02.09 狼と狐
シノブとアミィは調査すべき事柄を、ベルレアン伯爵家の家令ジェルヴェに伝えた。そのため、しばらく二人は結果を待つだけとなった。
しかし、単に待っているだけというのも退屈である。そこでシノブは調査の参考になればと、侍女のアンナからもベルレアン伯爵家や一族について訊くことにした。
もちろんアンナに詳しいことは話せないから、話題とするのは単なる噂話程度である。しかし、それでもこの領都セリュジエールに来たばかりのシノブ達には、何かの参考になるかもしれない。
そのようなわけで、シノブはアンナを呼んだ。そしてシノブとアミィは、アンナに淹れてもらったお茶を味わいつつ、彼女と雑談を始める。
「アンナさんは侍女になってどれくらい経つのですか?」
まずはアミィが訊ねていく。そしてシノブはアミィの横で静かに見守る。雑談であれば、男のシノブよりアミィの方が良いだろう、と考えたからだ。
「八歳のときシャルロット様付きの侍女見習いとして奉公に上がりましたから、七年になります。それから、お嬢様がヴァルゲン砦の司令官に就任されるまで、お側におりました。
砦でもお世話したかったのですが、軍人ばかりということで、その後は奥様付きの一人に加えていただきました」
侍女ですので、とアンナは着席を断った。そのため彼女はシノブ達の横に立ったまま質問に答えている。
「私もシノブ様にお仕えして随分になります! それとアンナさん、同じ従者ですから気負わずに!」
アミィが微笑みながら大嘘をつく。何しろ従者になって十日少々である。
十歳くらいにしか見えない外見からは想像し難いが、アミィは相当な演技派であった。流石は何百年もの経験を積んだ神の眷属と言うべきか。
「アミィさんは武術もお得意なんですよね。私は狼の獣人なのに戦うのが苦手で、だから砦にも付いていけなくて……一緒に行ったアリエル様とミレーユ様が羨ましかったです」
アンナの言葉から距離感が薄れ、その分だけ感情も強く出た。声音に彼女の悲しみが滲み、頭の上の狼耳も少しだけ伏せ気味だ。
シノブは初対面のときを思い出す。
自分とアミィがシャルロットを助けたと知ったとき、アンナは強く感謝した。きっと彼女はシャルロットを心から慕っているのだろう。そう感じたシノブは、自然と微笑んでいた。
「シャルロット様には、そろそろご結婚の話などないのですか?
あれだけお美しい方ですから、申し込まれる殿方は、沢山いらっしゃいますよね。結婚されたら領都に戻られるでしょうし、またお仕えできると思いますよ」
アミィの声と表情には、アンナへの気遣いが滲んでいる。
情報収集のための雑談ではある。しかしアミィは、アンナを励ましたいと思ったようだ。互いに獣人族で主人持ちだから、アンナに共感を抱いたのかもしれない。
「う~ん。でもお嬢様に相応しい相手なんて、簡単には見つかりません!」
アミィの言葉にアンナは、しばしシャルロットの結婚と帰還を想像したらしい。
しかし彼女は、釣り合う相手がいない、と力強く言い切った。先ほどは伏せていた彼女の狼耳はピンと立ち、フサフサした尻尾も起き上っている。
「シメオン様とマクシム様が婿候補、と聞きましたけど」
アミィが徐々に核心へと近づいていく。
シノブ達は、シャルロットの暗殺を企んだ者を突き止めたい。そして調査を依頼したベルレアン伯爵は、事件の原因が彼女の婿取りにあると考えていた。そこでアミィは婿の候補である二人の名を持ち出したのだ。
「お二人とも、お嬢様には相応しくありません!
シメオン様は内政官としては有能ですが、領主としてはどうかと思います。冷静なご判断も必要ですが、それだけで人は付いてこないと思うんです。侍女の間でも、お考えを全く顔に出さないのが怖い、という人が多いんですよ。
マクシム様は武人としてはお嬢様に劣りますし、そのくせ威張っているから使用人の間では全然人気がないんです。部下の方には慕われているようなので、良いところもあるでしょうけど……」
アンナの見解は、かなり率直なものであった。しかし彼女はシャルロットを強く尊敬しているようだから、多少割り引いて考えるべきかもしれない。
「こんなこと、侍女の私が言うべきではないのですが……。
でも、シノブ様はお館様に非常に信頼されていますから……シメオン様とマクシム様、特にマクシム様に注意された方が良いと思うので……」
アンナが内情を暴露したのには彼女なりの理由があったようだ。
主家の一族を非難したからだろう、アンナは僅かに顔を強張らせていた。それに頭上の狼耳も一層鋭く立ち上がっている。
◆ ◆ ◆ ◆
「マクシム様に注意、とは?」
今まで黙っていたシノブだが、自分の名前が出たので口を挟む。
昨日の晩餐会では、シメオンとマクシムの双方ともシノブを警戒していたようだ。そしてシノブも、マクシムの方が強い敵意を持っていたと感じている。
それだからこそシノブは、アンナがマクシムの名を挙げた理由を知りたく思ったのだ。
「マクシム様は、お嬢様に求婚したいけど実力不足で申し込めない、との噂です。口の悪い人は、魔狼を四頭も倒した『ベルレアンの戦乙女』に怖気づいたのだろう、と言っていますが、あながち間違いでもないと思います。
昨日の晩餐でマクシム様がシノブ様の腕を見たいと迫ったのは、既に侍女達の噂になっています。皆、お嬢様を助けたシノブ様にマクシム様が嫉妬したのだと言っています」
尊敬するシャルロットに実力で劣るマクシムが嫌いなのか。それともシャルロットを助けたシノブが心配なのか。アンナの表情は、この上なく真剣であった。
「なるほど。シメオン様は大丈夫なの?」
シノブはアンナにもう一人について質問する。
シメオンは感情を出すことが殆どなかった。そのためシノブも、彼がどう出るか量りかねていた。
「マクシム様みたいに腕にものを言わせることはないと思います。
シメオン様は婿候補として争っているためか、マクシム様に色々厳しいことを仰っているようです。ただし、口で非難するだけで手を出したことはないようです。直接喧嘩しても勝てないからだ、と言う人もいますが……」
アンナはシメオンが実力行使をすることはないと言う。ただし、彼女もシメオンが何を考えて行動しているかは判りかねるようで口を濁す。
「ありがとう。どちらにも気を付けるよ」
シノブは笑顔で感謝の意を伝えた。まずは二人の性格が知れただけでも充分だと、シノブは思ったのだ。
「シノブ様に手を出す輩は私が倒します!」
アミィが力強く宣言する。小柄で細身の彼女だが固い決意を示すかのように声は張り、薄紫色の瞳も決意を示すかのように煌めいている。
「アミィさん、頑張ってください! 私もアミィさんみたいに強かったら、お嬢様のところに行けるのになぁ~」
応援しながらも、アンナは羨ましそうな表情となっていた。やはり彼女は、シャルロットの側仕えとして働けないのが残念で堪らないようだ。
「戦えなくてもご主人様を思う気持ちがあれば大丈夫です!」
アミィは立ち上がりアンナに寄った。そしてアミィは狼の獣人の侍女を励まし、彼女の手を握る。
「はい! 私、頑張ります!」
アンナもアミィの手を、ギュッと握り返す。
どうやら二人は互いに同志と認め合ったようだ。それを示すかのように狼耳と狐耳がピンと立ち、それぞれの尻尾もブンブンと振られていた。
◆ ◆ ◆ ◆
ともかくアンナは、シャルロットに相応しい貴族の息子などいない、という意見らしい。
「シノブ様のように、お嬢様を颯爽と助ける貴族の若様がいれば良いのですけど。でも実際は、お嬢様に呆気なく負けるような方ばかりなのですよ」
過去の挑戦者を思い出したのか、アンナは呆れ混じりの笑みを浮かべた。そして僅かな間の後、彼女は表情を改めると極めて重大なことをシノブ達に告げる。
「実は、お嬢様は王家の血も引いた高貴な方なのです。伯爵や子爵の息子だからといって、家柄だけの若様が婿に入るのは恐れ多いことです!」
なんとカトリーヌは、先代国王の娘で現国王の異母妹であった。つまりシャルロットは先代国王の孫で現国王の姪である。そのようなことを伯爵達は口にしなかったので、シノブは驚く。
カトリーヌは、降嫁した自分はもう王族ではないとして普段は自らの出自に触れない。そして伯爵達も彼女の意思を尊重していると、アンナは語る。
とかくシャルロット賛美になりがちなアンナの話だったが、シノブ達にとって有益な情報もあった。色々批判されたシメオンとマクシムが、それでも婿候補の最有力とされる理由である。
伯爵家の継嗣が女性の場合、後を継いだら女伯爵として当主となる。そして婿は準伯爵と名乗る。
名目上は女伯爵が当主だが、婿の才が上回っていれば実質的な主は彼となる。そして多くの場合、婿が事実上の当主として扱われるようだ。
その婿だが、通常は子爵以上の貴族の息子を婿に入れる。そして、領内の子爵家から迎えることが殆どらしい。
子爵家とは、要は伯爵家の分家だ。多くの伯爵家は二つか三つの子爵位を保有し、それを自分の一族に与える。つまり領内の子爵とは、元を辿れば何代か前の伯爵の子孫である。
それ故子爵家から婿が入っても結局は伯爵の一族で、家臣の忠誠心を維持しやすい。
領外から婿を貰う場合も、なるべく伯爵家の血を濃く引いている者を選ぶ。国内の伯爵家や侯爵家は婚姻で結びついているので、血を引いている者は多い。
しかし、他の領地から来た当主と譜代の家臣が互いに反発しかねないので、あまり好まれない。
「お嬢様にも領外からお申し込みがあったようですが、家臣一同を納得させる方でなくては到底纏まりません。領外の場合、よほど優れた方でないかぎりお館様もお認めにならないでしょう。
やはり家臣としては、次代のお館様もこの領内で育った方であってほしいですし……」
しみじみとした口調で、アンナは語り終える。
シノブはシメオンとマクシムが有力候補である理由に納得がいった。アンナの話を聞くまでは、伯爵の娘だから同格かそれ以上の家から婿を取れば良いじゃないか、と思っていたのだ。
「ところで『お館様』と『閣下』の違いってなんなの?」
シノブは昨日からの疑問を解消しようと考えた。この二つの呼び名は、どちらもベルレアン伯爵コルネーユに対して使われていたのだ。
「家臣の人が『お館様』で、他の貴族家から来た人が『閣下』とか?」
『閣下』と呼んでいたのは、アリエル、シメオン、マクシムの三人だった。シノブは昨日会った人々を思い返しながら問う。
「いえ、『お館様』は伯爵家の内向きを担当する者で、『閣下』は軍人か内政官です。家臣でも軍務や内政を担当する者は『閣下』とお呼びします」
アンナにとっては当たり前のことなのだろう。しかしシノブ達は遠い異国から来たとしている。そのため彼女は丁寧に説明していく。
そしてアンナの話を聞いたシノブは、なるほど自身の職務での区別か、と納得した。
「ありがとう。ところで、領外出身の騎士階級の場合は何と呼べばいいのかな?」
自分達がベルレアン伯爵を何と呼ぶべきか、シノブは聞いてみる。
シノブは『武士』という騎士階級のようなもの、ということにしている。そして晩餐の時、伯爵は自身を『伯爵』と呼んでくれと言った。
それに対しシメオンとマクシムは強く反発した。そのときの様子からすると騎士階級が爵位で呼びかけるのは無礼に当たるのでは、とシノブは思っていたのだ。
「領外の従士階級以上の場合『閣下』ですね。王族や貴族家当主であれば爵位のみ、または『ベルレアン伯爵』のように封土の名を付けて呼びます」
「……よく判ったよ。ありがとう」
アンナの答えにシノブは困惑を隠せなかった。ベルレアン伯爵が、自分を貴族家当主と同格としたと理解したからだ。
(シメオンが文句を言うはずだよ……部屋といい呼び名といい、完全に貴族の当主扱いか……)
これも伯爵のシメオンとマクシムを挑発するための策か。だが貴族の当主扱いなら、調査の上でも都合が良いかもしれない。シノブは、そんなことを考える。
ともかく貴族家当主らしい態度を心がけよう。直情的なマクシムはともかく、シメオンはシノブ達の出自に疑問を抱いているらしい。ならば隙を見せるべきではないと、シノブは思ったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆
昼食後、ベルレアン伯爵の従者がシノブ達のところに来た。その後の情報が入ったので一緒に聞いてほしい、と伯爵が望んでいるそうだ。そこでシノブとアミィは、早速執務室に赴く。
執務室に行くと、襲撃現場の調査を担当したラシュレー中隊長がいた。
ラシュレーは、鋭い目と鍛えられた肉体を持つ、人族の武官だ。年齢はおおよそ三十代半ばであろうか。彼は手際よく、その後の経過を説明していく。
昨日の日暮れ前、ラシュレー達は現場に到着すると同時に調査を開始した。時刻も遅いから夜が更けると現場で野営をし、日の出後に再び周囲を綿密に捜索したという。
「二個小隊、二十人で調査しました。しかし襲撃者の正体は判明しておりません。また遺体や装備、荷物などを回収しましたが、身元を示す物は存在しません。
なお、荷物の中に割符らしき物がありました。ですが絵柄が描いてあるだけで、単体だと相手の特定は困難と思われます」
そう言ってラシュレーは割符だという板を伯爵に差し出した。もう一枚と合わせる部分は、複雑な曲線を描いているが、確かに板自体には絵が描かれているだけである。
「襲撃者の容貌の記録と似顔絵作成は、現在実施しております」
ラシュレーによると、少なくとも彼自身や部下の知っている顔はなかったそうだ。彼はあくまでも私見と前置きした上で、領外の傭兵などと思われる、と意見を述べた。
「先代様は現場到着後ただちに一個小隊を率い、シャルロット様と共にヴァルゲン砦に出発されました。昨夜中に到着したものと思われます。以上です」
ラシュレーはそのように報告を締めくくった。
そしてベルレアン伯爵は、ラシュレーを労い下がらせる。
「先ほど砦から父上と娘が到着したと連絡があったよ。
偽伝令と二人の従者は、砦にはいなかった。シャルロットに帰還指令を伝えて一時間ほど休憩したら、領都に復命する、と言って出て行ったそうだ。伯爵領軍の装備を身に着けていたし、誰も不審に思わなかったようだね。いったい今頃、どこにいることやら。
新しい情報が入ったらまた伝えるよ。大した進展がなくて済まなかったね」
済まなげな伯爵に、シノブ達は家令のジェルヴェと相談した調査方針を伝える。そして二人は執務室を辞去し、割り当てられた部屋に戻った。
◆ ◆ ◆ ◆
しばらくシノブがアミィと雑談していると、ジェルヴェが戻ってきた。そこで彼から調査の進展を聞く。
「申し訳ありませんが、まださほど進展はございません。
監察官に訊ねたところ、怪しい動きを見せている家臣はいないようです。詳しく調査するように依頼しておきましたが……。
伝令の装備ですが、どうも最近発注した予備品が使われたようです。予備品は納品済みですが、担当の者に確認したところ三人分の装備が紛失していました。どういう経路で流出したかは、厳しく取り調べています」
ジェルヴェは装備の流出が許せないようだ。彼は強い憤りを顕わにしている。
「調査を始めたばかりなのに、大きな手がかりじゃないですか! 手引きした人が判ると良いですね!
……ところでラシュレー中隊長は、襲撃者が傭兵らしいと言っていました。ベルレアン伯爵領には傭兵が多いのですか?」
シノブは憤慨するジェルヴェを労った。
続いてシノブは傭兵について訊いてみる。確認はしていないが、今まで見た兵士に傭兵はいなかったとシノブは思っていたのだ。
「いえ、通常であれば領内に傭兵は殆どいません。ただし現在、領軍を臨時に増強していまして……」
ジェルヴェの説明によれば、東の隣国ベーリンゲン帝国との争いが活発化し、ベルレアン伯爵領軍にも出兵の可能性があるという。そのためベルレアン伯爵家は、若干の傭兵を募っていたそうだ。
ベルレアン伯爵領はベーリンゲン帝国と接していない。間に別の伯爵領を挟んでおり、小競り合い程度であれば、そちらだけで対応している。
しかし二十年前の大きな戦いでは、先代率いるベルレアン伯爵領軍が増援として派遣されたそうだ。
ちなみに今回の傭兵の募集は、内務次官であるシメオンの提言によるものだ。これは担当外への口出しだが順当な意見で、それだけで謀略とはいえない。そして先日、マクシムが募集のため王都に行って帰ってきたばかりである。
ジェルヴェは、これらを要領よくシノブとアミィに語っていく。
「シメオン様とマクシム様の双方が関係しているのですか……」
シノブは思わず呟く。傭兵に関係しているのが片方なら、何らかの手がかりになるかもと、シノブは期待していたのだ。
「一時的な増員として傭兵を募ることは、珍しくありません。
傭兵達には他領で職にあぶれた騎士階級や従士階級も多く、仕官を望んでいます。そして功績を挙げれば、そのまま家臣とすることもあります。つまり、双方にとって好都合なのです。
それに戦争が起こらなくても、魔獣退治や砦の修築などに回しておけば損もしません。内政を担当するシメオン様が恒久的な人員増強を避けるのも、子爵の継嗣であり王国軍などに顔が利くマクシム様が募集に赴かれるのも、おかしな行動とは言えません」
そうは言いつつも、ジェルヴェも偶然にしては怪しいと思っているようだ。彼も僅かに眉を顰めている。
「二人が共謀している可能性はありませんか?」
シノブはジェルヴェに重ねて問う。その場合、更に面倒なことになる。シノブは、そう考えたのだ。
「それは考えなくても良いかと思いますが……。
お二人の仲の悪さは本物です。内政官と武人という立場の違いもありますが、冷静なシメオン様と直情的なマクシム様は水と油です。まるで、童話に出てくる乱暴な狼と狡賢い狐のようだ、という者もおります。
流石にそれは言い過ぎとしても、お二人は婿候補同士として常々互いを牽制していますので」
ジェルヴェの言葉を聞いたシノブは、そう言えば晩餐の時も無視し合っていたようだ、と思い出す。確か二人は、お互いに声をかけることすらなかった。
「そうですか。でも、念のために共謀の線も含めて調査を進めましょう」
伯爵家を奪取するのだから、表向き不仲を装うくらいはあるかもしれない。シノブは、そう考えた。
「判りました。その他については、現在のところ進展がありません」
ジェルヴェも万一の可能性を考えたのか、反対することはなかった。そして彼は報告を終わりにする。
「ジェルヴェさん、ありがとうございます。
……アミィ、念のために回収してきた襲撃者の遺留品を確認しにいかないか?
あの時アミィが調べてくれたけど、じっくり見たらまた何か判るかもしれない。可能性は低いけど魔法の装備とか……魔法関係なら他の人には判らなくても、アミィなら手掛かりを発見できると思うんだ」
シノブはジェルヴェを労い、続いてアミィに顔を向ける。
神の眷属であるアミィは、魔道具に関しても随分と詳しいらしい。その彼女であれば何か発見できるかもしれない。それにシノブは、この地方の諸々について学ぶ良い機会かもしれないと考えたのだ。
「判りました! 早速行きましょう!」
シノブに頼られたからだろう、アミィは嬉しげである。勢いよく立ちあがったその背後で、尻尾が大きく揺れている。
「シノブ様、私もお供させていただきます」
ジェルヴェも同行を願い出たので、三人揃って領軍本部に行くことにした。
遺留品を調べたからといって、いきなり解決に結び付く何かが見つかりはしないだろう。だが、一歩ずつ進めていくしかない。事件のことも、この地に馴染むことも。
しかし自分にはアミィがいる。隣を歩む愛らしくも頼りになる従者の姿に信頼の眼差しを向けたシノブは、力強い足取りで扉の外に歩み出ていった。
作中で貴族当主の呼び方についての説明がありますが、あくまで本作品世界の中での決まり事です。実際のしきたりとは意図的に変えているところもあるのでご留意ください。
お読みいただき、ありがとうございます。




