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女神に誘われ異世界へ  作者: 新垣すぎ太(sugi)
第8章 フライユ伯爵の後継者
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08.11 グラージュ占領 中編

 フライユ伯爵の裏切りを受けたシャルロット達は、王太子テオドールを護衛しつつ司令室から逃れた。元々、シャルロット達はこうなることも考え、非常時にはシノブと連絡がつくような手段を確立していた。

 シノブがアムテリアから授かった魔道具。それらのうち主要な物には、盗難防止のための呼び寄せ機能がある。シノブがセランネ村からドワーフ達を連れてくるときに使ったように、数百km離れていても瞬間的に呼び寄せることができる機能を使えば、遠くに離れていても異変を察知できる。

 シノブとシャルロットが互いに持つ光の魔道具。それは、非常事態を知らせるための道具でもあった。


 シノブは、アムテリアからも認められたシャルロットには、殆どの魔道具の使用権限を付与している。そのため、彼女はシノブが持つ光の魔道具や、魔法の家を呼び寄せることができる。

 さすがに魔法のカバンの中から直接呼び寄せることはできないが、外に出しているものならシノブが領都セリュジエールでやったように、遠方からでも呼び寄せることが可能であった。


 シャルロットがシノブの持つ光の魔道具を呼び寄せたら危機の印。そして、シノブは移動不可能ならそのまま光の魔道具を再度呼び寄せる。

 問題なく移動できる場合は、シャルロット達に預けた魔法の遠眼鏡をシノブが呼び寄せる。シノブ達が魔法の家を展開し、その中に入るまでの時間もあるので、準備が完了したことを告げるためである。

 そういった手順を経てから、シャルロットが魔法の家を呼び出す。このとき、魔法の家を呼び出し可能な場所、約10m四方の空間が必要である。これが使用上での制約となっているが、それだけの条件で50kmは離れたガルック砦からシノブ達を瞬時に転移させることが出来るのは、正に神の(わざ)というべきであろう。


「殿下、ひとまず外に出ます!」


 魔法の家の呼び寄せをするつもりのシャルロットは、一旦屋外に出るようだ。

 さすがに都市グラージュを治める代官の公邸といえど、内部に10m四方の空間は少ない。もちろん、大きな部屋であればそれ以上の空間はあるが家具や調度品もある。シノブやアミィから多少の障害物は問題ない、とは言われているが、重厚なテーブルが多少か、というと疑問ではある。

 それに、いくら魔法の家が平屋だとはいえ、屋内では天井にぶつかる危険もある。そのため、彼女は屋外を選択したようである。


「わかった! 君の思うとおりにしてくれ!」


 王太子テオドールは、シャルロットが何故(なぜ)外を目指すのかは尋ねなかった。シャルロットは、策がある、とは言った。だが、フライユ伯爵やその家臣がいる中で、説明は出来ない。したがってテオドールは彼女の策がどんなものか知らないままである。

 しかし、テオドールはシャルロットを深く信頼しているようだ。彼の表情は僅かに緊張しているものの、あくまで平静である。武力では従姉妹に遠く及ばないが、彼は王太子に相応しい胆力を備えているようだ。


「……追ってこない?」


 テオドールを白百合騎士隊のサディーユやシヴリーヌに預けたシャルロットは殿(しんがり)を守り、フライユ伯爵の追撃に備える。だがシャルロットの独白のとおり、司令室から彼が出てくる様子はない。

 司令室の中には、王領軍の騎士達の生き残りもいた。閃光の魔道具で視力を奪われた彼らであったが、なんとか回復したのだろう。そんな残存の騎士達が王太子を逃がすべく支えているようである。


「シャルロット様!」


 通路の先から響くシメオンの声に、シャルロットが振り向くと、既に彼らは館中央の階段まで達していた。司令室には公館の右翼二階にある大広間を使っていた。それ(ゆえ)、エントランスホールへと下る階段を抜ければ、後は館の外に出るだけだ。

 階段の下からはフライユ伯爵家の兵士達が登ってくるが、彼らは家令ジェルヴェが持つ小剣に翻弄され、近づくことも出来ずに倒されていく。

 そして、ミレーユがアムテリアから授かった神弓で射掛け、アリエルも同じくシノブの持ち物であった魔法の杖を振りかざして水弾を放つ。魔法の杖で魔力を増強されたアリエルは、シノブやアミィのように複数の水弾を操ると、階段の下の兵士達を打ち倒している。


「今行きます!」


 シャルロットも、身体強化を駆使して、一瞬のうちに彼らの下へと駆けつけた。まるで自身が発した声を追い抜くかのような彼女の俊足に旋風(つむじかぜ)が巻き起こり、通路の窓にかかったカーテンが大きく揺れる。

 彼女は騎士鎧を身に着けているが、殆ど音を立てずに走っていく。彼女の技量と伯爵家特注の鎧、双方があっての美技であろう。その証拠に、同じく鎧を(まと)ったアリエルやミレーユ、白百合騎士隊のサディーユやシヴリーヌは、そこまで静かに歩を進めることはできないようである。


 そして王太子テオドールの脇まで到達したシャルロットは、その手に持つ神槍を投擲(とうてき)し、左翼側の通路から押し寄せる敵兵を(ほふ)っていく。アムテリアが授けた神槍には呼び寄せ機能が備わっているから、彼女は槍を投げては呼び戻し、あっという間に十人もの兵士を撃退した。

 更にシャルロットは階段下の兵士達も、同じ要領で排除していく。祖父や父が得意とする投槍の技に、呼び戻すことのできる神槍の組み合わせは、恐るべき殲滅能力を生み出していた。


 そんな常識外れの援護の中、ジェルヴェは階段の敵を蹴散らしホールへと降り立っていた。シャルロットの投槍やアリエルとミレーユの射撃もあってのことだが、初老の域に差し掛かったジェルヴェは息も乱さず数人の兵士を同時に相手取っている。

 力ではなく技。相手の動きを読み、剣に触れることなく躱し、すれ違いざまに急所を貫く。一撃一殺という言葉を体現するかのような華麗な剣技は、身体能力だけが武力を決める要素ではないことを物語っているようでもある。

 敵の攻撃を受け止めることがない(ゆえ)の静かなる進撃。ジェルヴェが見せる無音の舞は、普段の優しげな彼からは想像もできない殺戮の舞踏であった。


「殿下、こちらへ!」


 エントランスホールを制圧したと見たシメオンは、サディーユやシヴリーヌと共に王太子の身辺を固めながら、階段を急いで下っていった。


「……はあっ!」


 そして、アリエルは一際長く集中して魔力を溜めると、館の大扉を水弾で打ち破った。不用意に近づいて攻撃を受けることを恐れたのであろう。


「あれは……帝国兵!?」


 油断なく弓を構えていたミレーユは、入り口前の馬車寄せの広場に殺到する騎士団を発見していた。彼らは、王国の騎士とは異なる装備を身に着けている。

 メリエンヌ王国では見慣れない、黒を基調にしたどこか禍々しさを感じる鎧に、黒地に稲妻が描かれたベーリンゲン帝国の軍旗。フライユ伯爵家の騎士に先導されたその一団は、ガルック砦を越えてきた帝国騎士団の精兵であった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「……そなた、王太子テオドールか?」


 帝国騎士達の中央に立つ巨漢が、シャルロット達に守られるテオドールへと視線を向けた。将と思われる、他の騎士達より複雑な飾りの目立つ鎧を身に着けた男は、意外そうな声音(こわね)でテオドールへと問いかけた。


 テオドールは王国軍の軍服を身に着けているが、そこは王太子である。彼は一際見事な装飾の施された軍服に、美しいマントを(まと)っていた。

 帝国騎士達がどこまでグラージュの異変を察しているかはわからない。だが、繊細な飾りが施された全身鎧姿の騎士達に護衛される貴人の姿を見て、その正体を察したのかもしれない。


「いかにも。そなたは?」


 王太子としての誇りゆえだろう、テオドールは正体を隠そうと思わなかったようだ。彼は毅然とした態度で、帝国の将と思われる武人に返答した。


「流石は一国の王子。堂々とした態度、感服した。我が名はベルノルト・フォン・ギレスベルガー。ベーリンゲン帝国の大将軍である」


 敵将とその配下である騎士団を目の前にしても恐れを見せないテオドールに、ベルノルトは感じ入った様子であった。とはいえ敵国の王子に口調を改めるつもりは無いようで、彼は豪然たる態度を崩しはしない。


「来訪、大儀である。だが私は、そなたに用事などない。命が惜しければ去るが良い」


 テオドールは王太子に相応しい威厳に満ちた態度で、大将軍ベルノルトを(にら)み返した。

 シャルロットやシノブを信頼しているからか、それとも王家の一員としての矜持(きょうじ)ゆえか、彼の言葉が揺らぐことはない。普段は優しげなテオドールだが、今の彼からは王者の風格というべきものが感じられる。


「ブロンザルト、これで詰みだな」


 だが大将軍ベルノルトは、感銘を受けたからといって当然引くことはない。彼は脇に控えていた将軍エグモント・フォン・ブロンザルトに声をかける。


「こうも早く王太子と出くわすとは……これも神の計らいでしょうな。……捕縛しろ! 多少の怪我は構わん!」


 将軍エグモントの声に、帝国の騎士達は、テオドールやシャルロット達に向かって一斉に詰め寄った。彼らは軍馬に乗ったまま蹂躙するつもりらしい。地響きを立てて、館の中へと押し寄せてくる。


「くっ、岩弾!」


 代官の公館のエントランスホールは広い。大扉を吹き飛ばした今、(さえぎ)るものもないから騎乗のまま入ることも充分可能である。

 それを恐れたアリエルは、軍馬に得意技の岩弾を放つ。彼女はエントランスホール手前の階段自体を岩弾の材料としたため、その攻撃は早かった。

 おそらく発動まで、(またた)きする間もなかっただろう。だがアリエルの岩弾は、騎士達の手前で弾き落とされていた。


「魔力障壁!?」


 ミレーユも矢を放つが、通じている様子はない。シノブ達が対峙した帝国騎士と同様に、障壁の魔道具を装備しているようである。しかもシノブと戦った巨漢の将軍ボニファーツ・フォン・ライゼガングと同様の高機能な物を装備しているのか、軍馬と騎士の双方とも被害を受けた様子はなかった。


「シャルロット様、シノブ殿を! ここは我らが引き受けます! アリエル殿、こちらも障壁を!」


 シメオンの言葉を聞いたシャルロットは、シノブの光の魔道具を呼び寄せると左手に握る。


「シメオン殿、閃光を使います! 殿下、失礼します!」


 テオドールに一声かけたシャルロットは、身体強化を活かして彼を抱き上げると、そのまま神速の走りを見せて屋外へと飛び出した。


「殿下、目を(つぶ)ってください!」


 そして、彼女は光の魔道具を帝国騎士達に向けて、最大威力で光を解き放った。


「うわっ!」


 光の魔道具を使ったシャルロットの目くらましに、押し寄せていた帝国騎士達は崩れ、後方に控えるベルノルトやエグモント達も、それぞれ手を(かざ)して自身の目を守る。


「ぎゃあ!」


 それでもどうにか落馬せずに、階段がなくなった館に跳馬して飛び込んだ僅かな騎士達は、何かにぶつかって跳ね返される。


「魔法の杖の威力、思い知ったか!」


 薄れゆく光の中、ミレーユの歓声が響いた。どうやら魔力障壁は魔法の杖によるものであったらしい。


「王太子はどこだ!」


 将軍エグモントが叫ぶが、彼らが見渡す範囲にシャルロットの姿はない。

 公館には敷地内にも軍事施設並みに石壁が設けられ、更に空堀や塹壕まであるため、隠れるところには事欠かない。シャルロットは、そんな地形を上手く利用していずれかの陰に潜んでいるようだ。


「散開して探せ!」


 大将軍ベルノルトの命令に、彼の近くにいた騎士達が、四方に散り捜索を開始する。だが、敷地内は複雑に区切られているため、初見の彼らは、中々思うように進めないようである。


「……シャルロット様! 遠眼鏡が消えました!」


 そして、そんな混乱の中、シメオンが声を張り上げて魔法の遠眼鏡が呼び寄せられたことを、走り去ったシャルロットへと伝える。それは、魔法の家の呼び寄せが可能であるという合図。そして、間をおかず館の東側の一区画、石壁の向こう側に、レンガ造りの家のようなものが出現した。


「あ、あれは!」


 帝国騎士団の中にいた、フライユ伯爵家の騎士が叫び声を上げた。

 兜のバイザーを上げて石壁の向こう側を見つめるその男は、フライユ伯爵の継嗣グラシアンであった。


「グラシアン殿?」


「……あれは、シノブが持つ魔法の家です。奴が来た……そうに違いありません」


 将軍エグモントの問いかけに、グラシアンが苦々しげな様子で声を絞り出した。


「こんなところで再会とは、意外……と言うべきなのかな?」


 グラシアンが見つめる石壁の上に、一人の男が飛び乗り姿を現した。ベルレアン伯爵領軍の青と白を基調にした軍服に、白地に金の縁取りのマントを(まと)った青年。それは、ガルック砦から瞬間移動してきたシノブであった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「シノブ! 全員出たぞ! それに王太子も家に入った!」


 石壁の向こうから響く太い声にシノブは一瞬振り返った。

 帝国の騎士達と対峙しているシノブには長々と見る時間はなかったが、戦斧を掲げるイヴァールと扉の閉まった魔法の家を、彼は確認していた。


──アミィ、魔法の家を呼び寄せて。テオドール様がいるからお願い──


──はい、わかりました!──


 シノブがアミィに心の声で伝えると、彼の背後に存在していた魔法の家が消え去った。


──シノブ様、殿下をアシャール公爵の下にお連れしました!──


──ありがとう! アミィはそのままテオドール様と義伯父上を守って! そっちに敵はいないと思うけど、念のためにね!──


 シノブは素早くアミィと心の声でやり取りすると、あらためてグラシアンを(にら)みつけた。


「グラシアン! 殿下はお前の手の届かないところにお連れした! 何故(なぜ)裏切ったかは知らないが、お前の野望は潰えたんだ!」


 シノブは、手に持つ神槍をグラシアンに向けて大喝(だいかつ)を放った。

 グラシアンが裏切った理由など、シノブには想像もつかなかった。しかし王太子がいるグラージュに攻め寄せたことから、彼の身柄を確保して王国と対決するつもりだったのでは、と想像したのだ。


「くっ……だが、お前を倒せば! シノブ、お前さえいなければ!」


 グラシアンは凄まじい形相で絶叫すると、己の跨る軍馬を矢のような勢いで走らせた。そして彼は手に持つ槍を高々と掲げ、投槍の構えへと移る。

 そこでシノブも魔術で応じようとする。しかし一瞬早く、何かが宙を切り裂いた。


「グラシアン、天誅!」


 中空に飛び上がったベルレアン伯爵が、自身の槍をグラシアンに向けて投げつけたのだ。そして彼が放った槍は電光のような速度で宙を翔けると、狙い過たずグラシアンの胸へと突き立った。

 『魔槍伯』の異名に恥じない一撃。それは音速を超えていたようである。空を切る槍から一瞬遅れて衝撃波が届く神技(かみわざ)に、帝国の騎士達ですら思わず感嘆の声を漏らしていた。


「ふむ。やはり、奴は扉を開けるだけの男であったか」


 ベルレアン伯爵の槍を受けて絶命したグラシアンに、大将軍ベルノルトは感情を見せずに呟いた。彼は、将軍エグモントがグラシアンを評した『扉を開けるのが役目』という言葉を覚えていたらしい。


「そうですな。西方大公どころか、伯爵位につくこともできなかったようです」


 エグモントも、皮肉げな口調でグラシアンの『ベーリンゲン帝国西方大公』という言葉を上げて揶揄(やゆ)した。


「そういうお前達も、ここで命を落とすのだがな!」


 イヴァールは石壁を回り込むのが面倒だと思ったらしい。トイヴァが作成した戦斧で石壁を打ち破って、その姿を現したイヴァールは、そのまま帝国の騎士達に突進を始める。

 そして石壁の向こう側でも、シャルロットとテオドールを捕らえるために回り込んでいた帝国騎士達と、ドワーフの戦士やアリエルの父エミール、ミレーユの兄エルヴェ、元ブロイーヌ子爵のロベール・エドガールなどが激闘を繰り広げていた。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「シノブ! あの男が帝国の大将軍ギレスベルガーです!」


 父であるベルレアン伯爵と同様にシノブの隣に降り立ったシャルロットは、彼に大将軍ベルノルトを指し示した。


「よし。アイツを倒せばこの戦も終わりだな! シャルロットは、増援を頼む!」


 シノブは、そう言うと石壁の上から跳躍し、ベルノルトへと駆け出した。そして、彼の背中を守るようにベルレアン伯爵も続いていく。


 シャルロットはというと、今度は石壁の手前側に降りる。彼女は、イヴァールが打ち破った場所から広場に入ったドワーフの戦士達に声をかけて一定の場所を確保した。そして、しばらくすると彼女は、魔法の家を呼び寄せた。


「マレシャル! 帝国騎士を殲滅! 障壁に留意!」


 シャルロットは、魔法の家から勢いよく飛び出した騎士達の先頭にいた領都守護隊司令ダニエル・マレシャルに、シノブ達に続いて帝国騎士と戦うように命令した。


「はっ! 展開して連続投槍! 数人で協力して馬を潰せ!」


 シャルロットの命を受け、ベルレアン伯爵領の騎士達が、帝国騎士達に槍を投げつける。午前中のシノブとボニファーツの戦いで、帝国の将官が持つ障壁の魔道具が連続攻撃に弱いことはわかっている。しかも、騎士よりは軍馬のほうが防御力が低いらしい。

 そのため、マレシャルは馬を集中的な投槍攻撃で崩すことにしたようだ。


 そして、シャルロットはアミィと魔道具で連携しながら、更に数度の転移を実施する。彼女は敵と充分交戦可能な兵力を送り込むまで、呼び寄せ機能での兵員輸送を続けるようである。


「シノブ……貴方が授けてくれたこの力、無駄にはしません」


 シャルロットは、シノブが付与した魔道具の使用権限を最大限に駆使して、彼の支援をするつもりのようだ。

 本来であれば、ベルレアン伯爵家の表芸である槍で彼と共に戦いたいのかもしれない。だが、司令官として教育を受けてきた彼女は、一人の超人的な武芸よりも、結局は数がものを言うことを熟知しているとみえる。もちろん、シノブのような例外はある。だが、それは例外中の例外なのだ。

 軍略としてそれを学んできた彼女は、己の武芸より大局的な判断を取ったようである。


「シノブ。私は、私の出来ることをします。ですから、どうかご無事で……」


 シャルロットは、魔道具をアミィとやり取りする間に、心配そうに戦場の中央を見つめる。そこには、彼女の婚約者と父親を先頭に、多くの騎士達が切り込んでいた。

 彼女は、そんな愛する者達の戦いをなるべく早く終わらせようと、再び魔法の家を呼び寄せた。


 お読みいただき、ありがとうございます。

 次回は、2015年1月7日17時の更新となります。


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