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女神に誘われ異世界へ  作者: 新垣すぎ太(sugi)
第9章 辺境の主
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09.01 年の始めの 前編

 創世暦1001年1月1日の早朝。ジェルヴェにつれられて、ベルレアン伯爵の第二夫人ブリジットとその娘ミュリエルは小宮殿へと参内していた。

 シノブ達は、前日から小宮殿に宿泊したままだ。小宮殿は王家の暮らす私的な場だが、分家である公爵達が泊まるための一画が用意されている。シノブ達は、そこに泊まったのだ。

 一方、ミュリエル達は王宮に隣接する伯爵家の別邸で待機していた。

 昨夜遅くに、シノブがフライユ伯爵を継いでミュリエルをその婚約者としてほしいと国王から告げられた。それを受けてジェルヴェが別邸へと戻り、ブリジットへ王命を伝えていた。王宮での決定を待つ彼女を安堵させる意味もあるし、今日の参内の準備もあったからだ。


「私……シノブお兄さまのお嫁さんになって良いのでしょうか?」


 小宮殿の豪華なソファーに座ったミュリエルは、不安そうな表情でシノブの顔を見上げている。

 彼女は、参内のために伯爵令嬢に相応しいドレスに身を包んでいた。いつもの少女らしい飾りの多い衣装ではなく、青を基調にした袖や裾の長い清楚で上品な服。そして、シャルロットがセランネ村で購入した豪華なネックレスをつけている。

 そのせいか、僅か9歳の彼女も普段より大人びて見える。だが、それゆえか緑の瞳に宿る(おび)えすら混じった表情が、余計に強調されていた。


「ああ。ミュリエル、これからよろしくね。行ったこともないフライユ伯爵領だけど、皆で頑張ろう。シャルロットやアミィも助けてくれるよ」


 シノブは、急な事態に困惑しているらしいミュリエルに優しく言葉をかけた。

 まだ正式ではないが、シノブはフライユ伯爵となった。今日、新年祝賀の儀と共に行われる戦勝祝賀の会。そこで彼が爵位を継承する段取りとなっている。

 そして、ミュリエルはその婚約者となった。彼女は、先代フライユ伯爵アンスガル・ド・シェロン……既に先々代と呼ぶべきかもしれないが……の孫である。彼女と母のブリジットが、血統上はフライユ伯爵家の継承者となりえる。それゆえ、ミュリエルが新伯爵であるシノブの婚約者とされたのだ。


「ミュリエル、シノブの言うとおりです。私達もついています」


 ミュリエルの隣に腰掛けたシャルロットは、異母妹の肩を優しく抱いた。そして、シノブと共にその脇に立つアミィも、彼女の言葉を肯定するように頷いている。


「でも……私、まだシノブお兄さまのお嫁さんに相応しくありません。それに、あちらの人達は、私達のことをどう思っているのでしょうか……」


 ミュリエルは、反逆者である伯父クレメン・ド・シェロンの最期を知っている。

 クレメンは大勢の家臣と共に自決した。もしかすると後継者の治世の助けとなるように後始末したのかもしれないが、彼は多くを道連れにした。

 そして残った家臣達も反逆に関与していないか取調べを受けている。何故(なぜ)このようなことにと嘆き悲しむ者も数え切れないほどいるだろう。

 ミュリエルは自身の唐突な婚約にも戸惑っているようだが、残った家臣や遺族達からどんな目で見られるのか案じているように見受けられる。彼女は、シャルロットと反対側に座るブリジットへと視線をやった。


「大丈夫だよ。すぐに結婚するわけじゃないんだから。

それに、ミュリエルが悪いんじゃない。伯爵家の血を継ぐ君が来たほうが、家臣や領民も喜ぶんじゃないかな?」


 シノブもミュリエルの肩に手をやり、彼女を励ました。

 彼が、ミュリエルを対等な女性として愛するまでには、まだ時間がかかるだろう。その意味では、彼自身、ミュリエルの夫に相応しいとはいえない。今、彼の心にあるのは、シャルロットを支え、その家族の笑顔を守る。それだけだ。

 幸い、9歳のミュリエルが結婚できるようになるには、まだ6年近くある。だから、それまでに愛情を育んでいけばよい。いや、そうしなくてはならない。シノブはそう考えていた。

 そして、フライユ伯爵領の者達がどう思うかについては、シノブもわかっていなかった。何しろ、戦地まで行くときは、妨害工作を恐れ極力家臣や領民と接しなかった。慌ただしい行軍やその後の戦闘で、シノブも彼らについて理解する時間などなかったのだ。

 それゆえシノブは、ミュリエルを安心させるような言葉を敢えて口にしていた。どうせ先行きのことがわからないなら、彼女を安心させるべきだろう。それに、彼女が悲しまないよう努力するのが自分の役目だ。そんな思いが言葉になったともいえる。


「そうでしょうか……」


「そうさ。何も心配しなくていい。それに、これでシャルロットともずっと一緒だよ。お母さんとは離れ離れになるけどね」


 相変わらず不安そうなミュリエルに、シノブは明るく微笑みかけた。シャルロットもシノブの婚約者のままである。そして、近日中に結婚式を挙げる予定でもあった。したがって、ミュリエルは自身が慕う姉と離れることはなくなる。

 シノブは、ミュリエルの細い肩へと添えた手に力を込めた。彼女は、シノブにとって庇護すべき少女である。将来はともかく、それは間違いのない事実であった。そこで、シノブはその思いが伝わるように、強く優しく語りかけていた。


「ミュリエル、貴女はシノブ様やシャルロット様と共に歩むことを許されたのです。だから、お二人の横に立てるよう、頑張りなさい。

貴女が幸せになるよう、旦那様とセリュジエールから応援しています」


 ブリジットは、隣に座る娘に決意を促すかのような凛とした声音(こわね)で語りかけた。

 ベルレアン伯爵の妻であるブリジットは、当然彼の下に残る。そのためミュリエルがブリジットと会う機会は少なくなるだろう。


「そうだね。少し早いが、婚約すれば王都などで暮らすことになったかもしれないんだ。それを考えれば、シノブやシャルロットと一緒のほうが安心だよ」


 ソファーの後ろから妻子を抱くように身を乗り出したベルレアン伯爵は、少し寂しげな表情ではあるが、明るい口調を保ったまま娘の婚約を祝福した。

 彼が言うように、他の伯爵家に嫁ぐ場合、婚約後は王都か先方の領地で暮らすこともあるらしい。

 多くの場合、王都で自家の別邸を住まいとし将来の伴侶と交流するようである。そういう前例から考えると、彼女が近いうちに領地を離れる可能性は元々高かったのだ。


「お母さま……お父さま……頑張ります」


 温かい家族に囲まれたミュリエルは、その緑色の瞳に涙を溢れさせて、父母に決意を語っていた。まだ、内心には不安もあるようだ。だが、彼女もベルレアン伯爵の娘であり、シャルロットの妹だ。

 涙ぐみ途切れ途切れの言葉であるが、まだ幼さが残るミュリエルにも彼らの強さが確かに受け継がれているようだ。(こぼ)れ出る涙に濡れた少女の(おもて)には、どこか姉と似た凛々しさが漂っていた。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 大宮殿の光の間では、新年祝賀の儀の冒頭を飾る国王アルフォンス七世の演説が行われていた。

 冬晴れのこの日は、左右の大窓から温かな光が差し込んでいる。そのため、光の間は普段に増して荘厳かつ神聖な空気に満ちていた。

 実は、王宮で最も格式が高いこの広間は、正式には『アムテリアの間』という名前であった。大宮殿には、他にもポヴォールの間やアルフールの間など、神々の名を冠した広間がある。だが、この場所だけは大神アムテリアへの遠慮もあって、本来の名で呼ばれることはない。

 だが、この日の光が舞うような神秘的とさえいえる光景は、通称と共にその真の名を居並ぶ貴顕に想起させるものであった。


 そんな神々しさすら感じる光の間。その正面の壇上には、玉座を背後にアルフォンス七世が立っている。彼は、国家元首に相応しい威風堂々とした口調で新たなる年の施政について列席する臣下達へと伝えていた。

 彼の後ろには王族達が並んでいる。先王エクトル六世と王太子テオドール、そしてそれぞれの夫人達。王女セレスティーヌも新年に相応しい品のあるドレスで控えている。

 そして、広間には大勢の貴族達が左右に控えていた。壇に近いほうから、アシャール公爵の代理である嫡男アルベリクと他の二公爵、閣僚である六侯爵、地方を預かる七伯爵が並んでいる。

 そう、王女の成人式典とは違い、七人目の伯爵がいるのだ。正確には、本日七人目の伯爵となる人物がいる、というべきであろうか。もちろん、その人物はシノブである。


 アルフォンス七世は、ベーリンゲン帝国との戦いに勝利し敵を退けたこと、フライユ伯爵の反逆があったもののシノブやシャルロットの活躍により鎮圧されたことなどを、光の間に集う臣下達に向かって威厳に満ちた表情で伝えていた。

 既に、戦勝とその経緯については伝わっているため、広間に居並ぶ貴族達に動揺は見られない。それどころか、王国の更なる発展を期待するような希望に満ちた表情をする者も多い。そして、彼らは、ベルレアン伯爵の隣に並ぶシノブへと、時折視線を向けている。

 フライユ伯爵となるシノブの位置は、以前のようにベルレアン伯爵の背後ではない。彼は、ベルレアン伯爵の横、伯爵家第二位のフライユ伯爵が占める位置にいるのだ。更に、その背後には婚約者であるミュリエル、フライユ伯爵家付きの子爵となったシメオンが並んでいる。

 流石に、ベルレアン伯爵の継嗣であるシャルロットは、フライユ伯爵の背後に並ぶわけにはいかないのだろう、父親の後ろに伯爵の第二夫人ブリジットと共に控えていた。


「……空位となったフライユ伯爵は、シノブ・ド・アマノへと授ける。また、合わせて新規に設けた東方守護将軍位を授け、国境守備の要となってもらう」


 演説を終えたアルフォンス七世は、シノブの爵位と将軍位の授与式へと移った。そして、国王の言葉を聞いたシノブは、壇上へと上がっていく。

 シノブの姓は、ブロイーヌからアマノに戻していた。シャルロットの婚約者である彼は、ブロイーヌ子爵位も保持したままだ。だが、フライユ伯爵としてはブロイーヌの姓は相応しくない。そのため本来の姓に戻したのだ。


「シノブ・ド・アマノ。(われ)、アルフォンス七世が、そなたにフライユ伯爵位と東方守護将軍位を授ける。

『新たなる太守よ。大神アムテリア様の教えを守るべし。領民を守護し国の柱石となるべし』」


 国王アルフォンス七世が、眼前に(ひざまず)くシノブへと伯爵位と将軍位の授与を伝える。

 メリエンヌ王国では、伯爵の代替わりに伴い、このような爵位授与式が行われる。継嗣を定めるのも代替わりの時期の決定も、各伯爵が握る権限だ。しかし、その授与は王の権威を示す目的もあり、王都で執り行われる仕来りとなっていた。

 そして、シノブが佩いていた細剣(レイピア)を受け取ったアルフォンス七世は、それを抜く。そして、剣の平でシノブの両肩を軽く叩くと、静かに返した。


「『神々の教えと主君の(めい)を胸に、(われ)は民を守る剣となり盾となる』……誠心誠意尽力し、彼の地に安寧をもたらします」


 シノブは、国王の手から自身の細剣(レイピア)、アシャール公爵から授かった逸品を受け取り、恭しく押し戴いた。それから僅かな間を置いて、ゆっくりと立ち上がると再び帯剣する。


「フライユ伯爵シノブは、ベルレアン伯爵継嗣シャルロットと近々挙式する。だが、彼に続くフライユ伯爵はフライユ伯爵家の遺児ミュリエルとの子孫とする」


 これについては、下手にならぶ子爵や男爵の一部から、微かなどよめきが上がった。

 閣僚である六侯爵や王家の分家である公爵は事前に知っているし、大領主である伯爵達も何らかの伝手で情報を入手していたのか驚く様子は無い。しかし、昨晩遅くに決まったことであるため、官僚や軍人である子爵や男爵といえども、知らない者は少なからずいたのだろう。

 もちろんベルレアン伯爵は、生まれてくるカトリーヌの子が継ぐ可能性もある。しかし、その子が男子という事実は、伯爵家の秘中の秘である。従って、現時点ではシノブの子孫が二つの伯爵家の当主となると考えている者が殆どだろう。

 そのためであろう、下手に並ぶ貴族達は、伯爵家第二位となり筆頭すら手中に収めようとしているシノブを食い入るように見つめていた。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「シノブ、お疲れ様。それにミュリエルも良く頑張ったね」


 ベルレアン伯爵家に割り当てられた控えの間に戻ってくると、当主であるコルネーユは、シノブ達に笑いかけた。本来であれば、シノブ達はフライユ伯爵家として別の間にいるべきだが、そんなことは誰も望んでいない。王家もそれを察しているようで、最初から彼らは同室とされていた。


「事前に義父上から教えてもらって助かりました」


 シノブは、ベルレアン伯爵に礼を言った。

 彼は、伯爵位継承の段取りについて、今朝慌ててベルレアン伯爵から教授してもらったのだ。


「……でも、本当にミュリエルは大変だったね。これが初めての参内だろ?」


 そして、シノブはミュリエルへと近寄り、彼女の銀髪に近いアッシュブロンドを優しく撫でた。シノブの後方に控えていたミュリエルの様子は、直接目にしてはいなかったが、その気配は察していた。

 長い儀式であり、周囲の注目も浴びていた。だが、彼女は、側に控えていたアミィの助けも借りず、毅然とした態度で新年祝賀の儀を乗り切っていた。


「私は、立っていただけですから。でも、シノブお兄さまは素敵でした。陛下の前で宣言されるときも、普段どおりの落ち着いた様子でしたし……」


 どうやら、ミュリエルはシノブの様子を注視していたらしい。彼女は、色の薄い肌をほんのりと上気させながら、シノブへと微笑んでいた。


「そうか、俺の様子を見る余裕があるなんて、ミュリエルは強い……女性だね」


 シノブは『強い子』と言いそうになったが、なんとか踏みとどまり『女性』という言葉を口にした。ミュリエルはまだ9歳だが、彼の婚約者である。あまり子供扱いすべきではないだろう。彼は、今後の言動には注意しようと心の中で誓っていた。


「はい、ありがとうございます!」


「ミュリエル、良かったですね」


 満面の笑みを見せるミュリエルを、シャルロットは温かな声で祝福する。どうやら、彼女はシノブの内心に気がついているようだ。そのためだろう、妹からシノブに顔を向けたシャルロットは、その青い瞳に悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


「ともかく、何も無くてよかったな。これなら別邸に残っているべきだったか……」


 儀式の間、ずっと控えの間で留守番していたイヴァールが、むっつりとした様子で呟いた。

 彼はミュリエルの援護になるなら、とヴォーリ連合国の代表として乗り込んできた。しかし、フライユ伯爵をシノブに継がせミュリエルをその婚約者とする、という国王の決定に拍子抜けしたようである。


「そんなことはありません! イヴァールさまのお言葉、嬉しかったです!」


 流石にミュリエルもイヴァールが25歳と知ってからは『おじさま』扱いはやめたようである。髭で覆われた彼の容貌ゆえ、彼女の誤解も致し方ないところではあった。しかし、誤解が解けた今はシメオン同様に若い独身者として扱われるようになっていた。


「そ、そうか。……しかし、パレードに参加することになるとはな」


 イヴァールはミュリエルの純真な言葉に、自身も笑顔を返した。だが、今後の予定を思い出して、再び最前のようなしかめっ面になる。

 彼は、ヴォーリ連合国の代表として戦勝パレードに参加してもらえないだろうかとの要請を受けていたのだ。本来は、王都メリエの中央区を王族達が馬車に乗って一周する新年の行事である。

 だが、折角の勝利を民衆にアピールしたい。そんな思惑から、王太子テオドールと共に帰還したベルレアン伯爵やシノブ達も加わることとなったのだ。


「気持ちはわかりますが、諦めましょう。後で好きなだけ酒を(おご)ります」


 シメオンが、平板な口調でイヴァールへと語りかける。彼はどうしてもイヴァールを参加させたいのか、底なしの酒好きであるドワーフに危険とも思える約束をする。


「お主は目立たんからよいだろう。人族だしな。だが、ドワーフは俺だけだ」


 だが、そんな誘いもイヴァールには効果が無かったようである。彼の表情は不機嫌そうなままだ。

 確かに、イヴァールが言うようにシメオンもパレードに参加する。だが、これも彼が言うように、ただ一人のドワーフとは注目度が違うだろう。


「……でも、イヴァールさまも一緒のほうが心強いです」


 ミュリエルは、そんな二人を見上げながら、ポツリと呟いた。実は、彼女もパレードには参加する。新たなフライユ伯爵家のお披露目も兼ね、前伯爵クレメン亡き後の体制を告知したい。王宮側にはそんな思惑もあるようだ。


「む……そうまで言われては断れんな」


 イヴァールは、ミュリエルに同情したようである。彼女は、反逆者の姪として好奇の視線を浴びることになるかもしれない。そして、そんな視線を少しだけでも自身が引き受けられれば、と思ったのだろうか。

 彼は、直前までの渋った様子から、一転していた。


「ミュリエル、君を助けたいという人は、こんなにいるんだ。俺も、シャルロットも、アミィやシメオンだってそうだ」


「はい! ミュリエル様、皆一緒です!」


 アミィもシノブの言葉に頷いた。

 そして、その横ではシメオンもミュリエルに気遣うような視線を向けている。彼がイヴァールを熱心に誘ったのは、ミュリエル以外にも人目を引く者を増やしたかったのかもしれない。


「ミュリエルがあれほど見たがっていた王都だよ。俺達と一緒に楽しもうよ!

ちょっと形は違うけど、約束どおり王都を案内するからさ!」


 シノブは、シャルロットとミュリエルの二人に手を差し出した。

 彼は、『安心して王都を歩けるようになったら、ミュリエルを連れていってあげる』と約束していたのを思い出したのだ。


「……はい! シノブお兄さま、ありがとうございます!」


 シノブとの約束を思い出したのだろう、ミュリエルも晴れやかな笑顔を見せた。年相応の無邪気な笑みを見せる彼女に、シノブやシャルロット、そして周囲の者達も思わず表情を緩める。


「さあ、行こう! 王都だって、シェロノワだって、俺達が一緒なんだ。だからミュリエルは安心していいんだよ!」


 シノブは、ミュリエルへと力強い言葉をかけた。そして、ミュリエルはそんなシノブの手をギュッと握り返す。反対の手はシャルロットだ。彼女も妹と同じようにしっかりと握り締めてくる。

 母の違う姉妹だが、意外なところで似ているのかもしれない。シャルロットの剣や槍を握るとは思えない柔らかい手。武器など持ったことの無いだろうミュリエルの小さな手。シノブは、二人の手を取りながら、そんなことを考えていた。

 この二人を守りたい。愛する女性と、(いと)おしさを感じる少女。彼女達の信頼を示すかのような温もりを両手に感じながら、シノブは新たな道へと踏み出していった。


 お読みいただき、ありがとうございます。

 次回は、2015年1月23日17時の更新となります。


 本作の設定資料に各国の関係図などを追加しました。

 設定資料はシリーズ化しています。目次のリンクから辿っていただくようお願いします。


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