決行と帰還
エリックは手のひらから炎を真下のスクランブル交差点に向けて放射した。
それは街を飲み込むために、どんどん巨大化していく。下から悲鳴が聞こえ始めた。
ヘリコプターの方を横目に見るといつの間にか、50mほどまで接近していた。先端部の下には球体がついており、それにレンズがあったのでカメラだと分かった。
その球体の下にアリスが左手を添えていた。
次の瞬間、ヘリの先端部分を氷の柱が貫いた。貫かれた穴から人だったものが血や機械の部品と共に飛び出した。コックピットはもう無いといっていいだろう。
次にアリスはヘリの中心に右の手のひらを向けた。すると手のひらから氷の柱が伸び、中心部分に勢い良く入っていく。そしてローターの根元から柱の先が飛び出しその衝撃でプロペラは外れ、下の炎の海へと落ちていった。
ヘリはへの字の様な形になり、プロペラが無くなったせいか、かなり小さく感じられた。
アリスは2本の氷の柱を手から外した。ヘリには氷の柱が刺さったまま、プロペラと同じ末路を辿っていく。
アリスは処理を終えてエリックの元に向かう。
「これで私達の存在も確実に知られたわね」
「それも目的だろ?」
「まあね」
炎は巨大化を続け半径15kmほどの半球体となり街を飲み込んでいた。エリック自身もここまで大きなものを作ったことが無かったので驚きと嬉しさに満ちていた。
すげえ、こんなに大きく出来たのか。もっと、もっと大きく出来ないかな・・・。
手に力を込めてさらに大きくしようとしたとき、アリスが肩に手を置いてきた。
「このぐらいで良いわ。あとは燃えないように気をつけてて。」
終わりを告げ言葉を続ける。
「そろそろ姿も隠さないと。」
「・・・そうだな」
もっと力を試してやりたかったが渋々了承した。
2人は下の炎の中にあるスクランブル交差点の真ん中に降りた。2人は炎に焼かれないどころか熱くもなかった。建物も看板も信号機も、街にあるもの何一つ燃えてはいない。
2人は満足気に笑みを浮かべた。そして少し浮き上がり、この炎の街を抜けるために飛んで行った。
道路上は車がすし詰め状態となってクラクションの音が鳴り響いていた。車の中で人々は状況が良く分かっていないようだが危険なのは分かるようで、早くこの炎から出て行きたいようだ。
勇敢にも建物や車から外に出てみる人も数は少ないが確認できた。
道路を進んで行くと、建物が徐々に低くなっていきビルやデパートから、アパートや一軒家へと変わっていった。
そして住宅街に入っていた。
目の前が炎の終わりだと分かり抜け出そうと思ったとき、その向こう側から声が聞こえた。家と家の間の狭い道路にかなりの人だかりが出来てる。泣いている人もいれば写真を撮って面白がる人、色々な人が居た。
家の壁に身を潜め、エリックはため息をついた。
「どこも同じかもな。森かどこかから抜けるしかないかもよ」
「そうは言っても」
多分、炎の向こう側はどこも人だかりが出来ているだろうな。これじゃ抜けられねぇ。どこか抜けられる場所は。早く炎を燃えるようにしておかなきゃなんねえのに。
「強行突破しよう」
アリスに提案した。
「どういうことよ、それ」
「炎を纏って人だかりを進む、ある程度進んだら炎を燃えるようにする。俺らからは炎を取った状態でな。そうすりゃあ、目撃者は燃え死ぬし」
アリスはあまり理解出来てなかったようだった。
「それでいきましょう」
が、その案を採用した。
「良し、行くぜ」
と言ってアリスに左手を伸ばした。アリスはその手をしっかりと握った。
炎の中でエリックは右手から炎を体へと伸ばし自分とアリスに炎を纏わせた。
うわ、分かんねえ。やってるけど全っ然感覚が無い。
何度も纏うようにしても感覚が無い、エリックは埒が明かないと思いやめた。
「行くぜぇ」
エリックが言い、アリスは頷く。
2人は浮き上がり道路に群がる集団へとスピードをつけて突撃した。エリックは集団の先頭に居た男性を右手で押し退ける。男性は後ろへと勢いよく倒れこみ、その後ろにいた人達がドミノ倒しのように倒れていく。
倒れた人の上を2人が通るため、エリックの右手から続いていた炎が倒れた人達に降り被った。
そこに居た老若男女が、様々な悲鳴を上げて逃げ惑う。
人だかりからある程度進んだところで、纏っていた炎を消した。だが、エリックの右手にはあの巨大な炎からずっと炎が続いていた。
さて、燃やそうか。
エリックの右手から炎が消えた。そして道路にあった炎は燃やすものがないので消えてしまい、家の方に広がっていた炎は外壁を、庭の植物を燃やし始めた。
少し住宅街をうろついて高台になっている場所を探した。うってつけの公園があったが人が集まっていた。そこに混じって2人は街を眺めた。余分にあった炎は消え、その代わり街のいたるところから煙が上がり始めていた。
俺とアリスの仕事はこれにて終了。つーか、これからどうすれば。
「これからどうすれば良いんだ?」
アリスは遠くの大火事をずっと見ていた。
「おい」
少し声を強めると、アリスは気付いてくれた。
「うん、これからは向こうに戻って指示待ちね」
「なら、早く戻ろうぜ。自分の家に帰りたい」
「そうね」
2人は公園から出て、この世界に来たときの森を目指した。飛んでは目立ってしまうので徒歩しかなかった。この騒ぎでバスも電車も走るはずがなかった。
下手なくせに長くなってきてる。短くしなきゃ。