表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神に誘われ異世界へ  作者: 新垣すぎ太(sugi)
第8章 フライユ伯爵の後継者
149/745

08.15 十八歳の肖像 後編

 フライユ伯爵の館の一角にある作業場。シノブとシャルロット、アミィは、それぞれの誕生日について話しながら侍女達の帰りを待っていた。

 明日はシャルロットの誕生日である。シノブは、ここで彼女への贈り物を作るつもりだったが、その材料を侍女達に探してもらっていたのだ。


「シノブ様、ありました!」


 そんなシノブ達の下に、三人の侍女、アンナとリゼット、ソニアは笑顔で戻ってきた。彼女達は、それぞれの手に箱を持っている。それに彼女達の背後にいる、従者見習いのレナンやパトリックもその手に何か抱えていた。


「ありがとう。材料をどう集めるか、それが問題だったんだ。でも、助かったよ」


 彼らがテーブルに置いた箱には、塗料のようなものがビンに詰められて入っている。どうやら、水性のものらしく、様々な色のトロリとした液体がビンの中に入っていた。


「いえ、こういうのは大きな領主の館であれば、大抵ありますし」


 シノブの(ねぎら)いに、彼らを代表してアンナが答える。


「図面や手配書を描くためのものだったのですね。画材など、貴族様が趣味でお絵かきされるのかと思っていました……」


 リゼットは、アンナの説明に感心した様子を見せた。

 手配書や建築物の図面作成のため、大領主は画家を抱えているようである。そんなに頻繁に必要になるものでもないが、写真のないこの時代に何かを記録させようと思えば、画家に描かせるしかないのは事実である。そのため、都市を抱えるような領主であれば、画家を館に常駐させていた。


「ジュスト様のお陰で助かりましたね」


 ソニアが、アンナへと(ささや)いた。

 ジュストとは侍女アンナとその弟パトリックの父である。シノブの家臣となった彼は、長年ベルレアン伯爵の館で衛兵をしていたので、館で使われる備品がどこに置いてあるか詳しいようである。

 ちなみに、ジュストを含む騎士や従士も残務処理に駆り出されていた。客将であるイヴァールも、ドワーフの戦士や後方にいた従軍職人達の様子を見に一旦外出しているくらいである。

 とにかく人手が足りないのだ。こんな状況ではシャルロットが疲労するのも無理はない。


「さて、それじゃやってみるか」


 そんな侍女や従者が壁際で待機し、主達の次なる命に備える中、シノブは画材の箱へと向き直った。


「まずは、本当に絵を描けるか、ですね。シノブ様、簡単な絵を出します」


 画紙を作業台の上に置いたアミィは、その少し上に幻影を出す。画紙全体を覆う幻影の上面には、絵というより単純な図形、三角形や円が描かれていた。

 幻影で作られた平面は黒一色である。だが図形の部分だけ、細かい網目のようになっているらしく、反対が微かに透けており、判別がつく。


「じゃあ、アミィ、魔力を注ぐよ」


 箱から赤い絵の具を取り出したシノブは、アミィの側に寄ると、ビンの(ふた)を開けて作業台の上に置いた。そして、彼はアミィの手を握ると、その魔力を高めていく。


「シノブ様……もう、大丈夫だと思います」


 シノブに魔力を注入されたアミィは、僅かにその頬を赤くしている。おそらく、膨大な魔力で身体自体も活性化したのだろう。


「わかった……水操作」


 アミィが見上げる中、シノブはビンに視線を向けると、微かに呟いた。彼の呟きに合わせて、塗料が少しだけビンから飛び出ると、中空で水球となって固定される。


「……水生成……操作」


 シノブの言葉と共に、水球はその大きさを倍程度に増した。どうやら水生成で塗料に水を足したようである。そして、塗料はシノブの水操作によって、幻影の上に平面状に変形して留まった。


「……アミィ、行くよ!」


「はい!」


 シノブの声に、アミィも鋭く返事を返す。そして、その直後に平面となった塗料は霧状に変わり、幻影へと噴霧された。


「あれ、幻影が赤く染まっている!?」


 壁際で見ていた従者見習いの少年レナンが、驚きの声を上げた。彼はアミィの幻影魔術を父ファブリ・ボドワンからも聞いていたし、行軍中にもアミィから見せてもらったこともある。したがって、幻影では物を(さえぎ)ることができないと知っていたのだ。


「向こう側まで、行かないんだ……」


 同じくアミィの幻影を見たことがある従者見習いパトリックも、驚きの声を上げた。こちらも行軍中に見ているし、姉のアンナから聞いた知識もあったのだろう。

 二人の少年は、怪訝そうな顔で塗料に染まった幻影を見つめていた。


「うん、一応は大丈夫かな……アミィ、幻影を解除していいよ」


 幻影の下から画紙を引き出したシノブは、満足そうに頷いた。そして、幻影の上の塗料を水魔術で回収した後、残った幻影を消すようにアミィへと指示する。


「はい!」


 シノブが塗料を器に入れたのを見たアミィは、幻影を解除した。魔力を注がれたせいか、彼女は少々上気した顔で、シノブの見せる画紙を覗き込んだ。


「大成功ですね!」


 笑顔のアミィが言うとおり、シノブが見せる画紙には幻影に描かれていた三角形や円が描かれていた。


「シノブ……幻影では、物を(さえぎ)ることは出来ないはずです。どうやったのですか?」


 シャルロットも少年達と同じ疑問を(いだ)いたようだ。彼女は怪訝そうな顔を、シノブとアミィに向ける。


「アミィの作る幻影には魔力を込められるんだ。普通は無理だけど魔力障壁並みに強化すれば、こういうことも出来るのさ」


 シノブは魔力感知の特訓をしたとき、アミィが作った幻影の男から本物同様の魔力を感じた。しかも魔力はアミィではなく遥かに大きな男に重なっており、まるで本当に存在しているようだった。

 それを思い出したシノブは、幻影に魔力を込めれば魔力障壁のように物体を通さないかもと考えたのだ。


「幻影に障壁のような強度を与えるのは、私一人だと無理です。でも今回は、シノブ様が魔力をくださったので。

……後は、この前と同じです。穴のあるところは塗料を(さえぎ)らないので、そこだけ画紙が染まったのです」


 アミィも魔力障壁を使えるが、彼女一人では幻影と合成させることは出来なかった。それに魔力障壁では、幻影並みの緻密な制御は無理なようである。

 そこでシノブから魔力を借り、幻影の魔力密度を上げたというわけだ。


「そういうことですか。では、これで絵を描くのですね。……ありがとうございます。この前の絵も素敵でしたが、色がついているのも素晴らしいと思います」


 シャルロットは、ミュリエルやミシェルに贈った革布の絵を思い出したようだ。レーザーで焼き付けた絵は、モノトーンであった。それに対して、この方法なら自由な色彩を使えると思ったのだろう。

 彼女は、どんな絵が完成するのか期待しているようで、その顔を大きく綻ばせた。


「まあね……。

実際には、これからどの塗料をどの程度使えば上手くいくか、実験しないといけないんだけど……ともかく、今日中には仕上げるから、ゆっくり寛いでいてよ。

俺達は頑張って絵を仕上げるから、シャルロットは自由に過ごしていて」


 シノブは、頭を掻きながら、シャルロットにすまなそうな表情を見せた。彼の言うとおり、塗料の比率や、どれを使うかなども考えないといけないだろう。


「もちろん、ここでずっと見ています。貴方が私に下さるものですし……それに、貴方と一緒にいると、一番心が休まります。もう、離れ離れになることもないのですから、一緒にいさせてください」


 シャルロットは、戦場に出たシノブを案じていた時を思い出したのか、微かに表情を曇らせた。だが彼女は、再び明るい笑顔になるとシノブへと寄り添った。


「そうか……なら、時間がかかると思うけど、一緒にいよう」


 シノブも、そんなシャルロットの思いを察したのか、彼女の肩に手を添えて微笑んだ。

 元々、今日はシャルロットの気晴らしが出来れば良いと考えていたのだ。彼女が一番寛ぐのが自分のところだというなら、それはシノブにとっても嬉しいことである。


「さあ、アミィ、次は三色使ってみるか!」


「はい! それじゃ、絵ももう少し複雑なものにしてみますね!」


 シノブは、インクジェットプリンターのように、複数の塗料を使って、カラー写真同様に鮮やかな絵を描くつもりである。18歳になるシャルロットの、その輝かんばかりの美しさを、鮮明に写し取っておきたい。そう思ったのだ。

 まだ、戦争の後始末は終わっていない。だが、せめて誕生日くらいはそれらを忘れてほしい。シノブのそんな思いが伝わったのか、アミィやシャルロット、そして彼らを囲む者達も明るい笑みをみせていた。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 そして、翌日である12月25日。前日と同様に今日も空は青く澄んでいた。シノブはホワイトクリスマスも良いかと思ったが、こちらにはそんな風習はないため、彼以外は素直に快晴を喜んでいる。

 何しろガルック平原は降雪も多く、雪原とでもいうべき状態であった。ここ領都シェロノワも年末が近いせいもあり雪が降ることは多いらしい。そのため雪を見慣れた彼らからすれば、好天のほうが喜ばしいのだろう。それに、まもなく王都への凱旋となるので、帰還の妨げなど誰も望んでいないに違いない。


 シャルロットの誕生日は、フライユ伯爵が倒れた後の暫定統治下ということもあり、親族や親しい家臣のみで、慎ましげに祝われることとなった。

 フライユ伯爵領の者を刺激しない、という意味もあるが、戦地での慌ただしい祝宴である。また、帰還後に王都かベルレアン伯爵領で盛大に祝うようだ。したがって、今回は彼女の心が休まるように身内だけで、となっていた。

 そもそも参加する面々は、いずれも要職についている。彼らは、兵士を一日でも早く故郷に帰すため、それぞれの仕事を片付けた上で、祝宴である晩餐会に出席することになっていた。それゆえ、大規模な祝宴を長々と行っている余裕がないのも確かであった。


「……しかし、身内に王子様や公爵様がいるのは凄いよね」


 シノブは、隣にいるアミィへと(ささや)いた。そう、シャルロットの身内だけと限定しても、従兄弟の王太子テオドールに、伯父のアシャール公爵は当然出席する。それに、父が伯爵、婚約者のシノブは子爵である。シノブが日本にいたときの誕生パーティーとは、わけが違う。


「シノブ様だって、義理とはいえ身内になるんですよ?

王女様の成人式典のような(うたげ)だって、シノブ様はこれから何度も出席されます。他の国の王様達とお食事することだってあると思います」


 日も落ち煌々と輝く灯りをつけたフライユ伯爵の館の迎賓の間。そこで、シノブはドレスに着替えているシャルロットを待っている。そのせいか、時間を持て余したらしく今更なことを呟く彼に、アミィは僅かに苦笑していた。


「そうなんだけどね……この服も着慣れないといけないね」


 シノブは、自分の服に目をやった。今日の彼は久々に軍装ではなく、貴族の礼服を(まと)っていた。セリュジエールでミュリエル達と訪れた高級服飾店ラサーニュの品だ。


 後ろ裾が長いフロックコートのような上着に、細めのパンツ。シャツは絹のような(つや)やかな生地で、袖口や襟元もギャザーを寄せた、日本の一般男性としてはちょっと恥ずかしさも感じる高級かつ繊細な作りである。そして、それらの総仕上げというべきか、胸元には結ぶのにも苦労するタイまである。

 まるで舞台俳優か歌手のような(きら)びやかな衣装。シノブはこの種の礼装が苦手で、今まで可能な限り軍服で通していた。だが、流石に婚約者の誕生日に、それもないだろう。彼の言うように、今後の事もある。

 今回もアミィの助けでタイを締めたシノブは、もう少し礼装を着る機会を増やすか、と内心考えていた。


「あっ、シャルロット様がお()でですよ」


 アミィの声に、シノブが入り口に視線を向けると、アリエルやミレーユ、そして侍女達を従えてシャルロットが入室してきた。

 迎賓の間の光の魔道具で作られたシャンデリアに照らされる彼女は、二度目に王宮を訪れたときに着ていた青地に白いレースをあしらったドレスであった。

 普段は落ち着いたデザインや、大人らしい装いを好む彼女であったが、流石に自身が主役とあっては、華やかなドレスを選んだのかもしれない。襟や袖がレースで飾られ、地の色に合わせた青いリボンも随所に配された、王女や王宮の令嬢達が着ていたような若々しさを強調した衣装である。

 そしてドレスに合わせたのだろう、彼女の美しいプラチナブロンドも華麗な巻き髪であった。飾りの多いドレスの上で、丁寧に巻かれた豊かな髪が光り輝いている。


「……シャルロット、綺麗だよ。こんなに美しいのに、見るのが俺達だけなんて、ちょっと勿体無いね」


 シノブが口にしたように、迎賓の間にいる面々はさほど多くはなかった。

 王太子テオドールにアシャール公爵、ベルレアン伯爵にシメオンという、シャルロットの血縁者達。そして、イヴァールやジェルヴェ、アリエル、ミレーユというごく僅かな例外を除けば、あとは給仕をする侍女くらいしかいない。

 王太子も、一応護衛として白百合騎士隊のサディーユやシヴリーヌを連れているだけで、他には供もいない。もっとも、ここにいるのはシノブを筆頭に今回の戦で活躍した武人ばかりである。下手な護衛を連れているよりは、身内だけのほうが安全だともいえる。


「ありがとうございます。でも、貴方にお見せできれば、それでいいのです」


 シノブの言葉に、シャルロットは頬を上気させて微笑んだ。彼女は、心の底からそう思っているらしい。その証拠に、彼女の青い瞳は、シノブの顔を真っ直ぐに見つめていた。


「シノブ君、シャルロット。仲睦まじいのは良いのだが、そろそろ祝宴を始めようではないかね!

このままでは、食事の前に別のものでお腹が一杯になりそうだよ!」


 アシャール公爵の言葉に、一同は思わず笑いを見せたが、シノブとシャルロットは頬を染めて互いに視線を向けた。


「……シャルロット、義伯父上のいうとおりにしよう。そうしないと、何があるかわからないからね」


 王宮で『竜の友』と囃し立てられたことを思い出したシノブは、婚約者と共に食事の準備がされた大テーブルへと向かった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「シノブ殿。シャルロットにプレゼントを用意しているそうだね」


 晩餐を終えた後、王太子テオドールは、柔らかな声でシノブに問いかけた。旗頭として担ぎ出された彼は、危ういところをシャルロットに救われた。そのせいか、今まで以上にシノブ達に親しげである。

 上座に座ったテオドールは緑色の瞳に温かな色を浮かべながら、すぐ脇に並ぶシノブへと笑いかける。


「はい。昨日、慌てて作りました」


 王太子の問いに、シノブは頭を掻きながら答える。結果的に手作りの品を用意できたとはいえ、そもそもアシャール公爵に注意されていなかったら失念していたかもしれない。それに、作成自体、アミィや侍女達の協力があってのことだ。シノブは、来年はきちんと自分だけで準備しようと反省していた。


「いや、婚約者の手作りとあれば、シャルロットの嬉しさも増すだろう」


「はい、殿下の仰るとおりです」


 テオドールに、シノブの隣に並んだシャルロットがはにかみながら頷いた。

 上座には、王太子とアシャール公爵、それにシノブとシャルロットが並んでいた。本来であれば王太子と公爵を上座に据えて、シノブ達はその下手に並ぶべきである。だが、彼らに命を救われたテオドールは、二人を自分の横に座らせていた。


「それでは、主役は最後に取っておくとして、まずは私達から祝いの品を贈ろう」


 テオドールはそう言うと、アシャール公爵と共に立ち上がり、シャルロットとシノブの側に歩み寄った。シノブ達も、席から立ち二人を迎える。

 そして、下手ではベルレアン伯爵を含む全員が起立していた。主筋である王太子と公爵が立っているのだから当然ではあるが、彼らは威儀を正して上座の様子を注視している。


「シャルロット。君が助けてくれなければ、私はグラージュで命を落としていただろう。

感謝しているよ」


 温かい言葉と、それが心からのものであると証明するような真摯な表情。そして、テオドールはシャルロットに己の佩いていた小剣を手渡した。


「殿下、これは……聖人のお作りになった宝剣では!?」


 シャルロットは、王太子の渡す剣を見て驚き、彼に問い返した。


「ああ。流石に王権の象徴である大宝剣を譲るわけにはいかないけど、これなら良いだろう。私が持っていても宝の持ち腐れだしね。これからも、王国のためにその武威を示してほしい」


「まあ、聖人の作った武具は、結構残ってるしね! といっても、せいぜい十から二十だろうけど。

これも、その一つだよ」


 続いて、アシャール公爵も短剣をシャルロットに渡す。テオドールが持っていた小剣の、半分強といったものであるが、こちらも聖人ミステル・ラマールの作らしい。


「私もシノブ君に救ってもらったからね! 本来は彼に贈るべきだろうけど、まあ同じことだしね!

……二人で、助け合っていくんだよ」


 公爵はそう言うと、シノブとシャルロットの肩に手をやった。


「はい……殿下、伯父上、ありがとうございます」


 シャルロットは、その青い瞳を潤ませながら二人に頭を下げた。


「殿下、義兄上、伯爵家当主として私からもお礼を申し上げます。

……シャルロット、私達は帰ってからにさせてもらうよ。流石に、宝剣は持っていないしね」


 シノブとシャルロットの下に歩み寄ってきたベルレアン伯爵。彼は、王太子と公爵に恭しく一礼した後、娘に苦笑しながら告げた。


「さて、それではシノブ君の番と行こうじゃないか。なんでも魔術を使ったんだって?」


 アシャール公爵は、楽しげな表情でシノブを見つめる。


「ええ、私だけではなく、アミィと共同で作ったのですが……」


 シノブは、側に控えるアミィへと視線を向けた。

 そして、彼の視線を受けたアミィは、魔法のカバンから大きな板のようなものを取り出した。イヴァールとジェルヴェはアミィよりも大きなそれを受け取り、公爵達に表側を見せる。


「おお……これは、繊細な絵だね。しかも、色まで……」


「ええ、まるで、シャルロットがそこにいるみたいです」


 公爵と王太子は、感嘆の声を上げて二人が持つ板状のもの、シャルロットの姿を描いた絵を見ている。

 そこには、今日のドレスと同じ姿のシャルロットが、まるで生きているかのような精密さで描かれている。本人と同様に自然な色合いで描かれた等身大の絵は、簡素な額縁に収まっていた。


「これは……シノブの光の魔術で描いたのかね?」


 ベルレアン伯爵は、領都セリュジエールでミュリエルとミシェルに贈った絵を思い出したようだ。


「いえ、あれとは違い絵の具を使いました。作り方は、今度また説明しますね」


 シノブは、プリンターなど知らない伯爵達に理解してもらうのも大変だろうと思い、説明は後日に回すことにした。


「ああ、ゆっくり聞かせてもらうよ。ところで、額縁はもしかするとイヴァール殿の作かね?」


 ドワーフ達の工芸品を数多く知っている伯爵は、それが彼らの手によるものだと悟ったようである。


「大したものではないがな。だが、折角の絵に額縁がないのは不味かろう」


「そんなことはありません。こんな美しい飾り彫りまで……本当にありがとうございます」


 アミィのカバンに入っていた木の板などを使い、イヴァールが急ごしらえで作った額縁。それは、シャルロットが言うように、素朴ではあるが浮き彫りまで施された見事なものであった。


「君達は本当に仲が良いねぇ! 皆で作った贈り物、ということだね!」


 アシャール公爵が嘆声を上げる。彼が言うように、シノブとアミィの魔術を合わせ、アンナ達が必要な道具を揃えてくれた。そして、イヴァールが額縁を用意し、アリエル達はシャルロットの仕事を肩代わりした。

 言ってみれば、全員で作った贈り物なのかもしれない。


「ええ。皆が祝ってくれたこの日、決して忘れません」


 シャルロットも、嬉しそうに微笑み、自身の肖像画を見つめている。シノブとアミィ、そして父である伯爵をはじめとする晩餐会に出席した者達も、そんな彼女と肖像画を取り囲み、温かく祝福していた。


 お読みいただき、ありがとうございます。

 次回は、2015年1月13日17時の更新となります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ