モブ視点 ~とある主従のバトル~
こういう、モブ視点って好きなんです。
俺達の平凡な高校生活は、ある日突然爆音と共に粉々に粉砕された。俺達はいつも通りに古文の授業を受けていた。確かに、睡魔が大群で押し寄せてくることに辟易していたのは事実だけど、だからってこれは無いぜ神様。
五時限目の古文だったため、居眠りしている奴も多かったけど(俺も含め)、そのある意味平和な時間は突然やってきたテロリストたちによって崩された。そいつらは、黒のライダースーツを着込み、黒のフルフェイスのヘルメットやボディアーマーなどで統一しているのだが、七人全員が屈強そうな体つきをしているのが分かった。
寝ぼけてボケかまそうとしてる連中は、周りが必死になって止めた。むしろ夢だったらどんなに良かったか…。寝起きにこんなの見たらまだ夢の中だって普通は思うよな。うん。
しかも!そいつらは銃とかで武装しているもんだから、どんなに頑張っても一学生である俺達に勝ち
目はない。
「我々は闇の使者とでも名乗っておく。我々の目的は不当な扱いを受ける同胞たちの解放と汚職で嘆く人々を救う事だ。反抗しようとしなければ危害を加えるつもりはない」
リーダー格らしき人物がそう言ったから、俺達は女子を内側にして教室の隅に固まる事にした。いくら危害を加えないとは言え、逆上してうっかりとかやられたら嫌だからだ。それに、今どき珍しく『女は護るべし』って武士みたいな考えを持ってる奴が多いし。
しかし、そんな緊張した空気をすり鉢でゴリゴリやってくれちゃってる勇者が居た。
「何言ってんだクソガキども。バカなことばっか言って俺の眠りを妨げるなんぞ万死に値するぞ」
「え、それって俺達の事?俺達今の所ろくに発言した覚えないんですけど」
「違ぇよ。そこの真っ黒黒助どもだ」
誰か叫ばなかった俺達を誉めてほしい。だって、さっきから乱暴な口を聞いているのはクラスでも目立たない方の男子だったはず。それが武装した強そうな男七人相手にクソガキ発言。心臓に悪い上に今までのシリアスっぽい雰囲気が霧散している。
俺達がそいつ、隠明寺八房の言動に内心大絶叫しているのも知ってか知らずか、本人はポンポンと爆弾発言を全力投球している。
「大体大の大人が七人そろって闇の使者とか名乗ってる時点でかなりイタイんだけど。もしかして精神年齢中二の夏で止まってるんじゃない?」
やーめーてー!そろそろテロリストの方々プルプルしながら武器握りしめてるから!そろそろキレそうなフラグバリ3で立ちまくりだから!!
そんな俺達の心の叫びを代弁するかのように、一人の女子が隠明寺の所にかけて行った。普通ここは引き留めるべきだったんだろうけど、皆呆けてたから反応が送れた。
「すみませんコイツ寝ぼけてるんです!!今起こして謝らせますから待ってて下さい!!」
そう言ってテロリストの前に立ったのは、隠明寺の幼馴染で主だという土御門明美だ。どうやら本当に寝ぼけていたらしく、彼女が目の前に立っても無反応っつーか船漕いでる隠明寺。そして土御門はそう言うなり隠明寺の胸倉を掴んで平手打ちを喰らわせている。
バシ、ビシ、…びびびびびびびびびびびびびびび!!
最初は普通の平手打ちだったはずなのに、今じゃ音が連なってる。往復ビンタの最速記録でギネスに乗るんじゃないかってくらいの速度でのビンタは、見てるこっちの方が痛くなって来る位だ。むしろクラスの数人が自分のほっぺに手ぇ当てて痛そうに見てる。流石に闇の使者のみなさんも制止をかけた位だ。
「ちょっ、お嬢さん落ち着いて!我々に対するそこの坊主の言葉は確かに頭に来たが、お嬢さんの速度で平手食らわせていたら逆にこっちが痛いから!もう良いからやめたげて!!」
そして土御門による痛い目ざましコールは終わりを告げた。どうやら男の言葉によってやめたのでは無く、ただ単に隠明寺が目を覚ましたからだ。
「八房、眼は覚めた?」
「おう、三日は起きてられる位ばっちりだ」
…普通、音が連なるほどの速度でたたかれたらヘタしたら首が折れるんじゃないかと思うんだけど、やられた本人は頬を少し紅くしているだけで全く効いてないようだった。
「じゃあ、なんであんな暴言言ったか説明してくれる?」
確かに、それは俺達も聞きたい。どうやらそれは闇の使者の人達も同じだったらしく、先を促してた。しかし、俺達は失念していた。奴が歯に衣着せぬ性格である事を。
「ああ、クソガキ呼ばわりの事?そのまんまだよ。良い大人が自分の要求が通らなかったからって自分
より弱い、本来ならば護るべき存在を盾にごり押ししようとしてる。しかも、どう見ても護る対象に向けるべきものではないものを振りかざして。そんなのただ泣きわめくガキと何もかわりゃしない。むしろまだ普通のガキの方が楽さね」
「…貴様は我々の崇高なる使命をバカにすると言うのか?」
「バカにしてんのはアンタらの人間性。いい加減目を覚ませクソガキどもが」
「まあ、確かにアンタの言う事には一理あるわ。あたしも年をとっただけの人間を無条件に敬えるほどできてないしー」
「俺も。年を食っただけの奴を大人とは認めない。マジガキなら更生の余地はあるけど、こんだけ年を
重ねちゃ難しい物が有るさね」
…正直、ちょっとすっきりした。けど、そうも言ってられない。言われ放題の闇の使者の方々は今や錆びた鎖に繋がれた猛犬と同じ気配を漂わせているからだ。
「さて、オイタが過ぎたガキにゃそろそろお仕置きの時間だ」
瞬間、隠明寺が纏う空気が変わる。電信して、教室中の空気は隠明寺と同化し、辺り一帯に一陣の風が吹いたような気がした。
隠明寺は、そう言うなり霞むような勢いで近くに居た闇の使者の一人を殴り飛ばした。三メートルくらい吹っ飛ぶのを俺達は茫然と見ていた。
アレ?人間ってあんな簡単に吹っ飛ぶもんだっけ?てかお前そんな強かったのかよ。
「確かにテメェらの崇高なる使命とやらには少し賛同しない事もない。だがな、こんな卑怯な手使ってまでやり遂げるにはちと軽いんじゃないかい?それに、俺はこいつらの事が気に入ってるんでね。傷つけられたくはないのさ」
正直かなりカッコイイと思った。ただ力が強いんじゃない。彼は心も、魂も強いのだ。俺達を背に、
何も恐れるものは無いと言っているようなそのしゃんと伸びた立ち姿は、見る者を引き付けて離さない不可視のヒカリを放っているようだった。
ただ、隠明寺のカッコよさと、現在の非日常に当てられて腐女子(腐男子もか)が換気するようなセリフを口走ったやつが数人いたので、ひっぱたいて呼び戻したのは蛇足か。
「良く言った!それでこそあたしの下僕よ!」
いつの間にか隠明寺のすぐ後ろに立っていた土御門は、何処から出したかわからない巨大な鉄ハリセンを手に不遜に言い放った。
彼女も、まるで戰場にその名を轟かす常勝不敗の女将軍のように堂々と立っていた。むしろ背後に『傲岸不遜』の文字がドーンと見えた気がした。
「誰が下僕だ…。まあいいや。とりあえず殺っちゃうとするか」
そのやる気のなさそうな言葉を皮切りに、暴風のような勢いで隠明寺は圧倒的な力の差を見せつけていた。
暴風のように荒々しいその動きはどこか洗練されているようにも見え、そして、時折飛んでくるのを土御門が鉄ハリセンで容赦なく吹っ飛ばす。二人の息はぴったりだ。
闇の使者は他にもいたらしく、最終的には三十人位襲いかかってきたが二人はかなりあさりと倒してしまった。喧嘩慣れしてるどころの勢いではない。もはや次元が違うと思わせる位だ。二人には、手加減と言う言葉はあっても容赦と言う言葉は無いのではないかと思わせるほどだった。きっと鬼神の如き闘いぶりとはこのことを指すんだろうと思った。
辿り着いた警察が見たのは、丁度窓を割って外の池に落ちて行く闇の使者の姿だったらしい。もっとも、その頃には俺達も隠明寺と一緒になって暴れていたけどな。
非日常による通常の崩壊って結構好きだったけど、書くのは難しかった。
ここまで読んでくれてありがとうございました。