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女神に誘われ異世界へ  作者: 新垣すぎ太(sugi)
第7章 疑惑の伯爵
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07.17 領都への飛翔 前編

「えっ、俺達と共に戦いたいって?」


 シノブは、イヴァールの言葉を聞いて驚いた。


 セランネ村に無事到着したシノブ達。いきなり岩竜ガンドが村外れに舞い降りたセランネ村は、一時騒然となった。しかし『竜の友』シノブと大族長の息子イヴァール達がガンドの背から降りるのを見て、村のドワーフ達はすぐに落ち着きを取り戻した。

 ガンドはそのまま竜の棲家(すみか)へと帰り、シノブ達は大族長エルッキの家で一泊することとなった。シノブ達は夕食をご馳走になりながら、エルッキやその父タハヴォに帝国の侵攻を告げ、そして岩竜ガンドと会話するために『アマノ式伝達法』を教えていた。


 エルッキは帝国の侵攻に関しては念のため東方や北方の支族に注意を促すつもりらしい。彼は、シノブが竜に乗ってまで来訪し警告してくれたことに大族長らしい威厳と共に深い感謝を示していた。

 だが、岩竜ガンドと会話が出来るというシノブの言葉にはさすがの彼も驚愕を隠せなかったようだ。あいにくガンドが竜の棲家(すみか)に帰ってしまったため、翌日再訪するときに実際に披露するとのシノブの言葉に頷いたものの、アミィが作成した信号表を若干疑問が混じったような顔で眺めていた。


 ともかく、その晩はイヴァールやリウッコ、そしてイヴァールの弟パヴァーリなどは翌朝運ぶべき物資を村の者達と(まと)めるのに忙しいようだったが、賓客扱いとなったシノブとアミィは、エルッキの家でゆっくり過ごしたのだ。

 そして、そんな一夜が明けた朝、イヴァールとその弟パヴァーリはシノブとアミィの下を訪れドワーフ達が参戦を希望していると告げていた。


「……戦士達が義勇軍として参加したがっていてな。それに、リウッコの話を聞いた鍛冶師達もだ。竜に乗せれば何人かは連れて帰れるが……」


 シノブに説明するイヴァールは、その顔に当惑の表情を浮かべていた。

 騎乗するために岩竜ガンドに取り付ける装具は、現在六人が乗れるようになっている。命綱を付ける金具やしがみつく為の革の取っ手を増やせば、もう何人か乗せることは可能だろう。しかし、それでも一度に十人少々運ぶことが出来るかどうかだ。

 それを知ったドワーフの男達は、我こそが参戦に相応しい、と一撃触発の様子さえ見せているという。


 既に12月に入ったため、山越えをしてメリエンヌ王国に行くのは寒さに強いドワーフ馬でもかなり厳しい。通常の馬での交易は10月末まで、ドワーフ馬でも11月末までである。

 ちなみに今日は12月8日。峠に着くのは早くて二日後だろう。強引に山越えをすることは不可能ではないが、遭難者が出る可能性は否定できない。


「ガンドさんが私達に配慮して飛べば、片道一時間半はかかりますからね。何往復かしてもらいますか?」


 アミィは、シノブの顔を見上げながらガンドに数回往復してもらえば良いのでは、と言った。シノブ達は伯爵達と合流するために先を急ぐ必要がある。だが『アマノ式伝達法』でガンドとドワーフ達が意思を交わすことができれば、彼が旅立った後でも山越えが可能になる。

 その意味ではアミィの提案は魅力的なものであった。


「しかし、ガンドが人間と仲良くしたいからって、いきなり戦争に協力させるのはな……」


 アミィの提案は現実的であり、もっとも簡単なのはそれだとシノブも思った。

 しかし、ただでさえ目立つ竜に何往復もさせて良いのだろうか。そんなことをすれば、竜を戦に利用しようという者達を勢いづけるだけではないか。そう思ったシノブは、アミィの提案を採用すべきか迷った。


「人間を、魔法のカバンに詰めていくことはできないんですか?」


 シノブ達の話を聞いていた、イヴァールの妹アウネが魔法のカバンを使えないのかと問いかけた。

 彼女は、何度かシノブ達が魔法のカバンに大量の物資を収納するところを見ている。それに、これから村の者が集めた山のような荷物をカバンに収めるのだ。アウネの質問は当然のことといえよう。


「生き物はダメなんだ。植物の種とかは大丈夫みたいなんだけど……」


 神具とでもいうべき魔法のカバンがどういう原理で動作しているのかは、シノブやアミィにはわからない。だが、アミィがアムテリアから与えられた知識によれば、生きた動物をカバンに格納することは出来ないらしい。


「そうなんですか。

まあ、兄さん達が荷物みたいに詰められていくのは面白いけど、そうは行きませんよね」


 アウネは、シノブの言葉を聞いて残念そうな顔をした。もっとも、その口調からすると、単なる思い付きの域を出るものでもなかったようだ。


「おい、アウネ! 俺は荷物じゃないぞ! それに、どうせなら竜の背に乗って行きたいしな!」


 妹の言葉を真面目に取ったのか、次男のパヴァーリが憤然とした様子で文句を言った。

 今まで竜の背に乗ったのはシノブ達、竜の棲家(すみか)に訪れた者だけであった。それが、リウッコが乗ったので、彼も竜に乗りたくなったようである。


「あら、シノブ様と一緒に行く人だけなら、パヴァーリ兄さんなんか選ばれるわけないじゃない。もっと熟練の戦士や鍛冶師じゃないと無理よ」


 アウネは、次兄へと言い返す。彼女は12歳でありアミィよりも更に背が低い。おそらく、身長130cmあるかないか、というくらいであろう。もっとも、ドワーフの成人女性は140cmに届かないのが普通らしいので、これでも年齢相応の身長である。

 そんな彼女が20cmは背の高い髭面のパヴァーリをやり込める光景は、シノブにとって笑いを誘うものであった。だが、彼はパヴァーリの面子も考え、平静な様子を保ちつつ傍観していた。


「パヴァーリ、アウネ、やめないか。ともかくシノブよ。どうするか考えておいてくれ。

それとアミィ、荷の点検と収納を頼むぞ」


 イヴァールは二人を仲裁すると、アミィへと振り向き用意した荷を魔法のカバンに収納するよう頼んだ。

 既に、買い付ける品についてはエルッキと相談の上、極めて安価で売ってもらえることになっていた。戦争への協力をしたいと申し出るエルッキは、殆どの品を原価に近い安値でシノブ達に提供してくれたのだ。

 そのため、伯爵から預かった資金は半分以上も余っていた。そして、既にエルッキ経由で代金は支払っている。あとは、リストどおりに荷が作られているか調べ、収納するだけであった。


「はい! それではイヴァールさん、案内してください!

それではシノブ様、行ってきます!」


 アミィは、いつものように元気良く返事を返した。彼女はシノブへと笑いかけると、イヴァールと共に荷の集積所である村の集会場へと歩いていった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「う~ん。どうするかな……」


 シノブは通りの左右に雪を積み上げたセランネ村の中を歩きながら、参戦を希望するドワーフ達をどうすべきか考えていた。

 イヴァールは、戦士が70名、鍛冶師が50名、それに雑事の手伝いを申し出た男女が30名ほどもいる、と言っていた。しかし、合計150名もの人員を竜で輸送すれば、もうガンドを戦争に使うなとは言えないだろう。

 そうなればセリュジエールからフライユ伯爵領への輸送、戦地で上空から攻撃など、際限なくガンドを戦いに巻き込むことになる。戦況が劣勢で敗戦間近とでもいうのならともかく、まだ戦地も見ていないこの状況でそこまで踏み切ることは、シノブには出来なかった。


「シノブ様は、竜にも優しいんですね」


 案内役を務めるイヴァールの妹アウネが、シノブを見上げながら呟いた。

 彼らは、アミィが荷を収納する間、気分転換を兼ねて村の中を見物しているのだ。ドワーフの参戦をどうすべきか悩んでいるシノブを見たエルッキが、アウネを連れて散策するように勧めたからでもある。


「そうだね。昨日の夜話したとおり、竜も意思を持っているし、人間の言葉とは違うけどアウネ達とも話すことができるようになるんだ」


 シノブは、アウネへと優しく答えた。

 昨晩シノブやアミィは、以前来訪した時のようにイヴァールの母ティーナや祖母ヨンナの心づくしの料理を味わっていた。セランネ村の赤カブのスープは、寒さも厳しいこの時期には、とてもありがたいご馳走であったので、シノブとアミィは何杯もお代わりしていた。

 そんな温かな夕べの唯一の問題は、エルッキやタハヴォから勧められるウィスキーを制限しつつ飲むことだった。だが、それも冬場の寒さを(しの)ぐ先祖伝来の風習である。シノブは彼らの伝統を尊重しつつ、好奇心旺盛なアウネとの会話に逃れながら、底なしの酒豪達と歓談して夜を過ごしていた。

 そんな経緯もあり、アウネはシノブから竜についてかなり詳しく聞いていたのだ。


「アウネだって、自分の意思を無視して戦争に連れて行かれるのはイヤだろ?

俺は、ガンドが手助けしてくれるのは嬉しいと思う。でも、充分に俺達のことを知っていれば別だけど、良くわかっていないうちに戦争に連れて行くのはイヤなんだよ」


 シノブは、己の思いをアウネに正直に言った。内心の思いを吐露し、少し頭を整理したい、という気持ちもあったのだ。


「そうですね。それは、なんだか(だま)されているようで、イヤです。私もイヴァール兄さんが戦うから助けたいとは思うけど、良く知らない人達の為に命を懸けるのは怖いです」


 アウネもシノブの言葉に頷いた。やはり、人間は自分の親しい者を守りたいと思うのであろう。


「……って、アウネも行くつもりなのか?」


 シノブは、アウネがイヴァールを助けたい、と言ったことに反応した。


「はい。もしメリエンヌ王国に行くことができれば、ですけど」


 アウネは、真剣な表情でシノブを見上げている。


「そうか。でも、行けるとしても少人数だろうね」


 今のところ、ガンドはシノブ抜きで人間を乗せて飛んだことはない。シノブは、彼が無制限に利用されないように、当分は自分がいないと竜は人を乗せない、ということにしておきたかった。

 もちろん、ガンドが人間について充分に理解してからは別だ。だが、それにはまだまだ時間が必要だと思っていたのだ。


「それは残念です……あっ、シノブ様、武具屋に寄ってみますか?

ここのおじさんは、見事なミスリルの槍を作るんです。『戦乙女』様は槍の達人だと伺っていますし、いかがでしょう?」


 アウネはシノブの意思が固いと見たのか話を変え、道の脇にあった武具屋を指し示した。

 今回シノブ達が調達した武具は、伯爵領軍の兵士が使うための数打ちのものが中心であった。もちろんドワーフの武器職人が作った品だから、数打ちといっても王国では名剣や名槍として扱われるのは間違いない。

 とはいえシャルロットや伯爵が使うような特注の逸品は、今回の対象から除外されていた。それを知っているアウネは、シノブ自身の目で品を確かめてみては、と思ったのだろう。


「ありがとう。でも、彼女と俺の槍は特製の魔道具でね。だから……」


 シノブは、アムテリアが用意してくれた神槍とでもいうべき品を思い出した。

 この槍は魔道具でもあり、念じると手元に戻ってくる機能まで備わっている。そのため、投擲(とうてき)を得意とするシャルロットは早速愛用していた。


「シノブ様、どうかされましたか?」


 アウネはシノブの顔を怪訝そうに見上げている。急に黙り込んだ理由に、思い当たることがなかったのだろう。


「そうだよ! これならいける! アウネ、ありがとう!」


 シノブは満面の笑みを浮かべると、アウネの肩に手を置いて礼の言葉を口にする。

 一方のアウネは、シノブの急変に戸惑ったようだ。しかし万事解決と言いたげなシノブの姿からだろう、彼女も思わずといった様子で顔を綻ばせていた。


 お読みいただき、ありがとうございます。

 次回は、2014年11月30日17時の更新となります。


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