10.05 二人は歩くよどこまでも
「北の高地に道を? ……そうか、大勢の人が行くんだから、道が必要か」
執務室に来たシメオンの言葉を聞いたシノブは、イヴァール達が開拓中の高地までの道程を思い出した。
特別な用事が無い限り、シメオンは午前中にシノブの執務室を訪れる。その日に処理すべき書類を持ってきたり、内密にすべきことを相談したりするためである。
だが、今日の彼が口にしたのは、それらとは少し違っていた。
「イヴァールさん達の開拓地ですね」
シノブの側に控えていたアミィは、彼らを思うかのような少し遠い目をしながら呟いた。
岩竜ガンドは、シノブ達がいる領都シェロノワから北北西に140kmほどのところに棲家を作ったらしい。それに対し、イヴァール達ドワーフは、シェロノワのほぼ真北、距離にして80kmくらいの場所を開拓中である。
シノブ達がいる領都に近いことと、そこから歩いていける範囲に良い鉱脈があったのが、選定の理由であった。
「ええ、途中までしか道がありませんからね」
シメオンが言うとおり、シェロノワから40kmの地点、ちょうど半分くらいまでは道がある。そのあたりまでは、町や村があるからだ。
だが、そこから先は未開の大地である。これから解放された獣人達が移住し、本格的な開拓が始まるが、道もない状態では何かと困る。
「ガンドさんに、邪魔な岩や木は退けてもらいましたが、ちゃんとした道をつける必要がありますね」
アミィも、シメオンの言葉に頷いた。彼女の仕草と共に、頭上の狐耳が揺れる。
高地に入ってからは、ガンドが魔獣を駆逐し、障害物を薙ぎ払ったらしい。そのため義勇軍や後方支援として来たドワーフ達は、移動自体はそれほど困らなかったようである。しかし、これから大量に物資を運ぶには、舗装された道が必要だろう。
「はい。何千人もの人々が移住しますから。
移住者にある程度の配慮をしないと、彼らの士気が下がります。現地でのことは可能な限り自分達で解決してもらいます。ですが、領都からの支援があると、目に見える形で示す必要があります」
シメオンが言うとおり、解放した獣人達のおよそ半分は北の高地に移住することになった。人数にすると、3000人近い。残りは、間者を警戒するための組織や領軍に所属する予定である。
それに元々のフライユ伯爵領の家臣や軍人にも、開拓に携わる者達がいる。前伯爵クレメンの反逆に加担したが、比較的罪の軽い者達だ。
特に重罪の者は処刑され、続く者達は監獄同様の場所で強制労働を科せられている。逆に上官の指示に従うしかなかった一般兵などは、一時的な減俸で済んだ。彼らの中間に位置する、比較的高位の官僚や軍人で積極的に関与していなかった者達が、開拓地に移住する予定であった。
「なるほどね。で、予算が必要なのかな? それとも作業者?」
シメオンが来たのは、臨時の予算か作業者についての相談だろう。そう思ったシノブは、彼に何が必要か訊ねた。
「いえ、それらは不要です。私達にはシノブ様がいますので」
「えっ、俺?」
シメオンの意外な言葉に、シノブは思わず問い返した。そんな彼をシメオンは僅かに微笑みながら、理知的に映る灰色の瞳で見つめている。
そして戸惑いの表情を見せるシノブに、シメオンは己の腹案を説明し始めた。
◆ ◆ ◆ ◆
シノブはアミィと二人だけで北の荒野にいた。
「……岩壁! ……岩壁! ……岩壁! 確かに、これなら予算も人手もいらないけどね! ……岩壁!」
愛馬リュミエールを走らせては止めているシノブは、同じようにフェイに騎乗しているアミィに、苦笑いを見せた。
「俺の前に道はない。俺が前に道を造る、ってね! ……岩壁!」
「そんな詩がありましたね。でも、少し違いますよ?」
岩壁の魔術を使いつつ冗談を言うシノブに、アミィも笑っている。
シメオンが考えたのは、シノブの魔術による道路敷設であった。
シノブは、ガルック平原で迫り来る帝国の騎兵に対し、岩壁を出して防御した。あっという間に幅200mもの岩壁を出現させたのだ。更に戦いの後、岩壁を追加して、ガルック第二砦と第三砦、そして従来の砦とそれらを結ぶ城壁まで築いていた。
それを聞いたシメオンは、岩壁の魔術で道路を造れないかと考えたのだ。
「……岩壁! 魔力はそんなに使わないけど、一度に300mくらいしか造れないのが面倒だね!」
シノブは、岩壁で路面を造っては、リュミエールを走らせて、その先に移動している。
戦地で造った城壁は厚さ6mほどもあった。それらを一瞬で造り上げるのに比べたら、地面とほぼ同じ高さの岩壁を出すのは大した手間でもなかった。だが、少しずつしか前に進めないのが面倒である。
「普通の魔術師だと、1mも造れば終わりだと思いますが……」
アミィが言うように、シノブの膨大な魔力がなければ不可能な技であった。それに、城壁として使用可能な精密な出来だから、無造作に魔術を使って馬を走らせているが、本来なら岩壁を出した後に、平らに整える必要があるだろう。
しかし、シノブが作った道は綺麗に仕上げられている。幅も10mはあり、一定の距離ごとにつける標識や休憩所となる空き地を整備すれば、主要街道といっても良いくらいの完成度だ。
「40kmだから、130回以上か! ……岩壁!」
シノブは、単調な作業に少し飽きてきた。魔力は充分足りるようだが、それでも3時間近くは掛かるのではなかろうか。とはいえ、3時間で40kmの道を敷設できるのは、驚愕すべきことなのだが。
「シノブ様、10kmくらい進みました! 一旦休憩にしましょう!」
「そうだね……岩壁!」
アミィの声に、シノブは、もう一回だけ岩壁を造ると、その先端までリュミエールを走らせてから、ひらりと降りた。
◆ ◆ ◆ ◆
シノブ達は、荒野に突き出していた岩の上に腰掛け、お茶を飲んでいる。
このあたりは、まだ既存の町や村からそんなに離れていないので、魔獣はいない。それ故、落ち着いて休憩が出来る。
人の手が入っていない荒野は、所々に木々はあるものの、全体としては枯れ草が広がる寂しい土地である。まだ標高が低いし、ここのところ天気が良いため積雪はないが、冬枯れの草が目立つ平原の所々に灰色の岩塊が突き出した、野趣溢れる風景だ。
「ふぅ、お茶、美味しかったよ。
……ちょっと寒いけど、天気が良いから気持ちいいね」
シノブは、隣に座っているアミィに笑いかけた。
「このあたりは、魔獣もいないしゆっくり出来ますね」
アミィは、シノブからカップを受け取ると、水流の魔術で洗浄した。そして、水操作で水気を飛ばしてから、魔法のカバンに仕舞う。
実は、開拓地やそこまでの経路は、ガンドが優先的に狩りをしていた。その結果、魔獣は殆ど駆逐されたらしい。それに、魔獣に越えられない結界である竜の道を作ってドワーフ達を助けているという。
竜の道とは、魔獣の骨に魔力を加えて作ったものである。竜が飛行しながら吐く骨の欠片は、普通の魔獣には越えることが出来ない。例外は、長い歳月を生きて高度な知恵をつけた岩猿などだが、幸い、このあたりにはその類の魔獣はいないようだ。
「ガンドは、狩場や開拓地の結界も完成したって言ってたからね」
シノブは、荒野に目を向けながら呟いた。
ガンドからは日に一回か二回程度、念話で連絡が入る。それによれば、彼はヴォーリ連合国の狩場と同じように、広範囲を囲む竜の道を完成させていた。そして、開拓地や、そこから南側の一帯にも同様に結界を作ったのだ。そのため、この先も魔獣に襲われる危険はほとんどない。
「これなら、開拓も上手く行きそうですね。
……シャルロット様やミュリエル様にも、お見せしたかったですね」
アミィも、シノブの見ている先に視線を向けた。まだ高地というほどの標高ではないため、積雪もさほどではない。特に、ここ一週間ほどは降雪も無かったため、雪は積もっていなかった。
「シャルロットやシメオンは開拓地だけで我慢してもらおう。ミュリエルは……勉強が忙しいみたいだね」
シノブも、この雄大な荒野を彼女達と一緒に見たかった。
だが、シャルロットは軍務がある。残念ながら、道路の敷設に付き合う時間は取れなかった。だが、彼女とシメオンは、開拓地に着いたら魔法の家で呼び寄せる予定だ。軍事と政治を預かる二人は、開拓地の視察をする予定である。
「ミュリエル様は、ルシールさん達から治癒魔術も教わってますし、仕方ないですね」
アミィは、心なしか残念な様子である。
治癒魔術に適性があるミュリエルは、ルシールやカロルに初歩の術を教わり始めている。それに、伯爵夫人に必要な知識も学ばなくてはならない。シャルロット達と共に視察をしたかったようだが、今日は領都シェロノワに残ったままであった。
「まあ、つい二日前に街に出たばかりだから。それに、リーヌの治療を見て、治癒魔術への興味が増したようだし」
シノブは、狼の獣人に姿を変えてシェロノワの街に出た一日を思い出していた。
元工員の露天商、ハレール老人にアントン少年は、早速ミュレやルシールの下で働いている。アントンの妹リーヌは、侍女見習いとなる予定だ。彼女を含め、三人はシノブの下で新たな道を歩み始めたのだ。
それに、彼らだけではない。ミュリエルも自分を磨くために頑張っている。新たな土地で、それぞれ自分の道を歩き出した。そう思ったシノブは、温かな思いと共に微笑みを浮かべた。
「リーヌさんも、問題ないみたいですし、良かったですね」
アミィは、アントンの妹リーヌの回復を喜んでいる。
リーヌは、まだ館の一室で静養している。シノブの治癒魔術で健康になった彼女だが、二三日は経過を見守ることにしたのだ。とはいえ静養はあくまでも念のためだ。もう少ししたら、彼女もアンナの下で侍女としての知識を学び始めるだろう。
「そうだね。ともかく、街に出て良かったよ。色々勉強になったし、困った人も助けられたし。……今日もそうだけど、こうやって領内を見て回らなくちゃね」
シノブは、眼前の荒野を見ながら呟いた。
百聞は一見に如かず。実際に現地に赴かなければわからないことは沢山ある。この広い荒野もそうだし、来る途中の町や村もそうだ。
澄みきった冬の寒空と、その下に広がる荒々しくも雄大な大地。それらを自身の心に刻み込もうと、シノブは見つめ続けた。
◆ ◆ ◆ ◆
「……アミィ、こうやって二人でいると、ピエの森にいたときのことを思い出さないか?」
暫く荒野を眺めていたシノブだが、アミィに顔を向けなおして語りかける。彼は、自分が初めてこの世界に現れたときにいた、深い森を思い出していた。
森と荒野。風景は違うが、アミィと二人きりだからだろう。シノブは彼女と出会った頃のことを想起していた。
「はい。なんだか私も、あの頃のことを思い出しました。もうすぐ半年なんですね……随分昔のような気がします……」
アミィは、当時を懐かしむような顔をしていた。シノブを見つめる彼女の薄紫色の瞳は、日の光を受けて優しく輝いている。
外見は10歳くらいの少女のアミィだが、アムテリアの眷属として長い時を過ごしている。そのため、彼女の優しい笑みには、その容姿に似合わぬ深みも滲んでいた。
「……アミィのお陰で、ここまで来れたんだ。ありがとう」
暫し黙ったシノブは、結局それだけを口にした。
もっと言うべきことがあるかもしれないが、彼女には、それだけで通じるような気がしたのだ。それに、どんな言葉でも、彼女への感謝を表すことは出来ないようにも感じていた。
「シノブ様……」
そんなシノブの気持ちを悟ったのか、アミィも彼の名を口にしただけで、優しく微笑んでいる。
シノブは、ピエの森を出てからのことを思い出していた。シャルロットとの出会い。暗殺未遂事件の解決。ベルレアン伯爵家での交流。イヴァールやガンド達との出会い。様々なことが彼の頭の中を過ぎっていく。
戦争など、苦しいこともあった。だが、最愛の女性と共に歩んでいる今は、忙しくも幸せな毎日だ。そして、そんな日々を手に入れたのは、アミィの助けがあってこそだ。
アミィと、彼女を自分の下に送ってくれたアムテリアに、シノブは深い感謝の念を抱いていた。
「……これからも、よろしくね。ずっと、一緒に頑張ろう」
多くの出会いがあった。だが、アミィが全てをくれたような気がする。そして、これからも彼女が導いてくれるのだろう。シノブは、そんな深く温かな思いを飾りのない言葉と共に表した。
「はい! 一緒です、ずっと一緒です!」
アミィは、瞳を潤ませながら、大きく頷いた。彼女は、とても嬉しげな表情でシノブを見つめている。それに、そうした彼女の喜びを表すかのように狐耳は元気良く立ち、尻尾も穏やかに揺れている。
感極まったのかアミィは、そのままシノブを見つめたままだ。二人の絆を示すかのような静寂が満ちる中、嬉し涙であろう、大きく盛り上がった煌めきが、彼女の薄く染まった頬を伝って零れ落ちる。
「……ああ、いつまでも一緒さ」
彼女と来た道。そしてこれから行く道。アミィの頬をそっと拭いながら、シノブは過去と未来に思いを馳せた。
「さあ、もう少し頑張るか! 一緒にね!」
そしてシノブは、今すべきことに己の意識を切り替えた。彼は、作業の再開を元気良く宣言する。
「はい! シノブ様!」
その気持ちを悟ったのか、アミィも勢い良く立ち上がると、シノブの手を引っ張った。そして二人は、手を繋いだまま、愛馬達の下へと歩んでいった。
◆ ◆ ◆ ◆
シノブ達は、再び乗馬して作業場に戻ってきた。時刻はおよそ10時くらいだろうか。このまま行けば、昼は過ぎるが、さほど時間はかけずに開拓地に到着するだろう。
「しかし、もう少し効率よく出来ないものかな……」
「これでも、とんでもない早さですよ」
シノブの言葉に、アミィは苦笑している。確かに、この世界でも、地球の常識でも、想像を絶する速度であるのは間違いない。
だが、開拓地までは、まだ残り30kmもある。シノブは、あと100回も岩壁の魔術を使うのかと思い、僅かに顔を顰めた。
「効率を追求するのは大切なことだよ。それに、この先は雪もあるだろうし」
高地に入れば、積雪もあるだろう。それらは、風の魔術か魔力障壁で退かすつもりである。したがって、その分作業速度も落ちるはずだ。
「でも、どうするんですか?」
アミィは、小首を傾げながらシノブに問うた。彼女の仕草にあわせて、明るいオレンジ色に近い茶色の髪が、微かに揺れ動く。
「一番良いのは、もっと魔力を込めることなんだけど。でも、幅はともかく、これ以上距離を伸ばすのは難しそうだし……っと!」
思わず頭を掻いたシノブの腕に『光の大剣』があたる。彼は『光の大剣』を背負っていたのだ。刃渡り1m以上、おそらく120cmはあるだろう。柄と合わせると150cmは優に超えるため、背負うしかない。
「やっぱり、邪魔ですね……」
アミィは苦笑を浮かべつつ、シノブの右肩から覗く柄を見ている。
邪魔なら魔法のカバンに入れておけば良いのだが、シノブがわざわざ『光の大剣』を背負っているのには理由があった。
「これ、俺やアミィしか持ち運びできないしね」
実は、『光の大剣』はシノブとアミィしか持ち運びできなかった。他の者が動かそうとしても、とても重く感じて動かないようである。だが、シノブやアミィが持ったときには、普通の大剣と同様の重さしか感じない。いや、むしろ軽いくらいである。
どうやら、アムテリアの加護が強い者、それも眷属に近いくらいでないと、動かすことはできないようである。おそらく、第二代国王アルフォンス一世しか使えなかったのも、それが理由だろう。
「私と別行動したときを考えると、持ち運びに慣れたほうが良いですし……」
魔法のカバンは、通常アミィが持っている。そのため、彼女が言うように、シノブだけで行動するときには、魔法のカバンを持っていないことが多い。そこで、少しは持ち運びの練習をしておこうということになったのだ。
「そうだね。こうやって剣を抜く動作だって、早いに越したことはないしね」
シノブは右手で柄を握りながら、左手で鞘の上部についている留め金を外した。『光の大剣』は剣身が長いので、背負った場合は鞘の一部を開いて抜剣するのだ。
そしてシノブは実際に抜いてみる。既に何度か練習したため、まずまずの速度でシノブは抜き放つと、そのまま天に翳した。
「しかし、凄い魔力だね……どうせなら、これが使えればいいのにね」
シノブは、アミィに向かって冗談っぽく言った。
そして道を横切るように馬を進めたシノブは、愛馬リュミエールに跨ったまま『光の大剣』を進行方向に真っ直ぐ向けた。
「こうやって、『光の大剣』よ、我に力を与えたまえ……岩壁! ……とかね?
……って、本当に出来たよ!」
あくまで冗談としてやってみたシノブだが、それまで道を造ったときと同じか、それ以上の長さの舗装路が出来上がったことに、驚愕した。
「魔力の増幅機能ですか!?」
「わからない。大して魔力を込めなかったんだけど……もう一回やってみよう!」
驚くアミィに、シノブは再び試そうと提案する。そして、彼らは出現した道の先端まで馬を進ませる。
「じゃあ、今度は本気で行くよ……岩壁!」
再び同じように剣を進行方向に向けたシノブは、今度は大仰なセリフは言わずにやってみる。どうやら、剣に願う必要はないらしく、先ほど以上の勢いで舗装路が伸びていく。
「……1kmを超えています! やっぱり、魔力の増幅か、剣の魔力を上乗せするようですね!」
舗装路の先端まで馬を走らせたアミィは、驚きのあまり目を見開いていた。道は、通常の三倍以上も伸びていたのだ。
「もしかして、他の魔術も……レーザー!」
アミィに追いついたシノブは、今度は天に向けてレーザーを放ってみる。剣を持つ右手ではなく空いている左手で放った光の束は、不可視の柱となって空高く伸びていき、冬空を覆う雲に穴を穿った。
「シノブ様、今のも?」
「ああ、明らかに普段より増幅されている。これが『光の大剣』の力なのか!?」
シノブとアミィは、互いの紅潮した顔を見詰めあった。
アムテリアから直接授かった道具とは違い、『光の大剣』の使い方はアミィにもわからなかった。そのため細かいことは不明だし他にも何かあるかもしれないが、これが『光の大剣』の能力の一つなのは確かである。そう思ったシノブは、満面の笑みを浮かべる。
「アミィ、この剣で『排斥された神』と戦おう! これならいけるんじゃないか!?」
「はい! 大きな助けになりますね!」
神と名乗る存在に、シノブは自身の力が通じるのか不安に思っていた。そしてアミィも、同じく懸念していたのだろう。
しかし『光の大剣』なら何とかなるのでは。根拠はないが、シノブは明るい未来を感じていた。
「さあ、とっとと道路を造って、イヴァール達に合流しよう! ……岩壁!」
シノブは道路造りに戻り、更に道を伸ばした。もちろん『光の大剣』を使ってだから、一瞬にして1kmほども続く石畳が出現する。
「シノブ様……いきなり身近な話題になりましたね」
「ほら、『千里の道も一歩から』って言うだろう? 将来の目的はともかく、まずは地道に進むことが大切だよ、アミィ君?」
苦笑気味のアミィに、シノブは気取った表情で冗談を返す。大きな希望に浮き立つ気持ちが、軽口へと繋がったのだ。
「もう、シノブ様ったら!」
そんなシノブに、アミィはついに声を立てて笑い始めた。そして澄まし顔をしていたシノブも、我慢しきれずに破顔する。曇り空が広がる冬の荒野だが、ここだけ春が来たかのような明るさだ。
「さて、次の一歩を踏み出そうか!」
「はい! まずは開拓地まで、ですね!」
ひとしきり笑っていた二人だが、ドワーフ達が待つ開拓地を目指すべく作業を再開する。シノブは岩壁を造り、アミィは彼を守るため警戒しながら続いていく。
息の合った主従は、開拓地に繋ぐ道を伸ばしながら、北へ北へと進んでいった。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回は、2015年3月16日17時の更新となります。