10.26 竜を呼ぶ男 中編
ヴィランスの町は、領都シェロノワの西10kmほどのところにある小さな町だ。人口千人少々だから、ぎりぎり町として扱われる規模である。
ヴィランスは、シェロノワから西に伸びるフライユ西街道に存在するが、シェロノワに近すぎるせいもあり、あまり発展していない。
フライユ西街道は、シェロノワから領内第二位の都市スクランシュを通り、更に都市シュルーズを経て男爵領群へと入る。そして、その向こうはベルレアン伯爵領であり、王都メリエに向かうフライユ南街道と並ぶ主要街道である。
したがって、多くの交易商などがヴィランスの町を通過していく。ただし、領都シェロノワから10kmという中途半端な距離が災いし、多くは文字通り通過していくだけであった。
そのためヴィランスには主要街道を外れた近辺の町村と同様に、近くで働く農民とシェロノワに住むことが出来ない零細商人や通いの職人などが住むのみとなったようだ。
そして帝国の間者サミュエル・マリュスは、零細商人の一人と偽ってレウマスという名で民家を借りているらしい。ソニアが調べたところによると、彼は行商を営んでいると周囲に言っていたらしく、長期間留守にしていても疑う者はいなかったようだ。
このサミュエル・マリュスという男は、王国に潜む間者の指揮官と思われる人物だ。彼は長らく消息が掴めず既に帝国に帰還したという意見が大勢を占めていたいたが、なんとシェロノワの目と鼻の先というべき場所に潜んでいたのだ。
「こちらです……」
ソニアはシノブ達を、サミュエル・マリュスの潜伏先である民家に案内していく。
なお本来のソニアは猫の獣人だが、今は人族と同じ外見である。実は、アミィが与えた魔道具で姿を変えているのだ。
帝国の間者はほぼ間違いなく人族である上、猫の獣人は北方に少ない。そのため、獣人の姿で調査するのが仇となることもある。今の彼女は、透明化の魔道具、北方に多い狼の獣人に姿を変える魔道具、そしてこの人族に見せかける魔道具と使い分けて、聞き込みや追跡を行っている。
なお、今日のソニアの服は、町民らしい質素な厚手の上衣と長いスカートである。色も茶色と地味なのは、諜報の際に目立たないようにという配慮であろうか。更に、本来は金髪金眼のソニアだが瞳を人族に多い緑色にしているため、町を往く人々も彼女を気にする様子はない。
「周囲は?」
先導するソニアを前に見ながら、シノブはソニアの叔父アルバーノへと囁いた。
アルバーノは間者対策の特殊部隊を任されている。彼やその部下は帝国から解放された獣人で、間者の捜索には人一倍熱心であり、敵と通じる危険性も皆無である。
したがって、間者の一人くらい彼らに任せても良いのだが、前フライユ伯爵クレメンを唆し長年暗躍してきたサミュエルだけに、念のためにシノブ自ら出向くことにしたのだ。
「部下達が封鎖しています」
対するアルバーノも普段と違う険しい表情で、あたりを気にしながら言葉を返す。
シノブの左右を固めるのは、アミィとアルバーノである。なおソニアと同様に、二人も人族へと姿を変えている。アミィは自前の魔術で、そしてアルバーノは魔道具と手段は違うが、二人とも外見はシノブと同様の北方に多い金髪碧眼の人族である。
更に、その装いもシノブとアルバーノは旅装の商人風、アミィはソニアと同じような町娘風の服を身に着けており、普段とは全く違う。
男性の二人、シノブとアルバーノは長いマントを纏い、その下に小剣を隠している。ちなみに、行商の商人達も魔獣や盗賊から身を守るために武器の携帯は許されている。多くは取り回しの良い小剣を選ぶが、護衛の傭兵達は大剣や長槍を持ち歩く者もおり、このくらいの武装は珍しくもない。
なお、ごく普通の領民は旅行をすることはほとんどない。だが、一生に一度くらいは聖地サン・ラシェーヌで祈りを捧げたいと思う者は多いらしい。そのためメリエンヌ王国の庶民の旅行は、大半が聖地巡礼の旅だという。
通関証明書を取得さえすれば王国の民には、国内旅行の制限はないし、商人達と違って関税が取られるわけでもない。しかし、日々の生活もあるので旅行を楽しむのは裕福な商人くらいであり、それも商売そのものや見聞を広めるためという実利的な理由が多いようである。
「……あの家です。少しお待ちください。誘き出します」
ソニアが示す建物は、人影のない路地の奥にある小さな平屋の木造住宅であった。
都市とは違い町や村では平屋かせいぜい二階建てである。また、都市のような全て石造りの家は少なく、基礎は石材、柱は木造、壁は木や漆喰というものが主流だという。サミュエル・マリュスは零細の行商人レウマスとして家を借りているから、偽りの身分に相応しい家にしたのだろう。
そして、そんな零細商人に相応しい変哲もない家に、ソニアは落ち着いた足取りで接近していった。
シノブは、来る道筋で聞いたが、彼女は何度かヴィランスの町に訪れていたという。彼女や、間者対策に作った獣人の特殊部隊は、シノブ達が王都に行ったり帝国に行ったりしている間に、近辺の町村をくまなく探っていたのだ。
「レウマスさん、ポールさんからのお手紙ですよ!」
ソニアは普段とは違う可愛らしい声で呼びかけながら、質素な扉を叩いた。
同時期に王都やベルレアン伯爵領で侍女とした者達、リゼットやアンナを含めた三人だと彼女が最年長で二十歳も近い。しかし今は十代前半のように天真爛漫な声音で、表情まで初々しく朗らかなものにしている。
──流石だね。本当にただの女の子にしか見えないよ──
シノブは心の声で、アミィに感嘆の言葉を伝えていた。
元々ソニアは、女優にでもなったほうが良いと思うくらいの演技派である。しかも彼女の自然な表情や口調は、正体を知っているシノブでさえ近所の少女が知り合いを訪れたとしか思えなかった。
──はい。あれで門番もコロッと騙されたみたいです──
心の声で語りかけたシノブに、アミィが苦笑気味の思念で応じた。
ちなみにソニアが口にしたポールというのは、領都シェロノワの門番の名だ。彼は金に目が眩んでサミュエル・マリュスに情報を流していただけらしい。そして情報代として小金を得たポールが酒場で高い酒を飲み漁っていたところを、不審に思ったソニアが接近して理由を聞き出したのだ。
なおポールは既に捕縛済みで、多少の金で口を滑らせたことを彼は牢屋で後悔しているという。
「ポールからか……」
ソニアの声を聞いて、扉を押し開けて家の中から40代の男が姿を現した。
ソニアやアルバーノからシノブが事前に聞いた特徴と一致しているから、彼がサミュエル・マリュスで間違いないだろう。サミュエルは零細の行商人らしく、粗末な服に身を包んでいるが、その腰には小剣を佩いており、立ち居振る舞いにも油断はない。
「はい、これがお手紙です!」
「ありがと……うぉ!」
扉の少し手前で手紙を差し出したソニアに歩み寄ったサミュエルは、突然悲鳴を上げて崩れ落ちた。更にその直後、サミュエルの向こう側にアルバーノの姿が現れる。
「ソニア、見事だったぞ!」
姪に向けて笑いかけたアルバーノは、鞘ごと抜いた小剣を手に持っている。たぶん、それでサミュエルを気絶させたのだろう。
実はアルバーノは、アミィから渡された透明化の魔道具を使って潜んでいたのだ。
しかも彼は、足音もなく、それどころか全く気配を感じさせずに動いたようだ。それ故周囲に注意を払っていたサミュエルも、異変に気がつかなかったのだろう。
「ご苦労。中に入ろう」
シノブはあっさりと片付けた二人に労いの言葉をかけて、サミュエルの潜伏先である民家へと歩み寄った。そして彼を含む四人は、気絶したサミュエルと共に民家の中へと姿を消していった。
◆ ◆ ◆ ◆
「帝国が送り込んだ潜入部隊はサミュエル・マリュスで最後でしたか」
「ああ。これでやっと一連の事件が終わったね」
感慨深げな表情を見せるシメオンに、シノブも安堵と達成感を滲ませながら頷いた。
事後処理をアルバーノやソニアに任せて領都シェロノワに戻ったシノブは、館の執務室に主要な者達を集めていた。彼とシメオンの他には、シャルロットとその側近アリエルとミレーユ、先々代フライユ伯爵アンスガルの妻であるアルメル、そしてジェルヴェとアミィがいる。
サミュエル・マリュスに唆されて前フライユ伯爵クレメンが帝国と通じていたことは、途轍もない醜聞であるため、まずは非常に近しい者だけを集めたのだ。
「やはり、サミュエル・マリュスは帝国の貴族だったのですか……」
シャルロットは、自身の暗殺計画を後ろで操っていた男の正体を、ある程度は予想していたようである。
帝国の大隊長パウル・キュッテルと同様に、サミュエルを催眠状態にして聞き出した事実には、今まで不明であったことが含まれていた。
サミュエル・マリュスの帝国での名は、ルーディ・フォン・グレーナーという。彼はベーリンゲン帝国の貴族の息子であったのだ。彼は先の戦で倒した将軍エグモントの家、ブロンザルト家が造り上げた潜入組織の主要人物であり、20年前の戦の混乱に乗じてメリエンヌ王国に潜り込んだ者を束ねる存在であった。
サミュエルは、帝国が長年の力押しを反省して正面からの侵攻だけではなく搦め手にも力を入れたと言っていた。どうやら20年前の戦では、潜入が主要な目的の一つであったと思われる。
そしてサミュエル・マリュスは、配下のエーミール・メスナー、王国ではジェラール・ソレルと名乗った男と共に、フライユ伯爵領を中心に活動を開始した。
まず、傭兵としてフライユ伯爵領軍に加わったサミュエル・マリュスが、戦後正式な家臣となった。そして、その支援でジェラール・ソレルもガストン・ソレルと名を変えた息子と一緒にソレル商会を立ち上げた。
彼らは数年間は活動基盤の確立を中心に動いていたが、クレメンの産業振興策が一旦失敗に終わった後に、帝国との密貿易を提案したという。
「グレーナー男爵家がブロンザルト子爵家の一族だから、潜入部隊の要に選ばれたようです」
アミィが、シャルロットにサミュエルから聞き取った結果を伝える。
帝国の場合も、男爵は元々の豪族に与えられた爵位だが、こちらは全員が建国時に領地を取り上げられ、以降は単なる官僚や軍人として生活している。そのため、伯爵家や子爵家と縁戚関係を結び、彼らの一族となっている男爵家も多いという。
「戦争に使う魔道具の開発が遅れたから、内応策に切り替えたらしい。
どうも魔獣用の『隷属の首輪』や、アドリアンが使った人の魔力を吸収して強化する技術と関連があるみたいだが……」
「シノブ、どうしたのですか?」
いきなり黙り込んだシノブに、シャルロットが怪訝そうな表情で問いかける。彼女の深く青い瞳は、夫を案じているためか、僅かに不安そうな色を宿していた。
「竜が……ガンド達が接近してくる。それに、知らない竜もいるみたいだ」
「えっ、また新しい竜がこちらに住むんですか~?」
シノブの答えを聞いたミレーユは驚きより興味が勝っているらしく、何かを期待するような表情をしている。だが、彼女の反応も無理はないだろう。他領ならともかく、フライユ伯爵領では竜の飛来も珍しくはないからだ。
王都メリエでアムテリアから神々の紋章を授かり、騎乗用の装具に取り付けてもらったガンド達は、アマテール村のドワーフ達にその装具を預けている。そして、狩場の外に行くときは、ドワーフ達に装具を付けてもらう。そして、紋章の件は王国中に布告されているし、シノブも領内へと伝達している。
そのため、竜達は今まで以上にシェロノワへと飛来するようになったのだ。特にオルムルは、週に数回やってくるほどである。
「ガンドから連絡があった。庭に行こう」
対するシノブは、険しい表情である。彼は席から立ち上がり、一同に外に出るよう言葉をかけた。
◆ ◆ ◆ ◆
──我が名はヴルム。岩竜の長老である──
伯爵家の前庭の訓練場に、ガンドとオルムルの二頭を伴って現れたのは、一際濃い灰色をした巨大な岩竜であった。
合わせて三頭の竜のうち、子竜のオルムルはまだ色が薄く、白っぽい灰色である。それに対し、成竜のガンドは、玄武岩のような濃い灰色であり、岩竜という名に相応しい外見である。
しかし、このヴルムという岩竜は更に濃く、黒といっても良いくらいの濃さである。それに、体も全長20mのガンドより若干大きい。二頭にさほど差は無いため別々に見たら気がつかないだろうが、こうやって並んでいれば一目瞭然である。
「私がシノブだ!」
シノブは、初めて見る巨竜ヴルムへと鋭い表情で名乗った。
そして、そんな彼と巨竜のやり取りを、背後にいる大勢の者達が緊張の眼差しで見つめている。先ほどまで執務室にいた面々だけではなく、ミュリエルや滞在中の王女セレスティーヌ達も庭へと出てきたのだ。
どうやら手が空いている者はほとんど出てきたらしく、魔道具の研究をしていたマルタン・ミュレやルシール、ハレール老人なども、興味深げに見守っている。
「さっきも伝えたとおり、この地にはガンド達しかいないぞ!」
挨拶もそこそこに、シノブはヴルムが求める答えを口にした。
実は、飛来してくるガンドは、思念で意外なことを伝えてきた。シノブ達人間が他の竜の居場所を知らないか、というのだ。全力で飛翔するガンド達は、あっという間に到着したため詳しいことを聞く暇もなかったが、どうも行方不明の竜がいるらしい。
──そうか……炎竜の番なのだがな──
そして、ヴルムはシノブ達に詳しい事情を語り始める。なお、ヴルムも『アマノ式伝達法』を習得していたため、シノブとアミィ以外もその内容を理解している。
ヴルムによると、竜の一種、炎竜の番であるゴルンとイジェが行方不明になったらしい。岩竜の長老ヴルムは、炎竜の長老から相談を受けたが、彼ら岩竜には思い当たることはなかった。そのため、人間が何か知っていないかと思ってシノブのところに来たという。
「……残念だが、聞いたことはない。
そもそも、竜の棲家や狩場は、同じところを交互に使うのではないか?」
シノブやアミィは、岩竜しか見たことはない。
念のため、シャルロットやシメオン、それにアルメル達にも訊ねてみたが、彼らも知らないようだ。
そもそも、メリエンヌ王国に竜が現れたことなど、過去にないらしい。博識なジェルヴェも聞いたことがないというし、王都メリエで高度な教育を受けたセレスティーヌや、魔術師であるマルタン・ミュレやルシール達も知らなかった。
──炎竜達が使うのは火山なのだ。活動期に入っている火山でなければ炎の力を得ることはできない。だから、その時々で違う──
今度は、ヴルムの代わりにガンドが答えた。岩竜達は、いわば土属性であり、鉱物資源の多い山脈から魔力を得ている。したがって、山脈が消失でもしないかぎり竜の棲家を変える必要は無い。
しかし、炎竜達は火山の熱から魔力を得るらしい。そのため、噴火中とまではいかなくても、活発に活動している火山を棲家にするという。
「なるほど……それなら毎回場所が違うのも当然か」
シノブは、ガンドの説明に納得した。
炎竜達も、過去に使った棲家に行ってみたが、それらにいる形跡はなかった。今も彼らは、活動期に入っている火山を巡っているが、条件に合う火山はかなりあるという。どうやら、溶岩がかなり上がっていれば、噴火していなくても良いようである。
──『光の使い』よ。そなたの声なら我々より遠くに届く。すまぬが炎竜の番に呼びかけてはくれぬか──
シノブの心の声の届く範囲は岩竜達より遥かに広い。したがって岩竜達は、シノブの思念ならゴルンとイジェに届く可能性があると考えた。そうヴルムは伝えてくる。
──シノブさん、お願いします!──
長老がいるせいか今まで黙っていたオルムルだが、縋りつくような思念で訴えてくる。成竜であるガンドやヴルムとは違い、まだ幼い彼女は行方不明になった仲間を案じる気持ちを素直にぶつけてきた。
「わかった。やってみる……」
竜達の期待を感じ取ったシノブは、そう言うと光の大剣を抜き放ち、目を瞑って魔力を集中していった。
光の大剣には魔力の増幅能力がある。それを使って街道を造ったときは、普段の三倍以上の長さを敷設することが出来た。
そして、シノブが思念を届かせた距離の最長は、領都シェロノワから王都メリエのおよそ700kmである。そのときは光の大剣を使わなかったし、全力で念じたわけでもない。
したがって、光の大剣を使った上に限界まで魔力を込めれば、最低でも2000km、もしかするとその何倍も向こうに思念が届いても不思議ではない。
「シノブお兄さま、頑張ってください!」
「シノブ様!」
ミュリエルとセレスティーヌが声援を送る中、シノブは精神を集中し、ヴルムから教わった炎竜達の魔力波動を意識していく。
どうやら、心の声を届かせる相手の選別は、魔力波動で行っているらしい。相手を思い浮かべることで対象の魔力波動に合わせた思念となるようである。
──ゴルン! イジェ! 聞こえていたら、炎竜の長老か岩竜の長老のところに行ってくれ!──
そしてシノブは、ヴルムが教えてくれたゴルンとイジェの魔力波動を意識して、ありったけの魔力を込めて心の声で叫んだ。
「きゃあ!」
「す、凄い魔力が!」
するとその瞬間、幾人かの者が叫び声を上げていた。心の声自体が伝わったのではなさそうだが、あまりに強烈なシノブの魔力を感じ取ったらしい。
特に、アミィや魔術師であるミュレやルシール、アリエルなどは強く感知したようだ。彼らは、悲鳴を上げたり驚きの表情を見せたりしている。
また、魔術師ではないが魔力が比較的多いミュリエルや、彼女ほどではないが武術の修練で鋭い感知能力を得たシャルロットやミレーユなども同様であった。逆に、魔力が少なく修練もしていない普通の使用人は、何が起きたかわからず、驚く人々を不思議そうに見つめている。
──これなら彼らも感じ取れるだろう。もし、そなたの魔力が届く範囲にいれば、だが。
とはいえ、このあたりの人の子が暮らす場所全てに届いたはずだ。これで駄目なら、よほど遠方にいるのだろうな──
実はヴルムもゴルン達と会ったことはなく、その魔力波動は炎竜の長老から教わっただけだという。しかし、幸いシノブが放った思念には問題がなかったようで、ヴルムからは満足げな感情が伝わってくる。
──シノブさん、ありがとうございます!──
「早く見つかるといいね」
頭を擦り寄せてきたオルムルを撫でながら、シノブは優しく呟いた。
強大な竜達が行方不明になったことに不安を抱いたシノブだが、それをオルムルに伝えるべきではないだろう。彼女は体長3mと馬よりも大きいが、それでもまだ生後半年なのだ。
──『光の使い』よ。協力に感謝する。早速我は戻り、炎竜の長老へと伝えたい。
慌ただしくてすまないが、改めて礼をしにくる。そのときまで壮健にな!──
「無事に見つかることを祈っている!」
思念を発して飛び立つヴルムに、シノブは大声で叫んで手を振った。彼だけはなく、庭に集った者達も、岩竜の長老に相応しい威厳のある飛翔に、感嘆の声を漏らしていた。
──『光の使い』よ。この甘えん坊は置いて行く。そなたの魔力を与えてくれれば、問題ない。いや、魔獣を食べるより早く育つかもしれんな……ともかく、すまないが頼む──
ガンドの思念にシノブは苦笑した。ガンドやヨルム、そして他の岩竜も手分けして捜索をしているらしい。そのため、ガンドも慌ただしく飛び立っていく。
「オルムル……それじゃ、魔力をあげようか。ここまで飛んできて疲れただろう」
──はい! お願いします!──
シノブは魔力をオルムルに同調させて送り込みながら、北の空に飛んでいく二頭の岩竜を見送っていた。
オルムルは疲れている様子はなかったが、それでも嬉しげにシノブの魔力を吸収していく。先日もそうであったが、彼女はシノブの魔力をとても気に入ったようである。
シノブは、標準以上に成長しているらしいオルムルを眺めながら、行方不明の炎竜ゴルンとイジェの無事を祈っていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回は、2015年4月27日17時の更新となります。