07.27 王家の旗に集いて 中編
「やあ、シノブ君! 久しぶり! それに、コルネーユやシャルロットも元気そうだね!」
相変わらず陽気な笑顔を浮かべているアシャール公爵ベランジェ・ド・ルクレールが、シノブ達を出迎えた。予定通り、王領軍は12月17日の昼前にフライユ伯爵領の領都シェロノワに到着した。シノブ達は、王領軍の中枢である王太子テオドールやアシャール公爵が乗る馬車まで挨拶に出向いたのだ。
「王太子殿下と義兄上もお変わりないようで」
ベルレアン伯爵コルネーユは、王家の旗を掲げた豪華な馬車から降りた二人に頭を下げた。アシャール公爵は彼の第一夫人カトリーヌの兄であるため、義兄上という呼びかけは間違っていない。だが、王領軍の将校が見守る中で、義兄上と呼ぶのは、相手が一風変わった言動で有名なアシャール公爵ゆえであろう。
「ベルレアン伯爵、出迎えご苦労。シノブとシャルロットもありがとう」
どちらかというと柔らかい物言いをする王太子テオドールだが、大勢の将兵が見ているせいかベルレアン伯爵には少し形式張った口調で挨拶した。しかし王太子は、シノブ達には普段のような優しげな口調で話しかけてきた。
年齢が近いせいか、それとも王家の血を引くシャルロットとその婚約者だからか、テオドールは二人に親近感を抱いているようである。
「……コルネーユ殿。久しぶり、と言っておこうか」
王家の馬車から続いて降りてきたのは、なんとフライユ伯爵クレメン・ド・シェロンであった。疑惑の渦中にある彼だが、流石に縄目の恥を受けることはなかったようだ。
そしてフライユ伯爵は査問会のときのように悠然とした態度で、ベルレアン伯爵に言葉をかけてきた。彼の落ち着いた様子は、馬車の中でも楽しく歓談をしていたのではと錯覚しかねないほどだ。
アシャール公爵やベルレアン伯爵と同様に、フライユ伯爵も略装の軍服姿である。
シノブが知っている地球の軍服でいえば、近世欧州の将軍や高級士官に近い。肩章や飾緒がついた外衣に細めのズボンに黒々とした長靴。そして乗馬のためか後ろのみが長く伸びている外衣には、二列に並んだ緻密な装飾の金ボタンの他に、数々の勲章が飾られている。
ただしフライユ伯爵は他と異なり、襟元には見事な細工が施されたペンダントを配し、軍服の袖からも繊細な模様の腕輪が覗いている。どうも彼は、身なりに相当気を使う人物のようだ。
見るからに貴人らしい装いのフライユ伯爵。しかしシノブは、彼一人だけが帯剣をしていないことに気付いていた。それに彼の背後には、緊張した表情の軍務卿エチエンヌ侯爵の嫡男シーラス・ド・ダラスも付き従っている。いや、付き従っているのではなく、監視していると言うべきであろう。
どうやら、疑惑はまだ晴れていないようだ。シノブが隣にいるシャルロットに視線をやると、彼女もそれを察していたらしく微かに頷き返す。
「シェロン殿。我が息子は、まだ紹介しておりませんでしたな」
ベルレアン伯爵は、微かに皮肉げな笑みを浮かべるフライユ伯爵に、シノブを紹介した。彼はフライユ伯爵の意味ありげな挨拶は無視するつもりのようだ。もっとも、多くの者達が見守る場である。そうするしかないのも確かではあった。
「初めまして。シノブ・アマノ・ド・ブロイーヌと申します」
シノブも、余計なことは言わずに名乗り、伯爵家の家令ジェルヴェに教わった通りの綺麗な会釈をした。
王都の査問会に証人として出席したシノブは、フライユ伯爵の姿を見たことはある。だが、被告人である彼と会話することはなかった。そのため、これが実質的な初対面であるといえる。
「お初にお目にかかる。フライユ伯クレメンという。そなたのような若者に、もっと早く会いたかったものだな」
それまでとは違い、どこか真剣な様子のフライユ伯爵の声音。それを聞いたシノブは、思わず彼の顔を見返してしまった。
「……アシャール公爵。こんな所にいても仕方ない。我が館に殿下をご案内しようではないか!」
シノブの視線を受けたフライユ伯爵は顔を逸らすと、様子を窺っていたアシャール公爵に向き直り大きな声を張り上げた。査問会では敬語を使っていた彼だが、どうやらこちらが普段の口調らしい。
50がらみの年齢を感じさせない若々しさと、単なる若者にはない威厳。それが大領主であるフライユ伯爵の本当の姿であるようだ。
「その通りだね! それでは、貴殿の館にて歓待していただこう! 道中、色々語り合った我々だ。きっと会話も弾むというものさ!」
対するアシャール公爵は、いつも通りの飄々とした口調で返答する。しかし彼の子供っぽさすら感じる言葉には、額面どおりに受け取るのを躊躇う何かが含まれていた。
◆ ◆ ◆ ◆
領都シェロノワは、ベルレアン伯爵領の領都セリュジエールと同じくらいの規模だという。だが、セリュジエールとは異なり、あまり背の高い建物はないようである。
例によって、軍そのものは領都の郊外に陣を張るため迂回して国境に近い東側に移動している。領都シェロノワの大通りを進んでいるのは、王家の馬車とベルレアン伯爵家の馬車、それに、それぞれの司令部などごく一部だけである。
通りには煌びやかな馬車や騎士達を見に来た人々が両脇に並んでいるが、厳重な警護に恐れをなしたのか、歓呼の声も今ひとつ盛り上がらないように、シノブには感じられた。
そんな大通りから少し離れた奥のほうに、比較的新しい大きな建物が幾つもあるようだ。馬車からは見えにくいが、通りに面した建物の間から似たような形の大きな建築物の一部が見える。
「あれは、魔道具製造工場ですよ」
なんとなくシノブが、その建物群を眺めていると、シメオンが語りかけてきた。
「シメオンは、シェロノワに来た事があるんだ?」
シノブは、外の様子を眺めるのをやめ、シメオンへと振り向いた。
「ええ、数年前に。魔道具を買い付ける商人達に便乗して、こちらの様子を調べに来たのです」
どうやら、そのころから彼はフライユ伯爵領の魔道具製造業が急激に発展したことに疑問を抱いていたらしい。
魔道具技術に長けた帝国との世代を超えた戦いで、王国にも彼らの技術が入ってくることがあった。だが、多くは戦闘で偶然手に入れた魔道具を、壊す覚悟で分解し解析して得た知識であった。
それに、帝国側も魔道具の流出は警戒しているようで、重要な道具には自壊装置などがあるという。したがって、王国にはそれほど多くの知識は手に入らなかったようである。
ところが、ここ10年ほどでフライユ伯爵領の魔道具製造業は飛躍的な伸びを見せたという。その背後には帝国と繋がりのあるソレル商会など、表沙汰に出来ない何かがあったようだ。王都での事件でそれを知ったシノブは、新しく汚れも少ない建物群を、再び見つめなおした。
「残念ながら、他領の者には見学させていないようでしてね。部下に、労働者達の話を収集させましたが、単純な作業しか任されていないようで、内情はよくわからないままでした」
シノブは、数日前のミュレの話を思い出した。効率化のために作業を単純化し、分業制度を確立していたようだが、情報流出防止の意味もあるのかもしれない、とシノブは思った。
「戦争がなければ、魔道具工場の調査も進めるのだろうがね。一応、王都の監察官は同行しているようだから、少しだけでも進めるとは思うが」
ベルレアン伯爵の言葉には、僅かだが不満げな様子が滲んでいる。
帝国との戦いがある以上、彼らがその調査結果を知るのは当分先になると思われる。とはいえ、その帝国の息がかかっているかもしれない商会や、それらが造った工場である。調査をせずに戦場に赴くのは、帝国の手に嵌まるようだと感じたのだろう。
「シェロノワには、戦闘奴隷の反応はないようですね。魔道具自体は知らないものも多いようですが、少なくとも王都で見た強化の魔道具と同じ反応はありません」
シノブは、魔力感知の結果を車内の面々に説明する。結局、フライユ伯爵領に入ってから今まで、シノブ達は敵と遭遇せずに進軍してきた。王領軍も同じだという。
結果としてはシノブ達が警戒しすぎただけのようだ。とはいえ油断して奇襲されてもたまらない。神経を磨り減らすような行軍であったが、無事ならそれで構わないのだろう、とシノブは思うことにしていた。
「……そうか。そうすると、アドリアンが使っていた魔道具は、帝国から密輸したものなのだろうか?」
フライユ伯爵の次男、アドリアンは強化や魔力を吸い取る魔道具を身につけていた。これらの魔道具は王国では生産されていないし、生産する技術もない。
「稼働中の魔道具がないだけかもしれませんが……」
シノブは一応、それらの魔道具が稼動していない可能性にも触れた。
だが内心では、検品などで稼動させたときの魔力くらいは感知できるのでは、と思っていた。彼の魔力感知は、王都全域をカバーできる。それ故、それより狭いシェロノワの中であれば、その反応を逃すことはないはずだ。
「まあ、戦闘奴隷がいない、というだけでも安心できるよ。ありがとう」
ベルレアン伯爵は、シノブへと微笑みながら礼を言った。
◆ ◆ ◆ ◆
フライユ伯爵の館も、ベルレアン伯爵のものと同様に『メリエンヌ古典様式』に則った建物であった。この様式の特徴である、アーチを多用した建築であるのは当然だが、どうやら内部の配置も様式のうちらしい。伯爵領の公館などもそうだが、公的なもてなしをする場は右翼に配置されていた。
そのため、フライユ伯爵の館の迎賓の間も、右翼の二階に存在した。ベルレアン伯爵やシノブ達は、王太子テオドールやアシャール公爵と共に、その迎賓の間へと案内されていた。
王族である王太子とその縁戚であるアシャール公爵を上座に据え、左側にフライユ伯爵とその一族、右側にベルレアン伯爵とその一族が並ぶ。更に、シーラスやマティアスなど貴族籍を持つ者が双方の下手に続いている。迎賓の間の巨大なテーブルを、彼らはそんな席順で囲んでいた。
ちなみに、王領軍はラコスト伯爵領とボーモン伯爵領の軍勢を後方支援のため引き連れていたが、両伯爵の姿はここにはない。別経路で合流したエリュアール伯爵領軍もそうだが、これらの後方支援を担当する伯爵達は、自領で物資の輸送や集積を監督している。
ベルレアン伯爵はシノブに、伯爵位の者が多すぎても上手く纏まらない、と言っていた。確かに上級貴族が自領の軍を勝手に動かすなど、不都合も多いのだろう。
「本来であれば、当家自慢の料理人の腕を存分に見せたいところですが……まあ、せっかくの殿下の配慮を無駄にするわけにもいかないでしょう。王家と当家、双方の味を堪能していただきましょう。
……『全ての命を造りし大神アムテリア様に感謝を』」
昼食の席で、主であるフライユ伯爵に続き広間の一同がアムテリアへの感謝を口にする。
「突然押しかけて、フライユ伯爵家のみに負担を押し付けるのもどうかと思うしね!
まあ、気にしなくていいんじゃないかな!」
唱和を終えた後、アシャール公爵が明るく笑うが、彼の言葉をそのまま受け取るような者は、この場にはいなかった。
フライユ伯爵が冒頭に触れた内容。それは、フライユ伯爵家のみに料理を任せなかった、ということである。つまり、王家はフライユ伯爵を信頼していない、ということだ。
それを理解しているフライユ伯爵家の面々は、アシャール公爵の言葉に微笑んでは見せるものの、内心ではどのように思っていることか。シノブは、重苦しい空気に覆われた室内を、さりげなく観察した。
会食に参加しているフライユ伯爵の一族には、嫡子であるグラシアンの姿は見当たらなかった。彼は、既に戦地に先乗りしているそうだ。現在は、国境に並ぶ三つの砦のうち中央にあるガルック砦にいるという。
そして、グラシアンの妻オルタンスも、最前線の都市グラージュに同行している。
したがって、現在同席しているのは、フライユ伯爵の妻アンジェリクと、先代フライユ伯爵の妻アルメルだけである。
アンジェリクはグラシアンとアドリアンの母だ。王都で処刑されたアドリアンの悲報を聞いたせいであろう、彼女は青白い顔で最初の挨拶以外は一言も発していない。
そして、ベルレアン伯爵の第二夫人ブリジットの母であるアルメルだが、こちらも黙っている。アルメルは先代フライユ伯爵アンスガルが遅くに迎えた妻であり、なんとフライユ伯爵クレメンと同い年である。
そのため、知らないものが見たら、クレメンが二人の妻を連れているように感じるかもしれない。だが、アルメルは先代を娘のブリジットと看取った後、ひっそりと暮らしていたようだ。
今回の会食では、フライユ伯爵家の者が少ないゆえ同席を求められたようであるが、普段は人前にあまり出ないらしい。
「……ところで、義兄上。戦地では、どのような陣立てにするおつもりで?」
ベルレアン伯爵は、誰も発言しないので仕方無しに口を開いたようだ。普段は会話を盛り上げるべく努力する彼も、この場の雰囲気を変える話題は見つからなかったようで、アシャール公爵に軍をどのように配置するのか尋ねていた。
「そうだねぇ。総司令部は、グラージュに置くつもりだよ。敵はガルック砦に狙いを変えたようだから、そこで決戦かな。
本隊が私、右翼か左翼のどちらかが君、残りがマティアスかな。
シーラスには、誰かの副将をしてもらおう」
アシャール公爵は、そうベルレアン伯爵に答える。マティアス・ド・フォルジェはシノブ達と共に聖地まで王女セレスティーヌの護衛をしたこともある。子爵家の嫡男で金獅子騎士隊の隊長でもある彼は、今回の戦いでも指揮官として重要な役目を担うらしい。
それに対してシーラスはエチエンヌ侯爵の嫡男ではあるが、まだ20代半ばと若いため副将扱いらしい。メリエンヌ王国軍は、爵位だけで司令官を決めるようなことは無いようだ。
「アシャール公爵。私とグラシアンはどうしたら良いのかね?」
フライユ伯爵は、口髭を皮肉げに歪めながら問いかけた。
どうやら彼はアシャール公爵の答えは察しているようだが、それでも敢えて尋ねたようだ。開会の挨拶と言い、彼は疑惑の目で見られる現状すら、どこか客観的に楽しんでいるようだ、とシノブは感じた。
「もちろん君は、殿下のお側に控えてもらうよ。領内を良く知っている君に守ってもらえば、殿下も安全だろうしね。
グラシアンは、私の副将でもしてもらうかな」
アシャール公爵は、朗らかとさえいえる口調で彼らの配置を説明する。
「それは、真に光栄なこと。私も当年とって50歳だ。戦は息子に任せるのが妥当だろう」
想定通りの答えであったのか、フライユ伯爵は機嫌よさげな笑みを見せていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「シノブ殿。少し良いだろうか?」
会食を終え、迎賓の間を辞そうとしたシノブにフライユ伯爵が声をかけてきた。
「ええ。構いませんが……」
入り口に向けて歩み始めていたシノブは、フライユ伯爵へと向き直る。
「コルネーユ殿。別にそなたの婿を取って食おう、などとは思っておらん。ただ、未来ある若者と話したくなっただけだ。私とて、噂の『竜の友』と一対一で話をしてみたいのだよ」
シノブの近くまで歩み寄ってきたフライユ伯爵は、僅かに眉を顰めたベルレアン伯爵に、肩を竦めて笑いかける。
どうやら、フライユ伯爵はシノブと二人だけの会話を望んでいるようだ。
「……それでしたら。シノブ、私達は上で待っているよ」
ベルレアン伯爵や、その一行には、三階の貴賓室が割り当てられている。彼は、そちらで待つとシノブに告げると、心配げな表情をするシャルロットの肩に手を添え、迎賓の間を出て行った。
「シノブ殿。そなたはベルレアン伯爵家に大いなる幸を齎したと聞く。そんなそなたに聞いてみたかった。
そなたなら、どうやってフライユ伯爵領に幸を齎す?
魔道具製造業を興す前の我が領地。そなたなら、どのように発展させる?」
フライユ伯爵は、窓際に立つと、シノブに背を向けたまま問いかけた。
「それは……異国から来た私は、皆さんの知らない知識を多少持っています。
ですから、それらをお伝えする事はできますが……」
シノブは、突然の問いに困惑しながら、フライユ伯爵の背に向けて答えた。
「正直なことよ。だが、それが正解であろうな。知らない知識を手に入れる。それがどんなものかは使いつつ考える。そんな風にして進んでいくしかない」
フライユ伯爵は、シノブへと振り返り微笑んだようだ。逆光で見えにくいが、シノブはそう感じた。
「そなたは並外れた魔力を持っているそうだな。だが、多くの者は僅かな魔力しか持たない。
魔道具は、そんな格差を埋めてくれる福音のように私には思えたのだよ。だから、それを広めるために努力した。商人共の強欲にも目を瞑った。
しかし、そんな魔道具に狂った男。そなたはどう思う?」
フライユ伯爵は、静かな口調でシノブへ問いかける。
シノブは伯爵がアドリアンのことを言っているのだと感じた。シノブに戦いを挑み敗れたアドリアン。彼は魔道具に縋り、その結果自滅した。
フライユ伯爵は息子の最期について聞きたいのだろうか。そう思ったシノブは、知らず知らずのうちに表情を引き締める。
「道具は、あくまでも道具です。それを何のために使うかは、人が決めることです。
大きな力を使うには、力に比例した強い意思が必要なのかもしれません。人に惑わされず、己に惑わされず、力を振るう……口では簡単に言えますが、難しいですね。
でも、自分自身と支えてくれる人達の強い思いがあれば、道を踏み外さないで歩める……そう思います。いえ、そう信じたいです」
シノブにも明確な答えはない。
そもそも何をもって正しいとするのか。そんなものは人それぞれだろう。だが、だからこそ、多くの人と相談しつつ最適な答えを探すべきではないか。
過ちなく生きることなど不可能だろう。だからといって、全てを放棄するのも間違いだし、身勝手に生きるのも間違いだろう。シノブは、これまでの経験からそう感じていた。
「支えてくれる人……か。そなたには、良き仲間がいるのだろうな。そなたがもっと早く来てくれれば……いや、過ぎたことを悔やんでも仕方がない」
シノブがこの世界に来るのが早ければ、アドリアンも道を踏み外さなかった。フライユ伯爵はそう言いたいのであろうか。
伯爵の心中は察することのできないシノブであったが、その悲しげな声に思わず言葉を失った。
「そなたは、今の言葉のままに生きるのだろうな。そんな若者がいるとは、心強く思う。……ありがとう」
そう言うとフライユ伯爵は、再びシノブへ背を向けた。彼は窓の外を見ているのであろうか。それとも遠い王都で落命した次男を思っているのであろうか。
もはや語ることはない。伯爵の背から拒絶の意思を受け取ったシノブは、静かに迎賓の間を立ち去った。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回は、2014年12月20日17時の更新となります。
本作の設定資料に、軍隊についてを追加しました。
設定資料はシリーズ化しています。目次のリンクから辿っていただくようお願いします。