、家令のジェルヴェの三人がいる。ジェルヴェは家令らしく脇に立ち、シノブとアミィは伯爵と向かい合わせにソファーに座っている。
「シノブ様、アミィ様。私からも家臣を代表してお礼を申し上げます。お二人は、当家の、そして当領地の恩人です」
ジェルヴェは主のコルネーユ以上、最敬礼でシノブ達への感謝を表す。それに大きな感動に包まれているのだろう、彼の声は常に無く揺れていた。
「そんな大げさな……ジェルヴェさんも顔を上げて」
ジェルヴェからも感謝され、シノブは少しばかり頬を染める。今回はアミィの幻影魔術があってのことで、シノブ自身は大したことをしていないと思っていたのだ。
「シノブ殿。決して大袈裟ではないのだよ。
我々は継嗣のため領地のためと言いながら、結局はお二人を利用したのだ。我らにも守るものがあり、そのため綺麗事を言ってはいられない……それを大義名分にして。
……私は娘の話を聞き、更にアミィ殿の幻影魔術を見たとき、その力に縋ろうと思ったのだよ。まあ、ここまで見事に解決していただけるとは思わなかったが……」
伯爵はシノブ達に自らの思惑を率直に語っているようだ。やはりシノブ達を厚遇した背景には、大領を治める者ならではの思惑があったのだ。
しかし伯爵ともなれば、それが当然だろう。シノブは彼を優れた領主と思いこそすれ、悪感情は抱かなかった。
「遠い異国で出会った高位の貴族に頼ろうという思いは我々にもありました。お互い様ですよ。……ところで、その後どうなったのですか?」
シノブは、お礼を言われるのが照れくさかった。そこで彼は、事後の話に移ろうとする。
「私から説明させていただきます。マクシムとその配下の生き残り四名は、現在牢にて取り調べを受けております」
捕らえたマクシム達について、ジェルヴェが報告を始める。
既にマクシムは敬称を付けずに呼ばれている。彼は領主の跡取りの暗殺を企んだ大罪人だから、それも当然だ。
マクシム達を捕縛した後、シノブ達は待機していたジェルヴェを呼び寄せ、後の始末を頼んだ。
アミィが斬ったのは計六名。全て即死であった。こういう時のアミィは、シノブを守るため容赦はしない。それ故彼女は、確実に相手の息の根を止めていた。
「マクシムに与えられていた公邸を捜索したところ、例の割符の片割れが発見されました。アミィ様が記録された奴の声もありますので、証拠としては充分以上です」
フードの男に化けていたときのマクシムとのやり取りを、アミィはスマホから得た能力を使って記録していた。そしてジェルヴェや館で待っていた伯爵も、事件の直後にアミィが記録した音声を聞いていたのだ。
「しかし、見事に作戦が当たったね。
アミィ殿の幻影魔術で偽伝令に成りすますとは予想していたが、シノブ殿の姿を消すこともできたのだね。それに声まで記録するとは……アミィ殿の魔術は、なんというか我が国と随分違うような気がするよ。
……お国には、アミィ殿のような術者が多いのかな?」
伯爵はアミィの魔術に疑問を抱いたようだ。どんな魔術が故郷にあるのかと、彼はシノブ達に訊ねる。
「アミィの一族の秘伝なのですが、彼女は特に優れているようです」
スマホのことは説明しようがない。そこでシノブは、代々の秘術として誤魔化した。
やはり、アミィの術は出しどころを良く考えるべきだろう。それをシノブは心に刻む。
「そうか……ところでアミィ殿は、どうしてマクシムが黒幕だと判ったのかね? 罠の説明をしてくれたときは教えてくれなかったが、もう良いだろう」
おそらく伯爵は、恩人を問い詰めるようなことを避けようと思ったのだろう。彼は魔術から犯人特定の理由へと話題を転じた。
マクシムに罠を仕掛けると説明したとき、アミィはその理由を言わなかった。そのため改めて疑問に思ったのだろう、伯爵はアミィに種明かしを請う。
「えっ……それはですね……」
アミィは、何故か口ごもる。それに彼女の頬は、僅かに赤く染まっているようだ。
「俺も聞きたいな。教えてよ、アミィ」
シノブもアミィに頼む。彼女は、シノブにも理由を教えてくれなかったのだ。
「えっとですね……マクシムは、シノブ様の腕を試そうとした上に、無礼な口を利くから……犯人に間違いないと思ったんです」
アミィは小さな声で、しかしキッパリと理由を口にした。依然として頬は赤いが、彼女の表情に躊躇いは無い。
「えっ、それじゃ態度が悪かったからってこと?」
シノブは自分に敵対的というのが理由だとは思わなかったので、思わずアミィに問い返した。おそらく女の勘というものだろうと、シノブは想像していたのだ。
「はははっ、シノブ殿、こんなに信頼されているとは羨ましいよ」
大笑いした伯爵は、シノブに冗談めいた口調で語り掛ける。彼の顔からは、先刻までの憂いが嘘のように失せていた。
「私も信頼されていると思っていますけど、人を疑う理由が主人への態度って良いんですか?」
シノブにアミィを叱るつもりはない。しかし少々度が過ぎているように思ったので、そこを伯爵達に訊いてみる。
「シノブ様。己の主が天地に恥じない方だと思えばこそ、従者自身の指針となるのです。
主が無私無偏な方と確信しているから、敢えて敵対する者には己に恥じるところがあると考える。従者として、それだけ尊敬できる方に仕えるのは、至上の喜びです」
ジェルヴェは心底感服したような声音であった。どうやらアミィの言葉には、何十年も主家への忠節に励んだ彼の琴線を震わすものがあったようだ。
「うわっ、アミィの信頼に応えられるように頑張らないといけませんね……」
「シノブ様は充分立派な方です、それ以上頑張る必要はありません!」
アミィの言葉に三人は思わず笑った。真顔の彼女は本心から言っているのだろうが、それだけに愛らしくあったのだ。
「……マクシムには、どうやって襲撃者を揃えたかなど聞き出すことが色々ある。彼一人の考えかどうかも分からないからね。全容を解明するまで、牢での取り調べを続けることになるだろう」
ひとしきり笑った後、伯爵は話をマクシムの処遇に戻した。彼の顔には、先ほどまでの笑みは浮かんでいない。
「その後は、どうなるので?」
「調査が終わったら処刑せざるを得ないよ。あれほど計画的に暗殺を企んで実行したんだ。仮に領民相手であったとしても死罪は免れないね。
父親のブロイーヌ子爵も責任を取って隠居かな。子爵を隠居させるのは、後の統治を考えると辛いが、まさか何もお咎めなしとはいくまい」
シノブの問いに、伯爵は深刻そうな表情で答える。
おそらくブロイーヌ子爵とは、非常に有能な人物なのだろう。伯爵の顔を見つめながら、そうシノブは感じていた。
「……後のことは我々が始末するよ。シノブ殿達はゆっくり寛いでいただきたい」
伯爵は気を取り直したように、シノブに休むように伝えた。
確かに、後はベルレアン伯爵家の問題だ。そう感じたシノブは、無言のまま伯爵に頷き返した。
◆ ◆ ◆ ◆
シノブとアミィは、逗留している貴賓室に引き上げた。
事件が片付いたせいか、シノブは僅かに疲労を覚えていた。そこでアンナにも下がってもらい、アミィと二人だけで過ごす。
「初めての町に来て早々、探偵の真似事をするとは思わなかったよ」
本当に疲れたと思いながら、シノブはアミィに笑いかける。事件が解決し肩の荷が下りたこともあり、シノブはソファーにぐったりともたれ掛かっている。
「それに、伯爵に何度も謝礼について聞かれたのも参ったよ」
シノブはアミィの言葉もあり、事件を調査すると決めた。
誠実そうなシャルロット達を助けたいと、シノブ自身が思ったのもある。だが引き受けた理由の大半は、従者として尽くしてくれるアミィに喜んでほしいというものだった。
それ故シノブは、調査を決断したとき対価のことを考えていなかった。
「アムテリア様のお陰で物には不自由していないし、あまり伯爵家に頼るのも嫌だから断ったけどね」
アムテリアが授けた道具は、こちらのものより遥かに高性能だ。シノブも何も欲しくないとまでは言わないが、生活に必要なものは揃っている。
伯爵家から何らかの名誉や地位を授けられるのも、今後の足枷となりそうでシノブは避けたかった。
まだセリュジエールに来て十日も経っていない。シノブは伯爵達との付き合い方をゆっくり考えたかったのだ。
「伯爵が温厚な方で助かりましたね。シノブ様のお気持ちを察したのかもしれませんが……」
アミィが言うように、相手次第では無礼と受け取られる可能性もあった。強く押してシノブ達に逃げられるのを恐れたのかもしれないが、ベルレアン伯爵は面子だけを気にする人物ではないようだ。
「そうだね。その辺も含め、出現したのがこの領地で助かったのかもしれない」
シノブは、アミィの言葉に頷いた。
結局シノブは、今後もしばらく滞在し伯爵達から王国に馴染むための支援を受けることにした。それが謝礼代わりということで、なんとか彼らにも納得してもらったのだ。
伯爵家としては恩人を厚く遇することができるし、シノブも地位や名誉で縛られることもない。双方が妥協した結果ともいえる。
「とにかく、これで一段落だ。最後に大立ち回りするとは思わなかったけど、アミィのお陰で無事解決したしね」
シノブはソファーに寄り掛かりながら、アミィに微笑んだ。
真相が判明し罪を犯した者が捕らえられたのは、シノブにとって喜ぶべきことだ。とはいえ、あまりスマートな解決方法でもなかった。そのためシノブの笑みは、ほろ苦いものへと変わっていく。
「……後悔されていますか? あちらでは人を殺すようなことは無いと思いますが……」
アミィは、心配そうな顔でシノブを見つめている。狐耳も少々力がない。どうやら彼女は、苦みを含んだシノブの表情を荒事への嫌悪からだと思ったらしい。
マクシムとの戦いで、シノブは直接人殺しをしていない。しかし従者のアミィは兵士を斃したし、捕らえたマクシム達も死罪になる。つまり、シノブは間接的に殺人をしたと言える。
街道の襲撃者に関しては、いきなりのことで深く考える時間もなかった。だが、今回は計画的に人を死に追いやったのだ。
それがシノブの重荷になっていないかと、アミィは心配したようだ。
「後悔はしていないよ。彼らを倒さなければ、俺達はあの場で死んでいただろうし。それに事件を解決しないまま見過ごしたら、彼らは再び罪のない人を殺すかもしれない。
それが判っていて、そして自分なら解決できる力があるのに、見ないふりをするのは嫌だよ」
シノブはアミィの問いかけに答えつつ、明るく微笑んでみせる。
悪辣な者への憤りも大きい。それに、この世界で生き抜くには強くあるべきだし、目を逸らしてはいけないことがある。シノブは、そう結論付けていたのだ。
「もっとも、なんでもかんでも解決しようとは思っていないよ。目に入る範囲で助けられるものがあれば、自分にできることをしよう、って感じかな」
「はい! シノブ様は凄い力をお持ちですけど、神様ではありません。無制限に手助けしていては、いつか限界を超えて倒れてしまいます」
アミィはシノブの言葉に安心したようだ。にっこり微笑んだ彼女の頭の上では、艶やかに輝く狐耳も元気を取り戻している。
「ああ、気を付けるよ。とりあえずは、しばらくゆっくりしたいね」
「はい! 久しぶりに魔法のお茶、いかがですか? 疲れがとれるサラダもありますよ!」
アミィは魔法のカバンから、アムテリアが授けたお茶とサラダセットを取り出した。
これらはただの食べ物ではない。それぞれ魔力回復効果と状態異常回復効果がある、一種の魔法薬だ。
「ああ、ありがたくいただくよ。あのサラダ、本当に疲れが吹っ飛ぶんだよね!」
シノブは声を弾ませ、アミィからお茶とサラダセットを受け取る。そしてシノブは、アムテリアに感謝しながら神秘の力が宿る飲み物と食べ物を口に運んでいく。
とりあえずは、一件落着だ。ならば、この世界で生きていく道を模索しよう。
今のように単なる客人として暮らすのではなく、自身の場として過ごす場を見つけたい。そのとき自分は、真の意味で新たな世界の一員になるのだろう。
自身を支えてくれる掛け替えのない従者と語らいながら、シノブは静かに明日へと思いを巡らせていた。
お読みいただき、ありがとうございます。




