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樹上のフォレスティア  作者: 菊日和静
第四章 希望の花
24/26

人型芯蟲の脅威

 捕らえた人型の芯蟲がクヌギの束縛から抜け出そうと足掻いている。

 明らかに今まで戦ってきた芯蟲とは形が違う。さっきまで戦っていた芯蟲は個体差があれど、その大きさは人より遥かに大きく、人とはかけ離れた姿をしていた。

 だが、目の前にいるこいつは違う。纏わり付くような——言いようのない気持ちの悪さを、その身体から発している。

 自然とクヌギは背筋が寒くなるのを感じる。油断はできない。

 そう思っていたはずなのに——束縛した相手は、力任せに片手を抜け出し、クヌギの絃千剣をガシっと掴んだ。


「なっ!」


 芯蟲の予想外の行動にクヌギは対抗するように力を込めたところ——芯蟲は剣を掴んだまま身体を回転させる。遠心力によって強い重力がクヌギに掛かるり、絃千剣を操作しているはずのクヌギが、逆に振り回されて樹に激突した。


「グハッ!!」


 背中に強い痺れと痛みが走る。そのせいで、芯蟲を束縛していた絃千剣が弛み、芯蟲の封印が解けてしまった。

 そして、芯蟲はまだ動けないクヌギに駆け寄ろうとした瞬間——フェンネルは音もなく芯蟲の背後に回っていた。


「フッ!」


 背後からの円月花による攻撃。芯蟲は完全に気づいてはいない完璧なタイミングであった。そして、間違いなく人間で言えば首元に当たる場所にフェンネルの円月花が刺さったはずなのに――芯蟲の強固な外殻に阻まれる結果となった。


「ちぃ!」

 

 最高のタイミングでの攻撃が失敗する結果となり、驚きがありながらも、すぐさま後ろに下がろうとした。しかし、攻撃を受けた芯蟲は反射的に後ろ蹴りを放ち、その蹴りがフェンネルに当たった。

 それを見越していたフェンネルは、後ろに飛びながら衝撃を分散させていたのに、芯蟲の強烈な蹴りの衝撃にフェンネルの軽い身体が宙に浮かび上がった。

 そのまま後ろに下がり続け十分な距離を取ったフェンネルは、防御した時の腕が痺れたのか、腕を庇う挙動を見せた。

 そして、ルナリアの避難を終えたリーフも、クヌギとフェンネルの元へ集う。


「二人とも大丈夫か!?」

「なんとかね……」

「ルナリアちゃんは?」

「血を流しすぎたのか顔は青かった。だが、命に別状はない。それより……」


 三人は、目の前にいる敵を見据える。


「芯蟲……だよね? 人のような形をしているけどさ」


 もっともな疑問をクヌギは問いかける。


「……芯蟲だ。俺もあの種類は初めて見るがな」

「知っているの?」

「あぁ、芯蟲の群れの統制役を行っている個体だ」

「おい、リーフ。アタシでさえそんなこと知らなかったぞ」

「当たり前だ。これは樹士隊の中でも小隊長より上の者しか知らないことだ。俺はガーベラの縁で偶然知っただけにすぎん」


 芯蟲も三人であることを警戒しているのか、遠巻きにこちらを見ている。


「強い……よね?」

「見ての通りだ。絶対に気を抜くな」

「にゃっは~。ちったぁ、骨のある奴が出てきたな」

 

 フェンネルは強がった笑いを見せながらも、慢心した様子はいっさい見えなかった。それだけの脅威がこの芯蟲にあると判断したのだろう。


「作戦は?」

「誰かが隙あらば斬れ」

「わかりやすいね」

「初めての相手にどんな作戦が立てられる」

「だなっ!」


 三人は各々違う方向に移動を開始。どんなに違う相手でも、実際やることは変わりない。狙いをぶれさせ、動き回ることで相手の隙を窺う。

 だが、それは芯蟲にとっても同じこと――散ければ当然のように三人の誰かが狙われることを意味する。


「アタシのとこに来たなっ!」


 フェンネルと芯蟲の間にはまだ距離がある。牽制のために刃花を投げつけるも、芯蟲の硬い外殻の前には効果がなかった。大型の芯蟲ならば動きは大回りであったためフェンネルは自由に駆け回れたが、この人型はフェンネルと同じかそれ以上の速さで距離を詰めてくる。

 遠距離でフェンネルの武器で効果がありそうなのは円月花を投げつけること。だが、人型の芯蟲――それも、動きの早い者に当てるのは至難の業だ。それをわかっているフェンネルは迂闊に投げることを選択しない。


 そもそも円月花の特性は遠心力と回転を利用することで破壊力を持つものだ。そのせいで、先ほど芯蟲の首を狙った攻撃では不十分な威力しか発揮できずに終わった。

 ゆえに彼女は接近戦で戦うことを決意し叫んだ。


「二つの月に分かれな。『半月』!!」


 フェンネルが叫んだ後、丸い形状をしていた円月花が真っ二つに分かれた。それはまさしく半月上の形をしており、彼女は二つに別れた円月花を両腕に持った。

 近接型円月花——名を『半月』。 

 月の名前を持つフェンネルの樹術の至近距離用専用の剣だ。


「うらぁ!」


 芯蟲の手とフェンネルの左手の円月花が交差する。全身が武器として機能する芯蟲の腕は円月花を受けてもビクともしない。

 しかし、それを見てニヤリとフェンネルが笑う。その場で回転し右手に持っていた円月花を思いっきり芯蟲の胴体に打つかると、円月花の花弁が岩を削る音を立て芯蟲の外殻を傷つけることに成功した。

 生半可な攻撃では効かない無敵かと思われた芯蟲の外殻も、樹術による全力の攻撃ならば通ることが確認できた。

 自らを傷つけられたことがなかったのか、芯蟲がフェンネルから離れる。


「いけ! リーフ!」  


その逃げた先にはリーフが炎葉刃を構え、大きく振りかぶっていた。三人の中でも、最大の攻撃力を誇る炎葉刃。リーフの闘志そのものが炎の形なっているのか、今までにない熱気を放っている。


「喰らえ」


 それが、振り下ろされた。

 ギリギリのところで芯蟲もそれに気づいて回避行動をするが、それはあまりに遅い。躱せないと思った芯蟲は片手を真上に上げて防御するが――その腕ごとリーフは切り裂いた。

 本当ならば胴体ごと断つつもりだった一撃。直前に気づかれたせいで思っていた以上に浅い踏み込みとなってしまった。

 大きなモーションで振り下ろしたリーフは硬直したままだ。芯蟲は腕が千切れたにも関わらず、残っている腕での身体を貫こうとした時ーー芯蟲の腕に幾重の鉛色の布が巻きつけられた。


 クヌギの絃千剣が、先と同じように芯蟲の動きを封じる。その間に、リーフは体勢を取り戻し離脱した。

 またクヌギを投げつけようと、絃千剣が巻きつけられていない腕で刀身を掴もうとするが、それはリーフに切り落とされたばかりだ。ならばと、芯蟲は片手でも絃千剣を引張っぱろうと後方に体重をかけようとし、絃千剣はすぐさま緩められた。


「残念。同じ愚は二度もしないよ」


 ガクっと、体勢を崩したのをクヌギは見逃さない。

 拘束していた絃千剣を解き、遠く離れた標的である芯蟲に絃千剣を振るう。

 しかし、その一撃は右横の方に外れてしまった。

 巨体であった芯蟲ならば、それで十分当たっていた。だが、標的が大分小さくなった人型の芯蟲が相手ではそれが難しい。固定標的であっても、完全な精度を望むとしたら更なら鍛錬がクヌギには必要だ。

 だから、クヌギは考えた。


 ――当たらなければ当たるまで振ればいい。


 柄を振る。外れる。柄を振る。当たる。柄を振る。外れる。柄を振る。当たる。

 リーフのような破壊力もなく、フェンネルのような応用力はないのであれば、攻撃回数で上回ればいい。ただ、それだけだ。

 絃千剣の攻撃範囲が面となって芯蟲を刻み付ける。一つ一つは小さな傷ではあるが、徐々に傷は大きくなり始める。


「りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――――――――!!」


 怒涛の剣閃の海に芯蟲が沈む。

 クヌギも連続攻撃の限界が来た。柄を振るっていた手を止め、芯蟲を見る。

 芯蟲は両腕を交差したまま体勢のまま沈黙していた。


「やったか……?」

「気を抜くなつったろ」

「その通りだ。芯蟲の生命力があの程度のわけがない」


 呟くクヌギに、リーフとフェンネルが注意を促す。


「二人とも……。うん、そうだね」

「だが、勝てない相手ではない」


 傷つき沈黙している芯蟲を見たリーフは、確信したように言う。


「だな。だからと言って油断したらやべーけどな」

「強さだけでいったら、今までの芯蟲の比じゃないからね」


 ――油断をしたら死ぬ。

 その脅威は、肌に骨に身に染みて感じている。

 そして、今まで沈黙していた芯蟲に異変が見られた。


「――……イ」


 それは、ただの聞き間違いだと思った。もしくは、風の音だと。


「――クイ」


 さらにはっきりと聞こえた。芯蟲から発せられた音が何なのか。


「ニクイ」


 憎い。クヌギたちの耳にその言葉が届く。

 ――言葉を話した。芯蟲が……?


「ニグイィィィィィィィィィィ――――――――――――――――――――――!!」 


 あまりの声量に、その場の空気が震えた。

 危険。脳裏に『死』という想像が容易に想起させられた。

 芯蟲の背が大きく開き、薄く半透明な四枚の羽が広がり——目に見えぬ程高速で羽ばたき始めた。


「ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ!」


 消えた。そう思うほど芯蟲の動きは早くなり姿を見失ったが——


「上っ!」


 フェンネルが反射的に叫ぶ。

 羽を出した芯蟲は、空に上がり凄まじい速さで滑空する。クヌギが絃千剣で捉えようとしても、あまりの速さに剣が追いついていかない。

 ――マズイ!

 剣を振るった後、無防備となっているクヌギに芯蟲が迫る。


「さっきの借りはこれで返す!」

「リーフっ!?」


 そのクヌギの前にリーフが立ち、炎葉刃を空に向ける。狙いは一つ。芯蟲が落ちてきた瞬間に炎葉刃を突き刺すつもりだ。

 ――が、芯蟲は失った側の腕を振ったことでリーフの目に血が掛かる。


「ぐっ!?」


 視界を遮られたリーフ。それによってできた隙はあまりに大きい。空から加速された芯蟲の拳がリーフの胴体に当たり、骨を砕く鈍い音が連続して聞こえた。

 そして、殴られた衝撃はそのままクヌギを巻き込み、二人は吹き飛ぼされた。ゴロゴロと地面の上を滑り、木にぶつかることでようやく止まった。


「はっ!」


 二人がやられたのを見てもフェンネルは冷静だった。芯蟲がリーフに攻撃をした直後を狙い定めて動いていた。フェンネルの円月花が芯蟲の首を狙った――はずが、その場から芯蟲が消えた。


「にゃっ!?」


 フェンネルが芯蟲を見失う。その事態に一番驚いていたのは彼女だ。三人で動きが一番早いフェンネルにしても芯蟲が捉えきれなくなっていた。

 すぐに見つけなければ危険だと感じ芯蟲の姿を探そうとしたが——フェンネルは背中に熱いものを感じた。探すまでもなくすでに芯蟲が背後からフェンネルを斬りつけていた。


「ちくしょ……」


 赤い花弁を撒き散らし、フェンネルがその場に倒れ臥した。

 時間にすれば、ほんの数十秒足らずのことだった。百対の芯蟲を相手に対等以上に渡り合えた三人が、たった一体の人型の芯蟲にしただけ――それだけのことで、ここまで追いやられてしまう結果となった。

 そして、三人が倒れ落ちたのを見て興味を失くしたのか、芯蟲は憎しみを発散させるように、周辺物を壊しまわる。


 ――もしも、こんなのが何十体もいたら。


 クヌギは倒れ臥しながらも背筋がぞっとした。順当に戦えていただけに、芯蟲の恐ろしさをわかっていなかった。

 これがフォレスティアに害をなす脅威――芯蟲なのだ。

 だからこそ、わからないことがある。


「……何で、芯蟲が人間の言葉を……?」


 今もずっと『憎い』と、その言葉だけを言い続けている。まるでこの美しい世界そのものが許せないと言うように——破壊し続けている。


「……芯蟲が何故フォレスティアに攻め入るか知っているか?」

「リーフ……。怪我は大丈夫なの?」


 クヌギを庇って傷ついたのに、リーフは、


「ふん。大したことはない。骨が何本か折れただけだ」

「十分な怪我だよ。それ」

「鍛え方が違う」


 こともなげに何でもないと主張するが、リーフの手は脇腹に添えられている。その顔色は悪く、脂汗が流れ落ちている。持ち前の精神力で痛みを捩じ伏せているのが手に取るようにわかる。


「それより芯蟲のことだが——奴らは『地上』からフォレスティアに登って来ているのだ」

「地上って……。あれはもう生命のいない滅んだ大地のはずじゃないの?」


 事実、クヌギは歴史をそう教わっているし、教えている。


「お前にしては察しが悪いな。地上には救われなかった生命がいるだろう」


 それを聞き、クヌギは教わった歴史の内容を思い出す。

 かつて、フォレスティアに地上の人々は移り住んで、滅びの道を回避した。けれど、歴史は確かにこうも言っていた。

 ――地上に生きる者たち全ては救えなかったのです。 

つまり、芯蟲とは……。


「救われなかった命の成れの果てだ。無論、人もその中に含まれる」


 それ故に——芯蟲は<命>を憎む。フォレスティアに生きる全ての者たちのことを。

 救われなかった命と救われた命の境界線。

 生と死の狭間に位置する生命として、生に満ち溢れたフォレスティアを憎む。

 生命の芯たるものを失った蟲。――それこそが……芯蟲なのだ。


「フォレスティアに生きる者には責任がある」


 痛む脇腹から手を離して、両手で剣を握る。

 激痛に顔が歪みながらもリーフは剣を握った手を緩めることはなく、どんどん力を込める。


「俺らが生きていられるのは、救われなかった命を糧にして生きているのだ。ならば、俺たちには生きる責任がある。義務がある。それが、樹上世界に生きる者たち全てに課せられる責任だ!!」


満身創痍のリーフ。なのに、彼は今までになく強く生き輝く。


「フォレスティアの命を守ることが、この俺の樹士の誇りだ!」


 小さい頃、英雄が描かれた絵本を読んだことがある。


「そのためならば、憎しみに満ちた芯蟲さえも乗り越えてみせよう! それこそが、歪んだ生命の輪廻から芯蟲を救うことにもなる!」


 英雄という者がいるならば――クヌギは、リーフがそれに相応しい者だと思った。


「わ、私も戦うよ……」

「ルナリア!?」


 人型芯蟲が現れた時に、避難させていたルナリアがそこにいた。どうやら失っていた意識が回復したようだが顔色が優れない。流した血の代償は、そう簡単に回復するものではない。


「私も……生きるって決めたんだよ。だから、戦うんだ。もう、逃げないよ……。死ぬことに逃げたりなんてしない!」


 青い顔をさせて、血が手から滲んでいても、意志をしっかりさせていた。


「み、見てて……。私だって、戦えるんだよ。守れるんだよ……」


 そう言ってルナリアはもう一度、樹術を発動させようとする。


「やめろ。ルナリア! それ以上やればお前の命に関わる!」


 リーフはそのルナリアの姿を見て止めようとするが、


「だめ。皆が傷ついているのに、私だけが傷つかないなんてできないよ……」


 ルナリアの手が地面に添えられ、草木が光り輝く。


「だから、もう一度だけ――」

「もう、いいよ。ルナリア」


 発動させようとした途中で、クヌギがルナリアの意識を奪う。前に倒れようとするのを抱きかかえる。そして、そっとルナリアを地面に上に寝かせる。


「いつの間に、こんなに大きくなったんだよ」


 そっと頬を撫でて、ルナリアからリーフへと目線を移動させる。


「これで文句はないだろ。リーフ」

「あぁ、ルナリアはがんばりすぎだ。もう休んでもいいだろう」


 クヌギも立ち上がり、リーフと並び立つ。


「お前は大丈夫なのかクヌギ?」

「え、何が?」

「芯蟲の真実を知っても戦えるのかと聞いている」

「あぁ、それ」


 今もずっと憎いという言いながら、木を切り刻みながら暴れまわる芯蟲を見る。視界に入るもの全てが憎いのだと全身で表現していた。


「僕は君みたく立派な志があるわけじゃないからね。……ただ、少しだけ安心したかな」

「安心だと?」

「そうだよ。芯蟲にも戦う理由があるんだってね」


 ――残念ながら僕は、リーフのように芯蟲を救いたいとは思えない。


 確かに、リーフの言うとおりフォレスティアに生きる人々には責任があるのだろう。しかし、それは生きるというものについてであって、決して芯蟲がフォレスティアに攻め入ることを認めてはいない。

 カトレアとの対話で得たクヌギの覚悟の種子。

 それは未だ咲いてはいない、言葉にできるほどのものではない。

 クヌギが選んだ覚悟の種子――それは、ある一つの光景だった。



 ただ、皆が幸せそうに笑っている光景。



 カトレアはいつものように慈愛に満ちて微笑んでいて、ルナリアはリーフと一緒に恥ずかしそうにしながら手を繋いで歩いている。子供達は楽しそうにしながら草原を駆け回り、クヌギはその光景を見ながら隣ではフェンネルが一緒になって笑ってくれていた。

 クヌギはまだ知らない。それを愛なのか、恋なのか。それとも、願いなのか。一つだけわかっていることがあるとすれば――その光景に芯蟲はいないことだ。

 芯蟲は救われた人々を憎むから殺し、フォレスティアを奪おうとしている。

 人々は芯蟲から憎まれるから殺し、生きようとする。

 

 生と死の循環。


 自然でなく、人と芯蟲の『意志』が絡んだ――殺し合い。

 だから、クヌギは安心できた。

 何の意志もない命を奪うことにならなくて。

 互いの意志と意志を持って、戦える。

 否定と拒絶と根絶の意志を持って、芯蟲を殺すことができる。

 ルナリアを泣かせることになった原因の芯蟲。

 その理由が、たかだか『憎い』程度のものだとは思わなかった。


 ――全くふざけるなよ。芯蟲。妹を泣かせた罪が、その程度で吊り合うと思うな。


 クヌギの手に力がこもる。


「リーフ。芯蟲のとどめを刺す力はある?」

「ない。できて足止めまでだ。それもフェンネルがいての話だが……」

「そう。なら僕が芯蟲に止めを刺すから足止めして」

「できるのか?」

「できるんじゃない。これから、やるんだよ」


 フェンネルを見ると血溜まりに倒れたままだ。芯蟲から背後を斬りかかられたのだから無理もない。到底動けそうには見えないけれど、クヌギはある確信を持っている。


 ――自分が惚れた女がこの程度のわけはない、と。


「フェンネル! 話はわかったかい!」


 ピクっと倒れているフェンネルの指が動く。手が地面を掴み、ぐっと体を起こす。ポタポタと血が垂れているが、今にも倒れそうなのに彼女は立ち上がった。


「にゃっはー……。ったく、人使いの荒い奴だな」

「でも、できるよね?」

「おいおい下っ端。誰に言ってんだ? ただし、キッチリ決めないと許さねーぞ。お前に、それ以外の選択権はやらねー……」

「もちろんだよ」


 血に濡れた手で髪をかき上げたフェンネルは、ニッと笑う。


「リーフ! 行くぜ! ここが踏ん張りどころだ!!」

「ふん。言われるまでもないわ!!」


 さっきまで死に体だった二人の気迫は、破壊行為に走り優位を誇っていた芯蟲を振り向かせた。

 しとめた獲物が立ち上がったことに、芯蟲は苛立ちと憎しみも相まって二人に向かい激闘を再開した。


 無論、二人は万全の状態とは程遠い。

 リーフの持つ、炎葉刃が纏う炎は小さく消えかけているし、一撃で切り落とすことのできた破壊力は見る影も無い。それでもなお、リーフは芯蟲に斬り掛かって芯蟲との攻防を繰り広げた。

 一撃必殺を捨て、小回りと早さを優先させてリーフは剣を振る。けれど、芯蟲は容易くリーフの剣を受け流し、時には外殻で受け止めている。

 足止めに徹したリーフであるが、剣を一度振るたびに口から血が流れ出ていた。常人ならば気を失うほどの痛みに、リーフは何一つ変わらず戦い続けている。


 その間に、クヌギは準備を進める。

 絃千剣を手に持ち、クヌギは心静かにして自らが伝える意志を明確にする。

 ヒントは最初からあった。

 リーフの炎葉刃にフェンネルの円月花。

 炎葉刃は、敵を切り裂くときは刀身に炎を纏わせ斬り、突き刺したときは肉が膨張し爆発を起こした。

 円月花は、遠くにいる敵のときは満月の形をしたまま投げつけ、その回転で抉る。近接戦のときは真っ二つにした半月型として迎え撃っていた。

 樹術に伝えられる意志は一つだけじゃない。


 ――望んだ形は、万能にして万変なる剣。


 遠くにいた妹を守るために選んだのは、全てに届く鞭なる剣。

 ならば。

 目の前の脅威を払うために選ぶのは、全てを貫く槍なる剣。

 静かに、それを自らの剣に伝える。

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