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VRB  作者: Re:non
6/6

弥生

私の目的はただ一つ。

あの高崎という男は可哀そうだ。

妹が殺されその記憶すら奪われた。

高崎とその妹の間にどんな関係があったのかは知らない。

だけど私にはその妹さんがこんなことを望んでいるとは思えない。

勿論高崎本人も・・・

私にできることはないだろうか・・・

私の力で・・・。



「見つかった?」

「あぁ・・・また殺しちゃったみたいだよ?」

「・・・ふむ・・・で、どうしたい?」

「何がですか?」

「飛鳥は高崎をどうしたい?」

その質問の意図が理解できない。

「やめさせたいって言うなら無理だろうと返しておこう。」

「・・・なぜだ?」

「あの男の眼には狂気染みたものがあった。飛鳥にはわからないか?あいつの眼は大切なものを奪われた眼だった。」

「大切なもの?」

「家族としてだったのか、それともそれ以上だったのかはわからないがな。」

「だけど高碕は記憶をなくして・・・」

「前世紀の漫画にもあっただろう?頭の記憶と体が覚えているもの。俺は知ってる。頭からは消えても覚えているように行動する人間をな。」

「なら・・・なんとかならないんですか?」

「ならないな・・・時間は戻らない。それは絶対であらなければならない。」

そこで鋏嘩がはっ・・・としたように周りを確認する。

「あいつはいないよな!?」

「あいつ・・・?」

「弥生だ!」

「いませんよ?」

「・・・よかった・・・。」

「なんなんですか?」

俺には本気で理解できない。

それでいいんだと、鋏嘩はいう。

「あいつなら・・・下手したら・・・・・・。」



そうか・・・過去を変えればいいのか。

何で思い出せなかったのだろう?

・・・だけど、それはお兄ちゃんとの約束に違反する。

それに・・・あいつを私はコントロールできない。

話し合ってあいつは理解してくれるだろうか?

私は鏡の前に立つ。

そのまま横に向かって能力を発動する。

裂けた空間からナイフの柄が出ている。

ここからは交渉の時間だ。

ナイフを抜いた瞬間に私は自分の体をコントロールできなくなる。

鏡越しの交渉だ。

いつも気まぐれに私に体を返すあいつもいつそのまま留まるかわからない。

それでも・・・可能性があるなら・・・

私はナイフを裂け目から引き抜いた。



いま俺は・・・いや俺たちは走っている。

高碕がまたやったらしい。

いや・・・正しくは最中らしい。

罠を張っていたのだ。

「とまれ。」

「・・・どうした?俺を殺しに来たのだろう?」

「違う。」

「違わないな。なぜなら、俺は捕まったとしても更正などしない。また、同じことをするからだ。殺す以外に止めることはできない!」

「・・・くそっ・・・!」

しかし俺を弥生が押しとどめる。

「私がやる・・・。」

「・・・なぜ。」

「まだあんたにはそんなに人を殺させたくないのね。」

そう笑いながら言った。

「ほぉ・・・そんな御嬢さんが俺の相手か?いいぜ?」

その瞬間、高碕は加速した。

銀色の光が一閃、弥生の首元を抜ける。

「弥生!」

「残念。私は切れない。」

「あいつの能力は応用範囲が広い。たぶんあいつはここにいて、ここにいない。」

「はい?どういう・・・」

位相だといった。

弥生は自分のことを別の位相に送っているらしい。

同じ世界の別位相。

見えるが触れられない場所・・・

「だけどそれでは弥生からも干渉できないのでは?」

「いや・・・」

「こっちからいい?」

弥生は自分の横の空間を切る。

ナイフがそこから一本だけ落ちる。

そして足元の切られた空間に吸い込まれた。

次の瞬間、そのナイフは高崎の足の指あたりに刺さっていた。

血が出ていないところを見ると、足の指の間に刺さっているのだろう。

「・・・何をした?」

「私の能力は空間、次元の切断と接続。私は全ての場所を繋げる上に、私には触れられない、相手には。」

「で・・・?殺すのか?」

「殺すんじゃないね。私は・・・」

そういってまた空間を切る。

そこからナイフの柄が姿を見せる。

それを前にして彼女は深呼吸する。

「待て・・・あいつを呼ぶきか!?」

「あいつ?」

「前に言わなかったか?如月、あいつだ!」

如月。

弥生が対価として授けられたというもう一人の彼女。

「正確に言うと彼《・》なんだけどな。だが・・・何を・・・?」

「そういえば如月とは?」

「あいつは自分をそういう。どちらかというと・・・弥生という人格のほうがあとからできたようなものだ。

この能力は如月に宿ったものなんだといっていた。弥生はその対価として生まれた。」

「でも如月は男でしょう?弥生は女の子じゃないですか?」

「女の子だから性格が女の子っぽくないといけないわけじゃないだろ?」

「そう・・・ですね。」

「だが能力は如月本人に宿ったものだ。他人の人格が使えるものじゃない」

弥生はナイフを引き抜く。

その瞬間眼の色が変わった。

「久々だなぁ・・・弥生は本当にこの体を大事にしてくれるねぇ・・・俺以上に。」

弥生・・・基、如月はナイフを弄ぶ。

「だが実際には弥生も能力を使っている。それがたぶん対価なのだろう。」

「どういう意味ですか?」

「他人が使うということは能力の質が下がるということだ。つまり弱くなる。だが、その対価はある期限までのものだ。

先天性は一定期間までで対価を支払わなくて済むようだ。弥生・・・いや、如月のこの対価はもう一つの対価、身長の上限に達した時だ。」

「それって、とっくに終わってるでしょう?」

俺がこの世界に来たときには弥生はこの身長だった。

「支払切った場合、弥生はどうなるんですか?」

「消える・・・はずだったと如月は言っていた。」

まるで遊ぶように如月は高崎とナイフを切り結んでいる。

「だけど消えなかった?」

「弥生は対価を支払って神と取引をした。」

「そんなことが・・・?」

「いや、対価が残ることだった・・・かな。」

残ること?

如月はさっきから本当に遊んでいるようにしか見えない。

空間を切って高崎の後ろに回ったりと弄んでいる。

「正確には如月の能力の質を上げる代わりに、永続的に弥生を残すこと。ただしこの人格を消すことは如月にはできる。

その場合、あとから手に入れた部分の能力をロストするというものだったらしい。」

「なぜそんな面倒なことを如月は?如月にとって弥生は邪魔なんじゃ・・・?」

「如月は言っていた、『弥生はお前の妹ってだけじゃねぇ、俺の妹でもあるんだよ。そいつの願いを叶えるのは兄の役割じゃねぇか?』だとさ。

その上、『お前だってそうだろ?あいつの願いなら・・・』とまで言われたよ。」

鋏嘩はくすくすと笑う。

「それに、『お前だって嫌だろう、あいつが消えるのは。だって弥生と兄ちゃんは・・・』って、言うべきじゃないなこれは。」

「言わないんですか!?」

「言ってもいいけどさ・・・知ってるだろ?俺はあいつにぞっこんだからな。」

そういえばこの人は正真正銘のシスコンだった・・・。

「さてと・・・そろそろ俺はすべて見せたぜ?」

「それがどうした・・・!」

「うん・・・そろそろだな。先に兄ちゃんに言っておかないとな。」

「なんだ?」

鋏嘩が如月に聞く。

「弥生からの伝言だ。約束、守れなくてごめん。」

「おい・・・何を頼まれた!」

「頼まれたんじゃないと言っておこうか。兄ちゃん、これは俺の独断だ、そうしておいてくれ。」

「おい!」

「静かにしてくれ、そろそろ現れるはずだ。」

何の話をしているのか全く分からない。

その時、目の前に人が現れた。

だがおかしい。

半透明・・・だと?

「何の冗談?真昼間から幽霊?」

「いや・・・存在の可能性・・・、まさか過去を変える気か!」

「そうだ。観測者たる俺なら回避できる、こんな世界・・・」

そこで如月は一息つく、そして続けた。

「弥生の望まない世界なんて、変えなければならない。」

瞬間、俺たちの周りにラインが引かれた。

円形に・・・。

「今回、俺だけではできそうにない、過去に行くのは面倒だからな。だから過去へ行くぞ、全員で。」

「なぜだ・・・俺が反対するならおいていけばいい。」

「ちょっと力を使いすぎてな、帰るためには俺が一度眠らないといけないからな・・・、そこの・・・飛鳥だっけか?」

「はい?俺?」

「そうそう、あんた。鋏嘩がキレたら殴ってでも止めろよ?」

「問題ないよ。そうなったら私がとめる。弥生ちゃんは私の妹みたいなものだから。」

俺の横から香苗が出てきていう。

「はは・・・そうか。いい姉貴ができたみたいだなぁ・・・頼むぜ?」

円は回転を始め、球になる。

行くぞ・・・と、如月が言う。

一瞬の浮遊感・・・そして・・・

「ついた・・・よ。」

弥生に戻ったらしく、女の子の口調で言う。

「・・・確かにな。」

近くの家の窓からカレンダーを覗き見ると、一年前の6月19日。

高碕の妹の・・・命日だった。

いつもの長さにしてみたら次に続いてしまった。

早く書こうとはおもうけど・・・

ついでに高碕君がつねに高碕君としか呼ばれないのは名前を忘れるから。

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