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樹上のフォレスティア  作者: 菊日和静
第二章 花を守る。それは何と難しいことか
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ガーベラとリーフ

 ユグドラシル城の廊下を足音を隠そうとせず、リーフは歩いていた。


 城に入った途端にルナリアは、城の貴賓室に連れて行かれることになり、そこで保護されることになった。一般人であるルナリアを貴賓室で保護する――そこまでの重要性を見出せないリーフは、上層部が何を考えているかますますわからなくなった。

 そのことを問いただそうと、リーフはある部屋へと向かっていた。


 ――何が起きている?


 自分の知らないところで起きているわけのわからない事態に、リーフは夜の暗闇が侵食する――そんな気味の悪さがあった。


「リーフ」


 呼び止められ、振り向くとフェンネルがいた。


「フェンネル」


 彼女と会うのは、孤児院で別れてから以来だった。時間にすればそんなに経っていないはずなのに、色々なことがあって会うのを忘れていた。そう、フェンネルと別れてから樹士が来たのだ。何かを知っている可能性がある。


『一体、何が起きている?』


 二人は同時に同じことを聞いた。


「お前も知らないのかよ~……」

「それは、俺の台詞だ」


 やれやれ、と互いに溜息をついた。


「リーフ。お前はどこまで知っている?」

「大臣の勅命で保護されたことを知った程度だ。何も知らないのと同じだ。お前の方は城にいたのだろう。何か聞いているか?」

「何も。つーか、芯蟲出たことを報告しに行った途端に樹士隊が出て行きやがった。何かおかしいなぁと思っていたら、ルナリアちゃんが保護されたときたもんだ。ったく、上は何考えてんだ? わけわかんねーよ」


 お互いにわからないことだらけだった。いや、ルナリアは何かを知ってそうな雰囲気だったが、城までの道中も全て黙り込み、何かを聞ける雰囲気ではなかった。

 そして、孤児院を出たときのクヌギの表情――自らが知らないというには、看過できるはずもない。でなければ、親友に余りにも申し訳が立たないからだ。


「仕方がない。俺は俺で上に確認をしに行く。悪いが、フェンネルの方でも何か情報をかき集めておいてくれ」

「わかった。何かわかったら連絡する」

「頼む」


 フェンネルと別れ、リーフは当初の目的の場所へと再び移動する。

 その場所は執務室――女王がいる部屋だ。



 トントン。ドアを叩く二つの音が聞こえた。


 ――この忙しいときに。


 そんなことを思いつつも、邪険にはできず部屋の中だけで毒づき、ガーベラは身なりを一度整え、咳払いをした。


「入ってよいぞ」

「はっ! 失礼します」


 散らばっていた書類を片付けつつ、誰が来たのかと思えば――リーフだった。

 最近は老獪な文官を相手にしたり、軍務などの話を聞く機会が多いだけに、年が近いリーフが来たことでガーベラの肩の力は一気に抜けた。


「何だリーフか。お前が尋ねてくるとは珍しいな。何用だ?」

「陛下にお尋ねしたいことがあります」

「堅苦しい言葉遣いはやめろ。二人しかいない時にまで、その口調では疲れてしまう」 

「……わかった。ガーベラ、一つ聞きたいことがある」

「それは聞いた。早く言うがよい」

「何故、ただの民を城で保護する勅令を出した? その真意を聞きたい」

「……どういうことだ?」


 リーフの言葉の意味が飲み込めなかった。

 ただの民を城で保護する。その命令を私が出した。確かにリーフはそう言った。

 だが、当のガーベラとしては実に覚えのない命令であり、ただの言いがかりをつけているようにしか思えないわけなのだが――どうにも気になってしまった。


「とぼけるな。俺の知人の妹――ルナリアを保護する命令が下ったんだ。しかも、大臣の勅命だぞ。お前が知らないわけないだろう」

「何――大臣の勅命だと?」


 ピクッとガーベラの眉が動いた。


「リーフ。それは誰の勅命だ? それを出した者の名前は?」

「クロッカス大臣だ」


 まさか、という思いがガーベラの胸中をかける。同時に、ありえないという可能性を朝には持っていたが、その可能性が少しずつ薄れていくのを感じる。


「リーフ。質問がある。答えよ」

「質問しているのは俺のほうだぞ。それを先に答えてからにしてくれ」



「黙れ」



 部屋の空気が変わった。さっきまでの、砕けたものではない。

 それは、王たる者のみが纏うことのできるもの。理屈を通り越し、拒否を認めず、ただ従うしかできない、そういった言外の言葉がリーフに突き刺さる。 

 ゴクっとリーフの喉がなった。


「これはとても重要なことなのだ。そう、とてもとてもな。だから、できるだけ正確に答えてほしい。わかるか?」

「……わかった」


 リーフは姿勢を正した。今のガーベラを見ればそうするのが当然だからだ。


「よろしい。では、その命令が下されたのはいつだ? 妾はその事実を知らぬ」

「命令が出されたのはつい先ほど。正確には、芯蟲の討伐を終えた後になる」


 ――芯蟲まで現れたのか。しかし、そのことはすでに下層の樹士から報告はされており、その対応はすでにしている。こちらの想定通りならば、数日以内に芯蟲との戦闘になると踏んでいる。


「次だ。その芯蟲の討伐に携わった人物……特に、最初に出会った人物は誰だ?」

「最初に目撃したのは、ルナリアという少女。討伐に関わったのは、その少女の兄と小隊長のフェンネル、そして俺だ」

「では、これが最後だ。芯蟲はそのルナリアとやらを狙っていたか?」


 ガーベラの問いにリーフの顔に困惑の色が浮かぶ。


「……いや、緊急事態だったため少女の避難を最優先した。明確な意思を持って狙っていたかまではわからないな」

「そうか」


 今の答えを聞いてガーベラは、耳元に手を近づけた。パチン、パチンと指が鳴る音が執務室に響く。ガーベラが一人で考えにふける時の癖だ。何度か周りにはしたないと言われてから、誰かがいる時は控えるようにしていた。

 それを知っているリーフは今話しかけても反応がないことを知っているので、黙ったままでいる。そして、最後に一つ大きく指が鳴りガーベラの意識が戻った。


「よし、リーフ。妾をそのルナリアの元へ案内してくれ。すぐにだ」

「……了解した」


 二人は、すぐさま執務室を出てルナリアのいる貴賓室へと向かった。

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